CO2排出量の計算方法を解説 企業がCO2削減を始めるために
- 2023年11月28日
- CO2算定
一定の規模以上の企業のCO2(二酸化炭素)排出量の算定・報告・公開が令和3年3月に改正された法案により定められました。この記事ではCO2排出量の算定方法や法案についてわかりやすく解説します。
目次
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エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)
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地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)
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CO2削減量の計算方法
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サプライチェーン排出量算定
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まとめ:報告義務のない企業もCO2排出量の把握・削減へ取り組もう
1. エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)
地球温暖化の危機と急速なCO2削減への動き
地球温暖化を抑制するため、世界規模でCO2削減が急速に進められています。企業にはCO2排出量削減を支援する税制、補助金が創設され、政府も積極的に取り組みを促しています。
出典:環境省『0120令和3年度エネ特予算(案)の概要(公表版)』
出典:環境省『低酸素社会の構築』
省エネ法とは
省エネ法では以下のことに所要の措置を定めています。
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国内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用確保
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工場等、輸送、建築物及び機械器具等についてのエネルギー使用の合理化
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電気の需要の平準化(2013年改正時に導入)
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その他のエネルギーの使用の合理化
出典:環境省『省エネ法の概要』
省エネ法の対象となるエネルギー
省エネ法の対象となるエネルギーは化石燃料である原油・ガソリン・重油・その他の石油製品、可燃性天然ガス、石炭・コークス・その他の石炭製品の燃料、熱、電気です。
太陽光、風力などの非化石エネルギーや廃棄物からの回収エネルギーなどは対象となりません。
出典:環境省『省エネ法の概要』
省エネ法が規制する分野
【努力義務対象者】
一定の規模以下の工場・事業場には工場等の設置者に、運輸関係では貨物・旅客運輸事業者、荷主(自らの貨物を輸送事業者に輸送させる者)に、事業者のCO2削減のための努力を義務付けています。
【報告義務対象者】
一定の規模以上の事業者には以下のことが義務付けられています。
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工場・事業場でのエネルギー使用量が年に1,500kl以上の特定事業者にエネルギー管理者等の選任、中長期計画の提出、エネルギー使用状況等の定期報告
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保有車両がトラック200台以上等の特定貨物・特定旅客輸送事業者に計画の提出、エネルギー使用状況等の定期報告
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年間輸送量3,000万tk以上の特定荷主に計画の提出、委託輸送に係るエネルギー使用等の定期報告
出典:資源エネルギー庁『エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律について』
2. 地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)
温対法は、国・地方公共団体・企業・国民が地球温暖化対策推進のために果たす役割と責務を定めた法律です。
CO2排出量 算定・報告・公表制度
令和3年3月の温対法一部改正の法律案では、企業は温室効果ガス排出量情報のデジタル化・オープンデータ化が定められ、一定の規模以上の企業は自らのCO2の排出量を算定し、電子システムによる報告が義務付けられました。
算定・報告・公表制度の対象企業
対象となる企業は省エネ法の定める一定の規模以上の企業です。
出典:環境省『室効果ガス排温出量算定・報告・公表制度』より一部アスエネが作成
3. CO2排出量の計算方法
原油換算による計算方法
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本社及び全ての工場、支店、営業所、店舗で使用した燃料・熱・電気ごとの年度間の使用量を集計します(電気・ガスはエネルギー供給事業者の毎月の検針票に示される使用量でも可能です)
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集計した使用量に燃料・熱・電気の換算係数を乗じて、それぞれ熱量をGJ(ギガジュール)で求めます
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2.で求めた値を全て足して、年度間の合計使用熱量 GJを出します
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年度間の合計使用熱量 GJに0.0258(原油換算係数[kl/GJ])を乗じると1年度間の原油換算値によるエネルギー使用量になります
出典:資源エネルギー庁『省エネ法の概要』p.7
CO2換算による計算方法
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定められたCO2を排出する活動から事業者が行っている活動を抽出します
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抽出した活動ごとに定められた算定法・排出係数で排出量を算定します
CO2排出量=活動量×排出係数
活動量:生産量、使用量、焼却量など排出活動の規模を示す指標
排出係数:活動量あたりの排出量 -
各CO2の活動ごとに算定した排出量を合算します
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CO2ごとの排出量をCO2の単位に換算します
CO2排出量(tCO2)=CO2排出量(tガス)×地球温暖化係数(GWP)
GWP(Global Warming Potential):CO2ごとの地球温暖化をもたらす程度の比
電気の使用に伴うエネルギー起源CO2排出量の算定方法
他人から供給された電気の使用に伴うCO2の算定は、より正確な排出量の算定のため、使用する電気によって算定に用いる排出係数が定められています。
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電気事業者から供給された電気を使用:国が公表する電気事業者ごとの排出係数
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電気事業者以外から供給された電気を使用:実測等に基づく適切な係数
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1.および2.で算定できない場合:環境大臣、経済産業大臣が公表する係数
出典:環境省『室効果ガス排温出量算定・報告・公表制度』
4. サプライチェーン排出量算定
サプライチェーン排出量算定とは、事業者自らのCO2排出だけでなく、事業活動に関連する原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など一連の流れから排出されるCO2排出量全体を算定することです。
サプライチェーン排出量はScope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量で算定されます。
出典:環境省『サプライチェーン排出量算定を始める方へ』
Scopeとは
ScopeとはCO2排出量の算定・報告の世界的な基準である「GHGプロトコル」での、事業活動全体の排出量を算定するための組織内区分です。
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Scope1…事業者自らによる直接排出
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Scope2…他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接的な排出
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Scope3…Scope1・Scope2以外の間接的な排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
Scope3のカテゴリ分類
Scope3は15のカテゴリに分類されます。
Scope3基準・基本ガイドラインでは事業から出る廃棄物の輸送(※1)は任意算定対象です。販売した製品を使用者が廃棄する際の輸送(※2)は算定対象外ですが、算定しても構いません。
出典:環境省『サプライチェーン排出量算定を始める方へ』
サプライチェーン排出量算定のメリット
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サプライチェーン全体の中で優先的にCO2削減の取組が必要な対象を特定できます
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CO2排出量の特徴を認識し、長期的なCO2削減案や事業戦略策定の参考になります
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サプライチェーン上の他事業者と環境活動での連携が生まれます
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※CSR活動としてサプライチェーン排出量を要請する企業が増え、新規の顧客開拓の機会になります
※CSR(Corporate Sosial Responsibility):「事業者の社会的責任」と訳され環境への取り組みを事業者が果たすべき社会的責任の一つとした、社会貢献、法令順守等に関する企業の活動やその情報
出典:環境省『環境情報報告書』
5. まとめ:報告義務のない企業もCO2排出量の把握・削減へ取り組もう
サプライチェーン排出量算定を導入する企業が増加
世界的にも企業がCO2削減への取り組みを明確にすることが重要視されるようになりました。大手企業のサプライチェーン上にある企業は近い将来、自社はCO2排出量の報告義務の規模に満たない場合でも、CO2排出の算定を求められるようになる可能性があります。
また、早期にCO2削減や算定に取り組むことで、大手企業のニーズを満たす企業として新たなビジネスチャンスを獲得する可能性も広がります。
出典:環境省『サプライチェーン排出量算定事例』
出典:経済産業省『再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 2021年3月16日』資料4 p.5
中小企業はすぐにできることからCO2削減へ取り組もう
CO2削減への取り組みは従来中小企業にとってコストがかかり負担になるイメージでした。しかし世界的な地球温暖化対策への大きな流れの中では、CO2削減の取り組みに無関心な企業は投資家やサプライチェーン上の企業に敬遠される危険があります。
先ずは一定の規模に満たなくても自らの企業のCO2排出量を算定して現状を把握し、早期にCO2削減への取り組みを始めましょう。