インターナルカーボンプライシングとは?導入目的や事例を解説!

インターナルカーボンプライシングとは、企業が自社の排出するCO2に価格付けを行うことです。

この記事では,インターナルカーボンプライシングの意味や導入の目的、世界や日本でどの程度取り組まれているかという現状、インターナルカーボンプライシングの具体的事例などをわかりやすく解説します。

目次

  1. インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?

  2. インターナルカーボンプライシング導入の目的とは?

  3. インターナルカーボンプライシングの導入状況

  4. インターナルカーボンプライシングの事例

  5. まとめ:インターナルカーボンプライシングを取り入れ、低炭素社会に適応しよう!

1. インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?

出典:経済産業省『世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等を取り巻く状況』(p7)(2021/2/17)

インターナルカーボンプライシングとは、企業が自社の排出するCO2に価格付けを行うことです。

炭素に価格付けを行うカーボンプライシングには、炭素税や排出権取引制度といった政府によるカーボンプライシングと、企業が独自に価格付けを行うインターナルカーボンプライシング、民間企業同士の排出権取引であるクレジット取引があります。これらはいずれも、排出されるCO2に価格をつけ、その排出量に応じたコストを負担してもらうことで、CO2排出量削減のインセンティブとなることを目的としています。さらにインターナルカーボンプライシング(ICP)には、自社のCO2排出量を見える化することで、企業の脱炭素経営に役立ったり、投資判断の指標になったりする役割があります。

出典:環境省『インターナル・カーボンプライシングについて』(p3)(2021/4/2)

実際にICPがある場合とない場合でのコストの差を見ていきましょう。再生可能エネルギーなど低炭素なものを企業活動に取り入れようとしても、そのコストの高さによって従来の炭素排出量が多いものを選択してしまう場合があります。しかしICPを考慮すると、その価格設定によっては従来案のコストが上回り、低炭素な案が選択されるようになります。このようにICPがある場合では、従来はコストのみであった投資判断に炭素排出量が組み込まれ、CO2削減への取り組みがより活発になります。

カーボンプライシングについて知りたい方はこちら

URL:https://earthene.com/media/185

出典:資源エネルギー庁 「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」(2023/05/15)

出典:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン ~企業の低炭素投資の推進に向けて~」p.6(2023/03)

2. インターナルカーボンプライシング導入のメリットとは?

出典:環境省『インターナル・カーボンプライシングについて』(p7)(2021/4/2)

企業にとって今までにない取り組みであるインターナルカーボンプライシング。それに取り組む企業はどのような目的・メリットを持っているのでしょうか。

(1)情報開示の推進

ICPは、CDP(Carbon Disclosure Project)にその回答項目が設けられています。企業がICPを導入してCDPに回答することは投資評価にも繋がります。このように企業は環境に関する取り組みを開示することを通して自社が投資に値する会社であることを示していく必要があります。インターナルカーボンプライシングの設定は取り組みを数値化し、評価機関や投資家にアピールする有効な手段です。

(2)低炭素規制に対する対応

京都議定書やパリ協定の締結により、低炭素社会の実現は世界的な潮流となりました。その実現のため、世界各国ではさまざまな規制が導入されつつあります。そのひとつが排出量取引です。

各企業に二酸化炭素の排出枠が設定され、その余剰分を他の企業に販売できるようにした仕組み排出量取引制度です。各企業は二酸化炭素排出量削減を実行しつつ、削減しきれない部分を他の企業から購入するという仕組みを導入することで、社会全体の二酸化炭素排出量を減らそうという規制です。

日本国内では2018年に省エネ法が改正されています。この改正で省エネに関する「認定管理統括事業者」の認定制度や荷主の定義を見直し、到着日時を指定できる荷受側の事業者を「準荷主」とし、省エネへの協力を求めることなどが定められました。

日本政府がカーボンニュートラル実現を目指すと公式に表明した以上、こうした制度変更や法改正は今後も続くことが予想されます。

出典:環境省「我が国における国内排出量取引制度について」

出典:資源エネルギー庁「省エネ法の改正​」

(3)低炭素目標の達成

3つ目の目的は、企業内での低炭素目標の達成です。これを達成する手段としてSBTの設定やRE100への参加があります。

[1]SBTとは

SBTのイメージ

出典:環境省『SBT_syousai_all_20210810.pdf (env.go.jp)』p.5

まず、SBTとは「Science Based Targets」の略で、「パリ協定が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標」のことです。

企業はSBTに参加することで、具体的な二酸化炭素排出量の削減を明示し、持続可能な成長を遂げる企業であると世界にアピールすることで、投資適格性をアピールすることが可能です。

SBTは世界的な取り組みですが、日本企業からの参加も増加中です。現在、日本の認定企業数は世界第2位となっています。自主的な二酸化炭素削減目標は企業の経営戦略上、欠かすことができないものとなっているのです。

[2]RE100とは

RE100に参加している国別企業数グラフ (上位10の国・地域)出典:環境省20211231_ 統合版_脱炭素経営の状況 (env.go.jp)』p.0

もう一つの取組が「RE100」への参加です。RE100とは、企業が事業活動に必要な電力の100%を再生可能エネルギーでまかなうことを目指す枠組みのことです。上記の図は2021年12月31日時点でのRE100に参加している国別企業数のグラフです。この枠組みに参加を表明している日本企業の数は63社とアメリカに次ぐ世界第2位。アジアに限れば、第1位です。

SBTやRE100といった国際的な二酸化炭素削減の枠組みに参加することで、各企業は低炭素目標を達成しようとしているのです。

3. インターナルカーボンプライシングの導入状況

出典:環境省『インターナル・カーボンプライシングについて』(p4)(2021/4/2)

インターナルカーボンプライシングを導入する企業は増加傾向にあります。2015年にインターナルカーボンプライシングを導入していた企業数は435社。それが5年後の2020年になると854社とほぼ倍増しています。また、2年以内に導入と回答した企業も583社から1159社とこちらもほぼ倍増です。

実は、日本はインターナルカーボンプライシングの導入に積極的な国です。主要国ではアメリカに次いで2位です。気候変動が顕在化し、カーボンニュートラルが推し進められていることから考えると、こうした流れはさらに加速すると予測できます。

4. インターナルカーボンプライシングの事例

(1)Microsoft

Microsoft社では、二酸化炭素1トン当たり1,575円のインターナルカーボンプライシングを設定。各部門の二酸化炭素排出量を割り出し、排出量に応じた資金を収集しています。集められた資金は低炭素投資の促進に使われます。

インターナルカーボンプライシングは低炭素投資の資金を集めると同時に社員の意識を変えるきっかけとなっています。集められた資金の一部は低炭素技術の開発に回され、さらなるイノベーションの創出に活用されます。

出典:環境省『Strategy』(p42)(2020/3)

(2)アステラス製薬

アステラス製薬では、二酸化炭素1トン当たり100,000円のインターナルカーボンプライシングを設定しました。このインターナルカーボンプライシングはアステラス製薬が投資する際の判断基準として用いられます。

もし、二酸化炭素削減のコストが100,000円を下回る場合、投資判断が実施に大きく傾きます。しかし、100,000円を上回る場合は、投資を見送る判断材料となるでしょう。

もちろん、これだけが投資判断の基準ではありませんが、インターナルカーボンプライシングの価格が投資判断に影響を及ぼすことは確かです。

出典:環境省『Strategy』(p42)(2020/3)

5. まとめ:インターナルカーボンプライシングを取り入れ、低炭素社会に適応しよう!

インターナルカーボンプライシングは低炭素社会を実現するための新しい試みです。日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを宣言。低炭素社会実現に向けて大きく舵を切りました。

こうした動きは中小企業にとっても他人事ではありません。政府は二酸化炭素排出に対し、今まで以上に規制を強化するでしょう。

今後、企業は取引相手や顧客から、どれだけ低炭素社会実現のための努力をしているかが問われる時代なります。インターナルカーボンプライシングは自社の低炭素対応を促進するため取り組むべき行動となるでしょう。

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