欧州グリーンディールとは何か?内容や日本を含む諸外国への影響はあるのか?

2019年に成立したフォンデアライエン委員長率いる新たな欧州委員会は欧州グリーンディールを最優先課題と位置付けました。この方針に基づき、EUでは欧州グリーンディールに沿った政策が実行されつつあります。

今回は欧州グリーンディールがどのようなものか、欧州グリーンディールの内容、欧州グリーンディールによる世界的な影響、日・EUグリーンアライアンスの立ち上げなどについてまとめます。

目次

  1. 欧州グリーンディールとは何か

  2. 欧州グリーンディールの内容

  3. 欧州グリーンディールの影響

  4. まとめ:欧州グリーンディールの動きは国内産業にも影響大

1. 欧州グリーンディールとは何か

欧州グリーンディールはフォンデアライエン体制で最重要視されている政策です。政策の概要と経緯についてまとめます。

(1)欧州グリーンディールの概要

欧州グリーンディールの目標は主に3点です。

  • 2050年までの温室効果ガス排出を実質ゼロにする

  • 経済成長と資源利用の切り離し

  • どの地域も取り残さず気候中立を目指すこと

温室効果ガスの排出削減はもちろんのこと、経済成長や資源の使い方に関する内容も含んでいる政策で、EU経済に大きな影響を与える内容となっています。

出典:日本経済団体連合会「欧州グリーンディールとその対外的側面 」(2022/3/17)

※気候中立とは温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること

(2)欧州グリーンディールの経緯

フォンデアライエン委員長率いる新指導部の政策はユンカー前委員長時代よりも野心的な内容です。2030年までの温室効果ガス排出目標は40%から55%まで引き上げられ、2050年のカーボンニュートラルについては欧州気候法によって義務化されました。欧州気候法は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを義務付ける法律で欧州グリーンディールの柱ともいうべき法律です。

出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構「新たな環境市場を創出する 欧州グリーン・ディール TSCトレンド」(p4~p5)

2. 欧州グリーンディールの内容

欧州グリーンディールは幅広い内容を含む政策群です。今回はその中でも6つの内容をとりあげます。

(1)欧州グリーンディール投資計画

2020年1月、欧州委員会は2050年までに気候中立を達成するため、今後10年間で1兆ユーロ(日本円でおよそ122兆円)を投資する「欧州グリーンディール投資計画」を発表しました。1兆ユーロの内訳をみると、2021年から2027年にかけての7年にわたる財政計画の中で5,030億ユーロ、排出権取引に250億ユーロ、公正な移行メカニズム確立のために1,430億ユーロ、官民投資の呼び水として2,790億ユーロ、加盟国の個別プログラムとして1,140億ユーロとなっています。

出典:環境展望台「欧州委員会、欧州グリーンディール投資計画と公正な移行メカニズムを公表」(2020/1/14)

出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構「新たな環境市場を創出する 欧州グリーン・ディール TSCトレンド」(p7)

(2)EUタクソノミーの策定

EUタクソノミーとは、環境問題に貢献する経済活動を分類するシステムのことです。「EUグリーンボンド(環境債)」を発行する際、集めた資金の使途がEUタクソノミーに適合していることが必須となります。

2022年1月に気候変動の緩和・適応の2つの分野でEUタクソノミーの運用が始まっています。残りの4分野の運用開始については、現在検討中です。

出典:環境省「EUのサステナブルファイナンス戦略と EUタクソノミーの状況について」(2022/03/28)(p5)

(3)炭素国境調整メカニズム

炭素国境調整メカニズムとは、気候変動対策が不十分な国からの輸入品に対し、炭素課税を実施する仕組みのことです。その一方で、気候変動対策が緩い国に輸出する際は補助金をつけることで価格競争力を持たせます。

炭素国境調整メカニズムの概念図Ait属性:出典:経済産業省「国境炭素調整とは」(2021/2/17)(p2)

(4)EU独自の水素戦略

2020年7月、EUは「EU水素戦略」を採択しました。その中で、水素をCO2を排出しないクリーンなエネルギーと位置づけ、欧州グリーンディールが目指す2050年までの気候中立達成に貢献できるとしています。

出典:EU MAG「EUの水素戦略について教えてください」

(5)メタンの排出削減

2020年10月、欧州委員会はメタンの排出量を削減するための戦略を発表しました。メタンはCO2に次いで地球温暖化に影響を与えるとされる物質です。現在、メタンを多く排出している農業・エネルギー・廃棄物の3分野で排出削減を進めています。

EUはメタンの排出削減に積極的ではないEU域外の国に対し、CO2並みの規制を実施する可能性もあり、今後の動向から目が離せない状況です。

出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構「新たな環境市場を創出する 欧州グリーン・ディール TSCトレンド」(p11)

(6)サーキュラーエコノミーへの移行

従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済をリニアエコノミー(線形経済)といいます。これに対し、サーキュラーエコノミーとは、日本語では循環型経済と訳され、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用をはかる経済のことを指します。欧州委員会は欧州グリーンディールがかかげる気候中立を実現するには、循環型経済へ移行する必要があるとしています。

出典:経済産業省「循環経済ビジョン2020(概要)」(2020/5)(p2)

出典:環境展望台「欧州委員会、循環型経済行動計画を採択」(2020/3/11) 

3. 欧州グリーンディールの影響

欧州グリーンディールは世界にどのような影響を与えるのでしょうか。エネルギー需給と炭素国境調整メカニズムの影響についてまとめます。

(1)欧州グリーンディールの世界のエネルギー需給への影響

1つ目の影響は、世界のエネルギー需給に与える影響です。これまで、欧州はエネルギーのおよそ7割を化石燃料に依存してきました。欧州グリーンディールの進展は化石燃料割合の大幅低下につながります。

欧州グリーンディールによってもたらされるエネルギー資源の輸入減少は、これまで欧州にエネルギーを供給してきたロシアや中東・北アフリカ諸国の政治・経済に強い影響を及ぼすと予想されます。

出典:日本経済団体連合会「欧州グリーンディールとその対外的側面 」(2022/3/17)

(2)欧州グリーンディールの炭素国境調整メカニズムの影響

2つ目の影響は、炭素国境調整メカニズムが及ぼす影響です。2021年7月に公表されたEUの規制案によれば、鉄鋼・セメント・アルミニウム・肥料・電力が炭素国境調整メカニズムの適用対象とされています。

脱炭素対策により企業が不利益を被らないための仕組みである炭素国境調整メカニズムは、EU全体が脱炭素化するうえで必須の仕組みであり、今後EUとの貿易に大きな影響を及ぼすでしょう。

出典:日本経済団体連合会「欧州グリーンディールとその対外的側面 」(2022/3/17)

4. まとめ:欧州グリーンディールの動きは国内産業にも影響大

今回は欧州グリーンディールについてまとめました。欧州グリーンディールはフォンデアライエン体制の最優先項目であり、EUの今後の方向性を考えるうえで、非常に重要な施策です。

世界経済は密接にかかわっており、日本と欧州の貿易関係も以前より深まっていることを考えると、欧州グリーンディールは日本にとっても無関係ではありません。

国内市場の縮小を踏まえると、日本の中小企業もEUを含む海外との取引が増加する可能性があり、その際は欧州グリーンディールに沿った製品であることが求められます。欧州グリーンディールの仕組みを理解し、世界の情勢にも注目してみてはいかがでしょうか。

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