TNFDとは何か。TCFDとの違いは?わかりやすく解説!

TNFDとは経済活動と自然環境と生物多様性の関わりやリスクについて報告する組織です。

今回はTNFDがどのような組織なのか、TNFDの現状やTNFDが推奨する情報開示、TCFDとの違いなどについて詳しくご紹介します!

目次

  1. TNFDとは

  2. TNFDの現状

  3. TNFDで推奨される情報開示

  4. TCFDとTNFDの違い

  5. まとめ:今後は、自然資本や生物多様性を守る企業経営が必要

1. TNFDとは

TNFDとはいったいどのような組織なのでしょうか。TNFDの概要、設置の経緯、目標、原則、受益者などについてまとめます。

(1)TNFDとは何か

TNFDとはTaskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略で、日本語では自然関連財務情報開示タスクフォースと訳します。タスクフォースとは緊急性のある課題の解決のため、一時的に作られる組織のことです。

TNFDはパリ協定やSDGsの内容に沿って、自然を保全・回復する活動に資金の流れを向け、世界経済に回復力をもたらすことを目指しています。TCFDが気候変動をメインテーマとしCO2の排出削減を目指して行動しているのに対し、TNFDは生物多様性をテーマとし、より広い範囲を対象としています。

出典:環境省「OECMにも貢献する環境省の取組状況について」(p5)(2022/3/18)

(2)TNFD設置の経緯

TNFDの着想は2019年1月のダボス会議で得られたものです。その後、以下のような流れでTNFDの設置が決まりました。

2019年5月

フランスG7環境大臣会合でタスクフォース立ち上げの呼びかけ

2020年7月

TNFD非公式作業部会結成を公表

2021年1月

フランスのマクロン大統領がTNFD支持を表

2021年9月

TNFDのフレームワークを推進するタスクフォースとそれを支援する狭義フォーラムを立ち上げ

2022年3月

フレームワークのベータ版0.1を公表

出典:環境省「OECMにも貢献する環境省の取組状況について」(p5)(2022/3/18)

2019年の呼びかけからタスクフォース立ち上げまで1年2か月であることを考えると、TNFDは国際組織としては非常に速いテンポで作られた組織だといえます。

(3)TNFDの今後のスケジュール

今後のスケジュールは以下のように公表されています。

TNFDのスケジュール

出典:環境省「令和4年3月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室」(p4)(2022/3)

現在、2022年のフェーズ2の段階にあり、来年以降は作成したフレームワークを公表し、導入ガイダンスなど実際の作業に入る予定です。

(4)TNFDの目標

TNFDの目標は、ますます進行している自然関連リスクについて報告・対応するための枠組みをつくりあげ、資金の流れを自然にマイナスの影響を与える方向から、自然に良い影響をもたらす方向へと変化させることです。

そのために企業に情報の開示を求め、投資家が自分の資金を投じる際の判断材料を提供し、資金の流れを自然にとって良い方向に変化させようとしています。

出典:環境省「令和4年3月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室」(p13)(2022/3)

(5)TNFDの原則

TNFDは以下のような原則を公表しています。

  • 市場の有用性

  • 科学の裏付け

  • 自然関連リスク

  • 目的駆動型

  • 統合的・適応可能的

  • 気候変動と自然環境の統合

  • 世界包括的

出典:環境省「令和4年3月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室」(p13)(2022/3)

これらの目標はとても抽象的ですが、重要な内容を含んでいます。それは、TNFDの対象が自然や空気・土壌・水といった自然に関する要素だということです。

自然環境が劣化することは、自然に依存した経済活動をしている多くの企業にとって重要なリスクです。

TNFDは企業が自然関連のリスクを報告し、それについての枠組みをつくりあげ、資金を自然にとって有益な方向にシフトさせようとしています。上にあげた原則はこうした動きを加速するためのものといってよいでしょう。

(6)TNFDの受益者

TNFDで利益を得るのは誰なのでしょうか。TNFDは受益者として5つのセクターを取り上げています。

TNFDの受益者

出典:環境省「令和4年3月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室」(p14)(2022/3)

投資アナリストはTNFDが開示させた企業報告をもとに気候変動への対策を加味した投資判断をしやすくなりますし、企業はTNFDへの報告を財務報告に組み込んで投資家にアピールできます。

他にも規制当局や株式取引所、会計事務所もTNFDの活動により利益を受けられるとしています。

2. TNFDの現状

2022年現在、TNFDの現状はどうなっているのでしょうか。タスクフォースに参加している国々やフォーラムに参加する組織、今後のスケジュールなどについてまとめます。

(1)タスクフォースに参加している国々

2022年3月段階で、TNFDに参加する国は合計34か国です。最も参加者が多いのはヨーロッパで、これに南北アメリカやアジアが続きます。

組織別でいえば、金融機関の代表者が15社で全体の44%を占めます。次いで一般企業が12社35%、会計・格付け・証券会社が7社21%と続きます。

タスクフォースには保険・金融グループのAXAや世界的な投資会社であるブラック・ロック、ヨーロッパのメガバンクであるBNPパリバなど名だたる金融機関の投資責任者が参加しています。日本からはMS&AD(三井住友・あいおい同和系の持ち株会社)の原口氏が参加しています。

出典:環境省「令和4年3月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室」(p5)(2022/3)

(2)TNFDフォーラムに参加する組織

フォーラムとはステークフォルダー(利害関係者)としてタスクフォースをサポートする組織で、300以上の企業・機関・団体などが参加しています。

日本からは環境省、金融庁、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループなど合計27団体がフォーラムに参加しています。

出典:環境省「令和4年3月 環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室」(p5)(2022/3)

3. TNFDで推奨される情報開示

なぜ、情報開示が推奨されるのでしょうか。それは、投資家の判断材料を増やすためです。投資家の判断基準は多岐にわたりますが、企業の社会・環境問題に対する姿勢に関心が集まっています。

大きな利益を上げて良い製品を作っている企業であっても、自然に負荷をかけていたり、CO2の排出量が大きかったり、劣悪な労働環境で製品を作っていたりする企業が投資家から敬遠されつつあるのです。

TNFDは情報開示を通じて資金の流れを自然環境保全に向かわせるよう意図していますが、その目的を達成するためにも企業活動や環境に対する取り組みの情報を企業自ら開示するよう推奨しています。

4. TCFDとTNFDの違い

TCFDとTNFDはたった1文字の違いですが内容が異なっています。それぞれの違いについてまとめます。

(1)気候変動を重視するTCFD

TCFDの活動は気候変動に関して企業に情報開示を求めることから始まりました。気候変動はビジネスや経済活動に大きな影響を与えつつあり、それを放置すると金融面も多大な損失を被ります。

そこで、CO2の排出を抑制し気候変動の抑止する脱炭素に資金を誘導するため、各企業の脱炭素の情報開示を求める動きが強まります。こうした動きの中で2015年に発足したのがTCFDでした。

したがって、TCFDの活動の中心はCO2の排出削減を含む各企業の脱炭素に関する情報開示を求めることとなったのです。

出典:WWFジャパン「ESG投資をはじめとする環境と金融の関わり-TNFDとTCFD-」

(2)自然資本を重視するTFND

TFNDが発足したのはTCFD発足から6年後の2021年です。気候変動と同じくらい重要な自然資本や生物多様性の保全に関するタスクフォースとして発足しました。

ただ、自然資本の場合、TCFDで対象としたCO2のような計測可能な共通基準が存在しません。自然資本や生物多様性の保全のためには森林・海洋・淡水・野生生物などあらゆる要素が絡み合うからです。

現在、2022年3月に公表されたTNFDのβ版へのフィードバックを進めている最中で、2023年9月に最終版が公表される見通しです。

出典:WWFジャパン「ESG投資をはじめとする環境と金融の関わり-TNFDとTCFD-」

5. まとめ:今後は、自然資本や生物多様性を守る企業経営が必要

今回はTNFDについてまとめました。CO2排出量の数値化や削減目標といった具体的な動きを進めるうえでTCFDが大きな役割を担ったように、自然資本や生物多様性保全といった分野でTNFDに対する期待が膨らんでいます。

企業経営という観点から見ても、かつて見られたような自然や生物多様性を軽視した経営について、厳しい視線が注がれています。

こうした動きは大企業だけではなく大企業に製品を納めたり、消費者と直接かかわりを持つ中小企業にとっても無視できないものとなるでしょう。あとから過去の企業活動の責任を問われることが無いよう、いまからでも自然資本や生物多様性を守る企業経営にシフトするべきではないでしょうか。

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