TCFDが求めるシナリオ分析とは?わかりやすく解説!

TCFDは主要20国の要請でつくられた「気候関連財務情報開示タスクフォース」です。TCFDは各企業に気候変動シナリオの予想や、それへの対処などを文書化し開示することを求めています。

今回はTCFDやTCFDが求めるシナリオ分析についてまとめます。

目次

  1. TCFDのシナリオ分析とは?

  2. TCFDがシナリオ分析を求める背景

  3. シナリオ分析を各企業が行う意義

  4. TCFDを活用した経営戦略の立案

  5. シナリオ分析の6つの手順

  6. まとめ:TCFDのシナリオ分析は中小企業にとっても重要

1. TCFDのシナリオ分析とは?

(1)TCFDとは?

TCFDとは、G20(先進7カ国にEUやロシア・中国・インドなど主要国を加えた20の国や組織)が金融安定理事会(FSB)に要請して2015年に設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことです。

出典:TCFDコンソーシアム『TCFDとは』

TCFD提言(最終報告書)の内容

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P2)

TCFDは2017年に提言をまとめました。提言は最終報告書と付録文書、シナリオ分析のための技術的な補足書の3つの文書から成り立ちます。

TCFD提言(最終報告書)の4点の概要

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P3)

最終報告書の提言の対象は企業や企業が発行する社債や株式を保有している投資家の全てです。TCFDは企業に対し、ガバナンスや戦略、リスク管理、指標と目標などを開示するべきと提言しました。

4つの基礎項目のうち、最も重視されるのはガバナンスです。企業関連の問題に対し、企業がどのような体制で検討し、その結果を企業経営に反映させているかがチェックポイントとなります。

ガバナンスを重視する理由は、会社の経営陣が、気候関連リスクとそれによってもたらされる機会について認識し、それらの情報にもとづき、経営陣は気候変動を意識した会社経営を行っているかどうかを投資家が知るためでもあります。

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P20)

(2)シナリオ分析とは?

シナリオ分析とは、気候変動やそれに対応するための長期的な政策動向などが経営環境をどのように変化させるかを予想し、そのような変化が自社の経営戦略にどのような影響を与えるかを検討することです。

シナリオ分析は、長期的で不確実といえる気候変動の課題について、組織として戦略的にとりくむための手法として有効です。シナリオ分析には大きな労力を使います。特に、気候変動リスクが大きな影響を与える業種ではシナリオ分析の需要性が増します。

TCFD提言(適応可能なシナリオ群)

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P25)

2. TCFDがシナリオ分析を求める背景

(1)世界的な脱炭素への潮流

2021年10月31日から11月13日にかけて、イギリスのグラスゴーで国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)が開催されました。

COP26では、パリ協定で定められた気温上昇を1.5℃に抑えるという努力目標の達成に向けて、2030年までに野心的な気候変動対策を講じるよう締約国に求めました。主な交渉結果は以下の通りです。

  • 全ての国が石炭火力発電を減らす

  • 途上国への資金援助を2019年比で最低2倍にする

  • 市場メカニズム(排出量取引など)

  • 取り組みに対する透明性の確保

今回のCOP26の結果を見ても、世界的な脱炭素の潮流はとどめられず、日本もより積極的な関与を求められるでしょう。

出典:環境省『国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、京都議定書第16回締約国会合(CMP16)及びパリ協定第3回締約国会合(CMA3)の結果について』

(2)気候変動が企業に与える影響

気候変動が企業に与える影響のまとめ

出典:環境省「民間企業の気候変動適応ガイド」(2019/3)(P6)

気候変動の影響は、様々な形で企業活動に影響を与えます。たとえば、気温が上昇すれば米や果樹の品質低下が懸念されます。集中豪雨などが発生すれば、各地で想定を上回る水害が発生するでしょう。

また、水温上昇でサンゴの白化現象が起きれば、観光業にとって大きな痛手となります。さらに、気温上昇で感染症を媒介する蚊の生息域が広まれば、デング熱などが流行するかもしれません。気候変動は他人事ではなく、企業にとっても”自分事”となりつつあるのです。

3. シナリオ分析を各企業が行う意義

TCFD提言のシナリオ分析を行う意義

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P33)

TCFDのシナリオ分析を各企業が行う意義は、企業の未来予測をし、それにもとづく行動をとるための指標とすることです。

2021年現在、地球環境問題は大きな岐路に立っています。国際協調がうまくいき、脱炭素社会実現の道筋がつけられるのか。それとも、各国の利害が衝突し、抜本的対策が打てないまま時間が過ぎてしまうのか。それによって、企業の将来も大きく影響を受けます。

各企業は、気候変動問題が自分たちの事業にとってどのような影響をもたらすか、特に財務面でどういった影響があるのかを見極める必要があります。

4. TCFDを活用した経営戦略の立案

各企業がTCFDをどのように活用しているのか、具体例として花王やキリン、取り組みを見てみましょう。

(1)花王株式会社

花王は気候変動が花王に与える影響やそれに対する対応などを想定しています。気温が2度上昇するパターンと4度上昇するパターンの2通りにおいて、製品ごとに気候変動のリスクから、その後の展開を想定するロジックツリーを展開しました。具体的には「2030年の想定」「影響因子」「花王への事業影響」「花王への対応」の4項目に沿って分析しています。

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P48)

(2)キリンホールディングス

キリングループは、ビールなど自社製品に使う農産物への気候変動のインパクトをデータにもとづき数量で示しています。大麦やホップをはじめとする農作物にあたえる気候変動インパクトを数量的に把握することで、定量的な分析につなげました。

また、気候変動がサプライチェーンに及ぼす影響についても分析。どのように対応するかという道筋を示しています。

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の 概要資料』(2021/6)(P49)

5. シナリオ分析の6つの手順

シナリオ分析はどのような手順で行うべきでしょうか。ここでは、環境省が発行したTCFDを活用した経営戦略立案のススメに従って、シナリオ分析の手順を解説します。

(1)シナリオ分析前の準備

シナリオ分析前にしておくべきことは、経営陣の理解を得ておくことです。シナリオ分析のために最も重要なガバナンスを確立するには経営陣の協力が必須だからです。次に、シナリオ作成にあたっての分業体制や分析対象、時間軸を設定します。

(2)リスク重要度の評価

企業が直面する気候変動の影響によるリスクと機会を調べ上げ、将来的に財務上どのような影響を与えるか考察します。そして、それらの重要度を評価します。

(3)シナリオ群の定義

平均気温の上昇予測に応じて、複数のシナリオを想定します。たとえば、1.5℃上昇のシナリオ、2℃上昇のシナリオ、4℃上昇のシナリオといった複数のパターンを検討します。

(4)事業インパクト評価

定義したシナリオ群に応じて、気候変動が事業、特に財務面にどのような影響を与えるかを評価します。影響についてはできるだけ定量的に計算します。

(5)対応策の定義

これまでに分析したシナリオのリスクやビジネスチャンスを踏まえ、企業としてどのような対応策をするべきか検討します。現実的に実現可能な対応策を検討しなければなりません。

(6)文書化と情報開示

分析したシナリオや事業インパクト、対応策を文書化し、情報を開示します。適切に開示することで企業価値の向上につなげます。

出典:環境省「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」(P26-41)

6. まとめ:TCFDのシナリオ分析は中小企業にとっても重要

TCFDは主要20カ国が金融安定理事会に働きかけて設立された組織です。TCFDは世界各国の企業に対し、TCFDの定める基準にもとづくシナリオ分析と情報開示を求めました。

脱炭素という世界的潮流が強まる中、こうした動きは大企業だけではなく中小企業にも広がるかもしれません。しかし、見方を変えれば中小企業にとってTCFDのシナリオ分析はビジネスチャンスになります。

資源の効率化やエネルギー源の変化、人々の意識の変化にもとづく消費行動の変化。これらは、中小企業にとって潜在需要を掘り起こす好機になるのではないでしょうか。

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