電気自動車の普及で懸念されるレアアース不足、日本はどう対応する?

電気自動車を含む電動車の開発にはレアアースが欠かせません。レアアースとはいったいどのような物質なのでしょうか。今回はレアアースやレアメタルの用途、レアアース確保に向けた政府の取り組み、レアアースを含む重要鉱物をめぐる各国政府の対応についてまとめます。

目次

  1. 電気自動車普及の鍵を握るレアアースとは?

  2. レアアース等確保に向けた日本の鉱物資源政策

  3. 重要鉱物をめぐる各国政府の動向

  4. まとめ:レアアース調達の多角化やリサイクルで環境変化に備えよう

1. 電気自動車普及の鍵を握るレアアースとは?

電気自動車を含む電動車(xEV)普及のカギを握っているのが希少鉱物であるレアアースです。ここでは、レアアースの定義や用途、電動車の普及に必要なレアアースなどについてまとめます。

レアアースの定義

金属は大きく分けて鉄と非鉄金属に分けられます。非鉄金属のうち、銅や亜鉛、鉛、アルミニウムといった生産量が多く、様々な材料に加工される金属をベースメタルといいます。

一方、存在する量が少ない、あるいは大量に存在していても精錬が難しく生産量が少ない金属をレアメタルといいます。なかでも、希土類とよばれる17の元素は「レアアース」とよばれ入手が困難な金属となっています。

出典:外務省『わかる!国際情勢 金属鉱物資源をめぐる外交的取組~ベースメタルとレアメタルの安定確保に向けて』

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/5)(p23)

日本はレアアースの60%以上を中国からの輸入に依存しています。資源エネルギー庁は高性能モーター磁石用ネオジムに使用するレアアースは需要量と供給量がほぼ「需給均衡」の状態が続くとし、常に供給不安があると指摘しています。

レアメタル・レアアースの用途

レアメタルやレアアースはどのように使われているのでしょうか。

レアアースの主な用途

出典:経済産業省『レアアース希土類』

レアアースは電気自動車をはじめとする次世代自動車やパソコン、携帯電話(スマートフォン)、デジタルカメラ、テレビといった製品に使用されています。

特に次世代自動車ではレアアース磁石を用いた小型モータ、液晶画面の材料、排気ガス浄化装置の材料として利用されています。

電動車(xEV)に必要な主な鉱物資源

電動車(xEV)に必要な主な鉱物資源

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p17)

電気自動車やハイブリッド車を含む車両は電動車(xEV)とよばれます。電動車にはリチウムやニッケル、コバルトといったレアメタルやレアアースの一種であるネオジムが使用されています。

しかし、レアメタルやレアアースは国内でほとんど算出せず輸入に依存しています。電動車を安定的に生産するにはレアメタルやレアアースの確保が必須となるでしょう。

2. レアアース等確保にむけた日本の鉱物資源政策

日本国内で産出しないレアアースを確保するため、日本政府・民間企業が一丸となって取り組んでいます。

カーボンニュートラル社会実現のため必要な鉱物資源

2020年10月26日、当時の菅総理大臣は所信表明演説の中で2050年までにカーボンニュートラル社会を実現すると発表しました。

カーボンニュートラルとは二酸化炭素(CO2)の排出量と削減・吸収量を等しくすることで事実上、二酸化炭素の排出をゼロにすることです。

カーボンニュートラル社会実現のために必要な鉱物資源

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p16)

出典:環境省:脱炭素ポータル『カーボンニュートラルとは』

カーボンニュートラル実現のため、発電・蓄電・モーターなどあらゆる分野で新技術が導入されます。レアアースは風力発電や高性能磁石、燃料電池などで必要とされていて安定的な確保が急務です。

主な鉱物資源の自給率

日本で使用する金属はどのくらい自給できているのでしょうか。自給率といっても、日本国内で生産されるものはほとんどないため、日本企業が外国で確保した権益ベースでの自給率で考えると以下のとおりです。

 

鉱種別自給率出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p24)

ベースメタルでは銅や鉛、レアメタルではマンガンやニオブなどが必要量の50%近く確保できています。しかし、モリブデンやチタン、アンチモンといった物質は10%も確保できていません。

後述しますが、レアアースは主要生産国である中国の輸出管理が厳しいため権益確保が難しい状態です。

緊急時に備えた備蓄

日本の政府や企業は国際環境の変化などによる緊急事態に備え、レアメタル・レアアースなどの備蓄を行っています。政府は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて60日分の国内消費量に相当するレアメタル・レアアースを備蓄しています。また、政府はJOGMECの借り入れには政府保証を付けるなど金融面でも支援しています。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p32)

3. 重要鉱物をめぐる各国政府の動向

重要な鉱産資源について、各国政府はどのように対応しているのでしょうか。中国・アメリカ・ヨーロッパでの対応を紹介します。

中国の動向

中国政府は国内レアアース産業の管理を強化しています。1990年代まで中国産レアアースは安価に入手できました。しかし、2010年以降、中国政府はレアアースの輸出枠を大幅に削減したため、レアアース価格が高騰しました。

2020年12月、中国で輸出管理法が施行され、「中国製の規制品目を含む製品の再輸出の際に、中国域外であっても中国政府の許可を義務付け」られました。

また、2021年にレアアースに対する規制を強化するレアアース管理条例の案が公表されるなど中国政府による輸出規制が強化されています。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p7)

アメリカの動向

トランプ政権のころ、アメリカと中国の関係は悪化し互いに関税をかけあう米中貿易戦争といってもよい状態になりました。

2020年9月、トランプ政権はレアアースなどを中国に依存度が高い重要物資として言及。重要鉱物に関する調査結果や提言の報告を義務付けました。バイデン政権成立後、米エネルギー省の下に重要鉱物を確保するための「鉱物持続可能課)を新設し、重要鉱物に関する技術開発や国際連携推進を図っています。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p9)

EUの動向

環境規制が厳しいEUでは脱炭素化を推進しています。そのためにはレアメタルやレアアースの確保が欠かせません。2020年9月、欧州委員会は「重要鉱物(Critical Raw Material)に関する行動計画」を発表しました。主な内容は以下のとおりです。

  • EU域内で強靭なサプライチェーンを構築する

  • 資源の利用循環や持続可能な製品とイノベーション

  • 欧州域内からの供給

  • カナダやアフリカからの調達強化

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラル社会実現 に向けた鉱物資源政策』(2021/2/15)(p10)

4. まとめ:レアアース調達の多角化やリサイクルで環境変化に備えよう

2022年2月24日、ウクライナで戦争が起きたことにより多くの物資の供給に支障が出ています。国際環境の変化は世界的なサプライチェーンに大きな負荷をかけています。

加えて2022年3月からの記録的な円安により、輸入コストも増大しています。高性能磁石や電気自動車に用いられるレアアースは以前から調達が難しい物質でしたが、今後一層、調達困難になるかもしれません。

こうしたリスクを避けるためにはレアアースの調達先分散やリサイクルの推進が必要です。自社の事業を継続するため、国際情勢や為替に注視しつつレアアース調達の多角化やリサイクル・省資源化をすすめるべきではないでしょうか。

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