ネガティブスクリーニング、ポジティブ スクリーニングとは?

ESG投資におけるネガティブスクリーニングとポジティブスクリーニングについて、わかりやすく解説します。ESG投資にはさまざまな手法がありますが、ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングもそのひとつです。ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングについて理解を深めることで、ESG投資を行う投資家の関心事や着眼点を知ることができます。

本記事ではネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングの概要や現状、実際にESG投資でそれらの手法を用いている企業の事例を取り上げます。

目次

  1. ネガティブ/ポジティブスクリーニングとは

  2. ネガティブ/ポジティブスクリーニングの現状

  3. ネガティブ/ポジティブスクリーニングに関する企業事例

  4. まとめ:ネガティブ/ポジティブスクリーニングについて理解し、ESG投資対策をしよう!

1.ネガティブ/ポジティブスクリーニングとは

ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングは、それぞれESG投資における手法の一種です。ネガティブ・ポジティブスクリーニングの概要を解説します。

ネガティブスクリーニングとは

ネガティブスクリーニングとは、投資先の選定にあたって特定の業種や企業を投資先候補から除外するという投資戦略です。たとえば特定のESG基準に基づき、企業の業種、事業内容、ガバナンスなどに課題が認められる場合は投資を行わないというものです。米国では1920年代から行われていました。

出典:金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書」p4,41(2023/6/30)

ポジティブスクリーニングとは

ポジティブスクリーニングとは、環境などの分野で先進的な企業を投資先として選別する投資戦略で、1990年代から行われるようになりました。たとえばESG視点から特に評価の高い業種や企業を、投資先候補とするというものです。ポジティブスクリーニングでは高いリターンを期待して、そのような企業への投資が行われます。

出典:金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書」p4,41(2023/6/30)

ESG投資とは

ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮した事業活動のことを言い、ESG投資とは社会課題や環境課題へ配慮した投資のことを指します。ESG投資では、企業のESGへの取り組みを評価し、投資判断に反映させます。ESG投資は経済や金融活動の基盤強化やリスクの低減に寄与し、経済全体の持続性を向上させるとされており、世界的に拡大傾向にあります。

ESG投資について詳しく知りたい方はこちら:ESG投資とは?7種類の手法を解説

出典:金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書」p1(2023/6/30)

出典:内閣府「ESGの概要」

ESG投資の手法

ESG投資の手法には、ネガティブスクリーニングとポジティブスクリーニング以外にも、以下のようなものがあります。

国際規範によるスクリーニング

「OECD多国籍企業行動指針」など、国際規範に違反した企業を投資対象から除外する

ESG インテグレーション

投資プロセスにESG要素を加味して、投資先を選択する

サステナビリティ・テーマ投資

気候変動、省エネ、水資源などESGの特定のテーマを投資の対象とする

インパクト投資

環境問題や社会問題などを解決することを目的とした投資

エンゲージメント

株主が対話を通じて企業へESGへの取組みを求める

このようにESG投資には、さまざまなアプローチがあります。

出典:内閣府「平成27年度 女性活躍情報を中心とした非財務情報の投資における活用状況調査_第1章 ESG 投資の概要に関する調査」p6-7

2.ネガティブ/ポジティブスクリーニングの現状

ESG投資は拡大傾向にあります。その中での、ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングの現状について解説します。

ESG投資の伸展

ESG投資を推進している国際機関PRI(責任投資原則)は、2006年の発足以来署名(参加)機関数と運用資産総額を伸ばしてきています。2021年4月時点で署名機関数は3,500を超え、運用資産総額は約120兆米ドルに達しており、10年前と比較するとそれぞれ5~6倍の規模です。

出典:PRI「責任投資原則」p5

ネガティブ/ポジティブスクリーニングによる投資の状況

ESG投資を促進している国際機関である世界持続的投資連合の「サステナブル投資白書2020」によれば、2020年度のESG投資戦略において、ネガティブスクリーニングの投資額は約15.9兆米ドルで、ESGインテグレーションに次いで2番目に多く用いられています。

2018年度の集計ではネガティブスクリーニングが最も一般的なESG投資手法でしたが、その後特に日本においてESGインテグレーションへのシフトが進みました。ポジティブスクリーニングは2020年度において1.39兆米ドルで、インパクト投資に次いで2番目に少ない金額となっています。

出典:GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT ALLIANCE「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」p11

ネガティブスクリーニングの特徴と課題

ネガティブスクリーニングは、初期のESG投資に提供された最初の戦略であり、古くから行われてきました。たとえば1970~80年代に行われた南アフリカに対する不投資運動はアパルトヘイトの廃止につながった、ネガティブスクリーニングの成功例です。

しかしネガティブスクリーニングは投資対象を狭めるだけで、必ずしも高い投資効果を期待できるとは限らないため、投資家にとって長期的なリターンを損ねてしまう可能性があります。

出典:内閣府「平成27年度 女性活躍情報を中心とした非財務情報の投資における活用状況調査_第1章 ESG 投資の概要に関する調査」p7

ポジティブスクリーニングの特徴と課題

ポジティブスクリーニングには、投資家がESGの取組みへ積極的な企業を投資対象とすることで、サステナビリティに関するリスクを低減できるというメリットがあります。しかしその一方で、ポジティブスクリーニングに用いられる企業のESGデータ開示が不十分で、開示された情報のみで評価することが困難な場合もあります。

出典:UBS「長期的な価値の創造」p3-4

出典:年金積立金管理独立行政法人「ESG投資の深化と拡大」p9(2019/2/28)

3.ネガティブ/ポジティブスクリーニングに関する企業事例

多くの機関投資家が、ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングを実際に活用しています。日本企業の事例をご紹介します。

株式会社かんぽ生命

株式会社かんぽ生命は、ESG投資の手法のひとつとして、ネガティブスクリーニングも行っています。具体的には非人道的兵器を製造する企業と、石炭火力発電に係る新規のプロジェクトファイナンスへの投資を行わないこととしています。その目的は持続可能な社会の実現や、サステナビリティ課題の解決です。

出典:株式会社かんぽ生命「ESG投資の手法・投資事例」

住友生命相互会社

住友生命相互会社は、ESG投融資の手法のひとつとして、ネガティブスクリーニングを取り入れています。具体的には、児童労働、強制労働、人身取引を引き起こした企業、生物・化学兵器、核兵器などを製造する企業、石炭・石油・ガス関連事業への投融資を禁止しています。ただし石炭・石油・ガス関連事業については、脱炭素化に資する事業と判断された場合は例外を認めています。

出典:住友生命相互会社「サステナビリティを考慮した資産運用」

三井住友フィナンシャルグループ株式会社

三井住友フィナンシャルグループ株式会社では、責任ある機関投資家として運用パフォーマンスの提供とサステナブルな社会の実現のため、運用プロセスへESG要素を組み込んでいます。

その中のひとつとしてポジティブスクリーニングを実施しています。ポジティブスクリーニング、ESG(サステナビリティ)テーマ型投資、インパクト投資の3つで構成される「ESGプロダクト」の2022年3月末運用残高は5,579億円となっています。

出典:三井住友フィナンシャルグループ株式会社「サステナブルソリューション」

4.まとめ:ネガティブ/ポジティブスクリーニングについて理解し、ESG投資対策をしよう!

ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングは、ESG投資におけるさまざまな手法のなかのひとつです。ESG投資は今後も拡大していく可能性があり、事業資金を調達する企業の皆さまは、ESG投資に関しても研究しておく必要があるでしょう。

ネガティブスクリーニングやポジティブスクリーニングなどの手法についても十分理解し、ESG投資対策をしましょう。

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