自動車業界における「脱炭素」への取り組みとは?

世界全体が脱炭素に取り組む中、自動車産業においても今まで以上のCO2削減が求められています。CO2の削減は親会社である自動車メーカーのみならず、メーカーに部品を納める中小企業にも求められるでしょう。

今回は、こうした自動車産業を取り巻く環境変化を踏まえ、自動車産業が脱炭素に取り組む理由や運輸部門、自動車の脱炭素への取り組み、新しい自動車燃料の開発などについてまとめます。

目次

  1. 自動車業界が脱炭素に取り組む理由

  2. 運輸部門の二酸化炭素排出の現状

  3. 自動車の脱炭素化への取り組み

  4. 新しい自動車燃料の開発

  5. まとめ:自動車業界の脱炭素化に対応した中小企業が生き残る

1. 自動車業界が脱炭素に取り組む理由

(1)カーボンニュートラル達成のため

2020年10月26日、菅総理大臣は所信表明演説において2050年までのカーボンニュートラルを目指すことを発表しました。

需要側のカーボンニュートラルに向けたイメージ

出典:資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(2021/1/7)(p4)

現在、化石燃料に大きく依存している状態ですが、省エネ技術の開発や脱炭素エネルギーの導入を拡大することで、CO2の排出量を減らそうとしています。

日本のCO2排出量と世界のエネルギー起源CO2排出量

出典:資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(2021/1/7)(p5)

では、自動車を含む運輸部門のCO2排出量はどのくらいの割合なのでしょうか。日本で排出されるCO2は年間で約11.4億トン。その中で運輸部門は2.0億トンと約17.5%を占めます。

エネルギー部門や産業部門と比べると排出量は小さいですが、十分な削減余地があるといえるでしょう。

(2)世界的なエンジン車禁止の潮流

各国の電動化政策

出典:資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」(2021/1/7)(p74)

自動車のCO2排出削減は、世界的な潮流となっています。なかでも、自動車については急速な電気自動車への置き換えが進んでいます。

たとえば、イギリスでは2030年に内燃機関車(ディーゼル車やガソリン車など内部で燃料を燃やし、動力を得る車のこと)の販売が禁止され、ハイブリッド車も2035年で販売停止となります。

フランスでは2040年に内燃機関車の販売禁止、中国は2035年までの全車電動化等を打ち出しています。日本も2035年までに新車販売で電動車を100%にするという目標を掲げています。

2. 運輸部門の二酸化炭素排出の現状

ここで、自動車を含む運輸部門のCO2排出量について詳しく見ていきましょう。運輸部門における二酸化炭素排出量

出典:国土交通省「環境:運輸部門における二酸化炭素排出量」(2021/4/27)

運輸部門のCO2排出量の内訳は、自家用乗用車で45.9%、営業用貨物車で20.4%、自家用の貨物車で16.5%、残りを航空機や船舶、鉄道が占めています。

運輸部門における二酸化炭素排出量の推移

出典:国土交通省「環境:運輸部門における二酸化炭素排出量」(2021/4/27)

運輸部門全体でのCO2排出量は、2000年以降、減少しつつあります。もっとも割合が多い自動車用乗用車においては、CO2排出量が最も多い2001年と比べ、2019年度の排出量が5,100万トンも削減しています。

これ以上、CO2を削減するには、今までになかったさらなる技術革新が必要となるでしょう。

3. 自動車の脱炭素化への取り組み

(1)燃費の改善

CO2の排出削減を達成するため、自動車業界では脱炭素化への取り組みを続けてきました。

車全体の技術改善

出典:環境省COOL CHICE「エコカーを選んでみませんか?|脱炭素社会づくりに貢献する製品で一歩先の賢い生活!

たとえば、ボデーの形を改良することで空気抵抗を低減することや、車体重量の軽量化、駆動系の改良、エンジン性能の向上などにより、燃費を向上させ燃料使用量を減らしました。それにより、CO2の排出も削減されてきたわけです。

移動・輸送(運輸部門)のエネルギー消費量の推移

出典:環境省COOL CHICE「エコカーを選んでみませんか?|脱炭素社会づくりに貢献する製品で一歩先の賢い生活!

また、実質GDPが成長する中でも、運輸部門はエネルギー消費量を減らしてきました。これは、たゆまぬ技術革新の成果だといえます。

(2)次世代自動車の開発・普及

開発が進む多様な次世代自動車

出典:環境省COOL CHICE「エコカーを選んでみませんか?|脱炭素社会づくりに貢献する製品で一歩先の賢い生活!

ガソリン車に代わる次世代自動車の開発が進んでいます。代表的なものとしてハイブリッド車やバイオ燃料対応車、電気自動車、燃料電池自動車などがあります。

 

出典:環境省COOL CHICE「エコカーを選んでみませんか?|脱炭素社会づくりに貢献する製品で一歩先の賢い生活!

これらの次世代自動車は、いずれもガソリン車よりも燃費が良くなっています。電気自動車に用いられる電動モーターが、ガソリン車よりも効率に優れているためです。

次世代自動車保有台数の推移

出典:環境省COOL CHICE「エコカーを選んでみませんか?|脱炭素社会づくりに貢献する製品で一歩先の賢い生活!

その中でもハイブリッド車は、2010年以降急速に台数を増やしてきました。電気自動車と比べると圧倒的といってもよく、日本の次世代自動車の主力といえるでしょう。

しかし、イギリスやフランスの基準に照らし合わせると、ハイブリッド車は削減の対象となっています。今後、日本車を輸出するにあたっては、ハイブリッド車以外の自動車の開発・普及に力を入れる必要があります。

4. 新しい燃料の開発・普及

今まで以上に運輸部門でのCO2排出削減を狙うには、新しい燃料の開発や普及が必要です。CO2の排出削減に貢献できる燃料として、合成燃料や燃料電池の開発・普及が進められています。

(1)合成燃料

合成燃料生産のイメージ

出典:資源エネルギー庁「エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは」(2021/7/8)

合成燃料とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して作られる燃料で、人工的な原油ともいわれます。

原料のCO2は、工場や発電所から排出されるものを利用しますが、将来的には大気中のCO2を直接回収し、原料として利用します。その点から見れば、カーボンリサイクルの一環とみなすこともできるでしょう。

もう一つの原料である水素は、水から水素をつくる水電解によって調達します。この時に使う電力を再生可能エネルギー由来のものにすることで、水素調達時にCO2を排出しないカーボンフリーな水素とすることができます。

ただし、現在は化石燃料の燃焼から水素を調達しているので、今後の技術革新が必要です。

(2)燃料電池

燃料電池の仕組み

出典:経済産業省「水素・燃料電池に関する 経済産業省の取組について」(2019/5)(p3)

燃料電池とは、水素と空気中の酸素を反応させることで電気や熱を発生させるもので、水素を最も効率的に電気変換できる仕組みです。

政府は、燃料電池を水素基本戦略の一部と位置づけ、ハイブリッド車にかわる次世代の自動車として普及を図っています。そして、2030年までに水素ステーションを900箇所、燃料電池車を80万台に普及させる目標を立てました。

しかし、普及が進んでいるハイブリッド車に比べ、燃料電池車はコスト面で割高です。また、ガソリンスタンドと比べると数が圧倒的に少ない水素ステーションの設置など、乗り越えるべき課題がまだまだあるのが現状です。

出典:経済産業省「水素・燃料電池に関する 経済産業省の取組について」(2019/5)(p5)

出典:経済産業省「水素・燃料電池に関する 経済産業省の取組について」(2019/5)(p6)

5. まとめ:自動車業界の脱炭素化に対応した中小企業が生き残る!

2050年までにカーボンニュートラルを目指すという政府の方針を達成するには、CO2排出量で17.5%を占める運輸部門のCO2排出削減は避けられません。しかし、これまでも自動車業界はCO2の排出削減につとめており、既存の対応だけでは困難かもしれません。

そこで注目されるのが新技術の開発です。すそ野が広い自動車産業では、数多くの中小企業が生産に関わっています。これらの企業においても、製造過程でCO2の排出削減が求められるでしょう。

こうした新しい基準をクリアし、自社の強みを生かして新技術・新製品を開発する中小企業こそが、今後、生き残っていくのではないでしょうか。

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