再エネの自家発電自家消費を促進する「自己託送」とは?

化石燃料の高騰、電気事業派からの再エネ電力の獲得競争の激化など、エネルギーの値上がりが続いています。このような背景から措置された再エネ電気の自己託送制度とは何でしょうか。

自己託送は中小企業にも活用できる電気代削減方法のひとつで、今後さらに発電した電力を融通できる場所や範囲が広がると予想されます。自家発電自家消費を促進する自己託送について確認しましょう。

目次

  1. 再エネ電気の自己託送とは

  2. 再エネ電気の自己託送の例

  3. 自己託送のメリット・デメリット

  4. 再エネ電気の自己託送を活用している事例

  5. まとめ:再エネ電気を利用する選択肢が拡大

1. 再エネ電気の自己託送とは

再エネ電気の自己託送とは、電気事業者ではない事業者で、発電設備を維持または運用する事業者が、その発電設備を用いて発電した電気を、別の場所にある自社工場や自社と密接な関係のある者(100%子会社など)に対して供給するために、一般送電事業者が提供する送配電サービスです。

自己発電について

出典:資源エネルギー庁『省エネ法定期報告における 自己託送の扱いについて』p.4(2020年2月)

自己託送制度措置の背景

再エネ導入が進む中、電気を利用する側から、カーボンフリー電気にアクセスしやすい環境整備や、発電事業者と需要家が直接契約を結べるようにすることを求められるようになりました。また、世界では特定の需要場所に特定の再エネ発電所から電気を供給するモデルとしてRE100が進展しています。

出典:資源エネルギー庁『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』p.4,p.8(2021年3月)

RE100とは

RE100とは、100%再エネ電力実現に取り組む国際的なイニシアティブです。300以上の企業が世界中から参加しており、日本からも環境省などの政府機関や企業が参加しています。

出典:RE100公式ホームページ

RE100は再エネ証書などの利用に関して、CDPやSBTなど他のイニシアティブより厳しい規格を設けており、再エネ熱由来の証書・グリーン熱証書の利用は認められていません。他方でRE100は他社から供給を受けた電気・自家発電した電気も再エネ化の目標設定の対象にしています。

※CDP:Carbon Disclosure Projectの略。気候変動など環境分野に取り組む国際NGOで、気候変動が企業に与えるリスクの観点から、世界の主要な企業の温室効果ガス排出量や環境問題への取り組みに関する情報を質問書を送付して収集・分析・評価・公開している。

※SBT:Science Based Targetsの略。パリ協定が求める水準と整合した5年〜15年先を目標年として企業が設定する温室効果ガス排出量削減目標のこと。

RE100

自己発電方法

出典:経済産業省『気候変動をめぐる国際的なイニシアティブへの対応』

2. 再エネ電気の自己託送の例

再エネ電気の自己託送として想定されている直接供給には4種類あります。下の図では4番目の例が不可となっていますが、認められる方向で検討されています。

  1. オンサイトPPA
    自家発電自家消費です。サイト内で発電した電気を需要家が自家消費します。

  2. オフサイトPPA(社内融通)
    自家発電自家消費です。サイト外の自社工場などからの自己託送と小売業者の部分供給で電気を調達する方法です。

  3. オフサイトPPA(グループ内融通)
    密接な関係性のあるサイト外のグループ会社工場からの自己託送と小売業者の部分供給で電気を調達する方法です。

  4. オフサイトPPA(他社・グループ外融通)
    密接な関係性のないサイト外の他社工場からの自己託送と小売業者の部分供給で電気を調達する方法です。

オンサイト

出典:資源エネルギー庁『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』p.5(2021年3月)

2021年4月より新たに認められた例

2021年4月からは新たに再エネの導入拡大・レジリエンスの向上など電気を利用する側の利益となる場合は一定の条件で下記の2つの例も自己託送が認められました。一定の条件とは、「社会的・経済的に見て不適切であり供給区域内の電気の使用者の利益を著しく阻害しないこと」、「原需要場所と特例需要場所とで電気的接続を分断することなどにより保安上支障がないこと」、「追加で発生する引き込み線や書の他の工事費用は原則全額特定負担とすること」の3つです。

  • 需要場所複数引き込み
    非FITの再エネ設備、EV・PHV普通充電器、データセンター、避難場所(学校)などへ、複数の電気の引き込みが認められるようになりました。

  • 別需要地の再エネなどの電力融通
    市役所などに防災公園など別需要地の再エネ電力を自営線により融通することが認められるようになりました。

出典:資源エネルギー庁『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』p.6(2021年3月)

オフサイトPPAも認められる方向へ

オフサイトPPAの他社・グループ外融通は、RE100電気の調達ニーズの増加と、カーボンニュートラル社会実現のために有効であると考えられることから、このような供給形態も自己託送として認められる方向に進んでいます。

オフサイトPPAの他社・グループ外融通は主に3つの課題があり、この解決に向けての規定の見直し、要件の検討されています。

課題1:公平性の確保
自己託送による電力の供給は、再エネ賦課金の支払い対象外となります。このため、消費者などで自己託送を活用しない需要家の再エネ賦課金の負担が高まるなどの問題があり、公平性の確保に課題があります。

課題2:公正競争の確保
メガソーラーなどの通常の再エネ小売供給と同様のビジネスモデルで、再エネ賦課金の対象から外れることを目的に自己託送を活用する場合が考えられます。これは公正競争の確保にあたって問題となります。

課題3:需要家保護の確保
オフサイトPPAの他社からの電力融通では、需要家と再エネ発電業者の間に契約行為が発生します。この際の需要家保護の観点から、規定・要件の制定が課題です。

出典:資源エネルギー庁『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』p.42(2021年3月)

世界ではオフサイト型コーポレートPPAが拡大

再エネ調達拡大のニーズが世界的に高まっていることを背景に、世界ではオフサイト型コーポレートPPAの活用が増加しています。オフサイト型コーポレートPPAは、非FITの再エネ導入方法拡大に有効である可能性があります。

コーポレートPPAとは、需要家と発電事業者が長期の電力購入契約を結ぶ電力調達方法で、日本でも実施可能です。2022年から開始されるFIP制度の支援対象にもなり、コーポレートPPAは今後増加すると考えられます。

コーポレートPPAは需要家である企業側には再エネ利用による温室効果ガス削減効果のほか、長期にコストを確定できる、環境問題に対する取り組みをアピールできるなどのメリットがあります。また、発電事業者側にも長期に購入者を確定できる、金融機関から資金を調達しやすくなる、事業開発を進めやすくなるなどのメリットがあります。

コーポレート

コーポレートPPA

出典:経済産業省『総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 中間整理(第4次) 』p.41(2021年10月)

3. 自己託送のメリット・デメリット

自己託送のメリット

再エネ電気の自己託送活用により、電気を自家消費できる場所や範囲が広がります。企業全体のCO2排出量を削減できるほか、電力会社から購入する電気の量が減ることから、電気代の削減効果も期待できます。

電力会社から購入する電気の量が減ることで、それに上乗せされている再エネ賦課金の支払いも同時に削減できます。

自己託送のデメリット

自己託送制度では離れた場所で発電した再エネ電気を既存の系統を利用して送電するので、災害などにより系統に被害が出た場合、電力会社から購入する電気と同時に停電することが予想されます。自己託送制度による送電を利用しない場合の方が、自然災害などへの対策には適していると言えます。

また、自己託送による再エネ電気の利用には再エネ賦課金が課税されないため、自己託送を利用しない消費者などへの再エネ賦課金の負担が高まる恐れがあります。

出典:資源エネルギー庁『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』p.42(2021年3月)

4. 再エネ電気の自己託送を活用している事例

2018年にRE100に加盟したソニー株式会社の自己託送を活用した事例を見てみましょう。国内外でメガソーラー設備を手掛けているソニー株式会社は、電力会社からの直接の再エネ購入や証書の活用をはじめ、さまざまな手法による再エネ調達法により、RE100(企業の使用電力の100%再エネ化)達成を目指しています。

出典:ソニー株式会社『ソニーが目指す再生可能エネルギー100%の電力調達』p.4~p.8(2019年6月)

ソニー株式会社の取り組み

ソニー株式会社は2020年2月、静岡県焼津市のソニー・ミュージックソリューションズJARED大井川センターで、物流倉庫の屋上に設置した太陽光発電パネルから、中部電力の送配電網を利用して、静岡県吉田町にある同社の製造工場に自己託送を始めました。この製造工場全体の4%の電力にあたる、約900MWhの電力を自己託送の活用によりまかなっています。

 

自己発電

出典:資源エネルギー庁『需要家による再エネ活用推進のための環境整備(事務局資料)』p.7(2021年3月)

発電の場所も所有も社外

2021年4月からは、愛知県東海市の農家が所有する牛舎の屋上に、FD(愛知県刈谷市)が設置した太陽光パネルで発電した電力をソニー株式会社の工場へ自己託送する試みも開始しました。発電した電力の送電はFDが管理し、工場へ供給します。

出典:日経XTEC『ソニーの「あれこれ持たない」自家発電、自己託送は牛舎から』(2021年6月)

5. まとめ:再エネ電気を利用する選択肢が拡大

再エネ電力の利用は、電力会社の再エネプランなどを利用して購入できますが、現在は需要家の企業間で奪い合いの状況になりつつあり、値上がりも予想されます。しかし、自己託送を利用して再エネ電気を調達すれば、自社用の設備なので企業間の再エネ電力の獲得競争に巻き込まれることなく安定して再エネ電力を確保できます。

自己託送により、再エネ設備で発電した電気をより広範囲に供給できるので、自家発電した再エネ電気をより多く自家消費できるようになります。今後、オフサイトPPAの他社・グループ外融通の法的整備が整えば、電気を利用する側の企業にとっては一層、再エネ電気の調達の幅が広がります。

RE100のように使用電源の再エネ比率100%を目指すには、敷地内に設置した再エネ発電設備(オンサイトPPA)では限界があり、多種多様な方法を取り入れて再エネ比率を上げる必要があります。中小企業が省エネを推進するにあたっては、地域の省エネ相談などを通じて、自己託送制度など新たな再エネ電力の調達方法のほか、デジタル化による作業効率の向上なども同時に視野に入れたエネルギー利用の最適化に取り組みましょう。

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024