異常気象の発生が増加|気候変動に向けた緩和策と適応策とは?
- 2022年06月15日
- 環境問題
近年、世界の各地において異常気象の発生が増加し、人々の暮らしや自然の生態系に多大な影響を与えています。この気候変動への対策方法として、緩和策・適応策という2種類があります。
気候変動は私たちが温室効果ガスの排出削減の努力をしても、すぐには止まりません。しかし、将来の地球が生き物が住み続けられる環境を維持し、産業革命以前のような気候をもう一度得るためには、今を生きる私たちの努力が必要です。
気候変動への緩和策・適応策の両面から、私たちが今できることを考えてみましょう。
目次
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気候変動への緩和策と適応策
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気候変動への緩和策
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気候変動への適応策
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まとめ:気候変動には緩和・適応の両面から対策を
1. 気候変動への緩和策と適応策
※気象衛星ひまわり6号が撮影した地球
地球温暖化が進行する中、世界中で豪雨や猛暑などの異常気象のリスクは高まると予想されています。年々厳しさを増している気候変動による異常気象への対応は、CO2の削減だけでは不十分です。
これからの気候変動に対処するための緩和策・適応策とは具体的にどんなものなのでしょうか。
緩和策とは
緩和策とは、温室効果ガスの排出削減や、森林などのCO2吸収を適切な管理で強化することで、地球温暖化を抑制するための対策です。省エネや再生可能エネルギーの利用、リユース・リサイクルなども緩和策の中に含まれます。
適応策とは
適応策とは、気候変動による影響のリスクを低減するために、洪水対策設備や貯水設備などで自然災害に備えたり、生活の在り方を工夫することです。自然災害による停電に備えて自家発電設備を導入したり、気候に合わせた過ごしやすい衣服を着用するクールビズ・ウォームビズなども適応策に含まれます。
出典:環境省『平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 新たな枠組みを踏まえた緩和策』
緩和と適応の関係
出典:環境省『平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 新たな枠組みを踏まえた緩和策』
出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 気候変動影響への適応』
気候変動への対策は緩和策・適応策のどちらも必要です。緩和策と適応策は相互を補完するような関係です。
これからも激しさが増すと予想される気候変動の影響に、あらかじめ備えて被害を最小限に抑えるとともに、地球温暖化の原因となるものを削減して自然災害などの発生件数や被害の規模などを縮小することで、私たちの生活や経済をできる限り守らなければなりません。
2. 気候変動への緩和策
緩和策は下記のような社会全体が一丸となって取り組むものです。それぞれが連携しあい、協力して地球温暖化の抑止力となる行動を選択します。
低炭素エネルギーの導入
気候変動による気温上昇を低く抑えるために、地球温暖化の主な原因であるCO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)を削減しなくてはなりません。そのために再生可能エネルギーや水素などCO2を発生させないエネルギーの導入推進とともに、CCS(CO2を回収・貯蔵する技術)やCCU(CO2を回収・有効利用する技術)の開発・導入で脱炭素社会への移行が世界規模で進められています。
2021年経済産業省が発表したエネルギー計画では、2013年に363百万(3億6300万)KLであったエネルギー需要を2030年には約280百万(2億8000万)KLに削減しつつ、エネルギー供給の20%を再生可能エネルギー、10%を原子力でまかない電力自給率30%を目指すとしています。
出典:経済産業省『エネルギー基本計画(素案)の概要 令和3年7月21日 』p.17(2021年7月)
電力では2013年に9896億KWhであった電力需要を省エネなどにより2030年には約8700億kWhまで抑える計画です。発電方法では、2019年に電源構成全体で再生可能エネルギーが18%と原子力が6%占めていたのに対し、2030年には再生可能エネルギーを約36~38%に、原子力を約20~22%に増やし、さらには水素やアンモニアといったCO2を排出しない新たなエネルギーの本格的な社会実装も予定されています。
出典:経済産業省『エネルギー基本計画(素案)の概要 令和3年7月21日 』p.18(2021年7月)
低炭素化につながる選択
私たちの普段の生活の中でも、より多くの緩和策につながる行動をとることで、社会の脱炭素化に貢献できます。いくつか例を紹介します。
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省エネ家電の導入
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住宅の高断熱化
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エネルギー管理の実施
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徒歩・自転車・公共交通機関の利用
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CO2排出の少ない自動車に乗る
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カーシェアの利用
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環境に配慮した製品の選択
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ごみの分別・リサイクル
3. 気候変動への適応策
日本でも年々気候変動による被害が深刻化していることから、2018年6月には「気候変動適応法」が公布されました。これにより国・地方公共団体・事業者など多様な関係者と連携をとりながら、将来の気候変動に関する情報を共有し、化学的な情報に基づいた適応策を推進することが明確化されました。
出典:環境省『気候変動適応法と 地域における適応策の推進』p.22(2018年6月)
気候変動適応法に基づいた各分野での取り組みを紹介します。
(1)自然災害分野
自然災害への適応策は、それぞれの場所に合わせてさまざまな対策が取られています。河川・沿岸・山地に分けて見てみましょう。
alt属性:海岸保全施設の整備、概念図
出典:環境省『気候変動適応計画について 令和3年10月』p.4(2021年10月)
【河川】
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気候変動の影響をふまえた治水計画の見直し
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あらゆる関係者と連携した「流域治水」
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流域治水におけるグリーンインフラの活用推進
【沿岸】
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気象・海象のモニタリング
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高潮・高波・浸水予測
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粘り強い構造の堤防・胸壁・津波防波堤の整備
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海岸防災林などの整備
【山地】
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「いのち」と「暮らし」を守る重点的な施設整備
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ハザードマップなどの作成
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土砂災害・洪水氾濫対策事業の実施
alt属性:災害リスクを考慮した土地利用、住まい方、図、説明
出典:環境省『気候変動適応法と 地域における適応策の推進』p.18(2018年6月)
(2)健康分野
健康分野では熱中症の注意喚起、都市緑化の推進、休息所の確保などが行われています。「熱中症予防情報サイト」で当日の暑さ指数・熱中症危険度などを公表し注意喚起するとともに、「熱中症環境保健マニュアル」を策定して、熱中症被害の軽減策のための取り組みを促進しています。
埼玉県の取り組み事例では、公共施設や企業の協力のもと、外出時の一次休憩所や熱中症についての情報発信の拠点となる場所を確保し、協力施設一覧として県が公表しています。
出典:環境省『気候変動適応法と 地域における適応策の推進』p.17(2018年6月)
(3)農業分野
農業は気候の影響を大きく受けてしまう分野です。農業分野での気候変動への適応策として、高温耐性に優れた品種の開発・導入などが推進されています。
近年では夏の高温により、米などの品質低下が農家を悩ませています。農業研究センターが高温耐性のある品種を開発し、推奨品種に採用することで順次、栽培する品種の転換を促進しています。
出典:環境省『気候変動適応法と 地域における適応策の推進』p.16(2018年6月)
(4)漁業分野
漁業分野にも気候変動による影響が出ています。海水の温度上昇により、日本海を中心にブリ、サワラ、スルメイカなどの回遊性魚介類の分布・回遊域の変化や、漁獲量の減少が確認されています。
このため漁業分野では、適応策として魚の分布域予測の高精度化に取り組んでいます。農林水産省などが科学的根拠に基づいた高精度な魚の分布予測情報を提供することで、環境の変化に対応した順応的な漁業生産活動を支援しています。
出典:環境省『気候変動適応法と 地域における適応策の推進』p.16(2018年6月)
4. まとめ:気候変動には緩和・適応の両面から対策を
気候変動の影響は既に世界中で深刻な影響をもたらしており、将来さらに激しいものとなる恐れがあります。気候変動の進行を緩和策でできる限り抑制するとともに、気候変動の影響による被害を回避・軽減し、私たちの生活や経済を守るために適応策で備えることが必要です。
中小企業であっても、これは例外ではありません。災害時の停電から自社のデータを守ったり、通常時から稼働して電気代の削減につなげるために、自家発電設備を取り入れる企業が増えています。
また、地域の一員として、災害時や気温の極めて高い日・大雪の日などに地域に協力できる体制を整えておくことも必要になってきます。自社の事業内容や規模に合った気候変動への緩和策・適応策を検討し地域と連携して、長期的に見たリスクの回避と成長につなげましょう。