新電力切り替えのメリットとデメリットは?電力自由化のポイントまとめ

どんな法人、家庭でも必ず行う電力調達。2016年の電力自由化を期に新電力に切り替えてコスト削減するところが増えている一方、デメリットが不安で、旧大手電力以外検討してこなかったという企業も多いのではないでしょうか。今回は、法人の電力担当者であれば抑えておきたい電力自由化、新電力とはなんなのか、新電力切り替えにどのようなメリット・デメリットあるのかなど、新電力切り替えの基礎知識について解説します。

目次

  1. 電力自由化の歴史と背景:全需要家が電力の購入先を選べるように
  2. 電力自由化後、急拡大を続ける新電力事業者と切り替え数
  3. 安いだけじゃない。新電力切り替えのメリットとは
  4. 選ぶのが大変?新電力切り替えのデメリットとは
  5. 電力調達の方法を見直し、新電力切り替えも検討しよう

1. 電力自由化の歴史と背景:全需要家が電力の購入先を選べるように

従来、家庭・法人に関わらず、電力は各地域の大手電力会社(計10社)からしか購入することができませんでした。どの会社から購入するか、需要家側で選択することはできなかったのです。しかし、2016年4月の小売全面自由化により、それまで各地域の大手電力会社が独占していた一般家庭も含む需要家全員が、電力会社を自由に選べるようになりました。


出典:資源エネルギー庁『電力の小売全面自由化って何?』

歴史を遡ること1937年、日本の電力会社は統括原価方式という、原価を基準としてその上に一定の報酬率を上乗せして料金を決めるやり方を採用していました。この制度は電力需要が右肩上がりで伸びた戦後復興から高度経済成長期までは理にかなった制度でした。

しかし、低成長期になると過剰な設備投資により海外に比べ料金水準が高いことが問題になりました。そのため、新規参入を認めて自由競争を促す電力自由化が段階的に実施されました。

2000年にまず契約電力2000kW以上の特別高圧の需要家が自由化の対象となりました。この自由化の際に登場した新規参入者は特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier)と名付けられ、現在「新電力」呼ばれる最初の事業者でした。

その後も自由化は段階的に拡大されていきます。2004年には契約電力500kW以上、2005年に50kW以上の高圧の需要家まで自由化されました。そして、2016年に一般家庭を含む低圧の需要家まで完全に自由化されたのです。

2. 電力自由化後、急拡大を続ける新電力事業者と切り替え数

自由化に伴い、民間で電力を取り扱う「新電力」と呼ばれる企業が増えてきました。新電力とは大手電力会社10社以外で電力の小売をおこなっている業者を指します。ガスや携帯電話とのセット販売をしている事業者や、クリーン電力を専門に取り扱っている事業者など、様々なサービス提供のかたちが生まれています。

新電力の事業者数は年々増加傾向にあり、2020年10月には登録ベースで679社の事業者が登録されています。一方で、登録をしているものの営業実態がほとんどない新電力も少なくありません。2018年7月時点では、登録した事業者の4分の1弱は電力の供給実績がありません。


出典:資源エネルギー庁『電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について』

需要家側でも、新電力は一般的に受け入れられてきました。実際に、新電力への切り替え件数は2020年8月時点で1446万件、切り替え率は16.4%と順調に伸びてきています。電力の契約種別に分けると一般家庭や小規模企業に多い「低圧」と、一般的な企業・工場等に多い「高圧」で切り替えは特に顕著に進んでいます。

新電力への切り替え件数、切り替え率推移(上図)と、契約種別の切り替え率(下図)
出典:電力・ガス取引監視等委員会『電力取引の状況』

3. 安いだけじゃない。新電力切り替えのメリットとは

次に新電力に変えることによるメリットを見ていきましょう。

1.電力調達コストが安くなる

資源エネルギー庁の発表では、新電力に切り替えることで規制料金より4%安くなると発表されています。新電力が安くなる理由としては

  1. 大規模な設備投資が必要ないこと
  2. 販管費が少額で済むこと

などが挙げられます。


出典:資源エネルギー庁『電力小売全面自由化の進捗状況』

2.CO2排出削減プランを行う電力会社も存在

現在日本においても脱炭素化を目指す取り組みが始まっています。現在日本の電源構成は火力発電が約8割となっており、CO2排出係数が高い状態です。新電力の中には再エネ電源から調達をして、環境価値を付与してCO2排出ゼロメニューを用意している事業者もあります。

CO2排出量の報告義務がある「エコアクション21」に参加する企業や、再エネ率100%を目指す国内中小企業イニシアチブ「RE Action」に加盟している企業では、現在再エネ由来の電力調達や、CO2排出係数ゼロのプランを選ぶところも増加傾向にあります。

3.電力の安定供給は大手電力会社と同様

電力自由化のポイントは電力の品質が一切変わらないということです。安定供給が心配だから変えていないという声をよく聞きますが、新電力を使おうと、旧大手電力を使おうと、供給の安定性には変化がありません。

これには電力のサプライチェーンを理解する必要があります。電力供給は「発電」「送配電」「販売」のそれぞれが事業者として存在し、新電力は「販売」を担っている事業者です。そして、安定供給に関わるのは主に「送配電」の事業者で、ここは日本で自由化はされていません。停電などの事態に関しては各地域の大手電力会社が引き続き担います。

つまり、「販売」元である電力小売事業者を新電力に変えようと、安定供給という意味では需要家側であるみなさんが被るリスクは変わらず、対処の速度も同様なのです。


出典:アスエネが作成

4. 選ぶのが大変?新電力切り替えのデメリットとは

次に、新電力に切り替えるデメリットはあるのか見ていきます。

1.会社数が多すぎて選ぶのが大変

新電力の事業者は上述のとおり、2020年10月には登録ベースで679社存在します。どの業界にも言えることですが、良心的な企業もあれば悪質な企業も存在するかもしれません。各社の違いなどわかりづらい点がある場合は、随時確認するようにしましょう。

また、電力会社もそれぞれ特徴があります。今や電力代削減は当たり前になりつつあり、追加で電力管理の支援を行ったり、再エネや地産地消の電力に特化したりと多岐にわたります。そういった意味では、自分たちと同じニーズで導入実績があり、相談にもしっかりと対応してくれる事業者を選ぶことをおすすめします。

2.電力切り替え時に違約金が発生する場合がある

高圧の需要家の場合は、解約条件をしっかりと確認しましょう。基本料金だけの良心的な業者もあれば、従量料金を含めた電力代総額と残存期間を解約金に設定している業者もあります。特に近年は再エネを導入したいというニーズが増えていますが、変えたいときに「違約金が高すぎて数年間解約できない」という事態にならないように注意しましょう。

しかし違約金に関しては大手電力会社も同様に高額なものが発生しますので、新電力ならではのデメリットというわけではありません。どの電力会社を選ぶとしても、解約条件はしっかりと確認しておきましょう。

5. 電力調達の方法を見直し、新電力切り替えも検討しよう

経済産業省エネルギー庁が2017年に発表した切り替え後の満足度ですが、新電力に切り替えた人のうち6割以上が、また大手電力のプラン内でスイッチングを行った人のうち3割程度が「満足している」と答えています。調達方法を見直した人の満足度は総じて高いのです。


出典:資源エネルギー庁『電力小売全面自由化で、何が変わったのか?』

しかし、過去に電力切り替えを行ったことのない企業では、切り替えの手続きに煩雑なイメージをもつ方も多いのではないでしょうか。実は現在、電力切り替えは非常に簡単になっています。今回は例として、大手電力会社から新電力に切り替えるまでの流れを見ていきましょう。

【契約までの流れ】

①料金シミュレーション

電力料金の見積りはどの会社も無償で行ってくれるので、ぜひ一度依頼をしてみましょう。しかし、忘れてはならないのはシミュレーションは非常に煩雑だということ。契約種別、契約電力、毎月の使用電力量など、見積りに必要な変数は多く、大手電力会社では一週間程度、早い会社でも一営業日程度確保しています。ホテル代のように、電力量これくらいだけどいくら?と聞かれてもすぐに算出できるものではないことを理解しておきましょう。

②契約意思表示

内容に問題なければ契約書の締結になります。契約書の送付をお願いしましょう。この際、既に利用していた電力会社にお客様から解約の旨を伝える必要はありません。しかし、契約種別が高圧の場合は3か月前に通知しないと違約金がとられるケースが多いので、電力の切り替えは余裕をもって検討するようにしましょう。

③契約書の締結

締結が終われば決まった供給開始日付より電力供給の開始となります。

まとめてみるとこの3ステップになります。企業によっては①と②の間に社内で稟議があるところもあると思いますが、社内で検討するにはその会社に合った具体的な資料や、担当者が説明できる状態であることが必要です。まずは気軽に、電力会社へ相談や見積依頼をしてみてはいかがでしょうか。

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