温室効果ガス排出量算定の国際的スタンダード「GHGプロトコル」とは
- 2024年01月25日
- CO2算定
GHGプロトコルとは、温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な規準です。地球温暖化対策のために企業が温室効果ガスの排出量を算定・報告するようになり、実態を反映した信頼性のある情報のための規準として作成されました。
CDP、SBT、RE100などの国際的なイニシアティブにも支持され、日本でも普及してきたサプライチェーン排出量算定などでも、GHGプロトコルの規準が採用されています。GHGプロトコルについて、基本的な知識を確認しておきましょう。
目次
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GHGプロトコルとは
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GHGプロトコルによるCO2排出量算定
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Scope1〜3の算定方法
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GHGプロトコルと再エネ証書
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まとめ:GHG排出量算定は国際基準で
1. GHGプロトコルとは
GHGプロトコルとは、アメリカのWRI(World Resource Insitute)と、事業者の世界的ネットワークWBCS(World Bisiness Council for Sustainable Development)が作成した、事業者の※GHG排出量を算定・報告するにあたっての標準化ガイドラインです。世界各国の企業が実際に使用し、2001年19月に改善・完成したものが発表されました。
※GHG:Greenhouse Gasの略。温室効果ガスのこと。CO2をはじめ、水蒸気、メタン、一酸化二窒素、フロンなど。
GHGプロトコルの目的
GHGプロトコルの目的は信頼性のある企業の※GHGインベントリの作成です。そのほか、GHGの排出による影響を正確に把握するために世界規模の取り組みを推進しています。
企業がGHG排出量を管理し、削減するための手段・方法の開発や、企業の温暖化対策に関する取り組みの報告の保管なども行っています。
※GHGインベントリ:温室効果ガスの排出・吸収などの量を取りまとめたデータのこと。
GHGプロトコルの算定原則
GHGプロトコルでは、財務報告書と同様にGHG排出量についても、実態を反映した客観的で信頼性があるものでなければならないとして、以下の5つの原則を設けています。
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妥当性
企業活動やそれに係るGHG排出量が適正に反映される境界条件が設定されている。 -
完全性
企業と設定された境界条件内の全てのGHG排出源と行動が反映されている。 -
一貫性
GHG排出量の経年比較ができるようにする。報告の前提条件などに変更があった場合は明記する。 -
透明性
全ての関連事項に触れ、事実を基に報告する。算定根拠・前提条件を明示する。 -
正確性
可能な範囲で正確に算定し、必要な精度を確保する。報告内容の妥当性を評価できる情報を含める。
出典:環境省『サプライチェーン算定の考え方』(2017年11月)
出典:環境省『事業者の温室効果ガス排出算定及び報告についての標準化ガイドライン』p.1(2001年10月)
2. GHGプロトコルによるCO2排出量算定
サプライチェーン排出量算定とは
GHGプロトコルの基準が利用される場面として、サプライチェーン排出量算定が代表的です。サプライチェーン排出量算定とは、事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関わる全ての排出を合計した排出量を算定することです。
サプライチェーン上のうち、ひとつの企業が排出量削減をすると、他のサプライチェーン上の事業者にとって、自社の「サプライチェーン排出量」が削減されたことになります。
出典:環境省『サプライチェーン排出量とは?』p.3(2021年7月)
Scopeとは
GHGプロトコルにおいてScopeとは「範囲」の意味で使われています。Scopeは以下の3つに分けられます。
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Scope1:事業者からのGHGの直接排出(燃料の燃焼、工業過程)
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Scope2:他社から供給された電気・熱・蒸気の使用による間接的な排出
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Scope3:Scope1・Scope2以外の間接的な排出(関連する他社の排出など)
3. Scope1〜3の算定方法
サプライチェーン排出量はScope1~3の合計です。
GHGの排出量は活動量×排出係数で算定します。活動量とは生産量・使用量・焼却量などの排出活動の規模、排出係数とは活動量当たりの排出量のことです。
対象となるGHGはCO2、CH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素)が年度ごと、HFC(フロン類)、PFC(フロン類)、SF6(六フッ化硫黄)、NF3(三フッ化窒素)は暦年の排出量で算定します。
出典:環境省『温室効果ガスの算定方法』p.10(2021年1月)
Scope1
Scope1は事業者から直接排出されるGHGです。GHGの排出量算定は以下の手順で行います。
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排出量の抽出
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各ガスの活動ごとの排出量の算定
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各ガスの排出量の合計値を算定
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各ガスの排出量のCO2換算値の算定
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調整後GHG排出量の算定
出典:環境省『温室効果ガスの算定方法』p.10(2021年1月)
Scope2
Scope2は他社から供給された電気・熱・蒸気の使用による間接的な排出です。エネルギーの調達先から情報の提供を依頼するなどの手段で算定します。
Scope2の中の電気着業者からの供給電気の使用による排出に関しては、より正確な値を求めるため、国が電気事業者ごとの排出係数を公表しています。電気事業者以外から供給された電気の使用では実測に基づく適切な係数、そのほか算定のできない電気に関しては環境大臣・経済産業大臣が公表する係数を用いて算定します。
Scope3
GHGプロトコルのScope3規準では、Scope1、Scope2のどちらにも当てはまらない間接的なGHGの排出を15のカテゴリに分類しています。Scope3の算定はこれらのカテゴリごとのGHG排出量を算定し、合計します。
出典:環境省『サプライチェーン算定の考え方』p.5(2017年11月)
Scope3の15のカテゴリは以下の通りです。
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購入した製品・サービス
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資本財
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Scope1・Scope2に含まれない燃料やエネルギー活動
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運輸・配送(上流)
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事業から出る廃棄物
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出張
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雇用者の通勤
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リース資産(上流)
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運輸・配送(下流)
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販売した製品の加工
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販売した製品の使用
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販売した製品の廃棄
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リース資産(下流)
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フランチャイズ
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投資
その他、任意の算定カテゴリとして従業員や消費者の日常生活によるGHGの排出があります。
出典:環境省『サプライチェーン排出量とは?』p.2(2021年7月)
4. GHGプロトコルと再エネ証書
2022年の炭素削減価値取引市場の試験導入を目前に、再エネ証書や炭素削減価値クレジットへの注目が高まっています。この市場ではさまざまなクレジットが取り引きされる予定ですが、GHGプロトコルではこれらの証書・クレジットの中で調整に利用できるものに規定を設けています。
出典:経済産業省:『成長に資するカーボンプライシングについて④ 』p.5(2021年5月)
出典:朝日新聞デジタル『カーボン・クレジット市場整備へ 炭素税は結論先送り』(2021年8月)
再エネ証書のゼロエミッション効果
再エネ証書のゼロエミッション効果とは、再エネ証書が相殺できるGHG排出量を指します。再エネ証書などの利用により、単位電力量(1kWh、1MWhなど)あたりのGHG排出量(kg-CO2、t-CO2など)をゼロにできるという考え方です。
GHGプロトコルではScope2の算定において、オフセットクレジットと再エネ証書を区別しています。再エネ証書による調整は認められますが、オフセットクレジットを使用することは認められていません。
出典:経済産業省 環境省『国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関する ガイダンス』p.8(2021年3月)
GHGプロトコルに対応する国内証書
Scope2の間接排出では、再エネ由来のJ-クレジットとグリーン電力証書が利用可能です。再エネ熱由来のJ-クレジットや省エネ・森林由来のJ-クレジット、グリーン熱証書は利用できません。
出典:経済産業省 環境省『国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関する ガイダンス』p.15(2021年3月)
出典:経済産業省 環境省『国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関する ガイダンス』p.16(2021年3月)
また、国際的イニシアティブによって、証書などの利用できる範囲に違いがあります。CDP・SBTではGHGプロトコルの規定に準拠し、電力証書など・熱証書などのどちらも使用可能ですが、RE100の要件ではGHGプロトコルに準拠を基本としながらも、再エネを太陽光・太陽熱・水力・風力・地熱・バイオマス・バイオガスに限定し、再エネ熱証書など熱由来の証書は使用できません。
出典:経済産業省 環境省『国際的な気候変動イニシアティブへの対応に関する ガイダンス』p.25(2021年3月)
5. まとめ:GHG排出量算定は国際基準で
GHG排出量を算定することにより、自社で優先的に排出削減すべき対象の特定や、排出量の経年変化を把握することにより自社の環境への取り組み面での経営指標に活用できます。自社の環境への取り組みを開示・PRする際にも、国際基準であるGHGプロトコルに準拠した算定を用いれば、対応できる幅が広がります。
また、サプライチェーン排出量算定が浸透していく中で、それぞれの企業が別々の規準でGHG排出量を算定していると、全体の合計算出に手間がかかってしまいます。中小企業が自社の排出量を算定する際にも、国際的にスタンダードとなっているGHGプロトコルの規定に従って行い、信頼性を確保すべきです。
企業によっては、どのように排出量算定を始めたらよいかわからない、排出量算定をしたいが人手や手間がかかるため取り組みが難しいと感じている場合があります。このような場合には、積極的にデジタル化に取り組み、データ管理の効率化を進めましょう。
デジタル化・作業の効率化は自社内の管理が楽になるだけでなく、他社との連携も取りやすくなり、新たなビジネスの機会獲得にもつながります。GHGプロトコルに準拠した排出量算定・公開はこれからの企業経営にとって必須と考えましょう。