アンモニアはCO2フリーの次世代燃料|製造過程でのCO2排出量は?
- 2022年06月15日
- SDGs
地球温暖化にともなうCO2の排出が問題となっており、CO2の排出削減に向けた取り組みが注目されています。その中で、アンモニアを製造し燃料として利用することで、CO2の排出削減につなげようという取り組みが行われています。
ここではアンモニアの特徴と、製造における排出量とアンモニアの利用により削減できるCO2の排出量の比較も合わせて解説します。今後発電エネルギーの分野で注目されるアンモニアの知識を得ることは経済の分野でも重要となるでしょう。
目次
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有毒物質?アンモニアの基礎知識
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エネルギー分野で期待!アンモニアでCO2排出削減
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アンモニアの利用でどう変わる?CO2削減量と製造過程での排出量
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日本での取り組みは?CO2削減へ向けたアンモニア製造への取り組み
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【まとめ】アンモニア製造技術向上がポイント!カーボンフリー達成へ
1. 有毒物質?アンモニアの基礎知識
アンモニアと聞いてどんなイメージを受けますか?あまり知られていませんが、アンモニアは私たちの生活の中の様々な場所で利用されています。まず、アンモニアとはどのような物質かを知っておきましょう。
肥料や化学製品の基礎材料としての利用
アンモニアは「においの強い有毒物質」と考える人がほとんどだと思います。実際アンモニアの物質には毒性があり、「劇物」に指定されています。分子式では「NH3」となり、水素(H)と窒素(N)で構成されています。合成されたアンモニアの8割は肥料として利用され、残りの2割は工業用として、メラミン樹脂やナイロンなどの合成繊維の原料として利用されています。また、火力発電所で排出される大気汚染物質の「窒素酸化物(NOx)」にアンモニアを結びつけることで起こる化学反応で窒素(N2)と水(H2O)に還元する「還元剤」としても使われています。
このようなニーズにより、世界各国の化学工場ではアンモニアの生産が行われています。アンモニアの合成には水素が必要となりますが、最近では再生可能エネルギーの電気を利用した、水を電気分解してつくる水素の利用も検討されています。
世界での需給量(自国内消費がほとんど)
世界全体でみたアンモニアの生産量は2019年で約2億トンで、輸出入量は約2,000万トンと生産量の1割程となっています。つまり、生産されたアンモニアのほとんどは、生産国内で消費されているということになります。
日本でも2019年の消費量約108万トンのうち、78.3%は国内で生産されたもので、残りの2割をインドネシアとマレーシアからの輸入でまかなっています。
出典:経済産業省資源エネルギー庁『アンモニアが燃料になる?!(前編)』(2021.1.15)
2. エネルギー分野で期待!アンモニアでCO2排出削減
以上のように、現在ではそのほとんどが肥料として使われるアンモニアですが、これがCO2の削減にどう結びついていくのでしょうか。ここからはアンモニアの新しい用途についてご紹介します。
水素の輸送媒体としての利用
アンモニアは水素分子を含む物質であることから、次世代のエネルギーとして注目されている水素の輸送媒体としての利用が可能であるとされています。水素は大量輸送が難しい物質であることからエネルギー分野での利用の際、輸送技術の確立が問題とされてきました。アンモニアは既に輸送の問題に対しての開発が進んでおり、アンモニアのかたちで輸送を行い、利用する場所で水素に戻すという手法が研究されています。
アンモニアを燃料とした発電利用
さらに近年では、アンモニアをそのまま燃料として利用する研究も進んでいます。アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないカーボンフリーの物質であることから、アンモニアを発電のためのエネルギー源として利用しようというものです。現在利用されている石炭火力発電に混ぜて利用することも可能で、それによりCO2の排出量を抑える利用方法も研究され、実証実験も行われています。
3. アンモニア利用でどう変わる?CO2削減量と製造過程のCO2削減策
アンモニアは地球温暖化対策としてのCO2排出削減の次世代のエネルギーとして注目されています。では、実際にアンモニアによってCO2の排出量はどのよう変化するのでしょうか。
アンモニア発電によるCO2排出削減量
現在、石炭火力に20%混焼する実験が行われていますが、全ての石炭火力で20%の混焼が可能となるとCO2の排出量は約4,000万トンの削減量となります。さらに全ての石炭火力発電がアンモニアだけの専焼に変わると、約2億トンのCO2排出量削減につながるのです。
出典:経済産業省資源エネルギー庁『アンモニアが燃料になる?!(前編)』(2021.1.15)
アンモニア製造過程で生じるCO2の削減策
アンモニア発電により大幅なCO2削減が見込まれます。一方で、アンモニアの製造には高温・高圧下で鉄系の触媒を用いて合成するハーバーボッシュ法という手法が利用されており、これにより製造過程においてCO2が排出されています。製造過程でのCO2排出に対して、経済産業省では、製造への低温・低圧で合成の可能な触媒の開発により、製造時のCO2排出削減を実現するための研究に力を入れています。
出典:経済産業省資源エネルギー庁『燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性』(p26)(2021.6)
また、CCUS*を通じてCO2の排出量を抑えた「ブルーアンモニア」や、再生可能エネルギーを利用した「グリーンアンモニア」の推進により、製造過程でのCO2排出量の削減に向けて取り組んでいます。福島県の福島再生可能エネルギー研究所では、再エネ由来電力で製造された水素からアンモニアを合成する実証実験も行われており、カーボンフリーの燃料アンモニアを使った電力の普及を進めています。
*Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で回収、分離、貯留したCO2を利用する技術
出典:経済産業省『燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画』(2021.9.14)
出典:経済産業省『アンモニアが燃料になる?!(後編)』(2021.1.29)
アンモニア燃料の課題
アンモニアを燃料として活用する際の課題は、「安定的な量の確保」です。前述の石炭火力の20%混焼を行うことでも、世界のアンモニア輸出入量と同等の約2,000万トンのアンモニアが必要となります。さらに混焼率の上昇や、専焼がスタートすれば世界的に供給が不足し、価格の上昇にもつながります。今後は合成のクリーン化と合わせて、安定的な量の確保への対策が必要となります。
4. 日本での取り組みは?CO2削減へ向けたアンモニア製造への取り組み
では、日本ではアンモニア燃料の利用に向けてどのような取り組みがされているのでしょうか。ここからは日本での取り組みについてご紹介します。
火力発電での混焼利用の実証実験
アンモニア利用について最も研究・開発が進んでいるのが火力発電における混焼となります。内閣府で発足した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」により、2014年から技術開発が行われ、一定の成果が確認されています。2021年度からはさらに実験規模の拡大を目指し、国内最大の火力発電会社「JERA」の碧南火力発電所で20%混焼の実証実験を行う予定となっています。
出典:経済産業省『アンモニアが燃料になる?!(後編)』(2021.1.29)
ガスタービンでの燃焼発電
石炭火力での混焼の他に、アンモニアを直接燃焼させてガスタービン発電に利用する取り組みもおこなわれています。ガスタービン発電は液化天然ガス(LNG)の燃焼による高温・高圧ガスでタービンを回し、電気をつくります。石炭火力と同様に混焼して利用する方法も開発が進んでおり、50~2,000kwの中小規模のガスタービンで研究がおこなわれています。
さらに、数10万kw級の大型タービンでの開発もすすんでおり、55万kw級のガスタービンでの利用が実現すれば1基につき年間で110万トンのCO2排出削減につながります。
出典:経済産業省『アンモニアが燃料になる?!(後編)』(2021.1.29)
燃料アンモニア導入官民協議会
経済産業省では、2030年頃には社会実装して本格的に運用をスタートし、2040年代には専焼を目指しています。そのうえで問題となる「安定した供給量の確保」に向け、安定したサプライチェーンの構築を目指し2020年10月に「燃料アンモニア導入官民協議会」が発足しています。政府機関の他、三菱商事(株)・丸紅(株)・(株)JERAなどが参加し、発電会社、供給を担う商社、設備メーカーなどによる話し合いで導入にむけた道筋の構築が進められています。
出典:経済産業省『アンモニアが燃料になる?!(後編)』(2021.1.29)
5. 【まとめ】アンモニア製造技術向上がポイント!カーボンフリー達成へ
アンモニアは現在8割が肥料として利用されている物質で、エネルギー分野での利用方法としては、水素の輸送媒体としての利用の他、燃焼によるCO2の排出がないことから、燃焼によるエネルギー発電への利用も進められており、石炭火力から、アンモニアへの専焼による発電に切り替えることで、年間約2億トンのCO2排出削減が可能になります。
現在、合成時のCO2排出削減への研究が行われ、CCUSを通じてCO2の排出量を抑えた「ブルーアンモニア」や、再生可能エネルギーを利用した「グリーンアンモニア」の利用によりカーボンニュートラルの施策として経済産業省が研究・開発を推進しているアンモニア。今後の課題としては、「安定的な量の確保」が求められ、官民一体でサプライチェーンの構築がすすめられています。
CO2の排出削減に向けたアンモニアの利用は、カーボンフリー達成にむけて有効な手段となり、今後の課題の解消が求められます。次世代のエネルギーとして注目しておきましょう。