IPCCとはどんな組織?IPCCの報告書で示されたシナリオとは?
- 2022年06月15日
- その他
気候変動のニュースを見ていると、時折IPCCという組織名が登場します。IPCCとはいったいどんな組織なのでしょうか。また、IPCCが示すシナリオとはいったいどのようなものなのでしょうか。
今回は、IPCCがいったいどんな組織なのか。IPCCが作成する評価報告書の内容やそこで示されたシナリオについて紹介します。
目次
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IPCCとは?
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IPCCが作成する評価報告書
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最新の第6次評価報告書の概要
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地球温暖化の進展によって予想される気候現象
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まとめ:中小企業もIPCCのシナリオを理解しリスクヘッジすべき
1. IPCCとは?
環境省によると、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは「1988年にWMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)のもとに設立された政府間機関」です。
IPCCの設立目的は「気候変化に関する最新の科学的知見(出版された文献)についてとりまとめた報告書を作成し、各国政府の地球温暖化防止政策に科学的な基礎を与える」ことです。
つまり、IPCCは気候変動についての科学的知見を取りまとめた報告書をつくり、各国に地球温暖化対策の基礎データを与え、地球温暖化防止のために行動することを促す国際的な機関だといえます。
2. IPCCが作成する評価報告書
IPCCは、1988年に設立されて以来、5〜6年ごとに気候変化に関する科学的知見を評価し、「IPCC評価報告書」を作成・発表してきました。報告書作成にあたって、IPCCは政策的にも科学的にも中立の立場をとっています。
出典:全国地球温暖化防止活動推進センター「1-8 これまでの報告書における表現の変化(IPCC報告書)」
報告書が出される都度、人為起源の温室効果ガスが地球温暖化に大きな影響を与えていると警告し続けました。そして、最新の第6次報告書では人間が地球温暖化に影響を与えたことは「疑う余地はない」としました。
出典:IPCC第6次報告書「IPCC AR6/WG1報告書SPM 暫定訳」(p6)
上の図によれば、1850年から2020年までの気温上昇は、過去2000年以上前例がないものであり、過去10万年間で最も温暖だった数世紀と比較しても、より大きな気温上昇であることがわかります。
さらに、自然変動だけの要因と人為的な要因を分けて考えた時、人為的条件が非常に大きなウェイトを占めることがわかります。第6次評価報告書で、人為的影響を「疑う余地はない」とした背景にはこのような事実があったのです。
3. 最新の第6次評価報告書の概要
2021年、IPCCは最新の第6次評価報告書を発表しました。科学者たちは、現在の地球の気候変動に対する知見を、どのように評価したのでしょうか。
(1)地球温暖化の現状
第6次報告書は、大気中のメタンガスやCO2、一酸化窒素は過去80万年間で前例のない水準まで増加し、CO2だけに限れば、過去200万年間のどの時点よりも高いと指摘しています。
2019年の大気中のCO2濃度は410ppmで、産業革命以前と比較すると約47%高くなりました。
そして、世界の平均気温(2011〜2020年)は、産業革命以前と較べ1.09℃上昇しました。気温上昇は海よりも陸のほうが大きく、海の1.4〜1.7倍の速度で気温が上昇しました。特に気温上昇が大きかったのは北極圏で、世界平均の2倍近い速度で気温上昇が進行しました。
また、陸域のほとんどで大雨の頻度と強度が増加し、強い熱帯低気圧の発生割合が増加しています。さらに、2010〜2019年の北極海の海氷は1979〜1989年と較べると、海氷が最も少ない9月で40%、最も多い3月で10%減少しています。
これらに加え、世界の平均海面水位は1901〜2018年の間に約0.2メートル上昇しました。このように、地球温暖化によって引き起こされる現象が各地で観測されているのです。
出典:IPCC第6次報告書「IPCC AR6/WG1報告書SPM 暫定訳」(p8)
出典:全国地球温暖化防止活動推進センター「WG 第1作業部会(自然科学的根拠)」
(2)今後想定されるシナリオ
IPCCは今後想定される5つのシナリオを提示しました。
出典:全国地球温暖化防止活動推進センター「1-8 これまでの報告書における表現の変化(IPCC報告書)」
CO2の排出削減を最大限に行ったシナリオ1の場合、気温上昇は1℃前後と予想されていますが、CO2の排出削減を行わないシナリオ5の場合、今世紀末に3.3〜5.7℃の気温上昇が見込まれています。
4. 地球温暖化の進展によって予想される気候現象
IPCCは5つのシナリオにもとづき、地球温暖化の進展によってもたらされる気候現象について予測しました。
(1)極端な高温
海域よりも気温上昇が大きい陸域では、異常高温の発生確率が上昇すると予想しています。気温が1.5℃の上昇にとどまるシナリオ1の場合、発生確率は2.8倍程度に収まります。
しかし、4℃前後の上昇を見込むシナリオ4や5の場合、発生確率が9.4倍に跳ね上がります。
出典:IPCC第6次報告書「IPCC AR6/WG1報告書SPM 暫定訳」(p21)
(2)極端な降水
地球温暖化が進展すると、世界各地で極端な大雨の発生確率が上昇すると考えられています。シナリオ1の場合、発生確率は1.3倍程度ですが、シナリオ4や5の場合は2.7倍となります。
また、雨の量をあらわす強度においても、シナリオ1の6.7%増加に較べ、シナリオ4や5の場合は30.2%と大幅な増加が見込まれます。
出典:IPCC第6次報告書「IPCC AR6/WG1報告書SPM 暫定訳」(p21)
(3)干ばつの発生
降水量が極端に少ない状態を干ばつといいますが、世界の平均気温が上昇すると干ばつの発生確率も上昇します。シナリオ1の場合は1.7倍、シナリオ4や5の場合は4.1倍となり、農業生産に大きな打撃を与え、砂漠を進展させる恐れがあります。
出典:IPCC第6次報告書「IPCC AR6/WG1報告書SPM 暫定訳」(p21)
5. まとめ:中小企業経営者もIPCCのシナリオを理解しリスクヘッジすべき
今回は、IPCCの活動とIPCCが数年おきにとりまとめる評価報告書について解説しました。地球温暖化が進むことで異常気象の発生確率が上昇し、対策に乗り出したとしてもある程度のリスクは覚悟せざるを得ないことがわかってきました。
今後、日本においても、気温の上昇や局地的なゲリラ豪雨の発生、地域によっては水不足などに悩まされる可能性があります。
原料調達や保管、製造の過程で気候が果たす役割は大きいので、中小企業の経営者もIPCCの評価報告書やIPCCのシナリオを大まかにでも理解し、企業経営におけるリスクヘッジの参考とするべきではないでしょうか。