2050年脱炭素社会実現を目指す世界の二酸化炭素削減への取り組み
- 2022年06月15日
- CO2削減
地球温暖化の原因として疑う余地がない温室効果ガス(GHG)の中で、量が圧倒的に多いのが二酸化炭素(CO2)です。この二酸化炭素削減の取り組みに当たって、世界は今、大切な時期にあります。
2030年までにどれほど二酸化炭素削減の結果を出すかが、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑えられるかに大きく関わってくるからです。この世界の平均気温上昇を抑えるに当たって重要な鍵となる二酸化炭素削減について、主要各国の目標と取り組みを見てみましょう。
目次
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二酸化炭素削減に向けた世界の動き
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二酸化炭素削減に向けた世界各国の政策
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二酸化炭素削減に向けた日本の動き
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世界で二酸化炭素削減に取り組む日本の国際協力
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まとめ:二酸化炭素削減は中小企業にとっても必須
1. 二酸化炭素削減に向けた世界の動き
GHGにはメタン、一酸化二窒素、フロンなどが含まれますが、中でも量的に最も多くを占める二酸化炭素は、現在先進国では減少傾向にありますが、一方で新興国では増加傾向にあります。この二酸化炭素の排出量をエネルギー起源に絞ってG20の国別に見てみると、ヨーロッパ諸国、南アフリカ、北米大陸、ロシア、日本では排出量が減少傾向にあるのに対し、日本を除いたアジア諸国、トルコ、サウジアラビア、アルゼンチン、オーストラリアでは増加傾向にあることがわかります。
※2013年を100とした場合のG20各国の二酸化炭素排出量の推移
出典:資源エネルギー庁『CO2の排出量、どうやって測る?~“先進国vs新興国”』(2020年8月)
世界の二酸化炭素削減に取り組む国と地域
2021年4月では、125ヵ国・1地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しています。これらの国と地域における二酸化炭素排出量の世界全体に占める割合は37.7%です。
この時点での世界最大の二酸化炭素排出国は中国(28.2%)です。2020年の国連総会で習主席は、中国は2060年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しています。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021 第2節 諸外国における脱炭素化の動向』(2021年7月)
出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021 第2節 諸外国における脱炭素化の動向』(2021年7月)
世界全体で二酸化炭素削減を実現するために
二酸化炭素の排出量は、先進国においては国外への工場移転などにより減少しているものの、世界全体では増加傾向にあります。製品の輸出入の量を二酸化炭素排出量に換算すると、「世界の工場」と呼ばれる中国では二酸化炭素の輸出量が際立って多く、製造業を他国に依存して自国内ではサービス産業を増加させているEUでは、二酸化炭素を多く輸入していることになります。
※経済とCO2排出量のデカップリングに関する分析:消費ベースCO2排出量の推計
出典:資源エネルギー庁『CO2の排出量、どうやって測る?~“先進国vs新興国”』(2020年8月)
2. 二酸化炭素削減に向けた世界各国の政策
世界で125ヵ国・1地域、グローバル企業などが続々とカーボンニュートラルを表明する中、企業・産業界・国家のそれぞれのレベルで脱炭素社会に向けた二酸化炭素削減の大競争時代に突入しています。気候変動対策と整合したビジネス戦略・国家戦略が国際競争力の前提条件となりつつあります。
出典:経済産業省『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.2(2021年8月)
出典:経済産業省『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.24(2021年8月)
EU
2020年7月にEU委員会で合意された案によると、EUは10年間で120兆円(1兆ユーロ)の※グリーンディール投資を計画しています。そのうち、7年間のEU予算で総事業費70兆円(2,775億ユーロ)を、※グリーンリカバリーに充てるとしています。
※グリーンディール:2019年12月EU委員長に就任したフォン・デア・ライエン氏が掲げた政策。環境配慮と経済の成長の両立、2050年カーボンニュートラルを目指している。
※グリーンリカバリー:脱炭素社会への移行に向けた投資により経済を復興させようという試み。
ドイツ
2020年6月、ドイツ政府は、6兆円(529億ユーロ)の先端技術支援による景気刺激策を発表しました。そのうち、0.8兆円(70億ユーロ)を水素関連の技術、0.3兆円(25億ユーロ)を充電のインフラ整備に、約1兆円(93億ユーロ)をエネルギーシステム・自動車・水素などの分野のグリーン技術開発に充てる予定です。
フランス
2020年9月、フランス政府は、2年間で3.6兆円(300億ユーロ)をクリーンエネルギーやインフラなどのエコロジー対策に投資することを発表しました。このうち、水素・バイオ・航空などの分野のグリーン技術開発に約1兆円が充てられます。
韓国
2020年7月の韓国政府の発表によると、韓国は今後5年間で政府支出として3.8兆円(42.7兆ウォン)を再エネ拡大・EVの普及・スマート都市などのグリーン分野に投資する計画です。この総事業費は7兆円(73.4兆ウォン)とされ、65.9万人の雇用創出が見込まれています。
アメリカ
2021年3月、アメリカ政府は歳出期間8年間で総額約220兆円(約2兆ドル)をインフラ・研究開発などへ投資することを、アメリカの雇用計画の第1弾として発表しました。デジタルやグリーンを含む研究開発に約4兆円(350億ドル)、※ARPA-C設立・気候変動研究に約4兆円(350億ドル)、エネルギー貯蔵・※CCS・水素・先端原子力・洋上風力・バイオ燃料・粒子コンピューティング、EVなどの優先実証課題にやく1.7兆円(150億ドル)の投資が計画されています。
※ARPA-C:気候高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency-Climate)。バイデン大統領が選挙運動中に創設を約束した。
※CCS:Carbon dioxide Capture and Storageの略。二酸化炭素を回収、除去、貯留する技術
イギリス
2020年11月のイギリス政府の発表によると、イギリスは2030年までに政府支出として1.7兆円(120億ポンド)を洋上浮力・水素・原子力・EV・公共交通・航空・海上交通・建築物・※CCUS・自然保護・ファイナンスイノベーションなどの10の分野に投資する計画です。これにより5.8兆円(420億ポンド)の民間投資を誘発すると見込んでいます。
※CCUS:Carbon dioxide Capture,Utilization and Storageの略。回収、分離、貯留した二酸化炭素を利用する技術。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021 第2節 諸外国における脱炭素化の動向』(2021年7月)
3. 二酸化炭素削減に向けた日本の動き
日本では、社会全体として二酸化炭素削減のために、電力部門では再生可能エネルギーなどの非化石電源の拡大、産業・民生・運輸(非電力)部門では燃料利用・熱利用において脱炭素化された電力による電化・水素化・メタネーション・合成燃料を通じた脱炭素化を進めています。国民負担の抑制のため、既存の設備を最大限に活用し、エネルギー需要側にエネルギー転換への受容性を高めるなど、段階的な取り組みが行われています。
出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルを見据えた 2030年に向けたエネルギー政策の在り方』p.10(2021年4月)
二酸化炭素削減・気候変動問題解決に向けた3つのアプローチ
日本は2050年までに脱炭素社会、カーボンニュートラルを目指しています。さらに、世界のカーボンニュートラルだけでなく、過去に排出された二酸化炭素の削減(ビヨンド・ゼロ)する革新的な技術を2050年までに確立することを目指しています。
気候変動問題の解決のため、日本は以下の3つのアプローチから、世界の脱炭素化に貢献しています。
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脱炭素化技術の革新的なイノベーション
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グリーン・ファイナンスの推進
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日本の優れた環境技術・製品などの国際展開
出典:経済産業省『「ビヨンド・ゼロ」実現までのロードマップ』
炭素削減価値(カーボン・クレジット)市場の創設
世界各国で炭素削減価値(カーボン・クレジット)に関する市場を作り、世界の3500兆円に及ぶESG資金を誘導し、脱炭素時代の情報の中心を自国に引き込もうとする動きが活発化しています。日本もカーボン・クレジット市場の創設を行い、カーボンニュートラル時代のアジアにおける拠点となることを目指しています。
出典:経済産業省『世界全体でのカーボンニュートラル実現 のための経済的手法等のあり方に関する 研究会』p.29(2021年8月)
4. 世界で二酸化炭素削減に取り組む日本の国際協力
国際協力とJCMについて
JCMとは、二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism)のことで、途上国と協力して二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度です。日本の優れた脱炭素技術などで途上国の排出削減に協力し、地球規模での温暖化対策に貢献するとともに、クレジットとして日本の貢献を定量的に評価することにより、日本の二酸化炭素削減目標の達成にも活用できます。
出典:資源エネルギー庁『温暖化への関心の高まりで、ますます期待が高まる「二国間クレジット制度」』
出典:環境省 経済産業省『気候変動分野の国際協力とJCMについて』p.6(2021年4月)
日本企業の二酸化炭素削減による国際協力の事例
二国間クレジット制度の活用として、インドネシアのジャカルタ地域におけるイオンモールの事例があります。民間主導プロジェクトであるジャカルタでのイオンモール事業へ、※JOIN協調融資とJCM設備補助を実施しています。
このプロジェクトは大型ショッピングモールにおいて、天然ガス婚ジェネレーションシステム、太陽光発電などのエネルギーシステムの導入によって、大幅に二酸化炭素排出量の削減を実現しています。このプロジェクトの調査結果次第では今後イオンモールがインドネシアに展開予定の全店舗へ省エネ型設備が展開され、インドネシアの商業施設全体の省エネ化に貢献することが期待されています。
※JOIN:海外の交通・都市開発などのインフラ事業を行う日本企業の海外市場への参入促進と、日本経済の持続的な成長への寄与を目的に2014年に創立された官民によるインフラファンド
出典:環境省 経済産業省『気候変動分野の国際協力とJCMについて』p.13(2021年4月)
出典:JCM『大型ショッピングモールへのガスコージェネレーションシステムおよび太陽光発電システムの導入』
5. まとめ:二酸化炭素削減は中小企業にとっても必須
気候変動問題は世界的な課題であり、国・地域・地方自治体・企業・学校・家庭など、社会全体でのさまざまなレベルでの連携と取り組みなくしては解決できません。二酸化炭素削減の取り組みと同時に炭素に価格付けをし(カーボン・プライシング)、炭素削減価値(カーボン・クレジット)の取り組みを行う新たな市場が、日本でも2022年度に試験導入される予定です。
出典:経済産業省『成長に資するカーボンプライシングについて①』p.34(2021年3月)
日本の今後の経済成長のためには、日本の高い脱炭素技術や環境制度、水素技術などを海外に輸出し、他国と協力しながら世界の二酸化炭素排出量の削減や循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行に貢献することが重要です。中小企業においても、自社のエネルギー消費や二酸化炭素排出量を正確に把握し、できることから省エネ・再エネの導入など二酸化炭素排出量削減に取り組みましょう。
企業のエネルギー使用量や二酸化炭素排出量の把握には温室効果ガス排出量管理クラウドサービスなど、便利なサービスを利用することで効率的に自社のデータを見える化し、分析・管理ができます。省エネ・再エネの導入では、使用する電気を再生可能エネルギーで発電された電力のプランに替えるなど、大きなコストをかけずに始められる手段もあります。