SME版のCDP質問書とは?中小企業の環境経営についても解説

SME版CDP質問書について、わかりやすく解説します。環境経営の情報開示に役立つCDP質問書は従来、多くの投資家へ向けたIRが必要な大企業が主な対象となっていましたが、今般中小企業向けのものがリリースされました。SME版CDP質問書の登場は、環境に対する取組みが大企業だけに求められるものではなくなっていることの現れと言えるでしょう。

本記事ではCDPやSME版CDP質問書の概要と、中小企業の環境経営について事例もまじえてご紹介します。

目次

  1. CDPの概要

  2. CDPのSME版質問書

  3. SME版CDP対応など中小企業の環境経営について

  4. まとめ:SME版CDP質問書も参考に、中小企業も環境経営に取り組もう!

1. CDPの概要

CDPは環境に関する国際的な組織です。CDPやCDP質問書について解説します。

CDPとは

CDPは国際的な環境非営利団体で、2000年に英国で設立されました。「人々と地球にとって、長期的に、健全で豊かな経済を保つ」ことを目的に活動しています。CDPは「環境情報開示システム」をグローバル規模で運営し、世界中の投資家・購買企業・政策決定者が、CDPに集められた情報を活用しデータに基づき意思決定しています。CDPの情報開示システムは世界経済における環境報告のゴールドスタンダードと言われており、企業や自治体の環境インパクトに関する世界で最も充実した包括的なデータセットとなっています。

出典:CDP「CDP概要と回答の進め方」p4-6(2024/5)

CDP質問書とは

CDP質問書は、企業の環境情報を得るために各企業へ送付されるものです。ESG投融資に取り組む金融機関や、サプライヤーエンゲージメントに熱心な大手購買企業は、CDP質問書を通じて得られた情報を参考にしています。CDP質問書の内容は、金融機関や企業、政府関係者など様々な関係機関からのフィードバックに基づき、毎年改訂されています。2024年度CDPは、複数の環境課題を一つの質問書に集約するという改定を行い、回答プラットフォームも一新しました。

出典:CDP「企業向け質問書&ガイダンス」

CDP質問書回答のメリット

企業としてはCDP質問書に回答することによって、以下のようなメリットを得られます。

情報開示負担軽減

CDPはTCFDなど様々な基準を含むため、回答することで、CDP以外のイニシアチブへの開示負担を軽減可能

投資家とのエンゲージメント強化

CDPは約750の機関投資家に支持されており、高評価を得ることで、企業の資金調達におけるメリットが期待できる

回答要請に対応

多くの企業がサプライヤーに対しCDPを通じた情報開示を要請しており、回答することで取引先から選定される

CDPとは

出典:アスエネ「CDP回答コンサルティング」

2. CDPのSME版質問書

CDPは2024年度「SME版質問書」を導入しました。SMEとはSmall and Medium Enterpriseの略で、中小企業を意味します。CDPのSME版質問書について解説します。

SME版質問書とは

SME版質問書は、中小企業のリソースに合わせて作成されています。具体的には気候変動に焦点を絞り、質問数を減らし、回答フォーマットを簡素化するとともに、充実したガイダンスを提供しています。企業規模によるSME版と完全版関係は、以下の通りです。

従業員数

年間売上高

対象となる質問書

500人未満

5,000万$未満

SME版を推奨(完全版も可)

1,000人未満

2億5,000万$未満

完全版を推奨(SME版も可)

1,000人以上

2億5,000万$以上

完全版のみ

また業種固有の質問も、SME版には含まれません。SME版は中小企業がどこに注目し、能力を高め、行動すべきかが容易に理解できるように構成されています。

出典:CDP「CDP概要と回答の進め方」p20(2024/5)

SME版質問書の構成

SME版質問書は、「統合モジュール」と「気候変動モジュール」で構成されており、前者に6つ・後者に2つのモジュールが含まれています。この構成は完全版と比較すると、前述の通り簡素化されたものとなっています。具体的なモジュールの内容は以下の通りです。

完全版

SME版

環境課題横断

Module 1 – イントロダクション

統合モジュール

Module 14 –イントロダクション

Module 2 – 依存・影響・リスクと機会の特定、評価、管理

Module 15 – リスクと機会の特定、評価、管理

Module 3 – リスクと機会の開示

Module 16 –リスクと機会の開示

Module 4 – ガバナンス

Module 17 – ガバナンス

Module 5 – 事業戦略

Module 18: ビジネス戦略

Module 6 – 環境パフォーマンス連結アプローチ

気候変動モジュール

Module 19–環境パフォーマンス - 連結アプローチ

環境課題別

Module 7 – 環境パフォーマンス 気候変動

Module 20– 環境パフォーマンス - 気候変動

Module 8 – 環境パフォーマンス フォレスト

 

Module 9 – 環境パフォーマンス ウォーター

Module 10 – 環境パフォーマンス プラスチック

Module 11 – 環境パフォーマンス 生物多様性

環境課題横断

Module 12 – 環境パフォーマンス 金融サービスセクター

Module 13 – 追加情報・最終承認

統合モジュール

Module 21– 追加情報とサインオフ

出典:CDP「CDP概要と回答の進め方」p16,21(2024/5)

SME版における実際の質問例

SME版質問書の具体的な質問例を見てみましょう。モジュール17「中小企業ガバナンス」には、以下のような質問が含まれています。

質問分野

質問内容

回答選択肢

環境への責任

貴組織では、環境課題に対する責任を負っていますか。

• はい

• いいえ、しかし今後 2 年以内にそうする予定です

• いいえ、また今後 2 年以内にそうする予定もありません

環境課題への責任を負う最高レベルの職位または委員会を記載してください。

責任を負う個人の職位または委員会

役員レベル(選択肢12個)

委員会(選択肢6個)

管理職レベル(選択肢9個)

この職位の環境関連の責任

リスク、機会(選択肢3個)

方針、コミットメント、目標(選択肢5個)

エンゲージメント(選択肢2個)

戦略と財務計画(選択肢10個)

その他(選択肢2個)

報告系統

• 取締役会に直接報告

• エグゼクティブリーダーシップ

(CEO、CRO、CFO、COO、

CSO、またはそれに相当する役

職)への報告

• その他、具体的に

環境課題に関する取締役会への報告頻度

• 四半期に 1 回以上の頻度で

• 四半期に 1 回

• 半年に 1 回

• 年 1 回

• 年 1 回より少ない頻度で

• 重要な事案が生じたとき

説明してください

(自由記述2,000文字以内)

環境方針

貴組織は、環境課題に取り組む環境方針を定めていますか。

貴組織には環境方針がありますか

• はい

• いいえ、しかし今後 2 年以内にそうする予定です

• いいえ、また今後 2 年以内にそうする予定もありません

環境方針を定めていない主な理由

• 内部リソース、能力、または専門知識の欠如 (例: 組織の規模が原因)

• 標準化された手順がない

• 当面の戦略的優先事項ではない

• 重要でない、関係ないと判断された

• その他、具体的にお答えください

環境方針の詳細を記入してください。

環境課題

• 気候変動

• フォレスト

• ウォータ

方針の適用範囲

• 組織全体

• 特定の施設、事業、地域のみ

• 一部の製品のみ

• 選択されたコモディティのみ

バリューチェーンの段階の適用範囲

該当するものをすべて選択:

• 直接操業

• バリューチェーン上流

• バリューチェーン下流

適用範囲について説明してください

(自由記述1,500文字以内)

環境方針の内容

環境に関するコミットメント(選択肢5語)

気候関連のコミットメント(選択肢4個)

フォレスト関連のコミットメント(選択肢4個)

ウォーター関連のコミットメント(選択肢7個)

社会関連のコミットメント(選択肢6個)

その他の言及/記述(選択肢5個)

これは質問書のほんの一部ですが、このように質問ごとに選択肢が提示され、自社に当てはまるものを選択するようになっています。

出典:CDP「CDP2024 コーポレート SME(中小企業)版質問書」p23-28

3. SME版CDP対応など中小企業の環境経営について

昨今では中小企業にも環境経営が求められています。SME版CDP質問書など、中小企業の取り組みについて取り上げます。

中小企業が環境経営に取り組むメリット

中小企業が脱炭素など環境経営に取り組むことによって、以下のようなメリットが考えられます。

◆取引先からの脱炭素化の要請に対応することによる、売上や受注機会の維持・拡大

◆エネルギー消費の効率化や再エネ活用等による、電気料金をはじめとする光熱費・燃料費の削減

◆脱炭素経営に取り組む先進的企業として、知名度や認知度が向上

◆気候変動問題に取り組む姿勢を示すことによる、社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化

◆融資先の気候変動対策への取組状況を融資時の評価基準の一つとする金融機関からの好条件での資金調達

中小企業にとって環境経営は、光熱費・燃料費削減など「守り」の要素だけでなく、取引機会獲得や金融機関からの融資獲得といった「攻め」の要素にもなっています。

出典:環境省「カーボンニュートラル時代の中小企業経営とその支援策」p25(2022/2/21)

株式会社大川印刷の事例

横浜市の株式会社大川印刷は、従業員40名の企業です。同社はSME版CDP質問書の回答へチャレンジすることを決定し、4月に関係者一同を集めたキックオフミーティングを開催しました。10月には質問書への回答を完了したことが同社ホームページで公表され、担当者のコメントとして「CDPへの回答を通じて、当社が行っている活動を再認識出来て、理解が深まった」「自社の立ち位置を知ることができるのがメリット」などの所感が紹介されています。

出典:株式会社大川印刷「会社概要」

出典:株式会社大川印刷「2024 CDP SMEへの挑戦!キックオフミーティング開催」(2024/4/15)

出典:株式会社大川印刷「2024CDP SME(CDP中小企業質問書)回答完了しました。」(2024/10/8)

SBT認定企業

SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことで、CDPもSBTの運営機関のひとつとなっています。2024年3月現在、SBT認定取得済の日本企業は904社ありますが、そのうち704社が中小企業です。SBT認定取得によって各企業は、パリ協定に整合する持続可能な企業であることをステークホルダーに対して、CDP同様分かり易くアピールできます。

出典:環境省「SBT(Science Based Targets)について」p4,9,12,47

4. まとめ:SME版CDP質問書も参考に、中小企業も環境経営に取り組もう!

2024年から始まったSME版CDP質問書は、中小企業にも環境経営が求められるという時代の流れを反映したものと言えるでしょう。中小企業であっても、環境対策に関する取引先や消費者への情報開示は、今後ますます重要になることが予想されます。環境経営と言っても何をすればよいのかよくわからない、という企業は、手始めにSME版CDP質問書に取り組んでみるのも一つの方法です。

CDP質問書では環境経営に必要な項目が網羅されていますので、SME版CDP質問書も参考にして、中小企業でもできる環境経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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