石油業界が掲げている温室効果ガスの削減目標について解説

石油業界は世界中の発電エネルギーに貢献しています。一方で、大手石油会社50社だけでも年間42億トン、世界の約8.4%もの二酸化炭素を排出していると言われており、その排出量の多さが問題視されています。

それを受けて、石油業界に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目的としたネットゼロ目標が掲げられました。その目標に対して石油業界はどのような取り組みを進めているのでしょうか。

この記事では、ネットゼロ目標の概要と石油業界における今後の課題、それに対する取り組みについてまとめています。 

目次

  1. ネットゼロ、ネットゼロ目標とは?

  2. 日本の石油業界の課題と方向性

  3. 世界の石油業界の課題と方向性

  4. 石油会社大手3社の目標

  5. まとめ:ネットゼロを理解した上で、石油業界の取り組みを見習おう!

1. ネットゼロ、ネットゼロ目標とは?

石油業界が掲げているネットゼロ目標の概要とその狙いについて解説しています。

(1)ネットゼロとは?

ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを指します。これは、排出量を削減し、どうしても削減しきれず残った排出量を、植林やCO2回収技術で吸収し相殺することです。「排出量実質ゼロ」や「カーボンニュートラル」とも呼ばれています。

2021年のCOP26では、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える「1.5℃目標」が採択され、2050年までにネットゼロ達成が必要とされています。多くの国と企業がネットゼロを宣言し、国際組織「SBTイニシアチブ」が科学的根拠に基づいた目標設定を支援し、認証を行っています。これにより、ネットゼロ宣言が実効性を持つよう促されています。

出典:日経ESG『ネットゼロ』(2022/5/30)

(2)ネットゼロ目標の狙い

ネットゼロ目標とは、企業が温室効果ガス(GHG)の排出量を削減し、最終的にゼロに近づけるための目標で、この目標には主に4つの論点があります。

  • 目標対象年

一般的には「2050年」が目標とされていますが、より早く、「2040年」に目標を達成する動きもあります。

  • 対象範囲

GHGの排出範囲には差異があり、自社活動(Scope1・2)だけでなく、サプライチェーン(Scope3)まで考慮する企業もいます。

  • 削減水準

ネットゼロは温室効果ガスの「削減」と「除去」の組み合わせで達成されます。ただし、どちらに重点を置くかは企業によって異なり、この比率について明確なガイドラインは多くありません。

  • 実質ゼロ化の手段

温室効果ガスの「除去」には自然ベースの手段(植林など)と技術ベースの手段があります。また、炭素クレジット(温室効果ガスの排出量を企業間で売買できる仕組み)の使用も一つの手段とされていますが、その認められる範囲には議論があります。

出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ 『企業に求められるネットゼロ目標とは?』p.3p.4

出典:SMBC日興証券『はじめてでもわかりやすい用語集 カーボンクレジット』

2. 日本の石油業界の課題と方向性

日本の石油業界では、どのようなビジョンがあり、取り組みを行っているのかについて解説します。

(1)石油業界のビジョン

石油連盟(Petroleum Association of Japan)は、石油製品の全国的な販売を行っている企業の団体として創立された、11社の会員会社です。

石油連盟は、2021年3月に、事業活動に伴うCO2(いわゆる Scope1と2)の排出量の実質ゼロ、即ち「カーボンニュートラル」を目指した『石油業界のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)』を策定し、他にもCO2フリー水素や合成燃料、CCU(カーボンリサイクル)などの「革新的技術開発」に挑戦するアクションプランを策定しました。

さらに 2022年12 月には、事業活動に伴うCO2 排出の実質ゼロを目指すとともに、供給する製品に伴うCO2排出(Scope3)の実質ゼロにもチャレンジすることを定めたビジョンへ改定しています。

出典:石油連盟『2050 年カーボンニュートラルに向けた石油業界のビジョン(基本方針等)』p.1

出典:石油連盟『石油連盟について』

(2)石油業界の取り組み

石油各社では、目標に掲げている省エネ対策量の取り組みのみならず、オフィスについても積極的に省エネルギー対策に取り組んでおり、特に、東日本大震災以降、クールビズ・ウォームビズ期間の延長、照明の間引きやLED照明への切り替え等の節電対策を強化しています。

会社での取り組み

  • 空調温度管理の徹底(夏期28℃・冬期20℃への設定等)

  • 高効率ボイラー等、省エネルギー機器の採用

  • 最新省エネ型OA機器の導入

  • エレベーター運行台数削減

  • 最適化配置等による床面積の削減

  • クールビズ・ウォームビズの実施拡大、期間延長

陸上輸送の効率化対策

  • 油槽所の共同化、製品融通(バーター)による総輸送距離の削減

  • タンクローリーの大型化

  • 給油所の協力を受けた計画配送の推進

  • 給油所地下タンクの大型化等による配送の効率化

  • 夜間・休日配送の推進(交通渋滞による燃費悪化防止)

  • 高い積載率の維持

海上輸送の効率化対策

  • 油槽所の共同化に伴う共同配船による総輸送距離の削減

  • 内航タンカーの大型化

出典:石油連盟『2050 年カーボンニュートラルに向けた石油業界のビジョン(基本方針等)』p.14p.17

3. 世界の石油業界の課題と方向性

(1)世界のエネルギー・石油事情

世界のエネルギー消費量は経済成長と共に増加しており、特にアジア大洋州地域の新興国が消費量の伸びをけん引しています。一方で、OECD諸国ではエネルギー消費量の伸び率は鈍化しています。これは経済成長率や人口増加率が低いこと、産業構造の変化や省エネルギーの進展が影響しています。

エネルギー源別に見ると、石油は依然として最も大きなシェアを占めていますが、再生可能エネルギーの比率も徐々に増加しています。特に太陽光発電や風力発電のコストが低下しており、今後の拡大が期待されています。

温暖化対策として、多くの国が積極的に取り組んでおり、パリ協定の目標達成に向けてエネルギーの選択に大きな影響を及ぼしています。しかし、トランプ政権下の米国が一時的にパリ協定から脱退したことや、その後のバイデン政権下での復帰など、政治的な動向もエネルギー事情に影響を与えています。

将来のエネルギー需要については、IEAのシナリオ分析により、公表政策シナリオと持続可能開発シナリオの二つのケースで予測されています。公表政策シナリオでは、現在発表されている各国の政策目標が達成されると仮定していますが、持続可能開発シナリオでは、より強い脱炭素政策が実施されることを想定しています。これらのシナリオ分析を通じて、将来のエネルギー事情を予測し、より良いエネルギーの在り方を考えていくことが重要です。

出典:経済産業省『第1節 エネルギー需給の概要等』

(2)世界のエネルギー・石油事情の課題

2022年以降、エネルギー資源価格の高騰が世界的な課題となっています。特に原油、ガス、石炭の市場は大きな変動を見せており、エネルギー安全保障と脱炭素化の両立が求められています。

原油市場ではOPECプラスによる追加減産が行われ、産油国の地政学的な動きが注目されています。ガス市場では欧州のガス危機が発生し、供給不足と価格高騰が問題となっています。日本ではエネルギー安全保障の強化と脱炭素化に向けた政策課題が存在し、具体的な取り組みが求められています。

また、環境保全の取り組みによって石油業界は変化を迫られています。石油含め化石燃料は、その利用と精製の過程で多くのCO2を排出せざるおえません。実際、大手石油会社50社では年間42億トン、世界の約8.4%もの二酸化炭素を排出していると言われています。

経済産業省や環境省、金融庁を始めとする各官庁ではエネルギー転換政策としてトランジションファイナンスを進めており、これによる投資家の石油業界離れが進んでいます。対策として、石油業界の中でも精製過程のCO2排出量の削減が進んでいます。

出典:Keidanren『国際エネルギー情勢の展望と課題』(2023/9/7)

出典:経済産業省『「トランジションファイナンス」に関する 石油分野におけるロードマップ』

出典:石油連盟『環境への取り組み』

4. 石油会社大手3社の目標

これらの現状を踏まえ、石油会社3社がどのようなネットゼロ目標を掲げているのか?どのような取り組みを行っているのかについて、解説します。

(1)サウジアラビアの石油会社Aramcoの目標と取り組み

サウジアラビアの石油会社Aramcoは、2050年までに自社が運営する資産におけるScope1とScope2の温室効果ガス(GHG)排出をネットゼロにするという目標を設定しています。また、中期的な目標として、2035年までに通常業務による排出量に対して5200万メトリックトンのCO2e(二酸化炭素当量)を削減するというものも同時に掲げています。

現状の排出量は、2022年において、AramcoのScope1排出量は52.3から55.7百万メトリックトンのCO2eに増加し、Scope2排出量も15.5から16.1百万メトリックトンのCO2eに増加しました。しかし、同社の上流部門(採掘など)の炭素強度は前年比で3.7%減少し、主要な石油生産国の中でも最も低い水準にあります。

Aramcoは、新旧の石炭およびガス火力発電所、産業プロセス、その他のCO2の定常的な排出源からのCO2排出を削減するための炭素捕捉・貯蔵(CCS)技術に投資しています。また、絶対的なCO2/GHG排出量を現在の排出レベルに対して削減するプロジェクトも実施しています。

出典:オフショアテクノロジー『サウジアラビア石油のネットゼロへの道:排出削減と成果の分析』

(2)テキサス州 エクソンモービルの目標と取り組み

エクソンモービルは、2050年までにScope1およびScope2の排出削減に焦点を当て、運用資産の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目標にしています。

具体的な取り組みとしては、主要な運用資産に対する詳細な排出削減ロードマップを策定し、IPCCやIEAを含むネットゼロシナリオに対する企業戦略をテストする予定です。さらに、パーミアン盆地の事業を含む低排出ソリューションへの継続的な投資も行う予定です。

出典:エクソンモービル『エクソンモービル、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロの目標を発表』(2022/1/18)

(3)カリフォルニア州 ジェブロンの目標と取り組み

ジェブロン(Chevron Corporation)は、2050年までに上流部門(探査・生産)のScope1(直接排出)とScope2(間接排出)に関するネットゼロ排出を目指しています。さらに、Scope3(製品の使用による排出)も含めた新しい「ポートフォリオ・カーボン・インテンシティ(PCI)」目標を設定しています。

また、企業間での透明な炭素会計と比較を可能にするPCI目標を設定すると共に、多くのステークホルダーと協力して低炭素未来に向けて努力するとしています。

出典:chevron『シェブロンはネットゼロ目標と新たな温室効果ガス強度目標を設定』

5. まとめ:ネットゼロを理解した上で、石油業界の取り組みを見習おう!

この記事で述べたように、石油業界は企業・国単位で、ネットゼロに取り組んでいます。また、上述した通り、空調温度管理の徹底、エレベーター運行台数削減など、身近に出来ることも多くあります。

石油は出勤や出張等の人の移動で消費されるほど身近な存在です。個人での努力はもちろん、企業単位で消費量を見直し、出来ることから地球温暖化削減に取り組んでいきましょう。

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