近年の異常気象により世界の経済損失は50年間で約400兆円に!?

大雨の中を進む車とずぶ濡れの自転車を運転している人

近年、世界の多くの地域で異常気象が頻発しています。ブリュッセル大学の最新の研究では、現在の子どもたちは所得の高い国で祖父母の世代より2倍多く異常気象を経験し、低所得の国では3倍になると報告しています。

このように深刻な異常気象により、社会や経済は大きな影響を受けています。企業が適切に気候変動や異常気象のリスクへの対応をするために、近年の異常気象の世界全体の傾向と代表的な事例を確認しましょう。

出典:BBC『気候変動が貧困を拡大、経済や子供たちにも大きな影響』

目次

  1. 異常気象はなぜ起こるのか

  2. 近年の日本で起こった異常気象

  3. 近年の世界で起こった異常気象

  4. 異常気象による経済的影響

  5. まとめ:気候変動・異常気象への適応をビジネスの機会に

1. 異常気象はなぜ起こるのか

2021年8月、IPCC(国連による気候変動に関する政府間パネル)が前回から8年ぶりとなる報告書を公表しました。IPCCはこの中で、人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がないことを示しました。

人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気候・異常気象に既に影響を及ぼしています。気候システム全般における最近の変化の規模と気候システムの現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のないものです。

出典:経済産業省『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書』p.1(2021年8月)

2019年オーストラリアで起こった森林火災

※2019年オーストラリアで起こった森林火災

出典:環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題』(2020年6月)

地球温暖化の影響

IPCCは人間の活動が地球温暖化に影響を与えてきたことは疑う余地がないと示しました。しかし、2019年世界の人間の活動による温室効果ガスの排出量は、依然として増加しており、全体でおよそ591億tとされています。

2020年には新型コロナウイルス感染拡大の影響により経済活動が減速し、温室効果ガスの排出量も減少しましたが、パリ協定の排出削減目標からはほど遠い状態です。このままの排出が世界で続くと、今世紀内には3℃以上の気温上昇につながってしまいます。
※パリ協定の排出削減目標:パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をすることが合意された。この目標達成のためには、今世紀後半での世界の温室効果ガスの排出を正味ゼロにする必要があるとされている。

出典:環境省『令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題の影響』(2021年6月)

異常気象への適応

近年の異常気象は日本でも人々の生活・社会・経済に多大な被害を与えました。今後も地球温暖化の進行に伴い、豪雨や猛暑などのリスクはさらに高まることが予想されます。

気候変動に対処するために、温室効果ガス削減などの地球温暖化対策(緩和策)に全力で取り組むことが求められています。それと同時に、現在発生している異常気象による影響、将来に予測される異常気象による被害の回避や軽減(適応策)にも取り組むことが重要です。

緩和と適応の関係のイメージ画像

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2章 気候変動影響への適応』(2019年6月)

2. 近年の日本で起こった異常気象

近年、日本では高温、大雨などの異常気象が毎年発生しています。2020年の日本の平均気温は基準値(1981年~2021年の30年の平均)からの偏差値が+0.95℃で、1898年の統計開始以降最高の値となりました。

特に2019年から2020年にかけての冬は全国的に暖冬でした。この冬では東日本・西日本ともに記録的に高温で、日本海側は記録的に少ない降雪量でした。

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題の影響』(2019年6月)

2020年7月豪雨

2020年の7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で各地で大雨となり、多くの被害が発生しました。「令和2年豪雨」と名称を定められたこの大雨では、長野県や高知県の多いところで総降水量が2,000mmを超えた地域がありました。

また、九州北部地方、東海地方、東北地方の多くの地点で、24時間・48時間・72時間の降水量が観測史上最高となりました。この大雨により、球磨川や筑後川、飛騨川、江の川、最上川といった大河川で氾濫が相次ぎ、土砂災害や低地の浸水などが発生した地域もあり、人的被害・物的被害が多く発生しました。

令和2年7月豪雨の被害 写真

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題の影響』(2019年6月)

令和元年東日本台風(台風第19号)

2019年10月12日に伊豆半島に上陸した令和元年東日本台風は、神奈川県箱根町では10日から13日までの総雨量は1,000mmに達し、静岡県や新潟県、関東甲信地方・東北地方の1都12県に大雨特別警報が発表されるなど、広い範囲で記録的な大雨をもたらしました。

東京都江戸川臨海では観測史上1位を超える最大瞬間風速43.8mを観測するなど、関東地方の7か所で最大瞬間風速40mを超える暴風が観測されました。この台風により、長野県の千曲川をはじめ、東日本を中心に約140か所の堤防が決壊するなど、各地で甚大な被害が発生しました。

令和元年の東日本台風による被害の様子 写真

出典:環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題』(2020年6月)

3. 近年の世界で起こった異常気象

2019年に世界で起こった異常気象

2019年9月1日にバハマに上陸したハリケーン「ドリアン」はアメリカのバージン諸島とプエルトリコにも影響を与え、バハマにおける記録上最も影響を与えたハリケーンとなりました。東アフリカ南部では3月に発生したサイクロンにより関連の死者が900人以上となる被害を記録しました。

ハリケーン「ドリアン」による被害 写真

出典:環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題』(2020年6月)

2019年の世界の平均気温は、陸上の広い範囲で平年よりも高くなりました。異常高温はモーリシャスから南アフリカ通年にわたり発生し、東アジア南部から東南アジア中部・インド南部からスリランカ・ヨーロッパ南部とその周辺・アメリカ東部から南米北西部・ブラジルとその周辺・オーストラリアで7か月以上発生しました。

ヨーロッパ北部から中部では、6月から7月にかけて熱波が発生し、フランスやドイツなどの国で最高気温の国内観測記録を更新した国もありました。スペインとその周辺・アメリカ中西部から南東部・アルゼンチン北部とその周辺では異常多雨となる月が多く、マレー半島中部からジャワ島・ヨーロッパ東部から中部・カナダ南西部では異常少雨となる月が多くなりました。

2019年月別の世界異常気象の様子一覧

出典:気象庁『世界の年ごとの異常気象 2019年』(2020年3月)

2020年に世界で起こった異常気象

2020年9月、アメリカのコロラド州では、9月の観測史上最高気温となる38.3℃が観測された3日後に、降雪が観測されるという異常気象が発生しました。アフリカ東部では春に広い範囲で大雨による洪水が発生し、ケニアで285人、スーダンで155人が死亡する被害がありました。

米国コロラド州における9月観測史上最高気温を観測した3日後の降雪の様子 写真

出典:環境省『令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 気候変動問題』(2021年6月)

2020年も世界の平均気温は陸上の広い範囲で平年より高く、シベリアとその周辺・東アジア東部から東南アジア・ヨーロッパ北部から中東中部・北米南部から南米中部・オーストラリア北部から南東部では9か月以上にわたり異常高温が発生しました。この期間には各国の月平均気温や季節平均気温などの記録更新が頻繁に発表されました。

モンゴル中部から朝鮮半島・ヨーロッパ西部から南部・アメリカ東部から南東部では異常多雨となる月が多くありました。ヨーロッパ東部から南西部・アルゼンチン北部からブラジル南部では5か月以上の異常少雨となりました。

2020年月別の世界異常気象の様子一覧

出典:気象庁『世界の年ごとの異常気象 2020年』(2021年2月)

4. 異常気象による経済的影響

世界の経済損失は50年間で400兆円

世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)は2021年8月、暴風雨や干ばつなどの世界の気象災害の件数が過去50年間で5倍に増加したと発表しました。災害の規模を示す最新の評価によると、1970年から2019年までの50年間で11,000件以上の気象災害が発生し、200万人以上が死亡、経済的損失は3兆6,400億ドル(約400兆円)に達しました。

このような気象災害による死者の90%以上は発展途上国で確認されています。

干ばつによる死者数が最も多く約65万人、また高温により死亡した人は5万6,000人近くに上りました。

出典:BBC『世界の気象災害、50年間で5倍に 経済損失は3.6兆ドル=世界気象機関』(2021年9月)

異常気象により予想される企業へのリスク

近年の気候変動・異常気象は社会や経済活動に大きな影響をもたらすだけでなく、気象災害や渇水、熱中症リスクなどの増加、市場や顧客ニーズの変化など、企業の持続的発展や日常業務を妨げる可能性があります。企業は現在発生している、または将来起こりうる気候変動・異常気象の影響に備えて、リスクを回避したり軽減したりする対策が必要です。

出典:環境省『民間企業の気候変動適応ガイド』p.8(2019年3月)

国内外の政治・経済の情勢、エネルギーや原材料の調達などさまざまなリスクへの予測・対策をすることで企業の耐性や持続性を高め、今後も予測される異常気象へ企業として適応することが重要です。また、このような社会や経済活動の変化に伴う新たなニーズに対応した適切な経営戦略を採用するためにも、近年の異常気象の傾向や今後の予測情報を常に確認しましょう。

気候変動・異常気象に対応する日本経済の動き

気候変動・異常気象などの深刻な影響により、世界でカーボンニュートラル、デジタル化、国際的な取引関係、国際秩序などにおいて、大きな変化が起きています。日本でも柔軟な働き方やビジネスモデルの変化、環境問題への意識の高まりなど新たな動きがあり、金融庁はこれまで進めることができなかった国内の課題を一気に進めるチャンスと見ています。

政府は異常気象を引き起こす大きな原因として疑う余地のない気候変動・地球温暖化への対策を、今後の持続的な成長基盤を作る機会として捉えています。それに伴い、2050年カーボンニュートラル、デジタル化、活力ある地方作り、少子化の克服などを成長を生み出す原動力として推進しています。

出典:金融庁『第1回 金融審議会ディスクロジャーワーキング・グループ 事務局参考資料 』p.22(2021年9月)

5. まとめ:気候変動・異常気象への適応をビジネスの機会に

台風第21号の衛星写真

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2章 気候変動影響への適応』(2019年6月)

ますます激しい熱波が、ますます頻繁に起こる

2015年に採択された気候変動対策のためのパリ協定には、ほぼすべての国が参加しています。パリ協定で世界各国は気温上昇を産業革命以前から2℃よりもかなり低く抑え、1.5℃未満に抑えるための努力をすることが合意されました。

しかし、2021年8月に発表されたIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の報告書ではこの「1.5℃目標」について、現在の状況よりCO2の排出量が大幅に削減できなければ、今世紀中に1.5℃どころではなく2℃も突破してしまうという専門家たちによる調査結果を示しました。近年、異常気象が頻発していますが、これが1.5℃上昇まで到達すると、ますます激しい熱波が、ますます頻繁に起こる、とIPCC報告書執筆者の1人、イギリスのオックスフォード大学のフリーデリケ・オットー博士は指摘しています。

出典:BBC『温暖化は人間が原因=IPCC報告「人類への赤信号」と国連事務総長』(2021年8月)

企業は戦略的に気候変動適応に取り組むべき

近年に見られる気候変動や異常気象は一過性のものではなく、今後何年にもわたり影響が続きます。気候変動は企業にとって大きな外部変化でありリスクでもありますが、同時にこれを持続的発展のための新たなチャンスと捉え、戦略的に気候変動や異常気象への適応に取り組むことで、さまざまな利益を得ることができます。

気候変動や異常気象が企業に与える影響は、それぞれの事業内容により異なります。この変化と自社の事業内容やサプライチェーン全体との関わりを正しく分析し適応することで、企業の将来への持続的な成長につなげましょう。

出典:環境省『民間企業の気候変動適応ガイド』p.11(2019年3月)

 

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