新電力に大きな打撃?容量市場とは|容量市場の目的や課題
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
2020年7月に、日本では4年後の発電能力(kW価値)を取り引きする容量市場の初となるオークションが実施されました。供給が不安定な再生可能エネルギーを補い主電源化することが主な目的です。しかしながら第1回目となるオークションが終了し、日本が抱える問題点が明らかになりました。
この記事では、日本が導入した容量市場について関心のある法人の皆さまが知っておくべき基本的な知識をご紹介します。
目次
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世界ではすでに実施!容量市場の種類
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新しい挑戦・日本で始まった容量市場とは?
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日本型容量市場が抱える課題
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まとめ:容量市場に関する知識を深め、4年後の日本の電気事情を予測しよう!
1. 世界ではすでに実施!容量市場の種類
日本では2020年に初めて導入された容量市場ですが、世界ではすでに数種類の容量市場が導入されています。ここでは世界で実施されている容量市場の種類についてご紹介します。
容量市場(集中型・分散型)
発電事業者が保有する容量に対して、小売事業者が市場メカニズムで決定した価格で支払う制度です。
(導入状況)
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イギリス
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フランス
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イタリア
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ポーランド
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ポルトガル
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米PJM
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米カリフォルニア州
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豪(西部)
容量支払い
発電事業者が保有する容量に対して、公的主体が定めた価格で支払う制度です。イタリアは容量支払いを導入していますが、現在は容量市場へ移行しています。
戦略的予備力
緊急時に不足すると見込まれる容量を系統運用者があらかじめ確保するための制度です。ポーランドは戦略的予備力を導入していましたが、現在は容量市場へ移行しています。
(導入状況)
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ドイツ
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ベルギー
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スウェーデン
価値スパイク
供給量が一定値を下回ると、需要曲線に沿って卸市場価値が高騰する制度です。
(導入状況)
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米テキサス州
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豪(南東部)
出典:経済産業省『容量市場の見直しに向けた検討状況』(2021/3/26)(p.7)
2. 新しい挑戦・日本で始まった容量市場とは?
再生可能エネルギーを主力電源化するための新しい挑戦として、日本は2020年度に容量市場を導入しました。日本型容量市場とはどのような取り引きの場として利用されるのかや、発電事業者側と小売電気事業者側で得られるメリットについてご紹介します。
日本では2020年に導入・日本型容量市場とは?
日本の電力市場では、電気の価値により取り引きをする市場が異なります。市場は大きく4種類に分類されています。
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容量市場
容量市場では、将来において発電できる能力(kW価値)が取り引きされます。海外の容量市場制度を参考にして、日本は2020年7月に2024年度のkW価値を取り引きする第1回オークションを実施しています。
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卸電力市場
実際に発電された電気(kWh価値)を取り引きする市場です。
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需給調整市場
短時間で需給調整できる能力(△kW価値)を取り引きする市場です。
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非化石価値取引市場
非化石電源で発電された電気に付随する環境価値を取り引きする市場です。
出典:経済産業省『容量市場の見直しに向けた検討状況』(2021/3/26)(p.2)
日本型容量市場のメリット
容量市場により4年後の電力を確保することで、日本は出力が不安定な再生可能エネルギーを補うことができるようになります。また、発電事業者側にも小売電気事業者側にもそれぞれメリットがあります。発電事業者は収入源が実際に発電した電気を売ることで得られる売電収入だけではなくなるため、発電設備の維持費も確保できます。小売電気事業者は4年後の電力調達が約束されるため、事業運営が安定します。
出典:資源エネルギー庁『くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する「容量市場」』(2021/6/29)
3. 日本型容量市場が抱える課題
発電事業者側と小売電気事業者側ともにメリットが得られる日本型容量市場ですが、第1回オークション終了後に見えてきた課題があります。ここでは第1回オークションの結果と、日本型容量市場が抱える課題についてご紹介します。
第1回オークションの結果
海外の容量市場制度を参考にして、日本は2020年7月に2024年度のkW価値を取り引きする第1回目のオークションを実施しました。容量市場メインオークションは、以下のような結果になりました。
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約定価格:14,137円/kW(入札上限)
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経過措置価格:8,199円/kW
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総平均価格:9,534円/kW
日本の約定価格は入札上限の14,137円/kWで、欧米各国の価格水準と比較すると非常に高い価格です。欧米各国の価格水準は以下の通りです。
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イギリス:1,000〜3,000円/kW/年
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アメリカ(PJM):3,000〜7,000円/kW/年
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フランス:1,000〜2,000円/kW/年
このような入札結果になった背景にあるのが、4年後の日本全体における確実に稼働できる供給量の不足です。第1回オークションの結果は関係者に大きな衝撃を与え、政府は見直しを迫られることになりました。
出典:資源エネルギー庁『容量市場について』(2020/10/16)(p.8)
日本型容量市場が抱える課題
約定価格が入札上限額だったことは、小売事業者の負担の増大や2024年度における電力不足を意味しています。第1回オークションの結果を受け、政府は3つの柱を基準に容量市場の見直しを実施する方針を固めています。
[1]確実な供給量の確保
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供給力として最大需要の113%相当の設備容量を確保すること。
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再生可能エネルギーの活用に資するデマンド・レスポンス枠を3から4%に拡大すること。
[2]小売負担の抑制を目的とする価格決定手法の抜本的な見直し
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オークションを2段階で実施する。
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経過措置と逆数入札を廃止し、新たな制度を導入する。
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電力・ガス取引監視等委員会による入札価格の事前監視制の導入。
[3]2050年におけるカーボンニュートラルとの整合
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供給力としての石炭火力を維持しつつCO2排出量を抑制することを目的に、非効率石炭火力について設備利用率に応じ減額を行うインセンティブの導入。
出典:経済産業省『容量市場の見直しに向けた検討状況』(2021/3/26)(p.24)
4. まとめ:容量市場に関する知識を深め、4年後の日本の電気事情を把握しよう!
この記事では、2020年度に日本で初めて導入された容量市場の基礎知識や課題などについてご紹介しました。現状のままでは電力の買い手となる小売電気事業者が金銭的に大きな負担を強いられることになります。今後政府は容量市場のあり方を抜本的に見直していく方針を固めています。電力を多く使用する企業は、容量市場に関する知識を深め、4年後の日本の電気事情を把握しておく必要があります。