火力は環境に悪い発電方法なのか?火力発電の将来と日本のエネルギー
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
世界が脱炭素社会へ向かい、再生可能エネルギーを積極的に導入しています。そんな中、日本はまだCO2排出量の多い火力発電に電力供給の大部分を頼っています。
日本が環境に悪い発電方法である火力に頼り続ける理由は?そして今後の火力発電はどうなっていくのか?日本は将来どうやってエネルギー需要を支えていく計画なのか?これらを簡単に確認しておきましょう。
目次
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日本の火力発電の現状
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火力発電の必要性とは
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火力発電は環境に悪い発電方法?
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まとめ:脱炭素社会でも火力発電は活躍を続ける
1.日本の火力発電の現状
再生可能エネルギーの普及を推進している日本ですが、まだ電力供給の多くは石炭・石油・天然ガスによる火力発電でまかなっています。2019年では全体の75.8%が火力発電による供給でした。
2019年の再生可能エネルギーによる電力供給は全体の18%、再稼働の進まない原子力発電は全体の6.2%という結果でした。
※2019年度 主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較
出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』
海外からの批判
日本は安定的で低コストな発電方法として、石炭を始めとする火力発電を利用してきました。しかしこの政府の方針に国際社会は「石炭中毒」と厳しく批判し、2019年12月にスペインで開かれたCOP25 (気候変動枠組み条約第25回締約国会議)では「気候行動ネットワーク」から、地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」に2度も選ばれてしまいました。
出典:産経新聞『石炭火力縮小、現実路線の日本はなぜ批判されるのか』(2020年7月)
このような批判を受け、日本の3メガバンク(三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほフィナンシャルグループ)は揃って新規の石炭火力への投資をしない方針を示しました。それでも海外の銀行に比べれば「甘い」との指摘もあり、環境保護団体は「日本は(環境への対策において)周回遅れ」と危惧しています。
出典:東京新聞『メガバンクが石炭火力に融資停止 環境団体は「海外に比べ周回遅れ」』(2020年6月)
2. 火力発電の必要性とは
このような批判を受けながらも、どうして日本政府は火力発電を続ける方針を示すのでしょうか?世界が脱炭素化に進む中で、日本はその流れを無視しているのでしょうか?
しかし実際はそうではありません。日本政府は低効率の石炭火力の段階的廃止を発表していますし、火力発電の出力抑制も検討しています。
出典:東京新聞『低効率の石炭火力発電所約100基を段階的に休廃止 2030年度までに 梶山経産相が表明』(2020年7月)
日本のエネルギー自給率
火力発電がCO2を排出するにもかかわらず、日本がすぐに火力発電をやめることができない大きな理由の一つに、日本の国土は再生可能エネルギー設備の大規模建設に適した土地が少ないことが挙げられます。平地が少ないため大規模な太陽光発電設備が設置できる土地が限られていますし、風力発電においても日本の気候上、常に偏西風が吹くヨーロッパのようには安定しません。
このような理由から、日本は発電のほとんどを化石燃料による火力発電に頼ってきました。その化石燃料のほとんどを輸入に頼っているため、2019年度の※一次エネルギーの国内構成は80%以上を化石燃料が占めており、エネルギー自給率は12.1%でした。
※一次エネルギー:加工されない状態で供給されるエネルギーのこと。石油・石炭・天然ガス・水力・地熱・太陽熱・原子力など。
※一次エネルギー国内供給構成及び自給率の推移
出典:資源エネルギー庁『 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)第2部 エネルギー動向 第1章 国内エネルギー動向 第1節 エネルギー需給の概要』
火力発電の占める割合が大きい
先述の「日本の火力発電の現状」でも確認したように、日本は電力供給の大きな割合を火力発電でまかなってきた背景があり、もともと再生可能エネルギーの導入に適した土地と気候に恵まれたヨーロッパ諸国などのようには、すぐに火力発電を休止・廃止するのが難しい条件にあります。
日本の再生可能エネルギーは?
経済産業省は発電能力があるのに活用できていない太陽光発電や風力発電があるとして、地域内で電力供給が需要を上回ることが予想される際に、火力発電所の出力を20〜30%まで下げるよう求める検討を始めました。現行では50%以下に抑えればよいとされていますが、火力発電の出力を下げることで、再生可能エネルギーの発電余地を広げる目的です。
出典:日本経済新聞『再生エネ活用へ火力発電抑制 経産省、供給超過時に』(2021年12月)
下の図のように平地面積当たりの太陽光・陸上風力の発電量で見ると日本の発電量は世界一です。
出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.22( 2021年3月)
また、下の表の再生可能エネルギーによる発電量の増加を見ると、2012年から2018年までの日本の再生可能エネルギーの増加量は3.1倍と世界最多の増加割合で、着実に再生可能エネルギーの導入が進んでいることがわかります。
※水力発電を除く再生可能エネルギーの発電電力量の国際比較
出典:資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について』p.20( 2021年3月)
再生可能エネルギーだけでは不安定
再生可能エネルギーの導入は進んでいますが、太陽光発電や風力発電は天候に左右されるため、安定的に電力を供給するのが難しい発電方法です。また、電力の需要には時間帯や気象条件、季節により変動があります。
この需要と供給のバランスをとるために、下の図のように火力発電の稼働を調整します。火力発電の燃料は貯蓄できるため、電力供給の不足分を補うために利用しやすい発電方法なのです。
出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』
火力発電は環境に悪い発電方法?
火力発電はCO2などの温室効果ガスの排出量が多く、燃料となる化石資源のほとんどを輸入に頼っているという大きな2つの問題があります。一方で、小規模な火力発電設備であっても地域経済を支える重要なエネルギー生産の役割を担っている場合もあり、近年多発する自然災害のリスクも考慮すると、一律に休止・廃止はできないのが現状です。
しかし、世界が脱炭素に向けて加速する中、環境に悪い発電方法とわかっていながら、そのまま使い続けては他国からの批判にとどまらず経済制裁なども受けかねません。火力発電を長く主力の発電方法として利用してきた日本には苦しい状況ですが、政府はどのような方針をとっているのでしょうか。
出典:資源エネルギー庁『非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み』(2020年11月)
非効率の石炭火力はフェードアウト
火力発電の燃料の中でも石炭は、インドネシアやオーストラリアなど比較的日本から近くの国でも産出され、政情不安定などのリスクが化石燃料の中では最も低いとされています。熱量当たりのコストも安く、安定供給性や経済性にも優れています。
しかし石炭は他の化石燃料に比べて温室効果ガスの排出量が多く、環境負荷の高い燃料です。2018年に議決された「第5次エネルギー基本計画」では、非効率石炭火力発電のフェードアウトへ取り組むことが示されています。
石炭火力発電所は小規模であるほど、発電効率が低い傾向があります。下のグラフからもわかるように、30万kW以下の設備は最大でも発電効率が40%を超える設備はありません。
また、このような小規模な設備を維持するために設備改修などで高効率化を図ることは技術的にも経済的にも難しいと考えられます。このような理由から、政府は非効率な石炭火力発電所を段階的に廃止していく方針です。
※設備規模と発電効率
出典:資源エネルギー庁『石炭火力検討ワーキンググループ 中間取りまとめ概要』p.13( 2021年4月)
CCS・CCU・CCUSの活用
火力発電所や工場で発生したCO2はアミンという化学物質を使い分離・回収することができます。この技術によってCO2を回収・貯蔵することをCCS、回収・有効利用することをCCS、両方を合わせたものをCCUSと呼びます。
日本を含めたアジア地域の一次エネルギー源は80%を石油・石炭・天然ガスの化石燃料が占め、多くの国で日本と同じく火力発電が電力供給の要となっています。そこで注目されているのがCCS・CCU・CCUSの技術です。
これらの技術により、火力発電でのCO2の排出量を、大幅に減らすことができます。しかし火力発電の主な燃料となっている化石資源には限りがあるため、この技術を活用して火力発電で発生したCO2を大気中に排出する前に回収しながら、段階的に再生可能エネルギーや水素・バイオ燃料などの新しいクリーンなエネルギーシステムに移行していくことが必要です。
出典:資源エネルギー庁『高いポテンシャルのあるアジア地域のCCUSを推進! 「アジアCCUSネットワーク」発足』(2021年8月)
水素で発電
日本は将来の主力エネルギーとして、水素エネルギーの開発に力を入れています。水素エネルギーは燃料電池(水素と酸素を触媒を使って反応させて発電するシステム)としての利用の他に、直接燃料としての利用があります。
すでに鉄鋼などの工業分野では水素は利用されていますが、威力が強く不安定な水素を制御するには非常に高度な技術が必要な上、大規模で持続的に発電するためには大量の水素が必要です。水素の製造では「福島水素エネルギー研究フィールド」など大規模な再生可能エネルギーを利用した水素製造設備が既に稼働しており、発電では水素100%を直接燃料にして発電する「水素専念ガスタービン」が2025年に実証事業を完了し、商用化される予定です。
出典:三菱重工技報『技術論文 CO2 フリー社会の実現に向けた水素燃焼ガスタービン』
※福島水素エネルギー研究フィールド
出典:資源エネルギー庁『2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた「水素社会」の姿』(2020年1月)
まとめ:脱炭素社会でも火力発電は活躍を続ける
火力発電はまだCO2の排出量が多いのが現状です。CCUSや新エネルギーの導入には時間とコストがかかるため、環境に悪いとわかっていてもすぐに止めることはできません。
しかし、現在は世界全体が脱炭素社会・循環経済への移行・構築の最中です。中小企業でもCO2削減や電気代節約のため省エネに取り組んだり、非常事態への備えや普段の電気購入量削減のため自家発電設備を導入したりなど、様々な方法で脱炭素に貢献できます。
※磯子火力発電所
出典:資源エネルギー庁『なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み』(2018年4
中小企業が大きなコストをかけずに始めることができるCO2削減への取り組みとして、再生可能エネルギーで発電された電気プランを利用するという方法もあります。このような取り組みは環境に悪い発電方法への依存量を減らし、再生可能エネルギー導入の加速につながります。
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