中小企業向けSBTとは?参加のメリットをご紹介
- 2023年12月04日
- CO2算定
SBTとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減目標です。
この記事では、SBTの概要と中小企業向けSBT、さらに中小企業がSBTに参加するメリットや事例などについて、わかりやすく解説します。
目次
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SBTとは何か
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中小企業向けSBTとは
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中小企業向けSBTに参加するメリット
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中小企業によるSBT取り組み事例
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まとめ:SBT参加は企業の環境問題への取り組みをアピールするチャンス!
1. SBTとは何か
(1)SBTの基本知識
出典:環境省「環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:国際的な取組」(P6)
SBT(Science Based Targets)とは、企業が設定する温室効果ガスの排出削減目標のことです。目標数値は、パリ協定が求める水準と整合したもので、5〜15年先を目標達成年と設定します。
CO2の削減量が最も少ないのが気温上昇を2℃以内に収める目標(2℃:上図の黄緑)で、次に少ないのが世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(WB2℃:上図の黄色)、最も多いのが気温上昇を1.5℃以内に収める目標(1.5℃:水色)です。
SBTを設定する各企業は、最低でもWB2℃、可能ならば1.5℃を削減目標とするよう求められています。
(2)SBTが削減対象とするCO2
出典:環境省「環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:国際的な取組」(P7)
SBTでは、排出削減するべき温室効果ガスを三つのカテゴリーに分類しています。Scope1は、燃料の使用や製品の製造過程で事業者が直接排出する温室効果ガスをさします。Scope2は、電力をはじめとする他者から供給されたものの使用により、間接的に排出する温室効果ガスです。
そして、Scope3は原材料や製品の輸送、従業員の通勤、製品の使用・廃棄などで発生する温室効果ガスの排出です。SBT目標を達成するには自社だけではなく、Scope1+Scope2+Scope3というサプライチェーン全体で温室効果ガスを削減する必要があるということです。
(3)SBTへの参加動向
SBTに参加する企業は、世界的に見ても増加の傾向にあります。
出典:環境省「環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:国際的な取組」(P39)
2020年度のSBT認定企業は293社で、増加率は84%でした。また、2年以内にSBT認定を取得するとしているコミット企業は175社で、増加率は35%といずれも過去最高となりました。
出典:環境省「環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:国際的な取組」(P41)
国別でみると、日本はアメリカ、イギリスに次ぐ3位です。ただし、2年以内の認定を目指すコミット企業が他国と比べて少ないため、今後伸び悩む可能性があります。
2. 中小企業向けSBTとは
出典:環境省「環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム:国際的な取組」(P138)
SBTの認定を行うSBT事務局は、中小企業向けSBTの独自ガイドラインを設定しました。
通常のSBTと異なるのは、
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基準年と目標年があらかじめ定められていること
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削減対象をScope1,2に絞っていること
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目標レベルをWB2℃か1.5℃から選ぶこと
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認定費用が通常より安いこと
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承認までのプロセスが簡略化されていること
などが挙げられます。
通常のSBTに比べると、企業の負担が軽くなっており、中小企業にとっても取り組みやすい内容となっています。
3. 中小企業向けSBTに参加するメリット
中小企業がSBTに参加するメリットは、大きく分けて2点あります。
(1)顧客に環境対策をアピールできる
1つ目のメリットは、顧客に環境対策に積極的に取り組んでいるとアピールできることです。SBT認定にせよ、RE100への参加にせよ、中小企業にとって大きな負担となることですが、それに取り組んでいることを表明することで、環境に配慮した企業であることをアピールできます。
出典:環境省「環境省「平成 31 年度(2019 年度)企業の中長期排出削減目標設定や 排出量算定支援事業等委託業」
(2)取引先のCO2排出削減に貢献できる
2つ目のメリットは、取引先のCO2排出削減に貢献できることです。SBT目標をクリアするには、自社のCO2削減努力だけでは不十分で、サプライチェーン全体でのCO2削減が必要となります。
中小企業が自社でSBT目標を設定し、温室効果ガスの排出削減に努力することは、自社と取引する企業のCO2排出削減にもつながります。それにより、取引先との良好な関係や新規顧客の獲得につながる可能性があります。
出典:環境省「環境省「平成 31 年度(2019 年度)企業の中長期排出削減目標設定や 排出量算定支援事業等委託業
4. 中小企業によるSBT取り組み事例
(1)株式会社篠原化学
株式会社篠原化学は、寝具の企画・製造・卸し・輸入・販売を行う企業です。篠原化学のCO2排出量内訳は、自社の直接排出であるScope1が45%、電力使用で発生するCO2を示すScope2が47.5%となっています。
Scope1・2の排出削減につなげるため、篠原化学では本社やショールーム、倉庫で使用する電力の再エネ化を推進します。目標達成は2030年で、サプライチェーン全体のCO2排出量を示すScope3については、サプライヤーと連携してCO2排出量が少ない素材にすることで、2018年比50%削減を目指します。
今後の課題として、Scope1削減のためにガソリン車からEV車に変更する必要性と、Scope2削減のための再エネ由来電力の使用、Scope3達成のためのサプライヤーとの連携が必要だとしています。
(2)日本ウエストン株式会社
日本ウエストンは、工業用ウエスや手袋等のレンタル・クリーニング・製造販売を行っている事業者です。日本ウエストンのCO2排出量内訳は、Scope1が79%、Scope2が21%となっています。
Scope1・2のCO2排出量を削減するため、重油ボイラーからガスボイラーへの転換、ハイブリッドトラックへの転換、再エネ由来電力の100%使用などを行います。今後の課題としてはガスボイラー転換の際の運用コスト削減をあげています。
(3)株式会社浜田
出典:環境省「株式会社浜⽥」
株式会社浜田は、産業廃棄物処理業やスクラップ業を営む企業です。CO2の排出内訳は、Scope1が68%、Scope2が32%です。
Scope1・2のCO2排出量を削減するため、ガソリン・軽油の使用削減や再エネ電力への切り替え、Jクレジットの利用などで排出削減を目指します。運搬車両をハイブリッド車や電気自動車に切り替える際のコストなどが課題です。
5. まとめ:SBT参加は企業の環境問題への取り組みをアピールするチャンス!
パリ協定の成立やアメリカのパリ協定復帰、日本のカーボンニュートラル宣言など温室効果ガスの排出削減は急務となっています。これは、大企業に限ったことではありません。
SBTでは、事業者自身のCO2排出削減だけではなく、サプライチェーン全体でのCO2排出削減が求められます。SBTに参加することは、こうした要請にこたえる能力があるというアピールになり、新しいビジネスチャンスとなるでしょう。
自社の環境問題に関する取り組みや、サプライヤーとしてCO2削減に協力できることを示すことは、今後の中小企業の戦略として極めて重要になるのではないでしょうか。