世界各国における洋上風力発電市場の発展と日本の今後の戦略とは

脱炭素社会に向けエネルギー転換が進められている中で、世界各国で洋上風力発電の導入及び市場拡大が活発化しています。中国やイギリス、アメリカが新たな洋上風力発電施設を建設する中で、日本もまた洋上風力発電に関する施策を行っています。現在世界各国では洋上風力発電をどのように発達させているのでしょうか。また今後の風力発電は、どう発展していくのでしょうか。

この記事では世界各国における洋上風力発電への取り組みと、日本の今後の戦略、洋上風力発電のトレンドについてまとめています。

目次

  1. 洋上風力発電とは

  2. 洋上風力発電のトレンド

  3. 日本における洋上風力発電

  4. 世界各国における洋上風力発電

  5. まとめ:日本の洋上風力発電への取り組みに注目しよう!

1. 洋上風力発電とは

発電ポテンシャルの高さや、市場の急激な拡大から今注目を集めている洋上風力発電について、基本的な知識及び、世界全体の洋上風力発電による発電量はどの程度であるか、世界や日本における洋上風力発電の市場動向をご説明します。

(1)洋上風力発電とは

洋上風力発電とは、海上に風車を設置し、プロペラを風のエネルギーで回す発電方法です。海上では陸上よりも強く、安定的に風が吹いており、また生活圏から離れていることで騒音や景観の問題が小さいため、近年注目が集まっています。

出典:産業総合研究所『洋上風力発電とは?』

洋上風力発電についてさらに詳しく知りたい方はこちら:洋上風力発電とは?風力発電の新しい可能性。取り組み事例も紹介!

(2)洋上風力発電による発電量

2021年度における世界全体の洋上風力発電量は57GWであり、これは世界全体の発電量の約0.49%にすぎないものです。洋上風力発電は、風がよく吹き浅瀬が続くヨーロッパでは導入が進んでいますが、日本のように水深が深かったり、陸から設置場所までが遠かったりする場合では、設置コストの高さや、それを補うだけの発電量を実現する技術力、漁業者など社会からの受容性といった課題から、設置が進んでいません。

出典:GWEC『GLOBAL WIND REPORT 2022』p.10

出典:自然エネルギー財団『統計 国際エネルギー』

出典:資源エネルギー庁『日本でも、海の上の風力発電を拡大するために』(2018年12月06日)

出典:NEDO『国内初!沖合における洋上風力発電への挑戦』

(3)洋上風力発電の市場動向

2010年から2018年にかけて、世界の洋上風力発電の市場は8倍ほどに拡大しています。しかし、洋上風力発電の適地はまだ残っており、そのうち高い発電効率が見込めるものだけでも、世界の電力需要の18倍に及ぶほどの電力を生み出すことができると考えられています。

2020年に行われた調査では、2030年度の日本における洋上風力発電市場規模は9200億円にも及ぶと予想されています。日本では特に、陸上風力発電の適地がほとんどなくなってきていると言われており、周囲を海に囲まれている日本では開発の余地が多くあること、大規模な施設では1つの計画で原発1基分もの電気を発電できることから、900倍ほどにも市場が拡大すると見込まれています。

出典:IEA『Offshore Wind Outlook 2019』(2019年11月)

出典:日本経済新聞『矢野経済研究所、国内の洋上風力発電市場調査結果を発表』(2020年9月24日)

2. 洋上風力発電のトレンド

世界各国で急激に導入が進み、市場が拡大している洋上風力発電を牽引する、浮体式洋上風力発電やSEP船、水中ドローンといった先進的な技術や、設置可能場所の拡大など、洋上風力発電におけるトレンドをご紹介します。

(1)浮体式洋上風力発電

洋上風力発電には、風車の土台を直接海底に固定する着床式と、海面に浮かべた構造物の上に風車を置く浮体式の2つがあります。浮体式は着床式と比べて、設置や整備にかかるコストが高い反面、水深が深いところにも設置できるというメリットがあり、海底が急に深くなる地形となっている日本に適しているといえます。そこで日本では政府の主導によって、浮体式洋上風力発電の導入が進められており、2024年5月から実用化に向けた実証実験が行われることとなっています。

浮体式洋上風力発電についてさらに詳しく知りたい方はこちら:浮体式洋上風力発電とは?抱える課題と日本、他国の取り組み

出典:日本経済新聞『再エネで注目、洋上風力「浮体式」とは?』(2022年11月25日)

出典:NHK『浮体式の洋上風力発電 実用化に向け来年度以降実証実験へ』(2024年2月21日)

(2)新たな洋上風力発電の建設・点検

洋上風力発電の建設手段として、大規模なSEP(自己昇降式台)船の投入が相次いでいます。清水建設株式会社が出資し、ジャパン マリンユナイテッド株式会社が施工した、世界最大級のSEP船「BLUE WIND」は、8MW風車では7基、12MWでは3基分の部材を運ぶことができ、水深10~65mの海域において、最大揚重能力2500t、最高揚重高さ158mのクレーンによって、富山県や北海道での洋上風力発電の建設に携わることになっています。

これまでの水中設備は、潜水士が潜ることによって点検が行われており、コストや危険性の高さ、点検頻度の低さといった問題点が多くありました。そこで現在は、3.7mm径の極細ケーブルによって、自由度の高い操縦を可能にしようとしている、株式会社FullDepthをはじめとする多くの企業により、水中ドローンによる点検システムの開発が進められています。

出典:清水建設『世界最大級のSEP船「BLUE WIND」が完成』(2022年10月6日)

出典:日本作業船協会『自己昇降式作業台船(SEP)』

出典:日経BP『洋上風力で脚光、「誰でも扱える水中ドローンを目指す」、筑波大発ベンチャー・FullDepth 伊藤社長に聞く』(2022年1月27日)

(3)洋上風力発電をEEZへ

現在、洋上風力発電をEEZ(排他的経済水域)内へ設置するための議論が進んでいます。従来、洋上風力発電は、陸から12海里以内の領海のみに設置することとなっており、約43万km^2の面積から500万kWほどの電力を発電できると考えられていました。しかし、2040年までに発電量を3000万~4500万kWまで増やす目標の達成には、約10倍の面積があるEEZの開発が不可欠であることから議論が進み、2024年2月時点で、3月上旬には改正法案が提出されることとなっています。

出典:読売新聞『洋上風力、EEZに拡大…脱炭素化推進へ政府が法改正へ』(2024年2月24日)

出典:資源エネルギー庁『EEZにおける洋上風力発電の実施に向けた これまでの議論』(2024年2月9日)

3. 日本における洋上風力発電

日本における洋上風力発電の現状と、洋上風力発電の拡大に向けた今後の戦略について解説しています。

(1)日本における洋上風力発電の現状

日本では2050年までに、温室効果ガスの排出を全体でゼロにするカーボンニュートラルを目指すことが宣言されました。それを受け、洋上風力発電の導入目標(2030年までに1000万kW、2040年までに最大4500万kW)を定めた「洋上風力産業ビジョン」が掲げられ、その導入資金としておよそ1200億円のグリーンイノベーション基金が創出されています。

それに伴い、現在秋田港や鹿島港に新たな洋上風力発電所の建設が始まっています。今後それらの洋上風力発電所が運転を開始すれば、風力発電の導入量は飛躍的に拡大するでしょう。

出典:東京大学『洋上風力発電の現状と将来展望』(2022年6月23日)p12~17

(2)洋上風力発電の拡大に向けた今後の戦略

日本政府は「洋上風力産業ビジョン」において、洋上風力発電では事業規模が大きく、用いる部品の数も多いことから、国の一大産業とすることができるとの見込みのもと、以下の3つの観点から今後の戦略を立てています。

1.魅力的な国内市場の創出

政府が導入目標を明確に示し、洋上風力産業を後押しすることによって、海外企業との連携や国内外の投資に繋がるような、予見性のある市場を創出すること。また、案件を素早く事業化するために、初期段階から政府が関与して、風況などの環境調査や電力系統の確保を進めること。

2.投資の促進と強靭なサプライチェーンの形成

補助金や税制といった設備投資支援や、国内外の企業のマッチング促進によって、国内外から投資が集まるような、国際的な競争力があって強靭なサプライチェーンを築くこと。

3.アジア展開を見据えた技術開発・国際連携

気象や海象が似ているアジアへの展開を見据え、浮体式洋上風力発電の技術開発及び国際的な実証支援など、次世代技術を国際的に連携しながら開発・社会実装していくこと。

出典:資源エネルギー庁『もっと知りたい!エネルギー基本計画③ 再生可能エネルギー(3)高い経済性が期待される風力発電』(2022年3月15日)

4. 世界各国における洋上風力発電

洋上風力発電の先進国である中国、イギリス、アメリカの取り組みについて解説しています。

(1)中国の取り組み

中国は洋上風力発電の新規容量が世界一であり、総容量も2021年6月末時点で1110万kWを超え、イギリスに次ぐ世界2位の大きさとなっています。

中国では洋上風力発電ユニット開発の大規模化が進んでおり、現在は10MWの洋上風力発電設備が量産段階に入っているほか、発電所のスマート化(デジタル技術を用いた点検・監視の導入)も進み、国内初のスマート洋上風力発電所が江蘇省で稼働しています。IEAの予測によると、中国の洋上風力発電容量は今後も拡大し、2040年にはEUと同水準となると考えられています。

出典:AFP BB News『中国の洋上風力発電新規容量、3年連続で世界一』(2021年8月30日)

出典:IEA『Offshore Wind Outlook 2019』(2019年11月)

(2)イギリスの取り組み

イギリスでは2019年において、洋上風力発電が国内の全発電量の10%を占めており、再生可能エネルギーを積極的に取り入れるエネルギーミックスを実践するイギリスにとって、洋上風力発電は欠かせないものとなっていることがわかります。

イギリスでは、世界最多である7つの洋上風力発電プロジェクトがあり、600MW以上の設備容量を持つLondon ArrayやWalney Extension、1.2GWのHornsea Project Oneに加えて、2023年には3.6GWのDogger Bankが稼働開始しました。

出典:笹川平和財団海洋政策研究所『洋上風力発電に見る英国の気候変動対策』p1.2(2020年)

出典:英国政府『Digest of UK Energy Statistics(DUKES) 2019 Chapter 6: Renewable sources of energy』p.2

出典:英国政府『UK Energy Statistics, Q3 2019』p.1

(3)アメリカの取り組み

アメリカは2022年12月に、大規模な浮体式洋上風力発電設備を、世界で初めて商用的に導入することを公表しました。この政策では、西部カリフォルニア州沖のリース権が売りに出され、Equinor ASAやRWE AGといったヨーロッパの大手エネルギー企業が落札しました。

この海域で浮体式洋上風力発電を導入した場合、460万kWの電力を発電できると考えられています。アメリカは引き続き、原子力発電所15基分に相当する1500万kWを発電するだけの、浮体式洋上風力発電の導入を進めていく方針となっています。

出典:日本経済新聞『米国、浮体式の洋上風力を導入へ 1500万キロワット』(2022/12/8)

5. まとめ:日本の洋上風力発電への取り組みに注目しよう!

発電ポテンシャルの高さから、新たな発電方法として市場を急激に拡大させている洋上風力発電は、洋上に発電設備を浮かべる浮体式洋上風力発電や、デジタル技術による点検、大規模な建設など技術の発展と、政府による政策・税制等の後押しによって、世界各国で今後さらに導入されていくと考えられています。

世界及び日本において、洋上風力発電はどのように発展していくのか、持続可能な社会づくりに貢献する企業として、市場の動向も含めて最新の情報にこれからも注目し、活用してみてください。

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