浮体式洋上風力発電とは?抱える課題と日本、他国の取り組み

浮体式洋上風力発電とその課題についてわかりやすくご説明します。パリ協定で提唱された、地球の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑える目標に向け、カーボンニュートラルを目指す取り組みが数多く行われています。その中でも、洋上で浮体の上に風車を乗せて発電する「浮体式洋上風力発電」は、新しい発電方法として注目を集めています。

この記事では、浮体式洋上風力発電の概要とその実用化に向けた課題について解説します。また、日本やノルウェー、スコットランドで行われている浮体式洋上風力発電に対する取り組みについてもまとめます。

目次

  1. 浮体式洋上風力発電の概要

  2. 浮体式洋上風力発電における課題

  3. 日本の浮体式洋上風力発電への取り組み

  4. ノルウェーとスコットランドの浮体式洋上風力発電への取り組み

  5. まとめ:日本の風力発電における動向に注目しよう!

1. 浮体式洋上風力発電の概要

風でプロペラを回し発電する風力発電は、今となっては馴染み深いものですが、「浮体式」の「洋上で行う」風力発電とはどのようなものなのでしょうか。浮体式洋上風力発電の概要と、注目されている背景について解説します。

(1)浮体式洋上風力発電とは

洋上風力発電とは、プロペラで風の運動エネルギーを回転エネルギーに変えて発電機を回す風車を、洋上(海の上)に設置する発電方法です。洋上風力発電には、洋上では風が強く安定して吹いていることや、設置場所が生活圏から離れるために、騒音や景観に関する問題が少ないことがメリットとしてあります。

洋上風力発電には「着床式洋上風力発電」と「浮体式洋上風力発電」の2つがあります。

着床式洋上風力発電

着床式洋上風力発電とは、海底に杭や重石などの支持構造物を設置し、風車を固定して発電する形式です。着床式では、浅い海域では浮体式よりコストが低いことや、海底地盤や水深、自然環境などの様々な条件に適した支持構造物が開発されていることがメリットとして挙げられます。一方で支持構造物の設置は地形や海流の変化を、発電機の稼働は騒音や振動などをもたらすため、海中の生物や漁業への影響が懸念されます。

浮体式洋上風力発電

浮体式洋上風力発電とは、何点かで海底に係留した浮体(洋上で浮き、水平な姿勢を保つ構造物)の上に、風車を乗せて発電する形式です。浮体式では、深い海域では着床式よりコストが低いことや、大規模な支持構造物を必要としないために、より広範囲な場所に設置が可能であること、海底環境に与える影響が小さいことがメリットとして挙げられます。

一方で、安全性を確保するために、台風を含む風条件や、波、海潮流、水位といった海象条件、海氷、付着生物、地震などの災害、積雪にも配慮する必要があること、技術面やコスト面で改善が必要であることなど、課題も数多く残っています。

出典:産業技術総合研究所『洋上風力発電とは?』(2022/11/09)

出典:NEDO『着床式洋上風力発電導入ガイドブック  (最終版)』p.25,26(2018/03)

出典:NEDO『着床式洋上風力発電の環境影響評価手法に関する  基礎資料  (最終版)』p.19~22(2018/03)

出典:NEDO『浮体式洋上風力発電技術ガイドブック』p.11,27~56(2018/03)

(2)浮体式洋上風力発電の種類

浮体式洋上風力発電にはバージ型、TLP型、セミサブ型、スパー型の4種類の方法があり、それぞれに長所と短所があります。

  • バージ型

バージ型とは、水深50m〜100m程度の海域に設置する、円柱型の浮体を垂らしたチェーンやワイヤーロープで係留する方法です。浮体を短くすることによって、これまで課題であった水深50mほどの浅い海域でも設置できる一方で、風や波の影響を強く受けるため安全性に問題があり、浮体の形や面積などさまざまな方法で改善が進められています。

  • TLP型

TLP型とは、水深50m〜100m程度の海域に設置する、強制的に半潜水させた浮体と海底を、垂直方向にきつく張った緊張係留で結んで固定する方法です。緊張係留ラインによって浮体を引き込み浮力を増加させるとともに、張力を利用して浮体の揺れを保持する点が他の型とは異なります。係留を固定する面積が小さく、また浮体の上下方向の揺れを低減できる反面、係留システムのコストが高い方法です。

  • セミサブ型

セミサブ型とは、水深50m以深の海域に設置する、浮体を完全に海中に沈め、浮体上につくった突起物を基盤として発電設備を設ける方法です。波の影響を受けにくいため安定した運用ができる反面、浮体とその上の構造物の構築、さらに発電設備の設置というように、工事が複雑化しコストがかかるという欠点があります。

  • スパー型

スパー型とは、水深100m以深の海域に設置する、円柱状の浮体の上に発電設備を設ける方法です。細長い浮体を海中に沈めて安定させるため、構造が単純で製造も容易である一方、重心を下げることで安定させる設計上、100m程度の水深が必要であり、浅水域では導入ができません。

出典:NEDO『日本初のバージ型浮体式洋上風力発電システム実証機が完成』(2018/08/10)

出典:国土交通省『2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾 のあり方検討会 ~基地港湾の配置及び規模~』p.5

出典:国土交通省『浮体式洋上風力発電所に対応した基地港湾の最適な規模について』p.9

出典:大阪大学工業会『浮体式洋上風力発電技術の実現に向けた取り組み』p.1

出典:NEDO『浮体式洋上風力発電技術ガイドブック』p.12~20(2018/03)

(2)洋上風力発電の背景

洋上風力発電は、政府が2020年に宣言した「2050年カーボンニュートラル」をきっかけに、再生可能エネルギーとして注目を集めています。

洋上風力発電は、大規模かつ大量の導入が可能であることや、「風」という国産のエネルギーを用いるために、他国から燃料などを輸入せず、国際情勢に左右されずに安定的に稼働できること、海に囲まれた島国である日本には設置できる場所が多くあることから、将来的には再生可能エネルギーの主力電源となりうると考えられています。

日本として取り組む具体的な目標を示した「洋上風力産業ビジョン」では、2030年までに10GW、2040年までに浮体式を含む30GW〜45GWの洋上風力発電を導入するという目標が掲げられました。しかし現状として、日本の洋上風力発電設備容量は2021年時点の累積で4.58 GWとなっており、さらなる導入を進める必要があります。

出典:産業技術総合研究所『洋上風力発電とは?』(2022/11/09)

出典:経済産業省『洋上風力産業ビジョン(第一次)』p.4-5

2. 浮体式洋上風力発電における課題

陸地面積や天然資源の少ない日本において、様々なメリットがある浮体式洋上風力発電ですが、実用化には未だ数多くの課題も残っています。他国で既に行われた事例を元に、浮体式洋上風力発電における課題を解説します。

洋上風力発電の課題

まず、洋上風力発電全体の課題として、日本国内に大型風車のメーカーが存在しないことが挙げられます。そのため、洋上風力発電に不可欠な発電装置を製造するには、必ず海外から大型風車を輸入しなければなりません。

また、日本はヨーロッパに比べ許認可にかかる時間が長いために、プロジェクトが立ち上がったとしても、環境調査が行われ実際に建設が始まるまでの時間が長いことも課題です。他にも、日本は災害大国であるほか、地形が複雑であるために、他国より風力発電を行ううえでの環境条件が厳しいと考えられています。

浮体式洋上風力発電の課題

特に浮体式洋上風力発電の実用化に関しては、安定性を確保するための浮体の動揺対策とコストの両立が課題として挙げられます。浮体式洋上風力発電は、世界的に基礎の製造や輸送・施工の方法が確立しているとは言えません。

日本においては、造船・建設技術や造船ドックの多さなどの地域特性を活かして、浮体基礎の大量生産技術や効率的な輸送・施工技術の開発が期待されていますが、浮体式洋上風力発電は主に沖合に建設されるため、建設費や維持管理費が高くなるほかに、完成した巨大な浮体基礎を保管しておくスペースの確保が課題解決の壁となっています。

出典:産業技術総合研究所『洋上風力発電とは?』(2022/11/09)

出典:国土交通省『浮体式洋上風力発電所に対応した基地港湾の最適な規模について』p.10~13,36

出典:大阪大学工業会『浮体式洋上風力発電技術の実現に向けた取り組み』p.1

3. 日本の浮体式洋上風力発電への取り組み

日本では「洋上風力産業ビジョン」に基づき、官民の協力のもと技術開発の支援や法整備、促進区域の指定が進められています。全22の「促進区域」やそれに準ずる「有望な区域」、「一定の準備段階に進んでいる区域」のうち、2区域で浮体式洋上風力発電の建設が行われています。

(1)長崎県五島市沖

長崎県五島市沖では、3点で係留されたハイブリッドスパー型の浮体式洋上風力発電が8基建設されています。2020年7月より陸上部、2022年7月より海上部の工事が既に行われており、2026年1月より運転が開始される予定です。この設備によって得られる出力は8基合わせて16800kWで、36円/kWhで供給されることとなっており、2043年12月31日まで稼働する予定です。

この設備の建造・設置工事では、長崎県の地域特性が存分に活かされており、横倒しでの建造により単位面積あたりでの重量を低くし、地盤耐力が高くない岸壁にも係留できるようにしているほか、浮体部分は県内の鉄工所や造船所、市内の建設会社で建造し、港湾での設備の運搬には地元のクレーン船を活用しています。

(2)岩手県久慈市沖

岩手県久慈市沖では、浮体式洋上風力発電の建設に向け、工事や稼働に伴い考えられる漁業への影響や海象、風況の調査や事業性の検証を行っており、それをもとに漁業関係者との意見交換をしています。

調査によると、一般的な出力15MWの風力発電機を設置した場合、単機年間発電電力量は46.90GWhと、2基程度の設置で久慈市の年間消費電力量と同等の電力を賄うことができると考えられており、ウィンドファームを建設した場合の余剰電力は、北岩手全体で消費するとともに、ウニの冬季陸上畜養等新たな事業に使用することが考案されています。

出典:資源エネルギー庁「洋上風力発電の導入促進に向けた取組」p.2~4(2021年9月21日)

出典:資源エネルギー庁「長崎県五島市沖における洋上風力発電事業の概要」p.4,8,9,11~15(2022年2月21日)

出典:日本経済新聞「五島フローティングウィンドファーム、長崎県五島市沖洋上風力発電事業の運転開始時期を2026年1月に延期」(2023年09月22日)

出典:岩手県久慈市「議事2 今年度の進捗状況」p.2~27(2023年03月28日)

4. ノルウェーとスコットランドの浮体式洋上風力発電への取り組み

(1)ノルウェーの浮体式洋上風力発電:ハイウィンドタンペン

ノルウェー北部にあるハイウィンドタンペンは、世界最多の11基の風車からなるスパー型の浮体式洋上風力発電施設で、88MWの出力をもっています。ハイウィンドタンペンでは、国内にある石油ガス生産施設への電力供給を行っており、5つの石油・ガスプラットフォームにおける年間電力需要の約35%を賄うとともに、年間約20万トンのCO2排出量を削減することができると考えられています。

出典:equinor「世界最大の浮体式風力発電所Hywind Tampenが運転を開始しました」(2023年8月29日)

(2)スコットランドの浮体式洋上風力発電:ハイウィンドスコットランド

スコットランドにあるハイウィンドスコットランドは、世界で初めて建設された浮体式洋上風力発電で、スパー型の5つの風車からなるウィンドファームです。単機での年間出力が6MWであるため、ウィンドファーム全体では30MWの出力をもっており、過酷な環境でも耐えうるシンプルな構造と、摩耗を減らし発電量を増やすモーションコントロール技術が用いられているのが特徴です。

出典:equinor「Hywind Scotland」

5. まとめ:日本の風力発電における動向に注目しよう!

この記事で述べたように、浮体式洋上風力発電は技術面やコスト面など導入するにはまだまだ課題が山積みですが、実用化されれば国土面積に関係なく安定した電力が供給できるというメリットがあります。

風力発電はノルウェーやスコットランドなど海外で主に建設されており、日本はまだ発展途上ですが、海外の企業からは成長する市場であると期待されています。

国土が狭く、まわりを海に囲まれている日本にとって、この浮体式洋上風力発電はうってつけの発電方法です。今後日本が、浮体式洋上風力発電に対してどのようにアプローチしていくのかということに注目しましょう。

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