自然エネルギーを利用した電力の必要性と普及に向けた具体策

自然エネルギーの電力への活用は、パリ協定に基づく気候変動対策の一つとして、国際的な取り組みが進んでいます。しかし、そもそもなぜ自然エネルギーが必要なのか、脱炭素社会の実現のためにはどれだけの自然エネルギーが必要なのか、様々な点で疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。今回はそれらの疑問に応えるべく、世界と比較した日本の実情・課題についてお伝えします。

目次

  1. 自然エネルギー活用した電力の必要性について
  2. 気候変動対策のための自然エネルギーの利用
  3. 脱炭素社会をつくる上での自然電力確保の必要性
  4. 気候変動対策とエネルギー自給率向上の両面での自然エネルギー利用の必要性

1. 自然エネルギー活用した電力の必要性について

太陽光や風力などの自然エネルギーを電力に活用する事には、次のようなメリットがあります。

  • 自然エネルギーはCO2などの温室効果ガスを排出しないので、気候変動への重要な対策になる
  • 自然エネルギーは化石燃料と異なり、自然界に無限に存在するため、将来にわたって枯渇する事がない
  • 天然資源に乏しい日本では、再生可能な自然エネルギーの活用が進めば、化石燃料への依存度が下がり、エネルギー自給率を上げる事ができる

2. 気候変動対策のための自然エネルギーの利用

2015年に合意されたパリ協定によって地球温暖化による気候変動に対処するための国際的な枠組みが構築されました。

その後、2018年に気候変動政府間パネル(IPCC)による「1.5℃特別報告書」により、温暖化の進行とその影響が極めて深刻であることが公表されました。これを受けて各国は、CO2削減目標の強化策を次々と打ち出したのです。

(1)化石燃料利用の弊害と自然エネルギー

石油や石炭などの化石燃料を燃焼させると、CO2などの温室効果ガスを大量に排出します。この温室効果ガスが地球温暖化を促進させ、海水面の上昇や気候変動の要因になっている事が、様々な研究によって明らかになっています。

例えば太陽系の惑星の一つである金星は、大気の大部分が温室効果の高いCO2で構成されているため、その表面温度は役400℃にも達しています。地球がいずれ金星のようにならないためには、化石燃料に代わって、CO2を排出しない自然エネルギーの普及が必要なのです。

(2)CO2排出量削減のための自然エネルギー利用

2019年に世界気象機関(WMO)は、気候変動に関する最新の研究結果に基づき、2014年から2019年までの5年間で、世界の平均気温が、観測史上最も暑くなり、海面上昇が著しく加速している事を発表しました。

さらに、WMOはCO2の排出量が過去最高となったことが気候変動の要因であり、CO2削減の対策強化が急務だと指摘したのです。気候変動対策としてのCO2削減とその手段としての自然エネルギーの活用促進は、一刻の猶予もできない課題になっています。
参照:環境イノベーション情報機構『世界気象機関、2019年の気候状況を報告し温室効果ガスの影響を警告』国際農研『国際連合環境計画「温室効果ガス排出抑制目標ギャップ報告書」概要』

(3)エネルギー自給率向上のための自然エネルギー利用

石油などの天然資源に恵まれず、化石燃料の大部分を輸入に依存する日本は、自然エネルギーを活用する事によって、エネルギー自給率を向上させる事ができます。これにより、世界情勢に関わらずエネルギー供給と価格の安定性を確保する事ができるようになるため、エネルギー安全保障の観点からも自然エネルギーの利用は重要な課題なのです。

(4)自然エネルギー活用の具体例

2009年に制定された「エネルギー供給構造高度化法」に基づく再生可能な自然エネルギー源の具体例として、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱があげられています。こうした再生可能な自然エネルギーが電力源に占める割合は徐々に増加し、2019年時点では全体の21.2%を占めるようになっています。


出典:資源エネルギー庁『2019年度電力調査統計表』を元にアスエネが作成

そのうち、水力が最大の8.9%を占めており、太陽光はそれに次ぐ7.5%です。しかし水力はダムの立地条件の制約や、ダム建設に必要な多額のコスト、周囲の環境破壊、風力は生息する鳥類への保護などの環境対策、設備機器に関する安全対策、バイオマスはコストに加えて森林破壊や食糧確保との競合問題など、それぞれ克服が難しい課題を抱えています。

それに対し、太陽光発電は広い土地や多額の設置コストは必要なく、家庭や法人でも取り組みやすい自然エネルギーとして期待され、普及が進みつつあります。しかし太陽光も、昼間のみしか発電できない、バイオマスなどと比べ安定的に電力を供給できないなどの課題が残ります。

(5)自然エネルギー普及の課題と解決策

自然エネルギーの普及には、発電コストを下げて利用しやすくする事が重要になります。しかし、2018年の資源エネルギー庁の調査によれば、日本における太陽光発電のコストは世界平均の約2倍であり、国内火力と比べても2倍以上の発電コストを要しています。

日本で太陽光発電のコストが高いのは、発電設備の設置に適した平野部が少ないという地理的な制約もありますが、日本で販売されている太陽光パネルの価格が世界平均の約1.5倍、さらにパネルを設置する工事費も約1.5~2倍になっている事も要因であると指摘されています。


日欧の太陽光発電(非住宅)システム費用比較。出典:資源エネルギー庁『再エネのコストを考える』

これは日本の太陽光普及が遅れており、コストを下げられるだけの研究開発・生産量が充分でなかったことが大きな原因です。2021年1月現在では菅総理の発言もあり、国をあげての再エネ普及が加速されているため、近い将来発電コストの削減に結びつき、自然エネルギーの普及に寄与すると期待されています。

3. 脱炭素社会をつくる上での自然電力確保の必要性

(1)脱炭素と化石賞を与えられた日本の実情

2020年9月に世界120カ国の環境団体で構成されるNGO気候行動ネットワーク(CAN)は日本など3カ国に対して、地球温暖化対策に消極的だとして「化石賞」を贈ると発表しました。日本が化石賞を贈られたのは2回目ですが、世界中がCO2削減による地球温暖化対策への取り組みを強化する中での「受賞」は、非常に不名誉な事と言えるでしょう。

今回の受賞理由は、日本政府がCO2の排出量が極めて高く、温暖化を悪化させるとみなされている「石炭火力発電」の利用を続ける方針を示したためでした。

しかしながら、太陽光を始めとする自然エネルギーは季節や天候によって発電量が左右され、供給の安定性確保の点で課題があります。さらに2011年の福島原発事故の影響により、原発の発電量が大きく減少したため、現状では、安定的な電力供給が見込める火力発電が欠かせなくなっているのです。

(2)火力発電脱却の必要性と重要性

火力発電の大きな燃料源である石炭は、成分の大半が炭素であり、石油や天然ガスと比べても大量のCO2を排出します。さらに日本では石炭にかかる税金が安く、石炭火力発電がコスト面で有利であることが諸外国から問題視されています。

石油や天然ガスよりコストが安いため、石炭の使用が減少せず、結果的にCO2の排出削減も進まないという事態に陥っているのです。日本が化石賞を与えられたのも、この点が指摘されたからであり、国際社会が日本に向ける視線は厳しさを増しています。

火力発電から脱却し、自然エネルギー活用へシフトする事は、もはや避ける事ができない国家的課題となっています。

(3)火力発電脱却の具体例

火力発電からの脱却を促し、自然エネルギーの利用促進を図るためには、何らかのインセンティブを導入する事が必要でしょう。その一つとして検討が進められているのが、カーボンプライシング(炭素税)です。

カーボンプライシング(炭素税)は、燃料価格とCO2の排出量のアンバランスを是正するため、CO2排出量に応じてコストを負担することでCO2排出削減を目指すという考え方に基づいており、欧州の一部では既に導入されています。

日本でも2021年からの導入が検討されていましたが、新型コロナウイルスのパンデミックにより、現時点では導入時期などが不透明になっています。

(4)火力発電脱却の課題

先述しましたが、太陽光や風力は自然エネルギーは天候などの条件に左右されやすく安定的な供給が難しいという問題があります。平野部が少ない日本には、太陽光パネルが設置可能な土地には限りがあり、さらに海上での風力発電についても、コストや技術面の課題から、現状では目立った成果は得られていません。

現状を打破するためには、技術的なブレークスルーとともに商業ベースで事業を成立させるための政策的な支援が必要になるでしょう。

(5)火力発電脱却のための具体策

自然エネルギーの普及策として既に導入されているのが、2012年に制定された、固定価格買い取り制度(FIT)です。

これは自然エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取るというもので、電力会社が太陽光など自然エネルギー由来の電力を買い取る費用の一部を消費者が負担し、それを発電設備の建設などにに充当して、自然エネルギーの普及を促進するのが制度の趣旨です。

ただし、この制度は自然エネルギーの普及を促す役割がある反面、発電量が不安定な太陽光発電の偏重や、国民負担の再エネ賦課金が増額される要因にもなっていると指摘されています。

4. 気候変動対策とエネルギー自給率向上の両面での自然エネルギー利用の必要性

ここまで自然エネルギーを活用した電力の必要性についてお伝えしてきました。まとめると次の事が言えるでしょう。

  • 太陽光や風力などの自然エネルギーには、CO2を排出せず、国内自給が可能で、将来も枯渇しないという優れた特長がある
  • 2020年時点で日本の自然エネルギーとして活発なのは太陽光であり、発電量に占める割合は年々増加している
  • 日本は火力発電への依存度が高く、CO2削減に消極的だと国際社会から指摘されている

こうした点を踏まえ、気候変動対策としてのCO2排出削減、さらにエネルギー自給率向上を目指す観点から、自然エネルギーの普及を促進し、化石燃料由来の火力発電からの脱却を目指す事が強く求められています。

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