【日本のカーボンプライシング】炭素税とは?導入は実現するのか

カーボンプライシングとは、企業などが排出するCO2(二酸化炭素)に金銭的な負担を課すことです。この記事ではカーボンプライシングの詳細から,日本での導入についてわかりやすく解説。

目次

  1. カーボンプライシングとは

  2. カーボンプライシングの種類

  3. カーボンプライシングの世界の導入状況

  4. カーボンプライシングのメリットデメリット

  5. まとめ:カーボンプライシングで脱炭素化を進めよう!

1.カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、企業などが排出するCO2(二酸化炭素)に価格を設定し、CO2の排出に金銭的な負担を課すことです。これにより、排出者自らが地球温暖化の主要因であるCO2の排出量を削減することを目的としています。

カーボンプライシング(CP)は、大きく分けて、炭素の排出に直接税金(炭素税)や排出権価格(排出量取引制度)が課せられる明示的カーボンプライシング(明示的CP)と、それにエネルギー税抜き価格やエネルギー税・消費税、FIT賦課金等が加えられた暗示的カーボンプライシング(暗示的CP)の2つがあります。

分類

制度

内容




明示的CP


炭素税

燃料や電気を使用して

排出したCO2に対して課税


排出量取引制度

企業ごとにCO2排出量の上限を決め、

企業間で超過または下回る分のCO2排出量を取引



暗示的CP

税抜き価格

エネルギー価格から、

税(炭素税とFIT賦課金等)を控除

エネルギー税等

エネルギー起源のCO2排出を抑制するため

かけられる税等

FIT賦課金等

再生可能エネルギーで発電した電気を

買い取るため徴収される賦課金等

出典:資源エネルギー庁 「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」(2023年5月15日)

出典:経済産業省「国内外のカーボンプライス」p.3,6(2017年1月31日)

出典:資源エネルギー庁「制度の概要|FIT・FIP制度」

出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」

2. カーボンプライシングの種類

カーボンプライシングには、明示的カーボンプライシングの炭素税と排出量取引制度や、暗示的カーボンプライシングの、それぞれのエネルギーにかかる価格から炭素税とFIT賦課金等を除いたエネルギー税抜き価格、エネルギー起源のCO2排出を抑制するためにかけられる税であるエネルギー税等、再生可能エネルギーで発電した電気を買い取るための賦課金であるFIT(固定価格買取制度)賦課金等のほかに、クレジット取引や炭素国境調整措置などがあります。

さらに詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。URL:https://earthene.com/media/192#point-2

炭素税とは

炭素税とは、燃料や電気の使用といったCO2の排出に対して、その排出量に見合った課税をする制度のことです。日本では「地球温暖化対策のための税」として、CO2排出量1トンあたり289円となるよう、化石燃料それぞれに対して税率が設定されています。

出典:環境省「地球温暖化対策のための税の導入」

排出量取引制度とは

排出量取引制度とは、それぞれの企業に温室効果ガス排出量の上限を設定し、その取引を可能にする制度のことです。それぞれの企業で温室効果ガス排出量の削減に取り組んだ後、上限を超過してしまった場合には、下回っている企業の排出枠を購入して補完することができます。これにより、個々での温室効果ガスの排出削減への取り組みが期待できる上に、社会全体として排出量を削減することができます。

出典:環境省「国内排出量取引制度について」p.3(2013年7月)

3. カーボンプライシングの世界の導入状況

世界銀行の調査によると、2022年4月時点で、68の国と地域がカーボンプライシングを導入しています。これは主に明示的カーボンプライシングからなり、36の国と地域が炭素税、32の国と地域が排出量取引制度を導入しています。その結果、カーボンプライシングの収入は2020年の水準から約60%増加し、約840億ドルとなりました。

カーボンプライシングの主な導入国をみていきましょう。日本、韓国、EU、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアの9つの国と地域をみると、その全てで炭素税が導入され、ほとんどの国でETS(排出量取引制度)やエネルギー税も導入されています。

このようにカーボンプライシングは、それぞれの地域で形や負担の大きさが異なるものの、政策として不可欠なものであると見なされるようになっています。

 

炭素税

ETS

エネ税

概要

日本

炭素税は航空など幅広い分野もカバー

韓国

輸送用燃料の適正な利用と大気汚染に注力

EU

加盟国のエネルギー税には最低税率が設定

ドイツ

1991年と早い段階からFITを導入

フランス

EU加盟国として様々なCP

イギリス

国の制度として初めてETSを導入

アメリカ

州や地域ごとの制度が先行

カナダ

-

エネルギー政策は州政府が先行

オーストラリア

×

-

排出量削減基金でプロジェクトを支援

出典:World Bank「Executive summary State and Trends of Carbon Pricing 2022」

出典:経済産業省「国内外のカーボンプライス」p.13~16(2017年1月31日)

出典:環境省「国内外における税制のグリーン化に関する状況について」p.7

日本のカーボンプライシングの導入状況は?

日本では、2012年10月1日より、「地球温暖化対策のための税」が導入されました。これは石油や石炭、天然ガスといった全ての化石燃料に対し、CO2排出量1トンあたり289円となるよう、それぞれに税率を設定したものです。また「揮発油税」等は、当分の間税率を高め、地球温暖化対策に優先的に使うとしています。しかし依然として、炭素税は検討段階のままとなっています。

また、東京都や埼玉県では既に実施されている「排出量取引制度」については、2026年度より国家として導入するとしています。特に化石燃料の利用が多い電力会社に対しては、2033年度から段階的に排出枠を割り当て、その負担を求めるとしています。国内で排出量取引制度を拡充させることにより、これまで上限の設定時に想定できなかった変動が起き、上限を守ることが難しくなった際は、国外のクレジットに頼らざるを得ませんでしたが、これが国内の事業者間での取引になることで、さらなるCO2排出量の削減や脱炭素への投資に繋がると考えられています。

出典:環境省「令和4年度環境省 税制改正要望 結果概要」p.2

出典:環境省「国内排出量取引制度について」p.3(2013年7月)

出典:NHK「二酸化炭素「排出量取引」2026年度開始へ 経産省案を了承」(2022年12月14日)

環境省は炭素税導入を要望

2021年8月、環境省は2022年度の税制改正で炭素税の本格導入を要望しました。この要望では、炭素税を含んだカーボンプライシングの推進が盛り込まれ、環境省は政府に、2021年内に方向性を示したうえでの対応を求めました。

出典:朝日新聞『炭素税導入を要望 企業の二酸化炭素排出削減で 環境省』(2021年8月31日)

環境省は炭素税のほか、企業にCO2排出枠の上限を設けて不足分を売買する排出量取引など、強制的に排出削減を求める制度を目指しています。省エネが進めば中長期的にエネルギー費用が減り、脱炭素技術の海外への輸出などで経済成長につながるとしています。

出典:日本経済新聞『炭素税1万円でも「成長阻害せず」環境省会議で試算』(2021年6月21日)

※環境省による炭素税の予見性の高い時間軸の提示(イメージ)

※環境省による炭素税の予見性の高い時間軸の提示(イメージ)

出典:環境省『カーボンプライシングの活用に関する小委員会(第13回)議事次第・配付資料 資料2 炭素税について』p.11(2021年3月)

経済産業省はカーボン・クレジットの取引市場創設を目指す

経済産業省は炭素税導入に対し、企業に新たな負担が伴うことから、慎重な立場を示しています。2021年8月5日に発表された経済産業省のカーボンプライシングの本格導入についての中間整理案では、省エネや再エネの導入などで目標を超えて達成できたCO2削減量をクレジットとして国が認証し、目標を達成できなかった企業に購入してもらう「カーボン・クレジット市場(仮称)」の創設を要望しました。

日本にはすでにJ‐クレジットなどの制度があり、これらの制度で扱っていたクレジット(CO2削減量)を新たな市場でも取引できるよう、2022年度の試験導入を目指します。炭素税による導入時の企業への負担増加や低所得者への負担増加の可能性を考慮しつつ、経済産業省は炭素税が経済成長に資するかを慎重に議論する構えです。

出典:朝日新聞『カーボン・クレジット市場整備へ 炭素税は結論先送り』(2021年8月6日)

カーボン・クレジットの取引市場の概要

出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて③ ~炭素税、排出量取引、クレジット取引等~』p.23(2021年4月)

3. 炭素税とCO2排出量取引制度の比較

環境省の推す炭素税と経済産業省の推すCO2排出量(カーボン・クレジット)取引制度ではどのような違いがあるのでしょうか。双方のメリット、デメリットから比較してみましょう。

炭素税のメリット

  • 輸入段階上流で課税し、薄く広く転嫁される際、最適な資源配分につながる

  • 価格が一定であるため、ビジネスの予見可能性が高い

  • 既存税制の活用など、行政の執行コストが低い

  • 税収により、安定的な財源確保

排出量取引制度のメリット

  • 罰則も伴う制度設計などにより、理論上、排出量をコントロール可能

  • 事業者の排出権を市場の中で融通するので、効率的な排出権の再分配が可能

  • 有償割当の場合、売却益を政府が得られる

炭素税のデメリット

  • 排出量のコントロールができないため、削減量について不確実性ががる

  • 低所得者への逆進性をもたらす

  • 業界間の力関係や消費者との関係で、最終製品に価格転嫁できない場合がある

  • すでにエネルギーコストが高いため、国際競争力の減少につながる恐れがある

排出量取引制度のデメリット

  • 排出権の価格が変動し、ビジネスの予見性が低い

  • 行政の執行コストが高い(運用・制度設計が複雑になる)

  • 公正な排出量設定が困難

出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて③ ~炭素税、排出量取引、クレジット取引等~』p.17(2021年4月)

4. カーボンプライシングのメリットデメリット

カーボンプライシングのメリット

カーボンプライシングを行うと、価格がつくことによりCO2の排出が可視化され、さらに排出削減対策にも明確な価格付けがなされます。これによって、排出者自らがCO2排出量を削減することが容易になり、また自主的に削減をするインセンティブができて、効率的な地球温暖化対策が可能になります。

また、排出者にとっての金銭的な負担という形で、CO2排出の削減、すなわち環境への配慮という観点が、経済に組み込まれるようになるため、経済や社会のシステムに自然と温暖化対策が付随するようになります。カーボンプライシングを受け、クリーンエネルギーを使って作られた製品や事業に付加価値がつき、投資を得られるようになるなどすれば、さらなる脱炭素化への取り組みが進んだり、脱炭素技術の開発が進んだりすることも考えられます。

出典:資源エネルギー庁「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」

出典:環境省「国内排出量取引制度について」p.5(2013年7月)

カーボンプライシングのデメリット

一方で、カーボンプライシングにはデメリットもあります。

CO2排出にコストがかかることで、カーボンプライシングを行っておらず、またはより制限がゆるく、排出削減への取り組みを行っていない国や地域からで生産された輸入品が、国内の市場を脅かしてしまったり、より制限のゆるい国に工場など生産拠点を移転し、国内での生産基盤が脆弱になったり、結果として地球全体ではCO2の排出が減らない可能性があったりします(炭素リーケージ)。

また排出量取引制度を導入し、温室効果ガス排出の上限を制定すると、制定時には想定していなかった、景気変動や原燃料価格の変動、為替変動といった変動が起き、事業が不安定になることも考えられます。

出典:経済産業省「国境炭素調整の最新動向の整理」p.2(2021年2月17日)

出典:環境省「国内排出量取引制度について」p.6(2013年7月)

5. まとめ:カーボンプライシングで脱炭素化を進めよう!

カーボンプライシングとは、企業などが排出するCO2(二酸化炭素)に価格を設定し、CO2の排出に金銭的な負担を課すことです。カーボンプライシングには、CO2排出が可視化され、また経済に環境要因が導入されて、より効率的な地球温暖化対策ができるようになることから、様々な国で導入が進んでおり、日本でも炭素税や排出量取引制度といった様々な制度の導入が検討されています。この記事でご紹介したメリット・デメリットや世界及び日本での動向をしっかり把握し、今後起こりうるCO2排出へのコスト増加に備えましょう。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
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