【なぜCO2の見える化を?】環境問題への取り組みを“コスト”にしないために。ZOZOが取り組むESGデータの情報開示

「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」をサステナビリティステートメントに掲げ、環境問題をはじめとするESG経営に取り組む、株式会社ZOZO。

気候変動に関して、「環境負荷の軽減による、豊かな地球への貢献」を重点取り組みの1つとして定め、それに付随するKPI「2030年のスコープ3の排出量を基準年から42%削減する」「2030年『カーボンニュートラル』の達成」「2050年『ネットゼロ』の達成」などを設定しています。

ZOZOのCO2排出量の見える化をメインで担当している、コミュニケーションデザイン室 コミュニケーションデザイン部 サステナビリティ推進ブロックの迫田英希さんに、取り組みはじめたきっかけや、算定するなかで感じた課題などを聞きました。

目次

  1. 環境汚染産業第2位のファッション業界 プラットフォーマーとしてできることとは

  2. 精緻なCO2排出量見える化のポイントは、コミュニケーションにあり

  3. 評価機関からの評価が、年々向上。ESG情報開示の成果が出ている

1. 環境汚染産業第2位のファッション業界 プラットフォーマーとしてできることとは

― ZOZOが、CO2排出量の見える化に取り組んでいる理由を教えてください。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、ファッション業界は世界で第2位の汚染産業とみなされているほど、環境への負荷が大きいといわれています。CO2排出量も石油産業に次いで多く、衣服の生産工程で大量の水が使われていること、また、膨大な数の服を廃棄することも環境汚染の要因とされています。

ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営し、プラットフォーマーとしてさまざまなブランドからファッションアイテムやコスメをお預かりして販売している当社は、こうした現状を受けて、気候変動や脱炭素への取り組みが急務であると考えていました。

そこで2020年に、私が所属している「サステナビリティ推進ブロック」という、気候変動や脱炭素をはじめとしたESG課題に取り組む部署が新設されました。当社は、さまざまなブランド、お客さま、取引先などと繋がることでサービスを展開している企業です。自社のみならず、ステークホルダーの皆さんと一緒に協働・共創しながら進めていきたいという想いから、「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」というサステナビリティステートメントを定めました。その後、マテリアリティ(重要課題)を特定し、CO2排出量の算定や環境課題の解決に向けた取り組みをスタートしました。

― ステークホルダーとの協働・共創として、どんな取り組みをなさっていますか?

当社は、企業連携プラットフォーム「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(以下、JSFA)」に加盟しており、個社では解決が難しい課題に対して、同じ業界の企業同士で協力し、サステナブルなファッション産業への移行を目指しています。「JSFA 温室効果ガス排出量 Scope3算定事例集」を作成した際には、当社の算定ノウハウを参加企業の皆さんに共有し、業界全体が自社の温室効果ガス排出量を算定し、現状把握ができるよう協力しました。既に算定済みの企業だけでなく、算定に興味はあるものの不安や課題を抱えている企業等も集まり、知見や情報を交換しながら、脱炭素をともに進めていく取り組みができたと感じています。

また、環境省支援のもと、日本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)とJSFAが連携し、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量の算定方法基本ガイドラインに関する業種別解説(ファッション産業)」の作成をおこなったほか、取引先ブランドはもちろん、商品の配送をお願いしているヤマト運輸様など、ファッション業界以外の企業とも情報交換しながら、脱炭素社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。

― コーポレートサイト上で、スコープ1~3やESG関連項目など、とても詳細まで情報開示なさっていますね。

はい。ESGデータだけでなく取り組みの進捗なども含め、開示をしっかり行っていこうというのが当社の方針です。CO2排出量の算定は2021年より開始しました。2022年からはスコープ3の開示も開始し、毎年投資家やESG評価機関、ステークホルダーの要望に合わせ、ファッション業界で事業を行う企業として重要な項目をコーポレートサイト上で開示しています。

―2024年8月に2023年度のESGデータをコーポレート上で開示なさっています。脱炭素の領域において、特に力を入れていることがあればお聞かせください。

ひとつは再生可能エネルギーの導入です。当社の場合、スコープ1、2の約99%は電力です。2023年度は新しい物流拠点等に再生可能エネルギーを導入したことで、さらに当社の脱炭素化は大きく進みました。

もうひとつが「ZOZOUSED」による、循環型ファッションの促進が挙げられます。当社は、2012年11月にブランド古着のファッションゾーン「ZOZOUSED」のサービスを開始しました。カジュアルブランドからハイブランドまで7,000以上のブランドを取り扱い、常時約90万点のアイテムを掲載しています。ユーザーはZOZOTOWNで購入した商品を「買い替え割」サービスを活用することで下取りに出し、下取り金額分をその場で値引きしてお買い物をすることができます。そして下取りしたアイテムは、当社がZOZOUSEDで販売します。また、販売基準に満たないアイテムも捨てることなく、外部の買取専門業者に販売しているので、当社から廃棄がほとんど出ない仕組みになっているのです。

この「ZOZOUSED」のビジネスが拡張することで、廃棄の過程で排出されるCO2排出を抑制できます。

ほかにも物流の2024年問題を鑑み、輸送の効率化に力を入れたほか、梱包資材の見直しやファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す、生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO」といった取り組みにも力を入れています。

― 算定については、どのように行っているのでしょうか。

当社では、CO2排出量の算定において、ESGアドバイザーの協力を得ています。ESGアドバイザーに毎年算定したデータの相談をし、算定方法について助言をもらったり、結果の数値をより精緻化する方法を検討しています。

また、グループ会社であるソフトバンクとともに、算定データの第三者検証を受ける機会もあるんです。検証を受けるまでの過程で、検証機関との情報交換を積極的に行った結果、22年度よりも結果を精緻化することにつながりました。

ただ算定するだけではなく、その信頼性も意識して取り組んでいます。

2. 精緻なCO2排出量見える化のポイントは、コミュニケーションにあり

―CO2排出量の見える化はどのように行っていますか?

開示項目に関連する部署に依頼をして、データや情報を集めるところから始まり、環境省の排出原単位データベースなどを基に、社内で算定をしています。そのうえで、算定結果に誤りがないか、ESGアドバイザーに確認しています。

―自社での算定は大変ではないですか? もともと脱炭素やサステナビリティに関連したお仕事をしていたのでしょうか?

最初はもちろん苦労しましたが、取り組み始めて3年目なので段々と慣れ、自社の傾向や削減へ向けたプロセスについて考える余裕も出てきました。私がメインで担当しつつ、データの整合性などはチームで確認する体制を敷き、算定のマニュアルも作成することで、全員が算定業務に取り組めるような環境整備もしています。

私はZOZOに新卒で入社し、以前は経営推進部で当社の企業活動を財務・非財務の両面で捉える業務に携わっていました。そんな中、現在の部署で社内公募があり、新たな場所で「誰かのためになる仕事がしたい」という思いを抱いていたことから、今後のキャリアも見据え、手を挙げて異動しました。なので、サステナビリティや環境、気候変動などについてはたくさん勉強したんです。

―迫田さんと同じように、脱炭素やESG領域の仕事に興味があるけれど踏み出せない人や、突然部署異動でそういった仕事をしなければならなくなった人も多いと思います。経験や知識がないなかで、業務にあたる際に工夫したことはありますか?

この領域で求められる知識はとても幅が広いと感じています。たとえば、再エネへの転換を検討するのと資材梱包資材をサステナブルな素材に変更するのとでは求められる知識が異なります。どちらも業務に必要な知識なので、再エネのことも、サステナブルな素材についても知っている必要があるんです。

ただ、一度にすべてを知ろう、理解しようとしても難しいと思います。なので、まずは社の事業や掲げている目標を達成するために必要なものを、優先順位をしっかりつけて、日々情報収集するようにしていました。

また、実務をしていると必要な情報がだんだんとわかってくるようになると思います。脱炭素やESGの領域は専門的ですし、日本では比較的新しい分野なので知らないことがあって当たり前です。セミナーに参加したり、取引先の人と情報交換をしたりしながら、不明点を解消していくといいのではないでしょうか。そうすると、意外と皆さんも困っていて、一緒に頑張ろう!というように、仲間を作る感覚でネットワークも広がっていきます。

―CO2の見える化の経験もないなか、メイン担当としてスコープ1~3までの算定を行ってきて、困ったこと、課題に感じたことはありますか? また、それらをどのように解決していったのか教えてください。

私たちが取り扱っている「洋服」にはたくさんの種類があります。そのため、例えばアイテムカテゴリごとに、廃棄・可燃処理された場合のCO2排出量は……という計算が必要になります。これをアイテムカテゴリごとに行うのはとても大変でした。現在は算定フォーマットを作成したので課題は解決されましたが、不明点や算定方法が煩雑すぎる事態が発生した場合には、アドバイザーに相談をして最適な方法を選んでいます。

その一方で、正しい数値を算定するために情報交換は欠かせないと感じています。自分たちですべてを判断するよりは、いろいろなところで情報を求めたり、ツールを導入したりしながら算定を行っています。

また、一度の算定ですべての項目を精緻に算定して開示するのはとても難しいとも思います。年を重ねるごとに、算定方法を突き詰めていって、より精緻化された数値を開示していくことが重要なのではないでしょうか。

間違った結果を開示するのは企業の信頼にも関わりますし、削減に向けた施策をするにしても、間違った数値をもとにすると判断を誤りかねません。

― 企業規模が大きい、もしくはステークホルダーが多い場合、算定するために必要なデータを集めるのにも苦労すると思います。

スコープ3を算定するにあたっては、取引先の皆さんから一次データの収集が大きな課題になります。一次データの取得は、精緻な算定を行うために欠かせません。しかし中には、まだCO2排出量の算定の優先度がそれほど高くなかったり、そもそもデータを持っていない取引先もあります。だからこそ、しっかりと情報交換をしながら、互いに啓発しあい、コミュニケーションをとっていく重要性を感じているところです。

スコープ3に限らず、算定に必要な情報を集める際には社内の関係部署に対しても「なぜ必要なのか」を説明する必要がありますよね。気候変動や環境問題をはじめとするESGがなぜ必要なのかを細かく説明するところからはじまり、現在は説明をしなくてもスムーズにコミュニケーションがとれるようになりました。

環境問題やESGと聞くと、皆さんなんとなく「いいこと」だし、取り組むべきことでもあると認識してくれています。ただ「なんとなくわかる」ではなくて、それによってどういった良い影響があるのか、なにが会社のためになるのかという点まで説明することが重要だと考えています。

その際に気を付けているのは、「相手のメリットに繋がる部分を伝える」ことです。

私たちがコーポレートサイト上で開示しているESGデータを、ZOZOTOWNを利用しているユーザーが見るということはあまりないかもしれません。ですが投資家や株主は見ています。ESGデータを開示することで企業姿勢が伝わりますし、サステナビリティに対する意識の高さ、算定結果の精緻化や透明性なども見ていただける。それは結果としてESG投資やそれに付随する評価となります。今すぐにはプラスにならないかもしれないけれど、長期的にはリターンにつながる点をしっかり説明するようにしていますね。

3. 評価機関からの評価が、年々向上。ESG情報開示の成果が出ている

―CO2排出量の見える化などの環境問題に対する取り組みはコストがかかるという考え方をしている企業はまだ多いと思います。そんななか、ZOZOはビジネスにおけるメリットはあると感じていらっしゃるのでしょうか。

たしかに、時間や労力を要しますし、再生可能エネルギーなどの導入にはコストがかかります。しかしビジネスと環境問題への取り組みは両軸で回していく必要があると考えています。

しっかりと算定を行い、ESGに取り組んだ結果を情報開示した成果として、ESG評価機関からの評価が年々向上しています。特に、企業のESGを考慮した投資を推進している、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用する、ESG国内株式指数全ての構成銘柄に選定されています。

こうした成果の積み重ねにより、取引先や社内のESGに対する意識も高まっており、プラスの好循環が生まれていると感じています。

―先ほど、迫田さんは、CO2排出量などの情報をコーポレートサイト上で見るユーザーはあまりいないとおっしゃっていました。環境負荷が少ない商品に対して、消費者の行動変容を起こすのは大変だという話もよく聞きます。消費者ととても近い事業を行っていて、気候変動や環境問題、ESGの取り組みをしていても、ユーザーには「伝わらない」と感じていますか?

いいえ、意外に思われるかもしれませんが、そんなことはありません。たしかにコーポレートサイトで行っている開示は投資家や株主向けです。

その一方、当社ではZOZOTOWN上にサステナビリティ情報を発信する「elove by ZOZO」というコンテンツをユーザー向けに運営しているんです。ユーザーの皆さんに、いきなり「ZOZOはこんなサステナビリティの取り組みをしていて、CO2排出量もスコープ1~3まで開示しているんです」と訴えても、伝わらないと思います。

だからこそ、まずは「今、なにが起きているのか」を知ってもらうために「elove by ZOZO」では、ブランドやファッション業界の関連団体などへのインタビューのほか、ファッションにまつわるTIPS、環境・社会問題など、日常生活や買い物の際に役立つサステナビリティ情報を紹介しています。先日、気候変動をテーマにした記事も公開しました

「elove by ZOZO」などのコンテンツで情報発信していくことが、ユーザーの皆さんの啓発につながっていると感じています。その結果、サステナビリティ商品の選択といった行動に繋がってくれたら、それはとてもうれしいことですね。

―今後、CO2の見える化や脱炭素などサステナビリティ領域で、どんな取り組みをしていきたいとお考えですか?

当社は、サステナビリティステートメント「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」を実現するために、4つの重点取り組みを特定しています。それは

  1. 取引先と共につくる、サステナブルでナナメウエなサービスの提供

  2. DE&Iの推進による、すべての人が自分らしく笑顔で生きられる職場や地域の実現

  3. 環境負荷の軽減による、豊かな地球への貢献

  4. ガバナンス強化による、正しい経営と強靭な管理体制の維持・改善

です。

これらをしっかりと達成するために、ステークホルダーとの協働・共創をさらに強化していきたいと思います。また、大量生産・大量廃棄が常態化しているファッション業界のあり方を根本的に見直す、サステナブルな素材への転換を図るなど、優先順位をつけながら、今後より具体的な取り組みを進めていきたいと考えています。

例えば、先ほど少しお話しした「Made by ZOZO」は受注生産で洋服を作るプラットフォームです。最短10日で商品をお届けできる仕組みになっており、このサービスが少しでも広がれば、ブランド側は大量に在庫を抱える必要がなくなり、必然的に廃棄も減らすことができます。こうした、ファッションのサステナビリティに繋がる既存のサービスの拡充にも力をいれていきたいです。

また、当社が加盟しているJSFAでは政策提言委員会があり、ファッション業界におけるさまざまな課題を解決するために国に上申する活動もしています。たとえば、ファッションアイテムをサステナブルな素材に転換すると、そのCO2排出量を算定するための原単位がないといった状況も起きているので、個社だけでは解決できないことは業界団体や国を巻き込んで解決していくような取り組みもしていく予定です。

プラットフォーマーであることは、当社の特徴であり、強みでもあります。製造する企業ではない当社だからこそできる、サステナブルな取り組みを今後も追求していきたいです。

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