中国における電力不足問題、原因は脱炭素政策?
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
中国の電力不足問題は、国内の経済に打撃を与え、一般市民の日常生活に支障をきたすなど、さまざまな影響を及ぼしました。このような中国の深刻な電力不足は、なぜ起きたのでしょうか。
中国はパリ協定合意から、脱炭素に向けた目標を掲げており、そのための取り組みを開始しています。メインの電力として活用していた火力発電の抑制に動き、その結果電力不足を招きました。中国の脱炭素に向けた目標が、電力不足にどのように影響しているのか、この記事で詳しく解説します。
目次
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中国の深刻な電力不足はなぜ起きたのか
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製造業や市民生活への深刻な影響
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中国流の脱炭素推進策とは?
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中国の電力不足が及ぼす、世界経済への影響は
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まとめ:中国の電力不足から学び、企業として取り組めること
1. 中国の深刻な電力不足はなぜ起きたのか
脱炭素目標の推進
中国の主電力は、石炭を主燃料とする火力発電です。2008年にはすべての電力の8割を占めていました。そのため、膨大なCO2を発生し、深刻な環境汚染や公害問題を引き起こしました。
しかし、パリ協定後、中国政府は脱炭素の目標を掲げ、CO2を発生する火力発電の抑制を開始。炭鉱の可動を大幅に減らし、全国に約4,700カ所ある炭鉱数を、2025年までには、約4,000カ所まで削減する予定です。
出典:日本総研「電力不足が中国経済の足かせに」(2021.10.28)
石炭価格の上昇
電力不足の一因として石炭価格の上昇もあります。石炭の価格上昇は、世界的な供給力不足が背景にあり、この10年で最高水準にまで達しました。石炭の主要な輸出国であるオーストラリアの発電用石炭(一般炭)の価格は、1トン当たり203.20ドルとなり、2008年についた最高値さえ超えたため、電力会社は十分に燃料確保ができませんでした。
また、中国では炭鉱事故が多発しており、安全監査の厳格化が行われました。そのため、中国の石炭の生産量が需要に追いついていないのも要因のひとつです。
出典:資源エネルギー庁「燃料及び電力を取り巻く最近の動向について」(2021.10.26)(p.16)
2. 製造業や市民生活への深刻な影響
中国経済への打撃
中国の電力不足は、中国の経済にも深刻な影響を与えています。特に製造業や鉄鋼業、セメント産業などはダメージが大きく、生産停止に追い込まれている企業もあります。電力不足を補うため、政府は計画停電を実施しており、多くの工場は操業の調整をしなくてはなりませんでした。工業生産は、2021年度7月から9月まで実質成長率が、前期の+7.9%から前年同期比+4.9%と大幅に減少しました。
出典:日本総研「電力不足が中国経済の足かせに」(2021.10.28)
市民生活への影響
市民生活においては、黒龍江省、吉林省、遼寧省の3省では電力供給制限により、信号が消えたことで車の渋滞を引き起こしたり、集合住宅のエレベーターが停止したり、断水も起きています。電力供給制限は繰り返されているため、市民は停電に備えて、ろうそくや懐中電灯を常に用意するなどの対策に追われました。
出典:CNN Business「中国で電力不足深刻化、突然の停電や操業制限も 世界供給網への影響懸念」(2021.09.29)
3. 中国流の脱炭素推進策とは?
中国のCO2排出量の現状
中国は世界の中でもっともCO2排出量の多い国です。中国は一次エネルギー消費量が多く、2018年度は32.7億トンを消費。このうち58.2%を石炭が占めています。
2000年代からの経済成長に伴い、急速にCO2の排出量は増加しており、近年は毎年90億トン以上のCO2を排出しています。2018年のCO2排出量の割合では、28.4%を中国が占めました。世界への影響を考えても、中国の脱炭素への取り組みは急務なのです。
出典:環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量」(2018)(p.1)
出典:環境省『世界のエネルギー起源CO 排出量(2018年)』(p.5)
パリ協定における中国の脱炭素目標
パリ協定において、中国は2030年までにCO2排出量を減少させ、2060年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。脱炭素への目標を掲げ、GDPあたりCO2排出量を2005年比65%超削減すると表明したのです。この目標達成のため、中国政府は火力発電所を次々操業停止にし、その結果、電力不足問題が起きました。
「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案」では、主要目標として具体的に以下のことを取り決めています。
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2025年までには、GDPあたりのCO2排出量と非化石エネルギーの電力の割合を約20%に引き上げる。
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2030年には二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上削減。非化石エネルギーの割合を25%まで引き上げる。
出典:日本貿易振興機構JETRO「2030年カーボンピークアウトに向けた具体的な取り組み・目標を設定」(2021.11,1)
再エネへの取り組み状況
それでは、脱炭素に向けた中国の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の取り組みはどうなっているのでしょうか。2020年時点での中国の再エネ発電設備容量は9億3,000万キロワットで、国内発電設備容量に占める割合は42.4%、発電量は2兆2,000億キロワットで、国内全体の使用電力の29.5%になりました。これはいずれも世界1位で、世界の3分の1の再エネ発電設備容量を占めます。
発電設備容量の内訳を見ると、特に水力発電や風力発電が、それぞれ10年以上世界1位という記録を打ち立てています。
出典:日本貿易振興機構JETRO「世界最大の再生可能エネルギー市場・設備製造国として、対外進出にも意欲」(2021.4.7)
中国の「第14次五カ年計画」
2021年3月に開催された全国人民代表大会で、中国は「国民経済・社会発展第14次五ヵ年計画と2035年までの長期目標要綱」を承認しました。
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革新
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協調
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グリーン
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開放
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共有
これら5つの項目を「新しい発展理念」として掲げ、今後5年間中国経済は、「質の高い発展」を目指します。このうちの「グリーン」が、人と自然との調和や環境の質の持続的改善などの対策が示されたものです。
これまでは環境を犠牲にして、経済成長を優先させてきた中国ですが、脱炭素に向け、着実な歩みを開始しています。しかし、経済を悪化し続けるわけにはいかないため、しばらくは環境問題より、景気回復を優先するのでないかと言われています。
4. 中国の電力不足が及ぼす、世界経済への影響は
世界のサプライチェーンの混乱
世界の経済にも重要な位置を占めている中国。中国の電力不足は世界の経済にも非常に深刻な影響を与えています。中国はいまや「世界の工場」と呼ばれており、製造業などでの生産が停止すれば、グローバル・サプライチェーンで混乱が広がり、各国でインフレ圧力を高める恐れがあります。
日本企業への影響は
日本企業も電力不足の影響を多大に受けました。中国に拠点を置く、自動車、電子部品、プラスチック製品を扱う企業などが、2021年10月まで電力制限の影響を受け、工場可動や生産の操業停止を余儀なくされました。今後も電力制限の可能性があり、危機感が強まっています。
中国の電力不足から何を学ばなければいけなのか
このように、脱炭素に向けて加速度的に対策を進めている中国ですが、電力不足による問題が多発しています。特に経済との両立については、難しい状況なのが現実です。しかし、カーボンニュートラル達成に向けて、再エネの促進普及を目指すことは、国際的な立場を見ても重要。今後も中国は、脱炭素に向けた対策を推し進めることでしょう。
企業は、中国発のサプライチェーンの危機に対応するための具対策を講じたり、影響を最小限に減らす努力をしたりといった取り組みが重要になります。
5. まとめ:中国の電力不足から学び、企業として取り組めること
中国の深刻な電力不足が、なぜ起きたのか。どのような問題点があるのかを、さまざまな角度から解説しました。中国の電力不足は他山の石ではなく、その問題点から日本も学ぶべきことがたくさんあります。世界が脱炭素への道を目指す限り、再エネをはじめとしたグリーン電力の需要は、ますます増加するでしょう。日本も2050年までにはカーボンニュートラル達成を目標としています。
世界の流れをキャッチし、いざという時に電力不足の影響を受けることのない、持続可能な企業をぜひ目指しましょう。