ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?ISSB設立で何が変わる?

ISSBは「国際サステナビリティ基準審議会」と訳されます。企業がESG(環境・社会・ガバナンス)などを含む非財務情報開示を行う際の統一された国際基準を策定する機関として2021年11月に発足しました。

この記事では、ISSB設立により何が変わり、それにより企業にどのような影響があるのかなど、これからの非財務情報開示のあり方に関心がある法人の皆さまが知っておくべき基本的な知識についてご紹介します。

目次

  1. ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?

  2. ISSB発足で何が変わる?

  3. 企業への影響

  4. まとめ:ISSB設立で企業の脱炭素化が促進、気候変動リスクを検討しよう!

1. ​ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とは?

2021年11月に、IFRS財団の下部組織としてISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が発足しました。ここではISSBとはどのような機関なのかや、ISSBが設立された背景についてご紹介します。

※IFRS財団...国際会計基準(企業が財務諸表を作成する際に適用すべき国際的な会計基準)の策定を担う民間の非営利組織

(1)ISSBとは?

ISSBは「International Sustainability Standards Board」の略称で、「国際サステナビリティ基準審議会」と訳されています。企業がESG(環境・社会・ガバナンス)などを含む非財務情報開示を行う際の統一された国際基準を策定する機関として2021年11月に発足しました。

出典:経済産業省『「非財務情報の開示指針研究会」中間報告を取りまとめました』(2021/11/12)

(2)ISSBが設立された背景

ISSBが設立された背景にあるのが、企業におけるESGなどを含む非財務情報の開示の重要性が増している点にあります。経済産業省が実施した「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」によると、回答があった運用機関のうち、95%以上の機関が投資を決める時の判断材料としてESG情報を活用していると答えています。

ESG情報の投資判断への活用

出典:経済産業省『ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査を実施しました』(2019/12/24)

2. ISSB発足で何が変わる?

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が設立されたことで、非財務情報開示基準のあり方に変化が生じました。ここではISSB発足により変わることについてご紹介します。

(1)複数機関の統合

ISSBが設立されたことにより、これまで独自の非財務情報開示基準を作成していた2つの機関が統合されています。

  • CDSB(気候変動開示基準委員会)

  • VRF(価値報告財団)

ISSBが新しく作成する非財務情報開示基準は、TCFD提言に加えてCDSBやVRFの基準を元に作成されます。機関の統合により技術や人材、ノウハウが集約され、その結果これまでよりも包括的で質が高い情報開示基準が作成されることが期待されています。

※TCFD提言...気候変動に関連する金融情報の開示に関するタスクフォース(TCFD)の提言

出典:日本経済新聞『統合に向かう開示基準 東証再編、「TCFD」対応必須に(2022/1/10)

(2)非財務情報開示基準の統一

以下の図は、制度開示や国際的なサステナビリティ開示基準についてまとめたものとなっており、国内制度と国際基準をベースに、開示の義務、利用者、粒度、情報の分野が表となっています。

以下の通り、国内制度、国際基準などが統一されていない状況が続いており、統一感がないことがこれまで課題とされてきました。

国際基準・フレームワークの種類

  • 国際統合報告フレームワーク

  • SASB基準

  • GRI基準

  • CDSBフレームワーク

  • TCFD提言

ISSBが設立されたことにより、統一された非財務情報開示基準が策定されることになります。

制度開示や国際的なサステナビリティ基準について

出典:経済産業省『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』(2021年11月)(p.10)

※基準・フレームワーク内で当該分野が明示されている場合に●としている。

出典:経済産業省『サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて』(2021年11月)(p.10)

3. ISSBに関する最新情報

ISSBが発表した最新情報と公開情報の概要について解説しています。

(1)ISSBがカーボンクレジットに関する情報開示を要求

IFRS財団傘下のISSBは、サステナビリティー開示基準の最終版を公表しました。この基準には、取引先を含む「スコープ3」の温暖化ガス排出量の開示や社内炭素価格、利用予定のカーボンクレジットに関する情報開示が含まれており、2024年1月以降からこの制度が始まる予定です。ISSB基準は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言と整合性があり、世界のサステナビリティー情報開示のベースとなることが期待されています。

基準はS1(サステナビリティー情報の全般的な開示基準)とS2(気候関連の基準)の2つのセクションに分かれており、今後はS3やS4などの追加セクションも検討される予定です。日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がISSB基準をベースに議論し、2025年3月までに国内基準を最終確定する予定で、約4,000社の上場企業や有報提出企業が対象となる見込みです。

ISSB基準の特徴的な点としては、財務諸表と同じタイミングでのサステナビリティー情報の開示が求められていることが挙げられます。従来よりも早い開示が必要とされており、企業はシステムの導入や内部統制など社内の仕組みを整備する必要があります。

出典:NIKKEI GX『ISSB、炭素クレジット計画の開示要求 報告期限3カ月に』

(2)ISSBの公開草案から分かる内容

ISSBの公開草案には、S1基準案とS2基準案の2つの主要な基準が含まれており、S1・S2の基準案は以下のようなものとなっています。

S1基準案の概要

S1基準案は、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項を提案しており、これには、財務諸表とサステナビリティ報告の間の一貫性やつながり、異なる法域での適用促進、関連性がある場合の一貫性のある仮定の使用などが含まれています。

S2基準案の概要

S2基準案は、気候関連の開示に特化しており、気候関連のリスクに対する戦略の気候レジリエンスを強調し、シナリオ分析の使用を推奨しています。シナリオ分析を用いる場合、使用したシナリオ、時間軸、インプットなどの詳細が求められます。

シナリオ分析とは、将来の気候変動の影響を評価するためのツールとして用いられ、使用したシナリオや時間軸、インプットなどの詳細情報が求められることが明示されています。

これらの基準は、企業が持続可能性に関する情報をどのように報告すべきかを示すためのガイドラインを提供しており、それぞれの基準は、異なる側面の持続可能性に焦点を当てており、企業が全体的な持続可能性の観点から情報を開示する必要があるかを示唆しています。

出典:SSBJ設立準備委員会『ISSB公開草案の概要』(p.12)

(3)排出のスコープとは?

上述に記載があるスコープとは、Scope1、 Scope2、 Scope3に分かれており、以下のようなものです。

  • Scope 1:事業者または家庭が所有または管理する排出源から発生する温室効果ガスの直接排出。具体的には、燃料の使用(工場・暖房器具・自家用車等)が含まれます。
  • Scope 2:電気、蒸気、熱の使用に伴う温室効果ガスの間接排出。例えば、購入電気の使用などがこれに該当します。
  • Scope 3:Scope 2を除くその他の間接排出。事業者の場合、原材料の調達、従業員の出張、廃棄物の処理委託等が含まれます。家庭の場合、製品の購入、旅行、廃棄物の処理委託等が含まれます。
  • これらのスコープは、温室効果ガスの排出源を分類し、排出量を把握するためのものです。それぞれのスコープによって、排出量の削減策も異なります。例えば、Scope 1とScope 2ではエネルギーの利用方法の高度化が、Scope 3では調達のグリーン化が考えられます。

Scope3で取り入れられる間接排出は、原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達や調達物流、横持物流、出荷物流、従業員の出張なども加味されます。Scope1、2、3の排出量を「見える化」することで、それぞれの排出源からの温室効果ガス排出量を把握し、削減行動を促すことが可能になると考えられており、各企業に対して公開が求められています。

出典:経済産業省『温室効果ガス「見える化」の役割について』(p.12)

出典:環境省『排出量算定について』

(4)一次データ、二次データの開示

Scope 3の排出量の算出では一次データ、二次データを使用する必要があります。そこで、一次データと二次データを以下で解説します。

  • 一次データ:企業バリューチェーン内の固有活動からのデータ:一次データには、報告企業のバリューチェーンでの固有活動に直接関係する、サプライヤー又はその他から提供されるデータが含まれます。
  • 二次データ:企業バリューチェーン内の固有活動以外からのデータ:二次データに含まれるのは、業界平均データ(例:公開されているデータベース、政府統計、文献研究及び業界団体からのデータ)、財務データ、プロキシデータ及びその他の一般データが含まれます。

また、企業はサプライヤーから排出係数を収集する場合は、排出係数算定に用いた一次データと二次データの比率に関する情報もサプライヤーに求めることが推奨されています。

出典:みずほ情報総研株式会社『スコープ 3 排出量の算定技術ガイダンス』(p.195)

4. まとめ:ISSB設立で企業の脱炭素化が促進、気候変動リスクを検討しよう!

この記事では、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)とはどのような機関であるのかや、ISSBの公開草案の内容について紹介しました。サステナビリティ基準の変更により、幅広い企業が気候変動リスクの開示を求められることが予想されます。ISSBへの理解を深め、気候変動リスクを検討しましょう!

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024