農業の「脱炭素化」に向けた取り組み〜持続可能な「食」を可能に~

農林水産省は、2050年までに農林水産業のCO2排出ゼロを目指す取り組みを開始しました。地球温暖化は、農作物の安定的な収穫や品質にも重大な影響を及ぼします。持続可能な食糧確保の面からも脱炭素への取り組みは不可欠です。

この記事では、農業の脱炭素化に向けてどのような取り組みが行われているのか、持続可能な食糧確保のために何ができるのかを、詳しく解説します。

目次

 1. なぜ農業の脱炭素化が必要なのか

 2. 農業の脱炭素化で持続可能な「食」を

 3. 農業の脱炭素化における再エネの可能性

 4. 農業の脱炭素化に向けた技術開発

 5. まとめ:農業の脱炭素達成は持続可能な未来を開くこと

1. なぜ農業の脱炭素化が必要なのか

温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)排出と地球温暖化の現状

温室効果ガスとは、大気中に存在しているCO2やメタン、フロンなどのガスのことです。これらは、地球の表面から放射される赤外線の一部を吸収することで、温室効果をもたらします。人間は産業革命以後、常に石油や石炭などの化石エネルギーを消費し、大量のCO2を発生させてきました。

IPCCの第6次評価報告書では、温室効果ガスの排出が増加し続ければ、地球の温度は約1.5度上昇する危険性が指摘されています。気温の上昇は、農業の穀物収穫量などに大きく影響します。安定的な食糧確保のためにもこれ以上の気温上昇は、食い止めなくてはなりません。

世界のCO2排出量

出典:環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量」(2018)(p.1)

農林業の温室効果ガス排出状況

世界の温室効果ガス排出量はCO2換算で490億トンあります。農林業の温室効果ガス排出量は、その4分の1を占めています。日本の排出量は世界の中で3.5%を占める12.9億トンで、農林業が占める割合はおよそ0.5億トンです。これは日本国内の全CO2排出量の4%です。

農業では、家畜の消化器官内で発酵する物質や排泄物、また水田や農地土壌、肥料などから温室効果ガスであるメタンや、N2Oが排出されます。CO2と比較すると、温室効果はメタンで25倍、N2Oでは298倍にもなります。

世界 日本 GHG排出量

出典:農林水産省「農林水産分野における環境イノベーションについて」(p.3)(2019.12.10)

2050年までのCO2ゼロエミッションを目指す

このように、農業から排出される温室効果ガスは決して低くはありません。持続可能な食料調達のためにも、温室効果ガス削減に向けて取り組みをはじめなくてはいけないのです。そのため、日本では2050年までに農林水産業の、CO2ゼロエミッション化の実現を目指すことになりました。

2. 農業の脱炭素化で持続可能な「食」を

「みどりの食料システム」戦略

「みどりの食料システム」戦略とは、農林水産省が食料や農林水産業の生産力の向上と、持続性を革新的に実現するために策定したものです。日本の食糧問題は、さまざまな課題に直面しており、未来へ向けた安定的で持続的な食料供給システムを構築することは急務です。

「みどりの食料システム」戦略では、「調達」「生産」「消費」「加工・流通」の面から具体的な取り組みを行いますが、「調達」に含まれる資材・エネルギーの調達面で脱炭素化・環境負荷軽減の推進を行います。

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略」

有機農業の促進

食の安全や環境配慮の面からも有機農業技術の促進は、次世代農業の重要項目です。2040年までに、主要な品目について、多くの農業従事者が取り組めるよう技術を確立し、2050年には、オーガニック市場の拡大を目指します。また、2050年までに輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用を、30%低減することを目標としています。

出典:農林水産省「脱炭素社会実現に向けた農林水産分野の取組~みどりの食料システム戦略~」(P.2)(2021.4.20)

持続可能なフードサプライチェーンの推進

サプライチェーンの脱炭素化を促進することは、農業や食の面においても重要です。特に食の安全や、食料生産の過程において脱炭素を推進しているかを、消費者に可視化することは、今後は不可欠となるでしょう。消費者にわかりやすい形での情報提供をしたり、有機農業品の認証を増やし消費者の理解を得ていくことは持続可能な食糧確保のためにも必須です。

出典:農林水産省「脱炭素化社会に向けた農林水産分野の基本的考え方について」(P.7)(2019.4.22)

3. 農業の脱炭素化における再エネの可能性

農業におけるRE100の実現に向けて

脱炭素化に向けた施策のひとつとして、農業におけるRE100の実現が挙げられます。これは、農業活動において使用するエネルギーを、100%再生可能エネルギー(以下再エネ)で賄うことを目標とした施策です。農村に豊富に存在する資源に着目し、その特性を生かして地域主導型の再エネ活用実現を目指します。

農業の再エネ活用

農業の脱炭素化に向けて、注目されているのが再エネの活用です。特に活用が推進されている再エネをご紹介しましょう。

  • バイオマス発電

バイオマス発電の「バイオマス」とは、動植物を含む生物から生成される有機性のエネルギーの総称です。バイオマス発電は、それらのエネルギーを燃焼することにより発電する仕組みの再エネになります。農業では、バイオマス資源が豊富なため、各地域の特性を生かし経済効率性の高い生産を行い、安定供給することで脱炭素を促します。

  • 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)とは、農地に支柱を建設、上部に太陽光発電設備を設置し太陽エネルギーを農業の生産と発電とでシェアする取り組みです。太陽エネルギーを作物の生産と発電利用などに利用することで農業経営の活性化と脱炭素を行うことが可能です。

農山漁村のエネルギーイノベーション

出典:農林水産省「脱炭素化社会に向けた農林水産分野の基本的考え方について」(P.5)(2019.4.22)

4. 農業の脱炭素化に向けた技術開発

農地土壌炭素貯留技術

炭素は自然の中で、土壌や植物、大気の間を循環しています。土壌にある炭素は、そもそも植物が光合成のために、大気から吸収し蓄積されたものです。そのため、土壌中の炭素の量が増えれば、それだけ大気中の CO2 は減少したと見なすことが可能です。これを「土壌の炭素貯留」と呼びます。

「農地土壌の炭素貯留技術」は、農地土壌に炭素を貯留することで、CO2 の総排出量を減らすことを目的とした技術です。農林水産省は、有効な温室効果ガスの排出削減策として、農地土壌に基づく技術の検証を開始しています。

農地土壌における炭素貯留の仕組み

出典:農林水産省「土壌炭素貯留等基礎調査事業について」(2020)

省エネ型施設・設備の導入

温室効果ガス削減に向けて、農業における省エネ型施設や、設備の導入を推進しています。具体的には、優れた断熱資材を利用した施設建設で保温性を向上させる、環境センサー取得データを活用した作物の適温管理でエネルギーのムダを防ぐ、などが挙げられます。

農業用機械の電動化

農業用機械の電動化やロボット化も促進されています。日本は農業従事者の高齢化や、人手不足を解消するために、スマート農業への以降を目指しています。今後は、よりCO2排出の少ない再エネを利用した電動農業機械の開発や、普及が推し進められる予定です。

出典:農林水産省「脱炭素社会実現に向けた農林水産分野の取組~みどりの食料システム戦略~」(P.5)(2021.4.20)

5. まとめ:農業の脱炭素達成は持続可能な未来を開くこと

農業の分野における脱炭素の取組について、さまざまな角度から解説しました。「食」というのは人間が生きていく上で最も重要です。その「食」を守るためには、持続可能な農業の在り方を目指す必要があります。農業における再エネ利用をはじめとした脱炭素への取り組みは、今後、ますます重要となっていくでしょう。

持続可能な未来を切り開いていくためにも、企業は脱炭素に向けたアクションを起こさなくてはいけません。自社の環境価値を高め、脱炭素へのイノベーションを実現し、持続可能な未来に貢献してみませんか。

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