TCFDコンソーシアムとは?中小企業が知っておくべき意味とメリット

世界は急速に気候変動への対応に取り組んでいます。企業の気候変動への対応はリスクやチャンスの要因となり、企業が投資や融資を受ける際に重要な情報です。

企業が持続的な成長を続けるためには、気候変動への対応を企業戦略に組み込む必要があります。この企業の環境への取り組みに関する情報は、どのような基準や手段で開示されているのでしょうか?気候関連の世界基準であるTCFDコンソーシアムについて確認しましょう。

目次

  1. TCFDコンソーシアムとは

  2. TCFDと企業経営の関係

  3. 中小企業にとってTCFD情報開示とは

  4. まとめ:TCFDをリスク管理・戦略に役立てよう

1. TCFDコンソーシアムとは

地球温暖化が進む中、企業が気候変動にどう取り組んでいるかが投資家や金融機関にとって重要な情報となっています。2015年に金融システムの安定を図る国際組織「金融安定理事会(FSB=Financial Stability Board)」が、G20からの要請を受けて「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD=Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を設置しました。

TCFDは銀行、保険会社、資産管理会社、大手金融企業、信用格付機関など世界中の幅広い経済部門と金融市場のメンバー32名によって構成された民間主導の組織です。TCFDは投資家や金融機関に一貫性・信頼性・明確性のある企業の気候変動への取り組み情報を提供するために基準となる枠組みを提言しています。

TCFDが企業に勧める開示項目はガバナンス・戦略・リスク管理・指標の目標の4つです。それぞれの項目を確認しましょう。

出典:資源エネルギー庁『企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み「TCFD」とは?

TCFDコンソーシアムのガバナンス

ガバナンス(governance)とは企業における健全な企業経営を、企業自身が管理し維持する体制を指します。組織体制が整っているか、実際に機能するか、実効性があるかが重要です。

TCFDは、投資家や金融機関に対して、企業のガバナンスに関連する組織体制の把握や経営者の具体的な役割、経営に反映されるプロセスを確認することを勧めています。投資家や金融機関がそれらの情報を求めることにより、企業にガバナンス改善の機会を与えます。それによって企業の価値向上につながり、長期的には投資家や金融機関にも有益となるのです。

出典:TCFD コンソーシアム『グリーン投資の促進に向けた 気候関連情報活用ガイダンス (グリーン投資ガイダンス)』

TCFDコンソーシアムの戦略:ビジネスモデル

企業の持続的な収益力を評価する際に、ビジネスモデルは重要です。気候変動に対応できるビジネスモデルを発展させるために、企業の中長期的な目標を設定し、進歩管理を行う基盤として戦略を立てます。

TCFDは、投資家や金融機関は企業の示すビジネスモデル戦略のデータや分析結果の正確性よりも、そこに至ったプロセスや内容との整合性、業種との妥当性、またその戦略に沿った対応を評価することの方が、重要だとしています。

出典:TCFD コンソーシアム『グリーン投資の促進に向けた 気候関連情報活用ガイダンス (グリーン投資ガイダンス)』

TCFDコンソーシアムのリスク管理

企業が短・中・長期での具体的なリスクをどのように把握し、また気候関連の機会をどのように獲得するかを示すことで、投資家や金融機関は気候変動が企業に与える影響を適切に判断できます。

リスクには低炭素経済への移行に関連した「移行リスク」、気候変動による損失を被った当事者に賠償責任を問われる「賠償責任リスク」、気候変動の物理的な影響による「物理的リスク」の3種類があります。移行リスクには政策・法規制のリスク、技術のリスク、市場のリスク、評判上のリスクがあり、物理的リスクには急性リスク(異常気象の増加など)、慢性リスク(海面上昇など)があります。

気候関連の機会とは、資源の効率利用や温室効果ガス低排出型エネルギー源の採用、新たな製品やサービスの開発など、さらなる排出削減効果のあるものを導入したり開発したりする機会のことです。

出典:TCFD コンソーシアム『グリーン投資の促進に向けた 気候関連情報活用ガイダンス (グリーン投資ガイダンス)』

出典:環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0 ~』

TCFDコンソーシアムの指標と目標:KPI

KPI(重要業績評価指標)とは、Key(=鍵)Performance(=表現・行為)Indicator(=指針・指標)のことで、理論的に目標達成のため計画を立てる要素です。企業が自らの価値観を具体化し企業価値を高めていくための指標として、投資家や金融機関にとっても極めて重要な情報です。投資家や金融機関が企業にKPIの開示を求めることにより、リスクの低減や機会の創出が促進し、企業価値の向上につながります。

また、投資家や金融機関が企業の気候変動対策のKPIを積極的に評価することで、企業の気候変動対策に取り組む動機づけが強化されます。

TCFDは投資家に、海外も含めたバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量や、製品やサービスの利用時における削減貢献量、使用段階で削減効果をもたらすような中間製品にも着目して、それらの貢献を積極的に評価することを求めています。

出典:TCFD コンソーシアム『グリーン投資の促進に向けた 気候関連情報活用ガイダンス (グリーン投資ガイダンス)』

出典:経済産業省『事業価値を高める経営レポート(知的資産経営報告書)について』13-③

2. TCFDと企業経営の関係

気候変動と企業経営は切り離せない時代に突入

気候変動リスクは「企業価値」「事業売上」「資金調達」の面にも影響を与え、金融システムの安定を損なう恐れがあります。気候変動が企業経営の脅威になりうるのは以下の3つのルートからです。

  1. 物理的リスク
    異常気象などによってもたらされる財物破損などの直接的インパクト
    グローバルサプライチェーンの中断や資源枯渇などの間接的インパクト

  2. 賠償責任リスク
    気候変動による損失を被った当事者が他者の賠償責任を問い回収を図ることによるリスク

  3. 移行リスク
    低炭素経済への移行に伴い温室効果ガス排出の多い金融資産の再評価によってもたらされるリスク

出典:環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0 ~』p.8

TCFDへの対応が重要なのはなぜか

気候変動が企業にとって脅威になり得るからこそ、TCFDへの対応をしなければさらに複数のリスクが想定されます。

  • 企業が気候関連リスクを適切に評価・管理できていないと金融機関による投資が減少する

  • 既存の開示要件を履行していないと提訴されるリスクがある

  • 情報開示枠組みを利用していないことで環境評価・環境ブランドが低下する

  • 企業の気候関連リスクと機会への認識・理解が足りず、突発的な気候関連リスクに脆弱な組織になる

  • 気候関連リスクの誤認識、機会の損失から企業の経営に財務的な損失を与える可能性がある

出典:環境省『 TCFD提言に沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援 政策概要』p.39

世界と日本のTCFDへの賛同状況は?

TCFDは世界のスタンダードになりました。賛同企業は当初約100機関ほどでしたが、設置から約3年で約13倍の1,329機関になりました。CDP(=Carbon Disclosure Project)や大手金融機関、各国政府が後押しし、日本では環境省、金融庁、経済産業省、経団連が賛同機関として参加しています。
※CDP=国際的なNGOで、企業に向けて環境への取り組みに関しての質問書を送り回答を要請する、環境への影響を管理するための情報開示システム

欧州委員会、イギリス、中国などの政府もTCFDを利用した開示に関する制度・規制を検討しており、国内外での賛同数は今後も増加が予想されます。

出典:環境省『 TCFD提言に沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援 政策概要』p.35

出典:経済産業省『TCFD開示を巡る現状と課題 -よりdecision-usefulなTCFD開示のあり方に向けて』p.16

https://earthene.com/form/download/general

3. 中小企業にとってTCFD情報開示とは

大企業が次々とカーボンニュートラルに取り組む中、中小企業も今後、サプライチェーン排出算定のために自社の温室効果ガス排出量を算定したり、温暖化対策への取り組みを開示したりする機会が増えます。TCFDの提言をもとに自社の分析情報を開示することは中小企業にも求められる可能性があります。

TCFDの行ったアンケートでは9割以上の賛同機関が情報開示によるメリットを感じています。主に挙げられたメリットは次のような内容です。

出典:経済産業省『TCFD開示を巡る現状と課題』p.20

・投資家・取引先との関係向上につながった

企業が気候関連リスクを適切に評価・管理することで投資家や金融機関からの信頼にもつながり、投資が増加します。TCFDの枠組みを利用することで気候関連の情報を求める投資家や金融機関のニーズに対して積極的に取り組むことができます。

出典:環境省『気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の概要資料』

・自社の機構関連リスクへの社内の理解が深まった

企業における気候関連リスクと機会に関する認識・理解の向上はリスク管理の強化と情報に基づく戦略策定に役立ちます。財務報告において気候関連リスクに係る情報を開示することで、既存の開示条件をより効果的に履行できます。

出典:環境省『気候関連財務情報開示 タスクフォース(TCFD)の概要』p.18

4. まとめ:TCFDをリスク管理・戦略に役立てよう

TCFDは世界の経済・金融のエキスパートが知恵を出し合って提言している、現実的で理論的な企業の分析情報を開示する基準です。TCFDの提言する情報開示に取り組むことは自社のリスク管理・戦略の見直しにつながり、投資家や金融機関からの信頼を得ることにつながります。

とくに気候関連リスクの大きい業種やCO2の排出が多い業種にとっては「逆に評価が下がるのでは」という不安を感じたり、情報開示のための分析能力や分析にかかる労力が問題になる場合もありますが、組織の将来のためにメリットがあります。

社会全体の安定した成長には、それを支える中小企業のリスクに対する柔軟な経営と機会を逃さない適応能力が必要不可欠です。TCFDの情報開示基準を活用して、自社のより確かなビジネスモデルの構築・戦略の策定に取り組みましょう。

出典:環境省『TCFDを活用した経営戦略立案のススメ ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0 ~』

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