サプライチェーン排出量とは?Scopeについても解説

「自社のCO2排出量の開示や排出削減の取り組みがない企業はサプライチェーンから外れる恐れがある」と経済の各方面から耳にするようになりました。コロナウイルス感染拡大による深刻な経済への影響の中、日本を含め、世界は持続可能な社会・経済への移行をここからの復興に同期化しようとしています。

今後ビジネスを続けるにあたって、サプライチェーンの一部を担う企業として、中小企業も排出量の算定を求められることも考えられます。サプライチェーン排出量算定の仕組みを理解し、今後に備えましょう。

目次

  1. サプライチェーン排出量とは

  2. サプライチェーン排出量の算定の目的と効果

  3. サプライチェーン排出量の算定方法

  4.  サプライチェーン排出量を算定するメリット

  5.  まとめ:サプライチェーン排出量算定でビジネスを前に進める

1. サプライチェーン排出量とは

サプライチェーン排出量は、温室効果ガスが化石燃料の燃焼や工業プロセス、温室効果ガスの使用・漏洩などによって大気中に排出される際、企業の事業活動全般に関連する直接的な排出(Scope 1)、自社事業に関連する間接的な排出(Scope 2)、そして原材料調達、製造、物流、販売、廃棄などの一連の活動から発生する排出(Scope 3)を総合して計測される排出量を指します。

サプライチェーン排出量について詳しく知りたい人はこちら 

URL:【CO2排出原単位とは】サプライチェーン排出量の算定方法に必要

出典:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム『排出量算定について』

GHGプロトコル

国際的に温室効果ガスの排出量算定に推奨されているのはGHGプロトコルの基準です。GHGプロトコルとは、アメリカのWRI(World Resource Institute)と、事業者の世界的ネットワークであるWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)によって作成された、事業者のGHG(Greenhouse Gasの略、温室効果ガス)の排出量算定とその報告についての標準化ガイドラインです。

出典:環境省『事業者の温室効果ガス排出算定及び報告についての標準化ガイドライン』p.1

出典:経済産業省 環境省『国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関する ガイダンス』p.4

Scope3の15のカテゴリ

GHGプロトコルの基準では事業に関連する他社による排出に当たるScope3を15のカテゴリに分けています。

(※1) 基本ガイドラインでは輸送を任意算定対象としています。

(※2) 基本ガイドラインでは輸送を算定対象外としていますが、算定しても構いません。

出典:経済産業省『サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ

2. サプライチェーン排出量の算定の目的と効果

算定の目的

サプライチェーン排出量の算定の目的は、事業活動全体を把握することにより排出量を統括的に管理することです。排出量の多い部門を特定することで環境対策の方針を定め、より効率的な削減が可能になります。

算定の効果

自社の排出量の削減には限界がありますが、サプライチェーン全体の排出量削減を⽬指すことで他事業者との連携が促進され、⾃社だけでは難しかった削減も可能になります。

出典:経済産業省『2. なぜサプライチェーン排出量を 算定するのか︖(2023年3月16日)』

3. サプライチェーン排出量の算定方法

CO2排出量算定の基本式

排出量算定の基本式は「排出量=活動量×排出原単位」です。

  • 活動量:事業者の活動の規模に関する量

  • 排出原単位:活動量あたりのCO2排出量

国別のCO2排出量について知りたい方はこちら

URL:国別のCO2排出量はどう算定する?CO2排出係数を国別に比較

算定目的の設定

サプライチェーン排出量の算定には、どのような事業目的を達成するために算定に取り組むのかを踏まえ、算定目的の達成に必要な算定精度を明確にします。可能な限り算定精度を高めることが望ましいのですが、労力やコストの増大も懸念されます。

それぞれの算定目的ごとに、必要となる算定精度や算定範囲が異なります。算定の目的に応じた算定精度を意識し、段階的に取り組むことが必要です。

出典:環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』p.7

算定対象範囲の確認

サプライチェーン排出量算定において、グループ単位を自社の範囲として対応します。グループ内企業との取引がある場合は算定範囲の確認に注意が必要です。

例えば、調達物輸送の場合は通常Scope3のカテゴリ4「輸送・配送(上流)」に該当しますが、グループ内の輸送会社が輸送している場合はScope1または2に該当する可能性があります。算定範囲の確認時には、サプライチェーン上の各活動がどこに該当するかに注意しながらカテゴリの分類をする必要があります。

出典:環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』p.8

各カテゴリの算定

カテゴリへの分類ができたら、算定目的が達成できる程度を考慮しながら、各カテゴリの算定方法を決定し、データを収集して排出量の算定をします。算定の方法には「排出量=活動量×排出原単位」の算定式を用いて算定する方法もありますが、可能であれば関係する取引先から排出量の情報提供を受ける方法もあります。

出典:環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』p.11

サプライチェーン排出量の算定に活用できる排出原単位を取りまとめたデータベースを環境省が提供しています。随時新しいものに更新されていますので、環境省のグリーンバリューチェーン・プラットホームより算定時の参考資料で確認してください。

出典:環境省『算定時の参考資料

4. サプライチェーン排出量を算定するメリット

CO2削減に取り組むべきカテゴリが特定できる

自社のサプライチェーン排出量の全体像を把握し、サプライチェーン上で優先的に排出量を削減すべき対象を特定できます。排出量の特徴を認識することで、長期的な削減案や事業戦略策定にも役立ちます。

優先的に排出量を削減すべき対象が特定できれば、合理的に削減への取り組みができるようになります。

CO2削減の機会を広げる

サプライチェーン排出量算定のための情報交換がきっかけとなり、サプライチェーン上の他事業者と連携した削減を共同で取り組むことができます。また、CSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)活動の一環としてサプライチェーン排出量算定を要請する企業もあるため、新規顧客開拓へもつながります。CO2削減に取り組む理由を詳しく知りたい方はこちら 

URL:企業がCO2削減に取り組む理由とは?企業事例とともに解説!

ESG投資の呼び込み

世界的に見ても市場規模が拡大しているESG投資は国内で見ても増加しています。これらの資金を呼び込むために、サプライチェーン排出量を統合報告書、WEBサイトなどに掲載することで環境対応企業としての企業価値を明確にできます。

外部からの環境活動調査(CDPなど)への対応にも活用することができ、投資家への社会的信頼向上に繋がります。

出典:経済産業省『サプライチェーン排出量算定をはじめる方へ

出典:財務省『ESG投資について』p.8

5. まとめ:サプライチェーン排出量算定でビジネスを前に進める

サプライチェーン排出量算定は要請が高まっている

組織のサプライチェーン上の活動に伴う排出量を算定することは、企業活動全体の管理に繋がり、企業の環境経営指標や機関投資家の質問項目にもなっています。環境への取り組みという面だけではなく、経済・リスクの面からもサプライチェーンの把握と管理が重視されるようになりました。

出典:環境省『サプライチェーン排出量算定の考え方』p.1

今後一層サプライチェーン排出量算定の取り組みは強化される

脱炭素社会実現に向けて、環境への取り組みは今後も推進されます。サプライチェーン排出量の把握・削減は、合理的な地球温暖化対策の促進や、事業者間での連携の促進、国際標準化への対応、削減貢献など事業者の環境への取り組みの発信による信頼性の向上に繋がり、社会にとっても企業にとっても意義があります。

これまで排出量の報告義務のなかった中小企業も、サプライチェーンの一部として温室効果ガス排出量の算定を求められる可能性は高くなっていきます。また、排出量算定や削減の取り組みがないことによりビジネスチャンスや投資・融資の獲得を逃すといったことも今後あり得ると言えます。

取り組みは段階的に、早期のスタートを

排出量算定や削減の取り組みは、労力やコストを考慮しながら段階的に進めることが必要です。まずは負担の少ないことからでも、すぐに取り組みを始めましょう。

サプライチェーンから外れるなどのリスクを回避し、企業の持続可能な成長のためには、このような取り組みが必要とされる社会へと急速に移行しています。社会・経済の動きを常に把握しつつ、長期的な企業の利益と成長を目指した経営への手段の一つとして、サプライチェーン排出量算定をしっかりと理解しておきましょう。

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