2024年9月に発足するTISFDとは?日本企業による社会関連情報開示事例もご紹介

2024年9月に発足するTISFDについて、わかりやすく解説します。近年ではサステナビリティへの関心の高まりなどにともない、投資家などから企業に対し非財務情報の開示を求めることが多くなっています。気候変動や生物多様性に関する情報だけではなく、社会関連情報についても国際的な情報開示イニシアチブが登場するようになりました。

本記事ではそんなTISFDの概要や活動予定のほか、社会関連情報開示に関する日本企業の事例もご紹介します。

目次

  1. TISFDの概要

  2. TISFDの活動予定

  3. 日本企業による社会関連情報開示事例

  4. まとめ:TISFDの動向に注目し、社会関連情報の開示を進めよう!

1.TISFDの概要

TISFDは国際的な情報開示イニシアチブのひとつです。TISFDの概要について解説します。

TISFDとは

TISFDとはTaskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosuresの略称で、日本語にすると「不平等・社会関連財務開示タスクフォース」となります。2022年6月から設立準備が進んでいるTSFD:社会関連財務情報開示タスクフォースとTIFD:不平等関連財務情報開示タスクフォースが統合されTISFDとなることが、2023年4月に発表されました。TISFDは気候変動のTCFD生物多様性のTNFDに次ぐ国際的な情報開示イニシアチブで、社会関連情報開示のガイダンス作成などを行う予定です。 WBCSD:持続可能な開発のための世界経済人会議などの支援を受け、2024年9月に正式に発足します。

出典:一般社団法人生命保険協会「持続可能な社会実現に向けた地球環境等ハンドブック」p87(2024/4)

TISFD発足の目的

TISFD発足の⽬的は、企業や投資家が、貧富の差など不平等問題をはじめとする社会課題に関する企業の財務リスクや影響を特定・評価できるよう⽀援することです。そのためにTISFDは、既存の基準を統合、再構築することを目指しています。TISFDの活動によって、企業の事業活動が⼈々にどのような影響を与え不平等を助⻑するのか、こうした不平等がビジネスと⾦融にどのような影響を与えるのかなどについて、明確になることが期待されます。

出典:TISFD「The Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures」p1(2024/5)

2.TISFDの活動計画

TISFDは発足前の準備段階で、今後の予定を一定程度明らかにしています。TISFDの活動計画について解説します。

TISFDのワーキンググループ

TISFDでは世界中の20を超える組織が、ワーキンググループを構成しています。先述のWBCSDのほか、PRI(責任投資原則)、UNDP(国連開発計画)、ILO(国際労働機関)などもTISFDのワーキンググループに参加しています。TISFDワーキンググループは、スイス政府およびフォード財団、ラウデス財団、およびインパクト投資に関するティッピングポイント基金といった慈善財団から資金提供を受けています。またワーキンググループの各メンバー組織も、無償で支援を提供しています。

出典:TISFD「Working Group Members」

TISFDの基本方針

TISFDは、主に以下のような基本方針を掲げています。

テーマのスコープ
企業の⼈権尊重責任、不平等を減らし⼈々の幸福を⾼める取り組み

重要事項(マテリアリティ)へのアプローチ
影響面での重要事項と財務面での重要事項両方について開示推奨事項を示す

国際基準への準拠
国連「ビジネスと⼈権に関する指導原則」、OECD「多国籍企業動指針」、ILO「多国籍企業と社会政策に関する原則の三者宣⾔」などに準拠

既存の情報開示フレームワークとの互換性
ISSBGRI、ESRS、TNFD、TCFDとの互換性を検討

またTISFDでは、不平等の問題は永続させてはいけないと認識しており、TISFDの活動には企業や投資家だけではなく、市民社会や労働組合なども参画させることが重要だとしています。

出典:TISFD「TISFD Proposed Scope and Mandate」p1-6

TISFDが予定している成果

TISFDは活動の成果物として、主に以下のようなものを予定しています。

・情報開示の推奨事項とガイダンス
・社会的不平等を理解するための概念体系
・不平等問題に関するリスクや影響の研究成果
・指標やデータを活用するためのガイダンス

TISFDはこのような成果物が、金融リスクの低減、金融の安定性と回復力の強化、マクロレベルの経済成長、人権の尊重や福祉の向上などに寄与すると考えています。

出典:TISFD「TISFD Proposed Scope and Mandate」p7-8

3.日本企業による社会関連情報開示事例

TISFDによる情報開示フレームワークなどの開発はこれからですが、日本でも既に社会関連情報を開示している企業があります。

不二製油グループ本社株式会社

不二製油グループ本社株式会社は2023年3月期の有価証券報告書において、「人権リスクへの対応」について記載しています。人権デュー・ディリジェンス(人権監査)の概要と特定した人権リスク、対策の方向性について端的に記載したうえで、人権リスクの救済策として、グループ従業員向けの内部通報制度、サプライチェーン上の人権・環境リスクに対応する苦情処理メカニズムの概要についても記載し、詳細情報のURLを開示しています。

出典:金融庁「記述情報の開示の好事例集 2023」p4-5(2023/12/27)

双日株式会社

双日株式会社は2023年3月期の有価証券報告書において、「サプライチェーンを含む人権尊重」について記載しています。サプライチェーン全体のどの位置で人権リスクが発生しやすいかについて分析した結果を図示しながら具体的に記載し、人権リスクが高い事業分野に対する対応方針についても端的に開示しています。さらに人権リスクの高い事業である木材分野について、人権に配慮した木材調達の中期的な目標を定めるとともに、過年度の実績も含め定量的に示しています。

出典:金融庁「記述情報の開示の好事例集 2023」p4-3~4(2023/12/27)

雪印メグミルク株式会社

雪印メグミルク株式会社は2023年3月期の有価証券報告書において、「人権尊重の取り組み」について記載しています。同社では「人権尊重」をマテリアリティ項目と定め、その取組みを「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の項目に分け端的に記載しています。

出典:金融庁「記述情報の開示の好事例集 2023」p4-6(2023/12/27)

4.まとめ:TISFDの動向に注目し、社会関連情報の開示を進めよう!

TISFDは2024年9月に発足する社会関連情報開示に関する国際的イニシアチブで、特に不平等に関する問題を主なテーマとして、情報開示のフレームワークや開示推奨事項などを研究・開発する予定です。不平等の問題は気候変動や生物多様性と同様、国際的な課題です。

TISFDの活動を通じ、企業による事業活動の不平等問題への影響が、投資家や企業だけでなく、多くの市民や労働者にとっても明確になることが期待されます。既に日本国内でも、非財務情報開示の一環として人権や人的資本について取り上げる企業が増えていますが、今後TISFDが新たな基準などを発表した場合には、それに準拠した対応を求められる可能性もあります。TISFDの動向に注目し、社会関連情報のさらなる開示を進めていきましょう。

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