SHK制度とは?令和6年度報告から何が変わるのか

「SHK制度」について、わかりやすく解説します。企業の温室効果ガス排出量削減を促すSHK制度は、法律で定められたものです。SHK制度によって各事業者は温室効果ガスの排出量を把握する義務を負い、その結果は広く国民に公開されることとなっています。

本記事ではSHK制度の概要、排出量算定方法、令和6年度報告から変更となるポイント、GHGプロトコルとの関係などについて取り上げます。

目次

  1. SHK制度の概要

  2. SHK制度における排出量算定方法

  3. SHK制度の令和6年度報告からの主な変更点

  4. SHK制度とGHGプロトコルの関係

  5. まとめ:SHK制度で温室効果ガス排出量を可視化し、温暖化対策を促進しよう!

1. SHK制度の概要

SHK制度は、温室効果ガス排出抑制を狙いとした取り組みです。SHK制度の概要について解説します。

SHK制度とは

SHK制度は「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」に基づき、温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量算定(S)と国への報告(H)を義務付け、報告された情報を国が集計・公表(K)するという制度です。平成18年4月1日より運用開始され、対象となる事業者が報告を怠ったり虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の罰則があります。

出典:環境省「制度概要」

SHK制度のねらい

温室効果ガスの排出抑制を図るためには、各事業者が自らの活動により排出される温室効果ガスの量を算定・把握することが必要です。これによって各事業者は、排出抑制対策の立案・実施・効果検証をすることが可能となります。また算定された排出量を国が集計・公表することによって、排出抑制に向けた国内の気運醸成や理解促進が期待されます。

出典:環境省「制度概要」

SHK制度の対象事業者

「特定排出者」には主に以下のような事業者が含まれます。

 

エネルギー起源CO2

【特定事業所排出者】全ての事業所のエネルギー使用量合計が原油換算1,500kl/年以上の事業者

【特定輸送排出者】省エネ法による特定貨物輸送事業者・特定旅客輸送事業者・特定航空輸送事業者・特定荷主など

非エネルギー起源CO2

CO2以外の温室効果ガス

【特定事業所排出者】排出量が温室効果ガスの種類ごとにCO2換算3,000トン以上で、常時使用する従業員の数が21人以上の事業者

特定排出者に該当しない場合は、SHK制度の適用対象外となります。

出典:環境省「制度概要」

2. SHK制度における排出量算定方法

SHK制度を公正に運用するためには、温室効果ガス排出量を正しく算定することが重要です。SHK制度における排出量算定方法について解説します。

基本的な算定方法

排出量算定の際はまず、温室効果ガスごとに定められた排出活動のうち、事業者が行っているものを抽出します。たとえばエネルギー起源CO2については「都市ガスの使用」「燃料の使用」「他人から供給された電気の使用」などが該当します。次に抽出した活動ごとに「活動量 × 排出係数」の計算によって、排出量を算定しま

この際に用いられる排出係数は政省令で定められています。排出活動ごとに算定した排出量を温室効果ガスの種類ごとに合算したら、温室効果ガスごとの排出量を「温室効果ガス排出量(tガス) × 地球温暖化係数(GWP)」の式によってCO2の単位(tCO2)に換算します。

出典:環境省「制度概要」

SHK制度で活用できるカーボン・クレジット

排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することにより、排出される温室効果ガスを埋め合わせることをカーボン・オフセットと言います。カーボン・オフセットに用いるため、排出削減活動や森林整備によって生じた排出削減・吸収量を認証したものがカーボン・クレジットです。

SHK制度では、このカーボン・クレジットの活用が認められています。活用可能なカーボン・クレジットとして、「J-クレジット」「二国間クレジット制度(JCM)」などがあります。

SHK制度では「基礎排出量」「調整後排出量」をそれぞれ報告することが義務付けられていますが、「調整後排出量」においては事業者がこれらのクレジットを調達した場合、算定された排出量からクレジットによるオフセット効果分を差し引くことができます。

出典:環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
出典:経済産業省「温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の令和6年度報告からの変更点」p4(2023/5/29)

3. SHK制度の令和6年度報告からの主な変更点

SHK制度は令和6年度報告から、変更があります。主な変更点について解説します。

廃棄物に係るCO2排出量の取り扱い

廃棄物のうち「燃料としての廃棄物の利用」と「廃棄物由来の燃料等の使用」について、これらに伴うCO2排出量は、SHK制度の基礎排出量算定において「”非”エネルギー起源CO2排出量」ではなく「エネルギー起源CO2排出量」に計上することとなりました。これは省エネ法改正により、これらの利用・使用がエネルギー使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換の対象とされるようになったためです。なお、いずれのケースも調整後排出量には、従来同様計上不要です。

出典:経済産業省「温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の令和6年度報告からの変更点」p6(2023/5/29)

対象活動の追加と排出係数の変更

SHK制度導入時は、その後の見直しがほとんど行われておらず、事業者の排出実態や最新の科学的知見を必ずしも反映できていないという課題がありました。そのため令和6年度報告からは、算定対象活動・排出係数に関して最新の国家インベントリ(各国の排出・吸収量や算定方法をまとめ、文書化したもの)を踏まえて見直されることとなりました。

出典:経済産業省「温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の令和6年度報告からの変更点」p7(2023/5/29)

都市ガス・熱の供給事業者別排出係数の導入

SHK制度において、都市ガス・熱の使用に伴う排出量の算定には原則として、省令で定められた一律の係数を用いることが求められています。そのため、バイオガスのガス導管への注入や排出量の少ない方法での熱製造といったガス事業者・熱供給事業者の取組、及び需要家による脱炭素・低炭素なガス・熱の選択・調達が、算定される排出量に反映されていませんでした。この課題を解決するために、ガス事業者・熱供給事業者別の基礎排出係数及び調整後排出係数を導入することとなりました。

出典:経済産業省「温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の令和6年度報告からの変更点」p8(2023/5/29)

グリーン電力証書及びグリーン熱証書の扱いの変更

グリーン電力証書やグリーン熱証書は、再生可能エネルギー由来の電力量・熱量を認証したもので、購入者は調達した証書によって、カーボン・クレジット同様調整後排出量から差し引くことが認められています。この点について、控除できるCO2の量を、「他社から供給された電気や熱の使用にともなって発生するCO2の量」を上限とする形に見直しされます。

出典:経済産業省「温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)の令和6年度報告からの変更点」p9(2023/5/29)

今後さらに見直しの可能性も

SHK制度については、2050年カーボンニュートラルに向けた国内外の動向を踏まえ、特定排出者等の様々な削減取組を促進するため、見直しについて検討されています。そのため2024年10月17日には、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度検討会(第1回)」が開催されています。検討会では直接排出と間接排出を区分した報告や、任意報告の拡充などがテーマとなっています。

出典:経済産業省「『温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度検討会』の開催について」(2024/10/15)
出典:経済産業省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度検討会」

4. SHK制度とGHGプロトコルの関係

SHK制度と類似したものに「GHGプロトコル」があります。SHK制度とGHGプロトコルの関係について解説します。

GHGプロトコルとは

GHGプロトコルは、事業者が任意で排出量の算定・報告を⾏う際の国際基準で、WRI(World Resources Institute、世界資源研究所)やWBCSD(World Business Council for Sustainable Development、持続可能な開発のための世界経済⼈会議)を中⼼に策定されています。GHGプロトコルでは、温室効果ガス排出量の算定・報告を⾏う上で遵守すべき事項基準(Standard)と、基準に沿って実際に算定・報告を⾏う上での実践的なガイドであるガイダンス(Guidance)という2種類の⽂書を定めています。ただしGHGプロトコルは、算定対象活動や算定⽅法に関して基本的な考え⽅や要求事項を⽰しているのみで、その詳細については規定していません。

出典:環境省「GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)」p3-4(2022/9/12)

SHK制度とGHGプロトコルの共通点

SHK制度とGHGプロトコルには、以下のような共通点があります。

対象とする温室効果ガスの種類

CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3

排出量の算定範囲

直接排出(Scope1)とエネルギーの使⽤に伴う間接排出(Scope2)を基本としている

各活動に伴う排出量の算定式

“活動量×排出係数”を基本としている

電⼒証書・熱証書の使⽤

他⼈から供給された電気・熱の使⽤に伴う排出量(Scope2排出量)の算定において、電⼒証書・熱証書の使⽤を認めている

バイオマス由来のCO2排出量

排出量の合計に含めない

これらの点に関しては、SHK制度の報告のために収集したデータや算定した排出量を、GHGプロトコルと整合したScope1・2排出量の算定にそのまま活⽤することが可能です。

出典:環境省「GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)」p7(2022/9/12)

SHK制度とGHGプロトコルの違い

SHK制度とGHGプロトコルには以下のような違いがあります。

【相違点1】

SHK制度とGHGプロトコルで算定方法が異なる

・排出量の報告単位

・電⼒証書・熱証書の使⽤⽅法

・環境価値を失った⾮化⽯電気

(いわゆる「抜け殻電気」)が有する排出量

・カーボン・クレジットの扱い

・廃棄物の原燃料利⽤の扱い

【相違点2】

SHK制度では算定対象としていないが、GHGプロトコルのScope1・2では算定対象

・国外の排出量

・企業グループ単位の排出量

・政省令で規定されない排出活動

・バイオマス由来の CO2排出量

・⾃家発電時の排出量のうち他⼈への電⼒供給

・他⼈から供給された電気の使⽤に伴う

 ロケーションベース排出量

【相違点3】

SHK制度では算定対象としているが、GHGプロトコルのScope1・2では算定対象としていない

・他⼈から供給された電気の使⽤に伴う排出量のうち、送配電ロス

・フランチャイズチェーンの本部事業者における当該チェーン加盟店の排出量

・⾃らの貨物を他者が輸送す る際の排出量

相違点1については変換(GHGプロトコルと整合した⽅法で改めて算定)することで、相違点2については補⾜(追加で算定)することで、相違点3については控除(該当部分を差し引き)することで、SHK制度の算定量をGHGプロトコルと整合した算定に換算することができます。

出典:環境省「GHGプロトコルと整合した算定への換算⽅法について(案)」p8-11(2022/9/12)

5. まとめ:SHK制度で温室効果ガス排出量を可視化し、温暖化対策を促進しよう!

SHK制度は、各企業の国内における温室効果ガス排出量を把握し、国民に対して広く公開するものです。削減すべき温室効果ガスの排出量が明確になることで、排出量削減に向けた具体的な取り組みや、消費者の企業選別につながるといった効果が期待されます。国際的な算定方法であるGHGプロトコルと異なる点もありますが、基本的な考え方には共通点も多いので、両者の差分をよく理解することで大きな二度手間をかけることなく、SHK制度への対応と国際基準に沿った算定を実施することができるでしょう。

SHK制度で温室効果ガスの排出量を可視化して、地球温暖化対策をさらに促進しましょう。

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