エンボディ-ドカーボン(エンボディドカーボン)とは?日本企業の取組事例も紹介

建築物に関連して排出されるCO2「エンボディードカーボン(エンボディドカーボン)について、わかりやすく解説します。地球温暖化や気候変動の原因となるCO2排出量の削減は、いまや国際的な課題です。建築物に関しても、その使用におけるエネルギー消費などだけではなく、施工・維持・解体などについても環境への配慮が求められます。本記事ではその中でも重要な概念となるエンボディードカーボンについて、概要や削減のポイント、日本企業の関連事例などをご紹介します。

目次

  1. エンボディードカーボンの概要

  2. エンボディードカーボン削減のポイント

  3. エンボディードカーボン削減に関する日本企業の事例

  4. まとめ:エンボディードカーボンを削減し、脱炭素社会を実現しよう!

1.エンボディードカーボンの概要

エンボディードカーボンは建築物からのCO2排出量を考えるうえで、欠かすことのできない概念です。エンボディードカーボンの概要について解説します。

建築物におけるCO2の全体像

従来は建築物から排出されるCO2は、建築物の使用、すなわち光熱エネルギーや水の消費に関する排出のみが削減のターゲットとされていました。しかし近年では、建築物のライフサイクル(建築から解体までのプロセス)全体を通じたCO2削減についての議論が進んでいます。建築物のライフサイクル全体のCO2をライフサイクルカーボン(ホールライフカーボン)、使用における光熱水消費に伴うCO2をオペレーショナルカーボン、オペレーショナルカーボン以外のCO2をエンボディードカーボンと言い、エンボディードカーボンの中でも使用前の製造・施工段階のCO2をアップフロントカーボンと言います。ライフサイクルカーボンの範囲

出典:国土交通省「ライフサイクルカーボンの算定手法の構築」
出典:脱炭素ポータル「【有識者に聞く】ZEBをはじめとする省エネ建築物の必要性とそのメリット」(2024/3/19)

エンボディードカーボン削減の重要性

建築物のライフサイクル全体を評価することは、CO2削減を考えるうえで重要なポイントです。日本においては典型的なビルにおけるエンボディードカーボン排出量は、ライフサイクルカーボンの中で25%程度で、オペレーショナルカーボンが75%を占めています。しかし再生可能エネルギーの導入が進んだヨーロッパではこの割合が逆転しているため、さらなるCO2削減に向けたアップフロントカーボン規制の動きが拡大しています。日本でも今後再生可能エネルギー導入が進んだ場合エンボディードカーボンの比率が高くなり、建築・改修・解体などにおけるCO2削減をより求められることが予想されます。

出典:脱炭素ポータル「【有識者に聞く】ZEBをはじめとする省エネ建築物の必要性とそのメリット」(2024/3/19)

2.エンボディードカーボン削減のポイント

ホールライフカーボンへの対策は、省エネだけではありません。エンボディードカーボン削減のポイントについて解説します。

エンボディードカーボン排出量の算定

エンボディードカーボンを削減するにあたっては、まずそもそも排出量の算定が必要です。日本においては産官学連携で発足した「ゼロカーボンビル推進会議」にて、エンボディードカーボンを含むホールライフカーボンの算定ツールの開発や建材等に係るCO2排出量の原単位(経済活動量1単位あたりのCO2排出量)整備が、関係組織と連携して進められています。エンボディードカーボン算定システム構築は大規模で複雑なものになるため、段階的に精度を上げていくことが企図されています。

出典:一般財団法人住宅・建築SDG's推進センター 一般社団法人日本サステナブル建築協会「ゼロカーボンビル推進会議ホールライフカーボン基本問題検討WG資料」p1-2(2024/6)

エンボディードカーボンを抑制する工夫

エンボディードカーボンを削減するためには、さまざまな工夫が必要です。たとえば、以下のようなエンボディードカーボン対策が考えられます。

・新築ではなく再利用や改修で対応する
・効率的に建築する
・リサイクル品の活用
・分解しやすい設計にあらかじめしておく
・低炭素な材料を使用する
・材料に使用を最小限に抑える

これらの取り組みは、個々の効果は大きくないかもしれませんが、全体では大きな削減につながる可能性があります。

出典:WBCSD「Net-zero buildings Halving construction emissions today」p7(2023/1/31)

建築物の長寿命化

エンボディードカーボン削減には、建築物の長寿命化も効果的です。建物の建て替え回数を減らすことで、解体で発生するCO2が削減されます。環境に優しくかつ長寿命な建築物の普及を推進することによって、地球温暖化防止に貢献できると考えられます。

出典:環境省「LCCM住宅の展開~LCCM住宅の基本的考え方~」p34
出典:一般社団法人日本免震構造協会「日本免震構造協会SDGへの取り組み」

3.エンボディードカーボン削減に関する日本企業の事例

建築物のライフサイクル全体でCO2排出を抑制しようという動向が、広がりを見せています。エンボディードカーボンの削減に関する、日本企業の取組をご紹介します。

大成建設株式会社

大成建設株式会社は、建築物に使用する建材や設備の製造・調達・施工におけるCO2排出量を高精度で算出できる「T-CARBON BIMシミュレーター」という予測システムを開発しました。建材の種類が多いとアップフロントカーボンの算出は困難なものとなりますが、同システムでは短時間でこれを予想することができます。同社ではこのシステムを活用し、エンボディードカーボン削減の取り組みを進めることとしています。

出典:大成建設株式会社「BIMを用いた建築物新築時CO2排出量予測システム「T-CARBON BIMシミュレーター」を開発」(2023/12/15)

住友林業株式会社

住友林業株式会社は、フィンランドのOne Click LCA社と、建物のCO2排出量等を算定するソフトウェア「One Click LCA」の日本単独代理店契約を締結しました。欧州各国ではエンボディード・カーボンの見える化が進んでおり、環境負荷の少ない建物が選択される事例が増えています。同社は不動産業界団体等に働きかけ、「One Click LCA」を通じたエンボディード・カーボン算定の基盤構築を目指すこととしています。

出典:住友林業株式会社「建物のCO2排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す」(2022/1/27)

株式会社ローソン

株式会社ローソンは、閉店したローソン店舗の屋根・壁・柱などの建物建材を新店舗に再利用する取り組みを開始しています。閉店した店舗の躯体や外壁部分に使用されている建材を重量ベースで約9割再利用することによって、エンボディード・カーボンが通常店舗と比較して約6割削減されると見込んでいます。同社は多くの店舗をオープンする企業として、エンボディード・カーボンの削減が、サステナブルな街づくりの為に重要な施策と捉えています。

出典:株式会社ローソン「<参考資料>建物建材の9割を再利用し、CO2排出量6割削減」(2023/11/15)

4.まとめ:エンボディードカーボンを削減し、脱炭素社会を実現しよう!

建築物におけるCO2削減は、従来は省エネなどによるオペレーショナルカーボンにスポットライトが当たっていましたが、今後欧州などにならって、エンボディードカーボンの削減についてもクローズアップされることは間違いないでしょう。エンボディードカーボンの削減に取り組むことは、地球温暖化対策への貢献になるのはもちろんのこと、環境への意識が高い投資家・不動産オーナー・建物の利用者などにも大きなアピールポイントになっていくものと思われます。エンボディードカーボンを削減し、サステナブルな街と脱炭素社会を実現しましょう。

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