GDPあたりのCO2排出量とは|削減対策のヒント

物を作り出す際や運搬する際に大量のCO2が排出されることが想定されるため、一国のGDPあたりのCO2排出量は経済活動の活発化とともに増える、と考えられています。

また、最近では環境問題が社会での関心を多く集めていることにより、企業は経済活動向上の一環として、環境に対しての配慮や取り組みも重要視され始めています。実際、日本ではここ数年の間で、GDPの上昇に反比例してCO2排出量は下がってきているのです。

そこでこの記事では、GDPとCO2の排出量の関係性を分析することで、脱炭素へのヒントを見つけるきっかけを提供します。

目次

  1. GDPあたりのCO2排出量とは

  2. GDPあたりのCO2排出量|日本と世界

  3. CO2排出の要因を分解して削減対策を考える

  4. まとめ:GDPあたりのCO2排出量の視点をもって削減対策をしましょう!

1. GDPあたりのCO2排出量とは

2015年9月の国連サミットでは、持続可能な開発目標である、SDGsが採択されました。目標を達成するためには数値による裏付けが欠かせません。進捗を図るための指標として、2017年の国連総会でグローバル指標という枠組みが承認されました。

出典:総務省「SDGグローバル指標の公表」令和元年8月8日

様々な指標の中で、指標9.4.1は「付加価値の単位当たりのCO2排出量」を測る指標で、CO2排出量と、関連する経済活動の付加価値の比として定義されています。

算出方法としては、CO2排出量から実質GDPを除することにより、GDP単位当たりのCO2を求めます。

GDP単位あたりのCO2排出量計算式

出典:外務省「指標 9.4.1(P1)」

CO2排出量は、インフラ整備、社会構造の変化、企業によるイノベーションなどにより、GDPが高くなってもCO2排出量が抑えられるということが起こります。GDPあたりのCO2排出量が低い場合、効率的な製造構造だということがいえるのです。出典:外務省「指標 9.4.1(P1)」

2. GDPあたりのCO2排出量|日本と世界

それでは、実際にGDPあたりのCO2排出量はどのような変遷をしてきたのでしょうか。まずは日本の場合をご紹介し、次いでCO2排出量の増減に関して他の先進国との比較を通して見てみましょう。

日本のGDPあたりのCO2排出量の変遷

日本のGDPは、1990年度を100とすると2018年度は130に増えています。一方、GHG(温室効果ガス)排出量は、2008年の金融危機の影響のため、2009年度に落ち込みを見せますが、再び上昇に転じ2013年度をピークに下降。2018年度は1990年を下回り、98(2005年度比ー10.0%、2013年度比ー11.8%、2017年度比ー4.3%)になりました。

次にGDPあたりのGHG排出量を見ると、減少していることがわかります。とくに、2012年以降はGHGの実質排出量もGDPあたりのGHG排出量も、ともに削減に向かっています。このことから、環境改善と経済の成長が好循環へと変化しつつあることがわかります。GDPあたりの温室効果ガス排出量の推移

出典:環境省「2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量(速報値)<概要>(P8)」令和元年11月29日

日本のGDPあたりのCO2排出量の歴史的推移

指標9.4.1の計算式に従い、GDPあたりのCO2排出量の推移を見てみましょう。

1975年から1986年にかけてCO2排出量は大きく減少しています。高度経済成長を邁進していた日本は、1973年のオイルショックを経験し省エネの意識が高まり、それがCO2排出量に影響を与えています。一方、GDPはバブル景気に向かって大きく上昇しました。

1986年度あたりから、景気の動向によって多少の上昇下降はあるものの、GDPあたりのCO2排出量の減少は緩やかになっています。

しかし、2011年3月の東日本大震災をきっかけに、日本中の原発が停止されたことで、ベース電源の代替として石炭火力発電量が再び増加しました。これにより、CO2排出量は一時増大しました。一方で、2014年からは減少に転じます。2018年に至るまで経済は成長しつつ、CO2排出量を減少していく、いわゆるデカップリング(*)を連続して実現しています。

*デカップリング=環境分野においてデカップリングは、主に「経済成長」と「天然資源の利用」や「環境影響」を切り離すこと。つまり国や自治体、企業などの努力により、天然資源を大量消費せずに経済を成長させること。

我が国の実質GDPと実質GDP当たりエネルギー起源CO2排出量の推移

我が国の実質GDP及び実質GDP当たりエネルギー起源CO2排出量の長期的推移

出典:環境省「2018年度温室効果ガス排出量分析(エネルギー起源CO2)(P2)」

世界各国のGDPあたりのCO2排出量比較

世界各国の「GDPあたりのCO2排出量」を見てみると、国によって傾斜はまちまちですが、大きな流れとしては減少しています。

1990年度はロシアのGDPあたりのCO2排出量は飛びぬけて多かったのですが、その後、急激に減少しています。しかしながら他国の排出量と比較すればはるかに多く、中国、インドとともにワースト3に入っております。2018年度時点で、ワースト1は中国で、0.91kgCO2/2010USドルでした。

最も小さかったのはフランスで、0.10kgCO2/2010USドル。1973年のオイルショックを契機に原子力発電所への依存度を高め、現在は全発電量の77%を原子力発電が占めています。

出典:日本化学未来館『質問: フランスはなぜ原子力の比率が高い?』2021年11月22日閲覧

なお日本は、0.18kgCO2/2010USドル。EUを除く11カ国の中で5番目に小さい値となっています。

各国の実質GDP当たりCO2排出量(エネルギー起源)の推移

各国の実質GDP当たりのCO2排出量(エネルギー起源)の推移

出典:環境省「2018 年度(平成 30 年度)の温室効果ガス排出量(速報値)(P14)」

日本では早くから省エネに取り組み、CO2排出量を相当量減らしてきています。しかし気候変動に対する脱炭素への取り組みの中で、日本においてもさらなるCO2排出量の削減を迫られているのです。この上、さらに野心的な削減目標を達成するにはどうしたらいいのでしょうか。

3. CO2排出の要因を分解して削減対策を考える

日本において温室効果ガスの約9割はエネルギー起源です。つまり、温暖化対策はエネルギー政策につながるということです。脱炭素へ向かって前進することは大切ですが、やみくもに脱炭素に向かうことは、かえって日本経済の破綻に導いてしまう恐れもあります。

 

我が国の温室効果ガス排出量のガス種別内訳

出典:環境省「2019年度(令和元年度)温室効果ガス排出量(確定値)について(P4)」

GDPの成長とエネルギー政策

GDPの成長をはかりつつ脱炭素を目指すためには、S+3Eバランス(*)を最大限に配慮しながらエネルギー政策を進めていく必要があります。

*S+3Eバランス=安全性(Safety)を第1の前提条件とし、そのうえでエネルギー安全保障(Energy)、経済性(Economy)、環境(Environment)のバランスをとること

出典:日本経済団体連合会「パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言」2019年3月19日

それでは、S+3Eバランスを確保しつつCO2排出量を削減するようにするために、企業はどのようなことに留意して活動していけばいいでしょうか。

CO2排出量を要素に分解してCO2削減を考える

東京大学名誉教授の茅陽一氏が提示した、CO2排出量を要素に分解した式(茅恒等式)があります。この式によると、CO2の総排出量は「エネルギー消費あたりのCO2排出量」「経済活動のエネルギー効率」「人口一人あたりの経済水準」「人口」の要素があることが示されます。

「エネルギー消費あたりのCO2排出量」はCO2排出量をエネルギー消費量で、「経済活動のエネルギー効率」はエネルギー消費量をGDPで、「人口1人あたりの経済水準」はGDPを人口で除算することで求められます。

茅恒等式によるCO2排出量

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点

これから導かれるCO2排出量削減のための企業活動は、次のようなことが考えられます。

  • 「エネルギー消費あたりのCO2排出量」の値を低くしようとするならば、電力の供給をより低炭素由来のもの、たとえば再エネなどに変える

  • 「経済活動のエネルギー効率」の値を低くしたい場合は、エネルギー効率のいい機械の導入など省エネ体質に変えていく

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点

4. まとめ:GDPあたりのCO2排出量の視点をもって削減対策をしましょう!

GDPあたりのCO2排出量を、GDPの成長をはかりつつ削減させるために、今後企業が考えていかなければならないことは、「エネルギー消費あたりのCO2排出量」あるいは「経済活動のエネルギー効率」、またはその両方の値を下げていくことを考えることでしょう。

そのための対策や新たな技術革新を起こして、CO2排出量を削減していきましょう。

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