水素やアンモニアを使った発電とは?脱炭素社会への鍵となり得るか
- 2023年12月04日
- 発電・エネルギー
政府によって宣言された、2050年カーボンニュートラル達成に向けて、日本では火力発電の燃料としての水素・アンモニアの利用が急速に動き出しています。
この記事では,脱炭素社会に向けた水素やアンモニアを使った発電についてわかりやすく解説します。
目次
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国政のカギを握る水素・アンモニア発電
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本当に大丈夫?水素・アンモニア発電とはどのような技術か
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企業はどう動いている?日本で進む水素・アンモニア発電の導入
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まとめ:変化するエネルギー事情に注目する価値あり
1. 国政のカギを握る水素・アンモニア発電
ここでは、なぜ日本では、火力発電の燃料として水素・アンモニアを利用する動きがみられているのかを解説していきます。
なぜ「水素・アンモニア」が注目されているのか
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、世界中で取り組みが行われている中、CO2排出が多い火力発電は控えられる傾向にあります。しかし、日本では2011年の東日本大震災の原発事故を受け、原子力発電の低減が計られ、それをカバーする形で天然ガス、石油、石炭を使う火力発電所の稼働率が上昇しました。現在の日本におけるエネルギー構成は、77%を火力発電が賄っているのです。
出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』(2020/11/18)
そこで注目されたのが、燃焼時に二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアです。政府および企業はこれらの水素・アンモニア燃料を「脱炭素燃料」と呼んでいます。
水素は水を電気分解することによって得ることができ、アンモニアは、水素と窒素から生成されます。水素やアンモニアは、燃焼時に炭素が関与せず、地球温暖化防止に貢献するクリーンなエネルギーであり、石炭火力にかわる新たな燃料として期待されています。
火力発電における水素・アンモニアの利用
第6次エネルギー基本計画によると、「2030年に向けた政策対応のポイントとして、火力発電は安定供給を前提に、できる限り電源構成に占める火力発電比率を引き下げる」と明記されています。政府は、脱炭素型火力発電への置き換えに向けて、水素・アンモニアといった脱炭素燃料の混焼を通じて、CO₂の排出を削減する措置の促進に取り組んでいます。
現在、石炭火力にアンモニアを20%混焼する実証実験が進められています。さらに今後は、混焼率を向上させる技術を向上させ、最終的にはアンモニアだけを燃料する「専焼」を行うことが期待されています。水素とアンモニアの発電コストは、以下のようになっています。水素と比較するとアンモニアの専焼のコストは大幅に低くなっています。
出典:資源エネルギー庁『アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先』(2021/01/15)
水素・アンモニアはカーボンニュートラル時代を見据えた新たな資源として位置づけられ、社会実装が急がれています。脱炭素燃料としての水素・アンモニアの需要が増加する見込みのため、水素・アンモニアサプライチェーンの構築や水素製造基盤の確立が不可欠です。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー基本計画について』(2022/01/17)
出典:資源エネルギー庁『非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み』(2020/11/06)
2. 本当に大丈夫?水素・アンモニア発電とはどのような技術か
発電に水素・アンモニアを利用する検討を始めてから、少しずつ実験室レベルで課題を解決してきました。水素・アンモニア発電を大規模に導入していくにあたって、その発電方法はどのようなもので、どのような利点や欠点があるのでしょうか。
水素利用による発電技術
水素は、酸素と結合することで発電し、熱エネルギーとして利用することができます。さまざまな資源から製造でき、運搬可能で、発電時にCO₂を排出しないため、環境対策に役立てることが期待できる次世代のエネルギーのひとつです。
再生可能エネルギーが拡充されつつある現在、日本では再生可能エネルギーを利用して、水素を「作る」「貯める」「運ぶ」「使う」という、水素社会の実現を目指しています。
水素発電は、ボイラーやガスタービンを水素(または水素とその他の燃料)を使って燃焼させることでエネルギーを生み出します。水素利用が普及することで、日本で主軸となっている火力発電の燃料(石油、石炭、天然ガス)の輸入を減らすことが期待できます。また、天候の影響を受けずに発電ができるので、太陽光発電や風力発電を補う形で利用することもできるかもしれません。
一方、現時点では水素を運搬するためのコストやリスクが高く、発電するにはエネルギー効率が低いなどの課題があります。また、化石燃料から水素を製造する場合はCO₂を排出してしまいます。化石燃料由来の水素を海外から輸入する場合に、製造国において排出されるCO₂を回収・貯留するCCSのルール等を確立させることが必要とされています。
出典:経済産業省『水素の製造、輸送・貯蔵について』 (2014/4/14)
出典:経済産業省『水素・燃料電池戦略ロードマップ(概要)』(2019/03/12)
アンモニア利用による発電技術
アンモニアは水素のキャリアとして検討が始まりました。水素には上記に挙げたようなデメリットがあります。それらをカバーするべく、水素を一時的にアンモニアに変換して使用することが検討されるようになりました。アンモニアは、貯蔵や運搬が水素と比較して簡単で、コストも抑えられるのです。
アンモニア発電の基本原理は火力発電と同じで、アンモニアを燃焼させることによって熱エネルギーを得て、タービンを回すことによって発電をします。よって、日本のエネルギー構成の主軸となっている火力発電の燃料としてアンモニアが燃料として使用できるようになることが期待されています。
仮に、国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力発電所で、20%アンモニア混焼が実現できれば、CO₂の排出削減量は約4,000万トン、アンモニア専焼ができれば約2億トンと試算されています。発電コストについても、アンモニアの利用は水素を利用するよりも抑えることができます。アンモニアを利用した発電の導入は、日本におけるエネルギー事情に大きく影響を与えます。
出典:資源エネルギー庁『アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先』(2021/01/15)
水素・アンモニア発電導入に向けての課題
アンモニア発電を導入するためには解決していく課題がまだあります。
(1)アンモニアの製造
水素・アンモニア発電を導入するにあたって大量に必要となるのがアンモニアです。アンモニア製造をする際、天然ガス由来のアンモニアは、製造時に二酸化炭素を排出します。燃焼時に二酸化炭素を排出しない水素・アンモニア発電を導入するために多くの二酸化炭素を排出したアンモニアを使用するというのは、脱炭素社会に向かうためには本末転倒に思います。製造から使用後の一連を通して環境負荷の少ない選択をしていく必要があります。
(2)窒素酸化物による環境破壊
アンモニアは燃焼時に酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOx)が排出されることが懸念されています。日本における本格導入が始まると、規模も大きくなるので、排出されるNOxが最低限になるように検討していく必要があります。
(3)燃料アンモニア市場の構築
燃料アンモニア市場の構築に向けて、利用面や供給面の大規模サプライチェーンが必要となります。現在国内で製造されているアンモニアや海外から輸入しているアンモニアだけでは、水素・アンモニア発電の燃料として賄うことができません。普及のために、製造方法や輸入ルートの確保などを検討していく必要があります。
これらの課題を解決していくための研究や事業の動向に注視していく必要がありそうです。
まずは燃料アンモニアの導入と拡大を目指す日本
日本では、アンモニアは肥料や化学製品の原料として現在までも広く利用されてきました。扱いには慣れてきているものであり、期待されるエネルギー源である「水素」を含有しているものなので、注目を浴びています。
政府は、水素やアンモニアを利用した火力発電の新設を支援しています。既存の火力発電の設備を利用して流用することができるので、新たな電力方式の導入によるコストを抑えることができます。
国内の既存の火力発電設備にてアンモニア発電の導入を進めることによって、脱炭素社会に向けた日本のエネルギー資源の転換を底上げしていくことになります。
3. 企業はどう動いている?日本で進む水素・アンモニア発電の導入
カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発
持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションを創出する国立研究開発法人である新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)は、カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発のプロジェクトを発足しました。2020年3月に策定された「新国際資源戦略」において、CO₂排出削減に向け、液体アンモニアの混焼を含め着実に技術開発を進めることが必須であり、それらの基盤づくりとしてプロジェクトが発足されました。2016年度〜2025年度を事業期間としています。
出典:NEDOホームページ『カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発』(2021/11/24)
(1)JERAとIHI
NEDOの助成事業として株式会社JERAおよび株式会社IHIは、碧南火力発電所4号機にて、燃料アンモニアを20%混焼する技術の確立を目指し、取り組んでいます。事業期間は2021年度から2028年度までの約8年間で、最終的には実機でアンモニアの混焼率を50%以上に拡大して運用することを目指しています。
出典:JERAホームページ『碧南火力発電所におけるアンモニア混焼率向上技術の実証の採択について』(2022/01/07)
(2)株式会社JERA・三菱重工株式会社
NEDOの助成事業として株式会社JERAおよび三菱重工株式会社は、石炭ボイラに適したアンモニア専焼バーナを開発し、実機で実証運転をすることを目指し、取り組んでいます。事業期間は2021年度から2028年度までの約8年間で、最終的にボイラ型式の異なる実機2ユニットにおいて50%以上のアンモニア混焼を検証します。
出典:三菱重工ホームページ『石炭ボイラにおけるアンモニア高混焼技術の開発・実証について』(2022/01/07)
4. まとめ:変化するエネルギー事情に注目する価値あり
この記事では、水素・アンモニアを利用した発電について、技術や国の動向をご紹介してきました。これからは、水素・アンモニア発電の拡充事業によって、少しずつエネルギー事情も変化していきます。国の行く末を左右する事業には課題はつきものです。脱炭素社会の構築に向けて、水素・アンモニア発電の導入が日本のエネルギー事情に良い影響を与えることに期待していきましょう。