カーボンプライシングを解説〜CO2排出に課税し脱炭素社会を実現〜

「カーボンプライシング」という言葉、ご存知でしょうか?「パリ協定」にて「2℃目標」が掲げられ、世界全体で温暖化対策が行われています。そんな中、温暖化の主な原因である「CO2」に価格を付ける仕組み=カーボンプライシングが各国で注目を浴びているのです。

今回は、カーボンプライシングをわかりやすく解説し、それがどういった仕組みで脱炭素社会実現を目指しているかを解説していきます。

目次

  1. カーボンプライシングとはCO2排出を直接の不利益とする仕組み

  2. 日本が導入しているカーボンプライシングの4つの種類

  3. カーボンプライシングのメリットは技術開発の促進?

  4. 税の負担の偏りが起こる?カーボンプライシングのデメリット

  5. まとめ:まずはカーボンプライシングによる自身の影響を認識しよう

1. カーボンプライシングとはCO2排出を直接の不利益とする仕組み

カーボン=炭素、プライシング=価格設定、ということはカーボンプライシング=炭素の価格設定?と訳すことができますが、その言葉からはその意味はイメージしづらいのではないでしょうか。

ここでは、その意味について詳しく解説していきます。

(1)CO2に価格を付けることによる温暖化対策

カーボンプライシングとは、気候変動問題の主な原因である、CO2に価格を付ける仕組みのことです。これにより、CO2を排出した企業に金銭的に負担をしてもらう温暖化対策です。

CO2を排出することが、その企業にとって直接的な不利益をもたらすこの仕組みは、どのような影響をもたらすのでしょうか。まずはカーボンプライシングが広まる背景からご説明します。

(2)カーボンプライシングが広まる背景

地球温暖化は近年、世界的な問題として挙げられており、1997年には、気候変動への国際的な取り組みを定めた条約「京都議定書」が作成されたり、2015年に開かれた「パリ協定」では、産業革命前からの平均気温の上昇を1.5~2℃未満に抑制する「2℃目標」が掲げられたりと、世界全体で温暖化対策を行っています。

しかし、地球温暖化対策としてCO2削減が必要とは言え、現在の技術ではCO2排出が避けられない産業があることも事実です。

そういった中でも、CO2排出の抑制をし、脱炭素社会を目指すための方法の一つとして、カーボンプライシング広まっています。

出典:外務省『2020年以降の枠組み:パリ協定』(2020/04/02)

2. 日本が導入しているカーボンプライシングの4つの種類

カーボンプライシングの具体的な仕組みについては、世界各国それぞれ、さまざまなパターンが導入・検討されています。

現在日本では4つのカーボンプライシングが導入されています。

(1)炭素税

炭素税は、燃料や電気の利用など、CO2の排出される活動に対して、その量に比例した課税を行うことで、炭素に価格を付ける仕組みのことです。カーボンプライシングの中でも最も代表的な制度と言えるでしょう。

日本では「地球温暖化対策のための税」として2012年から導入されています。急激な負担増を避けるため、年半かけて3段階に分けて税率が引き上げられました。

具体的には、化石燃料ごとのCO2排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO2排出量1トン当たり289円に等しくなるよう、単位量(キロリットル又はトン)当たりの税率が設定されています。

出典:境省『地球温暖化対策のための税の導入』

また、「地球温暖化対策のための税」がもたらす家庭への負担は、平均的な世帯で月100円程度、年1,200円程度と見込まれています。

出典:環境省『地球温暖化対策のための税の導入』

(2)国内排出量取引

国内排出量取引は、企業ごとに排出量の上限を決め、「排出量」が上限を超過する企業と下回る企業との間で「排出量」を売買する仕組みのことです。

政府が税率を決めている炭素税とは異なり、各主体に分配された排出枠が市場で売買される結果、炭素の価格が決まることが特徴です。政府により排出量の上限(キャップ)が設定され、各排出主体は、市場価格を見ながら排出量と排出枠売買量を決定することになります。

出典:環境省『カーボンプライシングについて (排出量取引制度)』(2018/06/29)

(3)クレジット取引

 クレジット取引とは、CO2削減に価値を付けて、市場ベースでやり取りをすることを指しますが、この言葉が意味するものは様々あり、一例を紹介していきます。

  • 非化石価値取引

  • 再生可能エネルギー(太陽光・風力等)・原子力といった化石燃料でない(非化石)エネルギーがもつ価値を売買するもの

  • Jクレジット

  • 先進的な対策によって実現した排出削減量を「クレジット」として、売買できるようにするもの

  • JCM(二国間クレジット制度)

  • 途上国と協力して実施した対策によって実現した排出削減量を「クレジット」として、削減の効果を二国間で分け合う制度

  • ゼロエミッション車クレジット取引

  • 販売するゼロエミッション車をクレジット化し、自動車メーカーに対し一定比率以上のクレジットの取得を求めるもの

出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて②~クレジット取引等~』(2021/03)

出典:環境省『クレジット取引について』

(4)炭素国境調整措置

炭素国境調整措置とは、CO2の価格が低い国で作られた製品を輸入する際に、CO2分の価格差を事業者に負担してもらう仕組みのことです。

CO2の価格が相対的に低い他国への生産拠点の流出、その結果世界全体のCO2排出量が増加することを防ぐことが目的となっています。

出典:環境省『炭素国境調整措置について』

3. カーボンプライシングのメリットは技術開発の促進?

地球温暖化対策として導入されているカーボンプライシングですが、制度によりどんなメリットがあるのでしょうか。

(1)CO2排出削減へ促すことができる​​

企業にとって、商品やサービスを生産することが、経済活動へ繋がり、自身の利益になりますが、その過程でCO2を排出することが不利益になる仕組みになっているため、当然ながらCO2削減のアクションを促すことが期待できます。

(2)新たな技術開発を促進できる

カーボンプライシングの課税によって得られた税金は、脱炭素社会実現のために必要な新たな技術開発の費用にも充てることができます。

例えば、炭素排出量の多い鉄鋼業は、水素還元製鉄の技術開発を目指していますが、新しい製法のため技術開発の難度が極めて高く、巨額な設備投資が必要となっています。

そういった分野などへ投資され、技術が開発されれば、脱炭素社会への大きな貢献となります。

4. 税の負担の偏りが起こる?カーボンプライシングのデメリット

一方、カーボンプライシングによって起こるデメリットとして、

  1. 産業の空洞化につながる可能性

  2. 特定の産業界への金銭的な負担増加

といったことが挙げられます。

(1)産業の空洞化につながる可能性​​

カーボンプライシングを導入し、企業へ更なる課税を行うと、企業は生産拠点を日本から海外へ移し「産業空洞化」が起こり、その結果国内産業が衰退する可能性があります。

また、「カーボンリーケージ」の問題が考えられます。カーボンリーケージとはある国でCO2排出削減を減らすため、生産活動を排出規制が緩やかな海外に移した結果、その国でのCO2排出が増えて、地球全体の排出量はむしろ増えてしまう現象です。

(2)特定の産業界への金銭的な負担増加

炭素税は、特性上CO2を排出しやすい鉄鋼や化学業界などには大きなダメージとなります。そういった業界はもともとエネルギーコストが高いにもかかわらず、炭素税でさらに負担を増やすことは、日本のものづくりや経済活動に負の影響を与える可能性があります。

また、先述の通り、鉄鋼業では水素還元製鉄の技術開発に巨額な費用もかかるため、カーボンプライシングで生産業に多くの負担を与えることは、デメリットも働いてしまうことになります。

5. まとめ:まずはカーボンプライシングによる自身の影響を認識しよう

カーボンプライシングは生産業や、エネルギー産業などが主に影響を受けると思われますが、ガスや石油などにも課税されており、一般の家庭への影響も少なからずあります。自身の企業や関係する会社にも、影響がある話かもしれません。

まずは、そういった制度などの情報を定期的に更新し、温暖化防止のために、どういった投資や社内外における選択ができるか、随時検討していきましょう。

 

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