TCFDとは?開示項目や義務をわかりやすく解説

温室効果ガスによる地球温暖化は深刻さを増しています。そんな中、日本ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同する企業が世界最多となっています。

TCFDは既存の財務情報に環境リスクとその対応状況を加えて公開することを提言しており、企業や組織の率先した環境問題への取り組みと金融機関や投資家へのESG投資を促し、持続可能な低炭素社会への速やかな移行を目的としています。

今回はTCFDの具体的な提言内容や日本の取り組み状況を説明します。

目次

  1. TCFDとは?賛同している企業は日本が最多

  2. TCFDが要求する4つの開示項目

  3. TCFDが求めるシナリオ分析

  4. TCFDに企業が賛同するメリット

  5. TCFDへの賛同方法

  6. TCFDに賛同する各企業の状況
  7. TCFDを理解し、積極的な情報開示に努めよう!

1. TCFDとは?賛同している企業は日本が最多

TCFDとは、民間主導の気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)の略で、各社の財務情報に環境リスクなどに対する対応状況や事例を併記して開示する取り組みのことです。ここでは、TCFDの設立背景や内容をお伝えします。

TCFD設立の背景

2015年、当時のG20からの要請を受けて金融安定理事会が発足させたタスクフォースがTCFDです。タスクフォースとは、緊急性の高い特定の課題を解決させるために一時的に設立される組織のことをいいます。

当時から温室効果ガスによる地球温暖化の深刻なリスクは問題提起されており、ビジネスの成長を追うだけでなく、持続可能性の高い低炭素経済への速やかな移行のために設立されたのです。

出典:環境省『【参考資料】機構関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の概要』

TCFDの提言内容

TCFDは企業に対して気候関連財務情報の開示を促しており、2017年に情報開示のあり方をTCFD報告書にまとめて公表しました。

提言の対象は、社債または株式を発行している全ての組織体で、一般的な年次財務報告書などに情報を盛り込むこととしています。どんな情報を盛り込むべきかというと、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの項目が求められています。

出典:環境省『【参考資料】機構関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の概要』

TCFDが危惧する世界の危機

2020年10月、日本でも菅義偉内閣総理大臣が2050年までにカーボンニュートラルを実現する事を宣言したのは記憶に新しいと思います。

出典:首相官邸『第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説』

温室効果ガスが地球環境に深刻な影響を与えると問題提起されたのは今に始まったことではなく、1997年の京都議定書から2015年のパリ協定へと20年以上に渡り議論されている事案なのです。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2013年に発表した「第5次評価報告書」によると、気候変動に対処せずに経済活動を行うと、1986年〜2006年の20年間と比べて世界の平均気温は2100年頃には2.6℃〜4.8℃の気温上昇が見込まれています。

出典:環境省『ICPP 第5次評価報告書の概要』(p.38)

気温上昇は海氷が溶けて海面上昇がもたらされるだけでなく、豪雨や森林火災など生命を脅かす災害が発生するのです。この破壊的な経済的・社会的帰結を回避すべく、企業努力を促すためにTCFDは設立され、報告書を発行したのです。

 

TCFDコンソーシアムとは

TCFDコンソーシアムとは、Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の略称であり、企業による気候変動への財務情報開示を推進する国際的な枠組みです。TCFDは、気候変動に関連するリスクや機会についての情報開示を通じて、金融市場の安定性を向上させることを目指しています。このコンソーシアムは、企業、金融機関、規制当局、投資家などの関係者が参加し、気候変動への適切な対応を促進するためのガイダンスやツールの開発に取り組んでいます。

関連記事:TCFDコンソーシアムとは?中小企業が知っておくべき意味とメリット

2. TCFDが要求する4つの開示項目

TCFDが促している情報の開示項目は「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つです。

出典:環境省『【参考資料】機構関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の概要』

「ガバナンス」が開示項目の中で最上位に優先される情報と定義されています。ここでは4つの開示項目について具体的にお伝えします。

(1)ガバナンス

「ガバナンス」(組織統治)はTCFDで最も重要視されている項目です。気候関連リスクとその機会が与える影響を経営戦略に落とし込むためには、経営陣を巻き込んだ体制の整備が必要だからです。

主に、リスクと機会に対する取締役会の監督体制と評価・管理する上での経営者の役割を開示することが求められています。

(2)戦略

「戦略」に関する開示すべき情報は、短期・中期・長期のリスクと機会、事業・戦略・財務に及ぼす影響、そして2℃目標等の気候シナリオを考慮した組織戦略の強靭性です。

気候変動が事業に及ぼすリスクを示し、それに対してどのような戦略や対策を行うかを開示する必要があります。

(3)リスク管理

「リスク管理」に関する開示すべき情報は、リスク識別・評価のプロセス、リスク管理のプロセス、組織全体のリスク管理への統合状況です。

気候変動のリスクを組織がどのように認識し、管理・評価していくのかを開示する必要があります。

(4)指標と目標

「指標と目標」に関する開示すべき情報は、組織が戦略・リスク管理に即して用いる指標、温室効果ガス排出量、リスクと機会の管理上の目標と実績です。

気候変動リスクに対応するための具体的な指標や目標は管理視点でも、戦略策定でも重要です。エネルギーの使用状況やGHGプロトコルを用いた温室効果ガス排出量など、さまざまな指標を駆使して宣言していくことが求められます。

3.TCFDが求めるシナリオ分析

TCFDが求めるシナリオ分析とは、気候変動によるリスクと機会を評価するための手法です。企業は将来の気候変動シナリオを想定し、それに基づいて事業に対する影響を分析します。具体的には、温室効果ガス排出量の低減目標や気候変動によるリスクへの対応策などを検討します。シナリオ分析は、企業の長期的な戦略立案やリスク管理において重要な役割を果たします。TCFDは、企業が適切なシナリオ分析を実施し、結果を開示することを推奨しています。これにより、投資家や市場参加者が気候変動に関する情報を適切に評価し、将来の持続可能性を考慮した意思決定を行えるようになります。

関連記事:TCFDが求めるシナリオ分析とは?わかりやすく解説!

4. TCFDに企業が賛同するメリット

気候変動に対応していかなければ、事業はおろか地球の生命全体への危機は免れることができない状況であり、そのためにも企業や組織が率先して気候変動リスクに対応する必要があるということはご理解いただけたかと思います。

ここでは、TCFDの提言に賛同して情報開示していくことの、企業にとってのメリットをお伝えします。

(1)金融機関による投資が増加する

日本国内におけるESG投資の割合は年々増加しています。ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資のことを指します。

出典:財務省『ESG投資を巡る課題』(p6)

企業が気候関連リスクを適切に評価・管理していることを公開することは、投資家・貸付業者からの信頼にも繋がり投資が増加します。

(2)より効果的な財務報告の開示要件を満たせる

財務報告において、気候関連リスクに関する情報を併せて開示することで既存の開示要件をさらに効果的に履行することが可能となります。

(3)組織内における気候変動リスクの管理強化が可能となる

企業・組織における気候変動リスクとその機会に関する認識と理解向上は、リスク管理の強化や情報に基づく戦略策定に寄与されます。

5. TCFDへの賛同方法

TCFDへの賛同方法は、以下の通りです。まず、企業はTCFDの提言に賛同し、気候関連財務情報の開示を行うことが重要です。具体的には、ガバナンスや戦略、リスク管理、指標と目標の4つの開示項目について情報を盛り込みます。また、企業はTCFDのガイダンスに基づいて自社の統治体制やリスク管理プロセスを強化することも求められます。金融機関や投資家は、TCFDに賛同し、TCFDの推奨事項を投資判断やポートフォリオ管理に取り入れることが重要です。規制当局や業界団体もTCFDを支持し、普及と実施を促進します。TCFDへの賛同は、企業や金融業界が気候変動リスクに対する取り組みを進め、持続可能な経済への移行を推進する上で重要な役割を果たします。

関連記事:TCFDにどのように賛同する? 開示項目や事例を紹介

6. TCFDに賛同する各企業の状況

脱炭素に向けた世界的な流れの中、TCFDに賛同す企業はどの程度あるのでしょうか。ここでは、TCFDに賛同する日本企業や世界の状況をお伝えします。

世界全体の状況

2021年7月26日現在、世界では2,350の組織がTCFDの賛同を表明しています。日本はその中でも世界で1番多い451の団体が賛同しています。次いでイギリス(372)、アメリカ(322)と続きます。

出典:TCFDコンソーシアム『TCFDとは』(2021年7月26日)

日本国内の状況

日本のTCFD賛同組織数は、TCFDコンソーシアム設立を境に世界最多となりました。

TCFDコンソーシアムは、経済産業省・金融庁・環境省をオブザーバーとしたTCFDの取り組みを推進し、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論する場として2019年に設立されました。

また、経済産業省主導のもと世界で初となるTCFDサミットを開催しました。

TCFDサミットは、TCFDが継続的に重要なプラットフォームと推進力を提供する事、そしてベストプラクティスの共有など更なる努力をコミットメントする場となっています。

出典:TCFDサミット

上記のことからも、日本では積極的にTCFDに取り組んでいることが分かります。

国内企業の事例

TCFDに賛同する日本の企業の中から、キリンホールディングス株式会社の情報開示事例を紹介します。

キリングループでは、毎年IR情報で環境報告書を開示しています。

その中では、ガバナンスについて気候変動問題を含めた環境全体の基本方針や重要事項を取締役会で審議・決議、目標設定は経営戦略会議で審議・決議していることを開示しています。

その他、戦略・リスク管理・指標と目標についても開示しており、IPCCが2018年に発表した「1.5℃特別報告書」に基づいたシナリオ分析と目標設定を開示しています。

出典:キリンホールディングス『環境報告書2021』

7. TCFDを理解し、積極的な情報開示に努めよう!

温室効果ガスによる地球温暖化が深刻視される昨今、企業や組織が積極的に環境問題と向き合い、リスクを把握して対応する姿勢が注目されています。その中でも特にTCFDは政府も積極的に取り組みを推進しており、機関投資家をはじめ国内でも注目されはじめています。

これからのビジネスでは、環境問題に取り組んでいるかどうかを取引先や出資の対象として判断するため、企業は積極的にTCFDを理解して賛同を表明すべきなのです。

TCFDが提言する4つの情報開示の取り組みを推し進め、環境問題に真摯に向き合いながら開示する情報の成果を上げながら企業価値を高めていきましょう!

 

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