現代日本の環境問題とは?事業者がかかえる課題を解説
- 2023年12月15日
- 環境問題
20世紀後半から21世紀にかけて、全世界的に環境問題、なかでも地球温暖化対策が真剣に話し合われます。日本でも環境問題を重視するべきだとする考え方が深まり、事業者にも環境への配慮が求められる時代になりました。
こうした状況を踏まえ、国として「温室効果ガス排出ゼロ」という高い目標を定めました。これにより、事業者も目標達成のため努力することを求められます。この目標達成は単なる政府目標ではなく、企業の社会的貢献という観点からも重要視されるでしょう。
目次
- 現在の日本が抱える環境問題とは
- 地球の環境問題はなぜ起こってきたのか
- 日本の環境問題の現実化とその対策への取り組みは遅れていた
- 現在、日本で取り組まれている環境問題対策
- まとめ:日本の環境問題はこれから
1. 現在の日本が抱える環境問題とは
現在、日本を含む世界では環境問題が深刻化しています。気象庁が発表した数値によると、100年あたり0.75℃の割合で世界の気温が上昇しています。気温の上昇は洪水や台風、干ばつなどの気象災害の増加に大きくかかわっています。このまま地球温暖化が進行すれば、食糧生産に大きな打撃を与える恐れもあります。
出典:気象庁『世界の年平均気温』(2021/02/25)
1997年、京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、京都議定書が採択されました。日本は議長国として京都議定書の採択に尽力します。京都議定書では先進国に「温室効果ガスを2008年から2012年の間に1990年比で約5%削減すること」を求め、日本はこの目標を達成しました。
出典:WWFジャパン『京都議定書とは?合意内容とその後について』2010/09/14)
しかし、京都議定書では発展途上国に対する削減目標が定められませんでした。そのため、これを不服とした日本政府は2013年から2020年の削減に参加せず、温暖化に対する取り組みが後ろ向きになります。
出典:日本経済新聞『議定書を延長、日本は不参加 COP17閉幕』(2011/12/12)
政府の姿勢が転換したのは菅政権が発足してからでした。菅総理大臣は2020年10月26日の所信表明演説で、「2050年までに、温室効果ガスの排出をゼロにする」と脱炭素社会の実現を宣言しました。
出典:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース』(2020/10/26)
日本の環境問題の対策には課題も多い
令和2年版の『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』によると、2018年の日本の温室効果ガスの総排出量は前年度より3.9%減少、2013年度と比べ12%、2005年度と比べ10%と減少傾向にあります。
出典:環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第2部第1章第1節 地球温暖化対策』(2020/06/12)
二酸化炭素に代表される温室効果ガスは減少傾向にありますが、まだまだ政府がめざす「温室効果ガスの排出をゼロ」にする目標の達成には程遠い状況です。目標達成のためには、家庭部門より遥かの多くの温室効果ガスを排出している事業者の努力が必要不可欠です。
世界の環境問題への意識の高まり
世界的に見て、最も環境問題への対応が進んでいたのはEU(ヨーロッパ連合)です。1960年代以降、EUでは資源の効率化をはかり「循環型社会」に移行する動きがみられました。2015年には循環経済への移行を促進する「循環経済パッケージ」を採択します。
出典:EU MAG(駐日欧州連合代表部のウェブマガジン)『EUが取り組む「緑の未来」への投資』(2016/09/30)
また、2020年のアメリカ大統領選挙でバイデン氏が大統領に当選するとトランプ大統領が決定したパリ協定離脱を撤回。バイデン大統領は就任初日の2021年1月20日にパリ協定に復帰する文書に署名しました。
そして、バイデン政権は全世界の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにするという目標を掲げます。こうして、日本でも世界でも温室効果ガス排出量をゼロにするという方針は既定のものとなりつつあります。
2. 地球の環境問題はなぜ起こってきたのか
なぜ、地球の環境問題が起きてしまったのでしょうか?それには、人類文明の発達と利益第一主義の資本主義・企業中心主義の考え方が深くかかわっています。
先進文明が進むと同時に地球環境問題は大きくなった
かつて、人類が他の動物と同じく自然界にあるものをそのまま利用していた時には、環境問題など存在しませんでした。しかし、人々が自然のものを加工し、自然環境を人為的に変化させたことで環境破壊と呼ばれる現象が発生します。
環境破壊は産業革命によって進み、大量生産・大量消費社会の出現により一気に加速しました。いわば、文明の発達が地球環境問題を生み出し、加速させたといえるのです。
利益第一主義の企業社会が環境問題を生み出した
資本主義社会において、企業は商品を生産・販売し利益を上げることで活動を継続させます。そして、得た利益を再投資し、生産規模を増やすことでさらに利益を上げようとします。行きついた先が大量生産・大量消費でした。こうした利益第一の企業の論理が環境問題を生み出した要因の一つです。
具体的な環境問題にはどのようなものがあるか
地球温暖化問題
出典:気象庁『Japan Meteorological Agency』
地球温暖化の原因とされるのは二酸化炭素やフロンなどに代表される温室効果ガスです。温室効果ガスのうち、二酸化炭素は石油や石炭などの化石燃料の消費などで大量に大気中に放出されています。
それに拍車をかけたのが熱帯林を中心とする森林伐採です。二酸化炭素排出量が増えているにもかかわらず、それを吸収する森林が伐採され続けているのは危機的状況といえます。
フロンガスによるオゾン層の破壊
1970年代、冷蔵庫やエアコンに使用するための物質としてフロンガスが人工的に作り出されました。大気中に放出されたフロンは成層圏に達すると、太陽光に含まれる紫外線を受けることで分解、塩素を発生させます。この塩素が成層圏にあるオゾンを破壊してしまうのです。
オゾン層は太陽から放射される紫外線を防ぐ役割を果たしていました。オゾン層が破壊されると、今までよりもおおくの紫外線が地上に降り注ぐようになり、人体や動植物に多大な影響を及ぼす可能性があります。
マイクロプラスチック問題
近年注目されているのがマイクロプラスチック問題です。マイクロプラスチックとは、明確な定義はありませんが、5mm以下の微小なプラスチック粒子のことです。この粒子が海に流れ出すことで海洋を汚染していることをマイクロプラスチック問題といいます。
人間が生産したプラスチック製品(ポリ袋やペットボトルなど)が海に捨てられると、太陽光などの力によって細かく分解されます。それを魚介類などの海洋生物が餌と誤って飲み込んでしまいます。こうした魚介類を人間が食べることで、人体にマイクロプラスチックが蓄積されるのです。
人口問題 地球の人口は増え過ぎている
かねてから指摘されているのが地球の人口問題です。世界の総人口は2030年に85億人、2050年に100億人に達すると資産されました。日本を含む先進国では少子高齢化が進む一方、発展途上国、特にサハラ砂漠以南の中南アフリカでは人口が倍以上と急激に増加すると予測されています。
出典:気象庁『フロンによるオゾン層の破壊』
出典:国土交通白書2020『1 我が国を取り巻く国際環境』(2020/8/19)
人口が増加すると、食料が不足。それを解決するために農地を拡大し、森林破壊などのさらなる環境破壊を生み出す恐れがあります。
3. 日本の環境問題の現実化とその対策への取り組みは遅れていた
京都議定書の締結以来、日本は温室効果ガスの削減に努めてきました。しかし、削減はそう簡単に進んでいないのが現状です。WWF(世界自然保護基金)は日本の二酸化炭素排出量は1990年代から2000年代にかけて増加したものの、減少傾向への転換ができていないと指摘しています。
出典:WWFジャパン『日本での地球温暖化対策』(2009/09/14)
温室効果ガスの排出削減に手間取っているうちに、地球の年平均気温は〇〇度上昇し、異常気象が毎年のように繰り返されるなど、地球温暖化の影響が顕著になりました。また、プラスチックごみによる海洋汚染、いわゆるマイクロプラスチック問題など新たな環境問題も浮上しています。
2015年、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催され、気候変動を抑制するパリ協定が成立しました。日本もパリ協定に参加します。しかし、日本の安倍政権は国際社会から環境対策に後ろ向きであると批判されました。
その理由は石炭火力発電へのこだわりやパリ協定離脱を表明したトランプ政権への追従です。また、政府は長期的な見通しを明確に示すことができず、温室効果ガス削減の数値目標も提示できませんでした。
出典:日本経済新聞『世界で進む温暖化対策 日本の選択は』(2017/12/18)
こうした政府の後ろ向きの姿勢は事業者にも影響を及ぼし、欧米と比べると事業者の温暖化対策への対応が遅れ気味でした。
日本の菅政権による温暖化問題への取り組みの転換
2020年9月に成立した菅内閣はそれまでの方針を転換。2050年までに温室効果ガスをゼロにするという数値目標を掲げました。従来に比べ、政府が環境対策に積極的に取り組むことが予想されます。各事業者も安倍政権のころに比べると意識を改め、温暖化対策を企業の社会貢献の一部と位置づけなおすことが求められるでしょう。
4. 現在、日本で取り組まれている環境問題対策
菅総理の温室効果ガスゼロ表明を受け、環境省では2050年に温室効果ガスの排出量、または二酸化炭素を実質ゼロにすると宣言した自治体をゼロカーボンシティと認定しています。
出典:環境省『地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況』
石炭火力発電や自動車業界など、一部の業界は消極的な姿勢を見せていますが、政策として推進することが決まった以上、各事業者はよりいっそうの温室効果ガス削減の取り組みを求められます。
こうした観点から、大企業のみならず中小企業においてもよりいっそうの省エネルギー化、ゴミの排出量削減、プラスチックから他の素材への転換などが求められ、数値目標の設定が必要となるでしょう。
具体的には照明器具のLED化、太陽光をはじめとする自然エネルギーの導入、冷暖房の温度設定の適正化、ペットボトルなどプラスチック製品から木材などへの素材転換などがあげられます。
5. まとめ:日本の環境問題はこれから
2020年10月26日の菅総理による所信表明演説以降、日本は本格的に温室効果ガスをゼロにする方針へと舵を切りました。しかし、方針転換からわずか半年しかたっておらず、日本のカーボンゼロへの動きは始まったばかりです。
バイデン政権の発足以降、アメリカも環境問題をより重視するようになりました。日本でも政府主導でカーボンゼロやマイクロプラスチック問題などに取り組むことが予想されます。
環境を重視する世論も高まり各事業者の環境対策に今まで以上に厳しい視線が注がれます。今後、大企業のみならず中小企業も具体的な環境対策をしなければならなくなるでしょう。