これからのエネルギー政策!脱炭素と原発の未来とは

現在、地球温暖化対策として「脱炭素」の取り組みが求められている中、エネルギーの分野では再生可能エネルギーが注目を集めています。ではその他の燃料、特に原発についてはどのように考えられているのでしょうか。

ここでは、日本のエネルギー分野での脱炭素へ向けた政策と原発の関係について解説していきます。エネルギー産業は全ての産業と深く結びついているため、これを理解しておくことは企業にとっても非常に重要なこととなります。日本のエネルギーと原発の未来について考えていきましょう。

目次

  1. 脱炭素社会の実現を!日本のエネルギー政策は?

  2. 現在の原子力政策の動向

  3. これから期待される原発の未来とは

  4. 【まとめ】脱炭素社会実現へ!原発のイノベーションに期待

1. 脱炭素社会の実現を!日本のエネルギー政策は?

原子力利用の現状

福島の原発事故を受け、日本の原子力の利用に向けた考え方は大きく変わっています。事故前は、電気需要の拡大、石油の高騰、地球温暖化への化石燃料の影響を背景に原子力の利用は推進されてきました。

しかし、事故後は安全の確保を最優先とした再稼働への方向はとりつつも、可能な限り依存度を低減させ、2030年には20~22%程度のシェア率低減を目指し、その上で安全性に優れた炉の開発を進めています。

今後、2040年以降は現存する原発の運転認可期間の40年が過ぎることで設備容量が大幅に減少していく見通しとなっており、設備利用率の向上や、40年超運転も検討されています。

国内原子力発電所の将来の設備容量の見通し

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020.12.21)(p100)

2050年カーボンニュートラルを宣言

2020年10月26日の所信表明演説で菅前内閣総理大臣は、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。

カーボンニュートラルとは、「炭素中立」と訳され、「温室効果ガスの排出量と吸収・除去が同量となり、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること」となります。日本はこの目標を2050年に達成すると世界に宣言したのです。

この演説の中で、菅前総理は原子力についても触れており、カーボンニュートラル達成に向けた政策として、「再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで安定的なエネルギー供給を確立する」としています。

また、同日の会見において政府は、「温室効果ガスの8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要で、電力需要の増加が見込まれるが、再エネ、原子力など使えるものを最大限活用する」と発表しています。

出典:経済産業省『原子力政策の課題と対応について』(2021.2.25)

このように日本政府は脱炭素への政策の1つとして「原発を推進する」ことを表明したのです。また、火力発電への新たなイノベーションや、水素などの新たな選択肢についても検討していくと発表しています。

原子力エネルギーの特性

原子力エネルギーの特性としては、

  • 安定供給

  • 経済効率性

  • 環境適合

の3点があげられます。

原子力は燃料投入量に対するエネルギーの出力が圧倒的に大きく、国内保有燃料だけで長期間維持できるエネルギー源となっています。

運転コストも低く、燃料価格の変動の影響を受けにくいという特性があり、また運転時にCO2の排出がなく、地球温暖化への影響が少ないというメリットがあります。

火力・原子力発電所(100万kW)と 同量の発電量を得るための面積 原子力発電所(100万kW)の年間発電量 を代替する場合に必要な燃料 国内在庫日数

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020.12.21)(p85)

では、それぞれの電源別に今後の課題と検討されている内容についてご紹介します。

カーボンニュートラルに向けた電源別の課題

  • 再エネ発電

再生可能エネルギーは2050年における主力電源として最大限の導入を目指しています。今後の課題として、調整力、送電容量、慣性力の確保や、自然条件や社会制約への対応、コストの抑制とコスト増への社会的受容性の向上があげられています。今後2050年には発電電力量の約50~60%を賄うことを目指しています。

※慣性力とは回転エネルギーのことで、太陽光・風力などはインバータ電源と呼ばれ、自ら回転エネルギーを持たず同期化力のない電源。慣性力が低いと安定性が劣る。

  • 原子力発電

原子力の課題は安全性です。今後脱炭素電源としての活用には安全性向上への取り組み、立地地域の理解と協力、バックエンド問題の解決に向けた取り組み、事業性の確保、人材・技術力の維持が重要となります。2050年には化石燃料+CCUSと合わせ約30~40%を賄うことを目標としています。

※バックエンド問題とは、廃棄物の処分、燃料の再処理など発電後の諸問題。高レベルの放射性廃棄物の隔離などのこと。

  • 火力発電

化石燃料は供給力、調整力、慣性力といった利点がありますが、脱炭素化が問題となります。これに対しては、CCUSを用いることで、技術や適地の開発、用途拡大、コスト低減といった課題を解決し、一定規模の活用を目指しています。

※CCUSとは、Carbon dioxide Capture Utilization and Storage の略で、発電所や化学工場などから排出されたCO2を気体から分離させ、地中深くに貯留・圧入し、それを利用するという技術。

  • 水素・アンモニア発電

水素・アンモニアには燃焼時に炭素を出さず、調整力、慣性力といった利点がありますが、大規模発電に向けた技術確立、コストの低減、供給量の確保という課題もあります。ガス火力や石炭火力への混焼をすすめ、サプライチェーンの構築が必要となります。

2. 現在の原子力政策の動向

電源別での課題についてご紹介しましたが、その中で原子力についての現在の動向についてまとめてみます。

福島復興と福島第一原発の廃炉

福島第一原発の事故を受け、事故炉は冷温停止状態を維持しています。構内の放射線量は大幅に減っており、廃炉に向けた作業が進んでいます。プール内燃料の取り出しは4号機が完了し、3号機の取り出し作業に入っています。

福島第一原発の廃炉の最近の主な進捗

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020.12.21)(p81)

福島では、帰還困難区域を除く全ての地域の避難指示が解除されており、帰還環境の整備がすすめられています。現在企業立地が徐々に拡大しており、復興に向けた新産業の核となる拠点が順次開所してきています。

帰還環境整備の進展、福島イノベーション・コースト構想の推進

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020.12.21)(p83)

原子力を巡る世界の動向

世界での動向としては、原子力とカーボンニュートラルの関係性は高く、消費電力量が大きく、カーボンニュートラルを表明している国の多くが将来にわたって利用する方針を示しています。国別でみると、

  • 米英仏⇒長期運転を表明し、新規の建設や革新的な技術の開発に取り組んでいます。

  • 露中⇒国内での建設の他、積極的に海外展開を目指しています。

  • 独韓⇒将来的な原子力発電所の閉鎖を表明しています。

  • その他⇒アジア・中東・東欧などでは電力需要の急増やエネルギー安全保障を背景に利用を追求しています。

各国のカーボンニュートラルと原子力利用の動向

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020.12.21)(p91)

エネルギーミックス実現に向けて

2030年のエネルギーミックスに向けて、現在9基が再稼働し、6基が原子炉設置変更許可済となり、11基は審査が進められています。今後の課題としては、設備利用率の向上や、40年超運転も含めた安全確保を前提とした地元の理解の獲得などがあり、そのうえでの再稼働が進められています。

3. これから期待される原発の未来とは

現在、様々な分野で技術革新によるイノベーションが進んでいますが、原子力について今後期待される未来とはどのようなものなのでしょうか。ここからはこれから原発に求められていくイノベーションについてご紹介します。

期待される原子力のイノベーション

最も代表的なもののひとつに、「小型モジュール炉(SMR)」というものがあります。現在各国で開発が進められていて、その特徴として「小型」・「モジュール」・「多目的」があげられます。

  • 小型

原子炉を小型にすると、原子炉自体が冷えやすくなり、水をポンプで入れずに自然に冷えるといったことも可能になります。これは安全性も高まり、原子炉全体の構造を簡略にすることができるために、メンテナンス性も上がります。また、コストの削減にもつながるので経済性の向上を図ることができます。

  • モジュール

モジュールとはモジュール建築(プレハブ住宅のようなもの)からきたワードで、規格化された部材を工場である程度組み立て、現地で積み立てるように設置する方法です。これによりある程度のところまで工場で生産・管理を行うことで高い品質管理と短い工期、コストの低減を実現できます。これは原子炉を小型化することで可能になります。

  • 多目的

発電以外に、水素の製造、熱エネルギーの利用、遠隔地でのエネルギー源、医療などに特化した原子力技術の開発の動きです。離島や極地、宇宙での利用や、医療分野での放射性物質を使ったがん検査や、治療に特化した技術開発も進められています。

この小型モジュール炉の開発状況もご紹介します。

現在開発中の原子力技術とは

  • NuScale SMR

アメリカのNuScale社で開発されている小型モジュール炉です。NuScaleはSMR開発の先駆者で、アメリカエネルギー省からの支援を受け開発が進められています。特徴としては、出力は6万kwで通常の加圧水型の1/20程度となり、最大12個のモジュールを大きなプールの中に設置します。

一つのモジュールは「圧力容器」・「蒸気発生器」・「加圧器」・「格納容器」を含んだ一体型パッケージとなっており、大型の冷却水ポンプや、大口径配管が必要ありません。小型化と一体化を図ることにより、大規模な冷却材損失事故のリスクを回避することができます。

  • BWRXー300

日立GEニュークリア・エナジー社とアメリカGE Hitachi Nuclear Energy社で開発されています。原子力発電所の設計、製造、様々なモジュール製造経験の豊富な同社はその経験を活かした原子力イノベーションを進めています。

従来の沸騰水型よりも構造が単純で建設コスト、運転コストの低減が可能となり、低い層建築費、工場完成一体据付、建設工期短縮のメリットによる資本・建設リスクの低減につながり、圧力容器と一体となった弁の採用で、大規模な冷却材損失事故のリスクを回避することができます。

また、ガス火力並みの価格競争力で、アメリカのガス火力発電プラントの建て替え需要も視野に開発が進められています。

4. 【まとめ】脱炭素社会実現へ!原発のイノベーションに期待

現在の地球温暖化の影響を受け、脱炭素への取り組みは今後もさらに拡大していくことでしょう。特にエネルギー分野での温室効果ガスの排出は深刻な状況にあり、CO2排出削減に向けた対策が求められています。その中でも低コストで安定的な供給が可能な原発の利用に向けた動きが進められることは必然と言っても良いでしょう。しかし、日本は原発事故を経験しており、原発の利用にはより安全性が求められています。今後の原子力利用に向けたイノベーションに期待していきましょう。

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