SBTi FLAGとは?企業が知っておくべき基本を解説

SBTi FLAGとは、科学に基づいた温室効果ガス排出量削減目標を設定するためのガイダンスです。このガイダンスは、持続可能な社会を目指すためにとても重要であり、企業が環境保全に貢献するための指針となります。企業は、SBTi FLAGを理解し実践することで、より効果的に排出量を削減でき環境保護に貢献することができます。ここでは、SBTi FLAGの基礎知識や目標設定が必要な企業、目標と排出量のカバー範囲、目標設定のポイントなどを分かりやすくご紹介します。

目次

  1. SBTi FLAGとは何か

  2. FLAG目標設定が必要とされる企業とは

  3. SBTi FLAGの目標範囲と排出量カバー範囲

  4. SBTi FLAGの目標設定のポイント

  5. まとめ:SBTi FLAGの理解を深め環境に配慮した経営を目指そう!

1.SBTi FLAGとは何か

まず初めに、SBTi FLAGを作成した機関「SBTi」と、SBTi FLAGについてご紹介します。

SBTi とは

SBTi(The Science Based Targetsイニシアチブ)は、科学に基づく目標設定イニシアチブ機関で、企業と金融機関が最新の気候科学に基づいて野心的な温室効果ガス(GHG)排出削減目標を設定できるように支援する団体です。そして、SBTiは、CDPや国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWP)と連携を図りながら、企業の気候変動対策を加速させるために、2030年度までに世界のGHG排出量を半減し、2050年までに排出量ゼロを目指します。

出典:環境省『SBTi コーポレート マニュアル』p,4.(2022/03/11 )

SBTi FLAGとは

SBTi FLAG(SBTi Forest Land and Agriculture)とは、土地集約型セクターの企業が地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標に合わせて、科学的な根拠に基づいた短期目標を設定するフレームワークです。土地集約型セクターとは、林業や農業から材料を生産または調達をする産業のことで、これらの産業は活動を通して土地利用の変化に影響を与える可能性があるとしています。しかし、SBTi FLAGを活用することで土地集約型セクターの企業は、世界のGHG排出量の22%を削減できるとしています。なお、SBTi FLAGプロジェクトは、短期目標設定を目的としていたため、2022年3月に終了となっています。

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,4.5.(2022/12/05)

出典:The Science Based Targets『SBTi FOREST, LAND AND AGRICULTURE (FLAG) PROJECT FAQs』p,3.(2023/07)

出典:環境省『SBTI 企業ネットゼロ基準』p,34.(2022/03/11)

SBTi FLAGが誕生した背景

森林や土地、農業の分野は気候変動の影響を大きく受ける一方で、GHGの大きな排出源でもあります。実際、これらの分野は世界のGHG排出量の約1/4を占めており、その一方で、パリ協定の目標を達成するためには、森林や農地からのGHG排出を2050年までに半分に減らすことが重要です。世界では、多くの企業がGHG排出量を公表していますが、それらのほとんどは気候目標や報告において森林や農地からの排出や吸収が考慮されていません。この原因として、これまでに適切なガイドラインや方法がなかったことが挙げられ、そこで、GHG排出量削減目標設定イニシアチブ機関のSBTiが、2022年9月に土地集約型セクターの企業に向けて「SBTi FLAGガイダンス」を公表しました。

出典:環境省『SBTI 企業ネットゼロ基準』p,34.(2022/03/11)

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,4.5.(2022/12/05)

2. FLAG目標設定が必要とされる企業とは

SBTiでは、次に挙げる2つの基準を満たす企業に対して、SBTi FLAGに基づいた目標設定を義務付けています。

SBTi 指定セクターの企業

SBTiのFLAG指定セクターに属する企業で、土地を多く使う活動を行なっている場合は、FLAG目標を設定する必要があります。具体的な分野は、紙やパルプ、林業、木材、ゴムの製造を行う「森林・紙製品」、農作物の生産を行う「食品製造(農業生産)」、動物由来の原料を使った製品の製造を行う「食品製造(動物原料)」があります。また、食品や飲料の加工を行う「食品および飲料の加工」や食品や生活必需品を販売する「食品・生活必需品の小売業」、タバコ製品の製造・販売を行う「タバコ」もSBTiのFLAG指定セクターに属する企業となります。

出典:環境省『SBTI 企業ネットゼロ基準』p,36.(2022/03/11)

出典:The Science Based Targets『SBTi FOREST, LAND AND AGRICULTURE (FLAG) PROJECT FAQs』p,3.(2023/07)

 FLAG関連の排出量が多い企業

SBTiのFLAG指定セクターに属していない企業でも、自社の全体の排出量(スコープ1、2、3)のうち20%以上がFLAG関連の排出量である場合は、FLAG目標を設定する必要があります。具体的な分野として、「ホテル・レジャー・観光」や「織物」、「化粧品」などが含まれ、その他に土地を多く使う活動を行いFLAG関連の排出量に企業が当てはまります。このFLAG関連の排出量の具体的な基準は、FLAGプロジェクトで定められます。

出典:環境省『SBTI 企業ネットゼロ基準』p,36.(2022/03/11)

出典:The Science Based Targets『SBTi FOREST, LAND AND AGRICULTURE (FLAG) PROJECT FAQs』p,3.(2023/07)

3.SBTi FLAGの範囲・対象と排出量カバー範囲

SBTi FLAGには、排出量削減目標を設定する際に対象となる範囲や排出量のカバー範囲が定められています。ここでは、SBTi FLAG範囲・対象と排出量カバー範囲をご紹介します。

SBTi FLAG範囲・対象

SBTiのFLAG範囲・対象として、「土地利用変化(LUC)」「土地管理(非LUC排出)」「炭素除去・貯留」があります。土地利用変化(LUC)とは、家畜の飼育生産に関連するものを含む土地利用の変化によって発生するGHG排出量のことで、土地管理(非LUC排出)とは、土地の管理によって発生するGHG排出量で主に亜酸化窒素(N2O)やメタン(CH4)を含みます。そして、炭素除去・貯留とはCO2を大気中から取り除き、貯留する技術のことです。また、バイオエネルギーの生産と使用によるGHG排出と除去はFLAG目標設定には含まれず、SBTiの一般基準として扱われます。

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,10.11.(2022/12/05)

SBTi FLAG排出量カバー範囲

土地集約型セクターのGHG排出量カバー範囲は、FLAG関連のスコープ1(自社から直接的に排出されるGHG)およびスコープ2(自社から間接的に排出されるGHG)の排出量においては、全体の95%をカバーする必要があり、また、スコープ3(サプライチェーン全体)の排出量は全体の65%をカバーする必要があります。もし、これらがFLAG目標に含まれている場合は、FLAG関連のスコープ3の排出量は、他のエネルギーや産業の排出量とは別に扱われ、それぞれ別々に67%の削減目標を達成する必要があります。

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,10.(2022/12/05)

4.SBTi FLAGの目標設定のポイント

最後にSBTi FLAGの目標設定のポイントをご紹介します。

(1)土地関連の排出量の算定

土地集約型セクターの企業から排出されるGHG排出量の算定は、GHGプロトコルに基づいて算定します。GHGプロトコルとは、GHG排出量を正確に計算し報告するための国際的なガイドラインで、企業は、土地管理によるCO2の年間排出量と非CO2排出量を算定して報告する必要があります。土地管理による排出量の算定は、土地の炭素ストック(炭素の蓄積量)の変動を使って、自然由来のCO2の排出量や吸収量を計算します。土地の炭素ストックの変動は、ストック差異法または、ゲイン・ロス法を使って計算することができます。土地のネット炭素ストック変動を求めるためのゲイン・ロス法

出典:環境省『SBTI 企業ネットゼロ基準』p,22.(2022/03/11)

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,25.(2022/12/05)

出典:環境省『土地セクター・炭素除去ガイダンス』p,6.131.132.(2023/03/15)

(2)森林破壊ゼロのコミットメント

SBTi FLAGでは、企業が森林破壊を一切行わないことを約束し、その目標を2025年までに達成する計画を立てる必要があります。そのガイドラインとしてアカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアチブ(AFi)を推奨しており、特に、2020年以前の期限を含めることを重要としています。このコミットメントの背景には、世界では気候変動や生物多様性の危機が深刻化が関係していて、企業は科学的なデータを活用して、2050年までにサプライチェーンの排出量を削減できれば森林破壊を防ぎ、生態系の回復が期待できます。

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,16.(2022/12/05)

出典:Accountability Framework initiative『The AFi recommends a target date no later than 2025 to eliminate deforestation and conversion in supply chains - Accountability Framework』(2022/06/03)

(3) FLAG目標を設定するための実践的な手順

SBTi FLAG目標を設定する場合、「FLAGセクター」と「コモディティ(参品)別」の2つのアプローチ方法があります。FLAGセクターアプローチとは、主に需要側事業者に向けたアプローチ方法で、業界やセクターに特化した方法で各セクターの特性やニーズに応じた目標設定を行います。一方、コモディティ別アプローチは、主に供給側事業者に向けたアプローチ方法で特定の製品や商品ごとに目標を設定するもので、製品のライフサイクルや供給チェーン全体を考慮したものとなっています。SBTi目標の構造・選択ルート

出典:CDP『SBTi FLAGセクター ガイダンス・目標設定の動向』p,6.(2022/12/05)

5.まとめ:SBTi FLAGの理解を深め環境に配慮した経営を目指そう!

SBTi FLAGとは、科学に基づいて温室効果ガス(GHG)排出量を削減するための目標を設定するイニシアチブ機関「SBTi」が、土地集約型セクターの企業に向けて作成した短期的な目標設定のガイドラインです。SBTi FLAGの対象となる企業は、FLAG指定セクターに属する企業、または、自社の全体の排出量(スコープ1、2、3)のうち20%以上がFLAG関連の排出量である企業です。そして、SBTi FLAG目標設定のポイントとして「土地関連の排出量を正確に算定すること」や「森林破壊をゼロにすることを約束すること」、「2つのアプローチ方法の選択」があります。SBTi FLAGによる目標設定は、持続可能な社会を構築する上で、とても重要な手段となることから、企業はSBTi FLAGの理解を深め環境保全に積極的に取り組む企業を目指しましょう!

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