Scope1とは?算定方法やScope2・Scope3との違いについても解説

企業としてカーボンニュートラルに取り組む中で、「Scope」という言葉を耳にしたことはありませんか。「Scope1」をはじめとする「Scope」とは、サプライチェーンにおけるすべての温室効果ガスの合計排出量の分類のことを指し、「Scope1」「Scope2」「Scope3」の3つがあります。

これは温室効果ガス排出算定の国際基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」に、設けられているものです。本記事では、「Scope1」をはじめとするサプライチェーン排出量算定とはどのようなものか、企業事例を含めて解説します。

目次

  1. Scope1ってなに?

  2. サプライチェーン排出量とは

  3. Scope1を算定する方法

  4. Scope1を算定する際に必要なもの

  5. サプライチェーン排出量算定に取り組む企業事例

  6. まとめ:Scope1を含むサプライチェーン排出量算定に取り組もう!

1. Scope1ってなに?

Scope1(scope1)とは

企業活動における温室効果ガスの排出は、Scope1・2・3の3つの範囲に分けられます。

このうちScope1とは、事業者自らが直接的に排出する温室効果ガスのことです。Scope1は、以下の2つに大別することができます。

(1)エネルギーの燃焼によって排出される温室効果ガス

(2)工業プロセスによって排出される温室効果ガス

前者には、ガソリンや軽油、LPガスといった化石エネルギーの燃焼が挙げられます。自家用車や直接燃料を燃やす暖房器具を使用する企業、炉やボイラーを用いる企業、火力発電はScope1に分類される温室効果ガスを排出しています。

後者には、鉄やセメントの製造が挙げられます。

Scope2とは、他社から供給された電気や熱、蒸気の使用に伴って間接的に排出している温室効果ガスのことです。

Scope3とは、Scope1と2をのぞくサプライヤーから間接的に排出される温室効果ガスのことです。

Scope1・2・3の違い

これらは温室効果ガス排出量を算定・報告するための国際的なガイドラインであるGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)プロトコルによって規定されています。

出典:環境省『排出量算定について』

GHGプロトコルとは

GHGプロトコルとは、事業者の温室効果ガス排出量を算定・報告するための、国際的な標準化ガイドラインです。これは、信頼性のある温室効果ガス排出・吸収に関するデータ作成のため、世界資源研究所と、持続可能な開発のための経済人会議によって策定されました。

もっと知りたい方はこちら:温室効果ガス排出量算定の国際的スタンダード「GHGプロトコル」とは

日本では、Scopeに基づいた温室効果ガス排出量算定に関するガイドラインとして、環境省が「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を策定しています。

エネルギーの燃焼とは

エネルギーの燃焼による温室効果ガス排出量は、事業活動中に使用したガソリンや軽油、LPガスなどの化石エネルギーの燃焼の「物量または金額」に、排出係数をかけあわせたもので、具体的には以下のようになります。

  • エネルギーの使用 (エネルギーの種類ごとに)の場合:エネルギー使用量×単位使用量当たりの発熱量×単位発熱量当たりの炭素排出量×44/12

  • 他人から供給された電気使用の場合: 電気使用量×単位使用量当たりの排出量

  • 他人から供給された熱使用 (熱の種類ごとに)の場合:熱使用量×単位使用量当たりの排出量

工業プロセスとは

工業プロセスにおける排出量は、工場の製造過程で、セメントや鉄といった「製品が化学反応を起こして発生した温室効果ガス」に、排出係数を掛け合わせたものです。例えばセメント製造の場合は、以下のような算定方法になります。

セメントクリンカ製造量×単位製造量当たりの排出

Scope1における工業プロセスで発生する温室効果ガス排出量は、鉄やセメント製造において発生するものがほとんどなので、それらの製造に関係しない企業は問題ありません。

出典:環境省「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」

2. サプライチェーン排出量とは

そもそもサプライチェーンとは

まずはサプライチェーンとは何かをご説明しましょう。サプライチェーンは、日本語では「供給連鎖」と呼ばれています。企業のカテゴリに関係なく、製品の材料・部品の調達、生産管理、物流、販売・消費までの流れを、一つのシステムとして捉えた考え方であり、名称です。

サプライチェーン排出量とは

サプライチェーン排出量とは、「企業の事業活動におけるすべての温室効果ガス排出量」のことを言い、サプライチェーン全体でどれくらいのCO2を排出しているかを把握するための指標となります。サプライチェーン排出量はScope1・2・3の合計から算定されます。これらを基準にして算定目的を定めることで、達成への具体的な道筋をつけることが可能です。

サプライチェーン全体での排出量削減出典:環境省『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』(2022年3月 )

サプライチェーン排出量算定のメリット

サプライチェーン排出量を算定することのメリットは以下になります。

  • サプライチェーン排出算定を行い、その排出量を可視化することで、社会に対する責任を明確にでき企業の環境価値を高められる。

  • 自社のサプライチェーンにおける課題や問題を把握することで、経営に対する環境指針を明確にできる。

  • サプライチェーンに関わる全ての事業者で、お互いの環境に対する価値や理解を促進することが可能。協力した温室効果ガス排出削減を達成できる。

サプライチェーン排出量算定によって、一連の事業活動における排出量が把握できるようになります。その結果、経営における環境指針を明確化し、企業としての社会的責任を示すことにつなげられます。さらに、サプライチェーンに関わる全ての当事者が高い環境意識をもつことにもつながるため、より一層温室効果ガス削減を促進することができます。

関連記事:温室効果ガス削減への取り組みに欠かせないCO2排出量の計算方法

3. Scope1を算定する方法

算定すべき対象者

Scope1では、自社のみならず連結対象事業者や建設現場など、自社が所有または支配している全ての事業活動を算定する必要があります。事業者連結の範囲は、出資比率基準と支配力基準のいずれかによって設定します。

出資比率基準とは、対象の事業からの排出量を、その事業に対する出資比率(株式の持ち分)によって算定するものです。

支配力基準とは、出資比率によらず、財務方針及び経営方針を決定できる力を持っているか、または経営方針を導入して実施する完全な権限を持っているかといった支配力によって判断し、支配下の事業からの排出量は100%算定するものです。

Scope1の算定式

Scope1の算定では、まず排出する温室効果ガスごとに、「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」に定められている排出活動を抽出します。排出活動にもよりますが、基本的には以下の算定式によって、温室効果ガスの排出量を算出することができます。

温室効果ガス排出量=活動量×排出係数

この活動量とは、温室効果ガスの排出量と相関のある排出活動の規模を表す指標で、生産量や使用量、焼却量などがこれにあたります。各排出活動ごとの算定式と排出係数は上記のマニュアルに記載されています。

たとえば、エネルギーの使用ではエネルギー使用量×単位使用量当たりの発熱量×単位発熱量当たりの炭素排出量×44/12が算定式となり、セメントの製造ではセメントクリンカ製造量×単位製造量当たりの排出が算定式となります。

出典:環境省『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する  基本ガイドライン (ver.2.4)』p.25(2022年3月)

出典:環境省『第Ⅱ編 温室効果ガス排出量の算定方法』p.15,16

4. Scope1を算定する際に必要なもの

排出原単位データベース

温室効果ガスの排出量を算定するには、活動量あたりの排出係数(排出原単位)を求める必要があります。この排出係数は、基本的には既存のデータベースを活用することになります。以下にデータベースの例を挙げます。

(1)算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧

環境省が温対法に基づき、HP上に無料で公開している排出係数の一覧です。これにはその他に、各排出活動ごとの算定方法も記載されています。

(2)JLCAデータベース

経済産業省とNEDO技術開発機構が行った第1期LCAプロジェクトにより作成された、インベントリ分析用データとインパクト評価用データ、文献データからなるデータベースです。これは、LCA日本フォーラムに入会することによって利用できます。

出典:LCA日本フォーラム『JLCAデータベース』

(3)LCIデータベースIDEA

IDEAとは、産業技術総合研究所と産業環境管理協会が共同で開発した、純国産のLCIデータベースです。これは、日本の全産業をモデル化することを目的に、製品の製造から廃棄までを考慮するLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいて作成されたものです。そのため、国内のほぼ全ての製品やサービスを、細かなデータセットで網羅していることが特徴です。IDEAの購入、またはLCA活用推進コンソーシアムの入会により、ライセンスを入手することができます。

出典:Inventory Database for Environmental Analysis『IDEA』

出典:IDEA『特徴』

(4)産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)

3EIDとは、生産活動の各部門同士の経済的な繋がり(年間の取引額)、すなわち産業連関表から、単位生産活動(百万円相当の生産)ごとにどれだけの環境負荷が発生しているかを算出した環境負荷原単位のデータブックです。これは国立環境研究所によって発行されており、HP上で無料公開されています。

出典:3EID『3EIDの概要』

専門知識

このようにScope1の算出に必要な算定式やデータベースは、様々な機関によって公開されており、環境省によってガイドラインも作成されていますが、自社のケースではどのように算出すればよいのか、確実性があるのかについては判断が難しい場合もあり、誤った解釈に基づき算出するとグリーンウォッシュ(見せかけの環境への配慮)であると非難されかねません。そのため、Scope1の算出には、専門的な知識を持つ企業や機関の目が必要な場合もあります。

5.サプライチェーン排出量算定に取り組む企業事例

株式会社イトーヨーカ堂

株式会社イトーヨーカ堂は、サプライチェーン全体からCO2排出を把握することを目標に、より効果をあげるため、算定方法を活用しています。排出削減に向けては、設備関連における太陽光をはじめとした再エネの活用や、環境に負荷のかからないレジ袋の導入など、さまざまな取り組みを実施しています。

出典:イトーヨーカドー『CSR』

出典:環境省『取組事例 - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム』 

鹿島建設株式会社

鹿島建設株式会社は、運用段階での環境負荷が重要であると、サプライチェーンの環境影響を把握することを目的として排出量の算定活用に取り組んでいます。評価指標の一つとして、設計段階でのCO2排出量を算定する、資材利用においても再生材の利用促進でその意義を示すなど、算定方法を積極活用しています。また、2030年には新建築物の50%以上をZEB(ゼロエネルギービル)にするという目標を掲げており、そのための技術開発や再エネを活用した実証を推し進めています。

出典:鹿島建設株式会社『脱炭素』

出典:環境省『取組事例 - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム』 

カルビー株式会社

カルビー株式会社は、Scope3においてのカテゴリ1に該当する内容の原材料や包装容器などの製造工程、配送におけるCO2排出量が高く、これを削減するため、算定方法を活用し排出削減推進を行っています。

出典:カルビー『サステナビリティ』

出典:環境省『取組事例 - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム』

株式会社ファミリーマート

ファミリーマートは、それぞれのScopeでの取り組みを明確にしています。Scope1では、使用している冷蔵・冷凍機器を定期的に最適化することでCO2排出削減を推進。Scope2では、店舗自体の省エネを推し進め排出を削減。Scope3に関しては、最も排出量の多いカテゴリ1に対して、運用段階での排出削減を検討するとしています。

出典:ファミリーマート『サステナビリティ』

出典:環境省『取組事例 - グリーン・バリューチェーンプラットフォーム』

6.まとめ:Scope1を含むサプライチェーン排出量算定に取り組もう!

Scope1をはじめとするサプライチェーン排出量算定について解説をしました。日本でも2050年カーボンニュートラル達成が目標となり、グローバル企業を中心として、達成に向けての努力が行われています。企業事例をみてもわかるように、サプライチェーン排出量算定を行うことは、環境貢献に対して具体的な目標をもつことであり、それは企業にとって必要不可欠な取り組みです。

自社のサプライチェーンを見直し、企業としてカーボンニュートラル達成に取り組み、ぜひ、環境価値を高める努力をはじめてみてください。

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