EUのESGに対する取り組みとESG規制強化の影響

近年、企業が持続的な成長を遂げるためにはESGの観点に注目することが重要であると言われています。特にEUではESGに関する枠組みが急速に発展しており、企業に対する規制や制度が確立されています。
そもそもESGとはどんな意味を含んでいて、EUはESGに対してどのような取り組みを行っているのでしょうか。

この記事では、ESGの概要とEUのESGに対する取り組み、ESG規制が及ぼす影響についてまとめています。

目次

  1. ESGの概要について

  2. EUのESGに対する取り組みについて

  3. EUのESG規制が及ぼす影響とは

  4. まとめ:ESGに配慮された企業の製品に注目しよう!

1. ESGの概要について

ESGの概要とESG関連で特に話題になっているESG投資について解説しています。

(1)ESGとは

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を合わせた言葉です。企業が持続的に成長するためには、経営においてESGの観点が必要だという考え方が世界中で広まっています。

環境

私たちが暮らす地球は、地球温暖化などあらゆる種類の環境問題を抱えています。国際的な対応とともに、企業や個人も環境課題の解決に向けた取組みを強化する必要があります。

社会

現在世界中で、人権問題や差別など多くの社会問題が存在しています。利益を追求する企業や個人の行動が社会問題を引き起こす可能性もあるため、適切な行動へ向けた見直しが求められています。

ガバナンス

ガバナンスとは、企業が健全な経営を行うために必要な自己管理体制のことです。日本はもちろん、世界各国でも社会全体に悪影響を及ぼす企業の不祥事が後を絶ちません。企業がしっかりとした管理体制を自ら構築し、社会のルールを守ることが、企業と社会の持続的な発展につながります。

持続可能で豊かな社会の実現を目指すESGへの取り組みは、今後も拡大していく見通しです。

出典:野村アセットマネジメント『ESGとは 簡単解説』

(2)ESG投資について

ESG投資とはESGに配慮した企業に対して投資を行うことです。
2018年における世界のESG投資額はおよそ3100兆円で、世界の投資額の3分の1を占めています。ESGが投資で重視されるようになったのは、国連が2006年に責任投資原則(PRI)を提唱したことがきっかけです。ちなみに、2019年における日本のESG投資額はおよそ336兆円で、前年に比べ45%も増加しています。

企業の評価方法を従来の短期的な利益追求から転換し、気候変動などのリスク対応も含めた企業の長期的な持続可能性を評価する投資が求められています。

出典:NRI『ESG(環境・社会・ガバナンス)』

2. EUのESGに対する取り組みについて

EUのESGに対する取り組みである「タクソノミー(分類)に関する規則」と「金融サービスセクターにおけるサステナビリティ関連開示規則」について解説しています。

(1)サステナブルな経済活動を明確化するための規則の策定

EUでは2019年に欧州グリーンディールを公表し、2050年までに気候中立(温室効果ガス排出量を実質ゼロにする)を目指すことを表明しました。
その目標達成に向けて対策を施すために企業はたくさんの資金が必要になりますが、より環境的にサステナブルな案件(金融商品)への投資を誘導するために、サステナブルを明確化するための基準である「タクソノミー(分類)に関する規則」を2020年に策定しました。

投資の対象となる経済活動が環境的にサステナブルな案件であると判断されるためには、下記の6つの環境目標と4つの要件を満たす必要があります。

6つの環境目標

  1. 気候変動の緩和

  2. 気候変動への適応

  3. 水資源等の使用と保全

  4. 循環経済等への移行

  5. 大気・水・土壌等の汚染防止

  6. 植生・森林・希少種などエコシステムの保護

4つの要件

  1. 上記6つの環境目標のうち少なくとも1つ以上を対象とし、それに実質的に貢献すること

  2. 残りの環境目標について重大な損害をもたらさないこと

  3. OECD(経済協力開発機構)の多国籍企業行動指針、国連のビジネスと人権に関する指導原則、労働における基本的原則および権利に関するILO(国際労働機関)宣言などに準拠すること

  4. 科学的根拠に基づいた一定の技術スクリーニング基準に準拠すること

これらを満たしたものが環境的にサステナブルな経済活動の対象となり、ESG志向である投資家の投資対象となります。

出典:KPMG『EUサステナブルファイナンス(気候変動、ESG等)開示ルールの整備と我が国の対応』(2020/9/1)

(2)サステナビリティ関連開示規則の適用

EUは2019年に「金融サービスセクターにおけるサステナビリティ関連開示規則」を採択し、2021年3月から適用を開始しました。この規則は、投資会社、保険会社、銀行などに自社や金融商品に関するサステナビリティ関連情報の開示を要求するものであり、金融市場参加者と金融アドバイザーは、自社と自社で取り扱う金融商品に関する情報を開示しなければなりません。

投資家はこの開示情報を通じて、ESGや気候変動の抑止に貢献する企業からサステナブルな金融商品を選ぶことができるという仕組みになっています。

出典:KPMG『EUサステナブルファイナンス(気候変動、ESG等)開示ルールの整備と我が国の対応』(2020/9/1)

3. EUのESG規制が及ぼす影響とは

EUのESG規制がEU域内や日本に及ぼす影響について解説しています。

(1)グリーンウォッシュの増加

「グリーンウオッシュ」とは、企業が環境対応をしているかのように見せかける行為を指します。この批判には、「表明していることと実践していることが違う」という狭義の批判と、「その取り組み自体が環境保全の観点から的外れである」という広義の批判が存在します。

また、欧州やオセアニアなどでは、実体経済に対して影響力を発揮できない「名ばかりのESG投資」が問題視されてており、これに対する批判の声は、地球や社会の持続可能性に真に貢献する経済活動を行う企業にこそ、資金を誘導すべきだという主張から来ています。

今後の展望

足元のESG投資への逆風は、その手法をより洗練し、改善させていくことに作用する可能性があります。環境問題が深刻化する中で、資本市場がこれを無視し続けることはできないとの見方があります。

出典:日本経済新聞『ESG投資に逆風 高まる「グリーンウオッシュ」批判』(2023/1/30)

(2)EUのESG規制が日本に及ぼす影響

EUは2021年に、資産運用会社などを対象にサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の大枠「レベル1」を施行しました。それにより投資ファンドはサステナビリティの評価によって、サステナブル投資が目的である「9条ファンド」、サステナブル投資を目的としないが社会的・環境的な取り組みを促進する「8条ファンド」、それ以外の「6条ファンド」の3つに分類されます。

日本株を扱うファンドの多くが6条ファンドとされており、少なくとも8条ファンドの基準を満たせないような金融商品は、EUの投資家から見向きもされなくなると示唆されています。そうなると、日本の金融商品がEUの投資家のポートフォリオから外れることが危惧されるでしょう。

出典:ロイター『焦点:欧州ルールが日本株の重しに、ESGの情報開示強化 企業のデータ不足』(2022/1/24)

4. まとめ:ESGに配慮された企業の製品に注目しよう!

近年、企業の持続的な成長のためには、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)、すなわちESGの観点が重要となっており、企業や金融商品がサステナブルであるかの基準が明確化され、投資家はこれらの情報を基に投資判断を行う傾向が強くなっています。

しかし、これらの取り組みには上述で記載したように、「グリーンウォッシュ」と呼ばれる名ばかりのESG投資が問題視されており、規制の強化が進められています。また、日本の金融商品に対するEUの投資家の評価も変わりつつあります。

ESG経営という新しい価値観を取り入れ、EUのESG関連の規制や取り組みを深く理解した経営を行いましょう。

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