中小企業の脱炭素経営推進|メリットをわかりやすく解説

手に持った地球儀

年々甚大化する自然災害を止めるためには、世界は脱炭素に向かうしかありません。これは大企業だけの問題ではなく、中小企業においても喫緊の課題です。コスト高にみえる脱炭素ですが、意外と低コストで移行できた事例もあります。また光熱費の削減や知名度アップなど、脱炭素を進めることのメリットは大きいです。

今回は中小企業の脱炭素経営のメリットについて解説します。

目次

  1. 中小企業も脱炭素経営に取り組むべき理由

  2. 中小企業が脱炭素に取り組むメリット

  3. 中小企業による脱炭素経営への取り組みのヒント

  4. まとめ:カーボンニュートラル社会に向けて、脱炭素経営に取り組みましょう!

1. 中小企業も脱炭素経営に取り組むべき理由

近年の自然災害の甚大化は温暖化が原因であり、温暖化を止めるには脱炭素に向かわなければなりません。世界では脱炭素へ向かう取り組みが急加速していますが、日本でも、政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。

世界全体の二酸化炭素の累積排出量の関数として示した、様々な一連の証拠による世界平均気温の上昇

出典:環境省IPCC第5次評価報告書の概要(P53)』(2014年)

世界の自然災害の状況のグラフ

出典:内閣府『防災情報のページ~世界の自然災害の状況』

しかし宣言を実効性のあるものにするには、大企業だけでなく中小企業も脱炭素経営に取り組む必要があります。本題に入る前に「カーボンニュートラル」について確認しておきましょう。

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から植物などによる吸収量を引いた数値が、ゼロに近い数値になることです。

大幅に温室効果ガスの排出を抑え、削減できない分を自然やテクノロジーで吸収・除去し、結果として正味ゼロ(ネットゼロ)を目指す、つまりニュートラルにするということです。2018年の現状と2050年のカービンニュートラルの目標

出典:経済産業省資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021年2月16日)

サプライチェーン全体で脱炭素を

パリ協定(*)が求める水準に合わせた温室効果ガス排出削減目標として、SBT(科学と整合した目標設定)が設定されています。これに従うと目標年に2°Cを達成するには年2.5%以上の削減は必須、推奨される1.5°Cを達成するにはは年4.2%削減が必要です。

温室効果ガス削減目標のグラフ

出典:環境省 経済水産省『第1部 SBTの概要(P5)』(2021年10月12日)

SBTはGHG(温室効果ガス)の範囲ごとにScope1、Scope2、Scope3にわけていて、中小企業はScope3に関係します。サプライチェーンは上流から下流までにわたり、中小企業も脱炭素経営に取り組む必要があるのです。

(*)パリ協定=2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約国会議(通称COP)」で合意された温暖化対策の枠組み

Scope1、Scope2、Scope3ごとのイメージ画像

出典:環境省・経済産業省『サプライチェーン排出算定を始める方へ』

2. 中小企業が脱炭素に取り組むメリット

脱炭素経営への移行には思い切った資金の調達と改革が必要です。しかし中小企業が脱炭素経営に向かうための素地は整ってきています。また、脱炭素移行にはメリットもあります。

今後の資金調達のための必要条件

脱炭素の潮流の中で企業経営のサステナビリティ(持続可能性)への評価が普及し、ESG(*)の視点を組み入れた投資が広がってきています。

投資にESG投資の組み入れることを原則としたPRI(国連責任投資原則)に賛同する投資機関は年々増加しています。また、日本も2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)が署名したことから、ESG投資が広がってきています。

世界と日本の著名機関数の推移

出典:経済産業省『ESG投資』

脱炭素に取り組まない企業は財務諸表が良好でも、これらのサステナビリティを意識した資金の調達を受けることができません。一方で脱炭素に貢献する企業は、資金調達がしやすくなるメリットがあるのです。

*ESG=環境(Environmnt)、社会(Spocial)、管理体制・企業統治(Governance)の頭文字をとった略語。持続可能な世界に向けての企業の観点

再エネの採用による光熱費や燃料費の削減

再エネの採用によって光熱費や燃料費の削減が期待されます。古い設備を見直すことで燃料費が劇的に下がり、利益が増える可能性もあります。(参考事例:山形精密鋳造、中部産商)

環境省は日本には再エネ導入の潜在能力が2倍あると試算しました。今後は再エネコストが下がると考えられます。

環境省による再エネ導入ポテンシャルの推移

出典:経済産業省資源エネルギー庁『今後の再生可能エネルギー政策について(P99)』

脱炭素は初期投資にコストがかかりますが、長期的視点でみれば再エネ由来の電力に移行することは合理的です。

知名度の向上と他企業に対する優位性

「2050年カーボンニュートラル」の宣言以来、多くの企業が野心的な取り組みを公表しています。取り組みはメディアに掲載されやすく、企業の知名度・認知度に貢献します。(参考事例:大川印刷)

省エネ対策で製造コストを削減し、多品種少量生産の製品でも利益が出せるようになった例もあります。(参考事例:中部産商)

社員のモチベーションの向上と優秀な人材の確保

気候変動問題の解決に取り組む企業の姿勢は社員の共感を呼び起こし、やる気を引き出します。さらにこの企業の姿勢は求職者を惹きつけ、意欲的な人材を集めるポイントになることが期待されます。(参考事例:大川印刷)

出典:環境省『中小企業事業者のための脱炭素経営ハンドブック』(P8-16)

3. 中小企業による脱炭素経営への取り組みのヒント

この章では、脱炭素のメリットの参考事例としてあげた企業の具体的な取り組みをご紹介します。

株式会社大川印刷

1881年創業の株式会社大川印刷は、本業を通じて環境や社会性に貢献する事業活動をしています。

<取り組みと実績>

・省電力の印刷機の導入

・再エネ電気100%化によるエネルギーコスト8%削減

・サプライチェーン全体の排出量削減に取り組む

・早くからの脱炭素経営がメディアに取り上げられ、売上高経常利益が1.8%増加

・従業員の意欲がアップ。主体的に仕事とSDGs(持続可能な開発目標)を語るようになった

山形精密鋳造株式会社

1986年創業の山形精密鋳造株式会社は、精度の高い鋳物を製造する会社。国内の全自動車メーカーに納品実績があります。

<取り組みと実績>

・省エネルギーセンター主宰の省エネ無料診断を受け、省エネ対策に国の補助金を活用

・月1回省エネ推進委員会を開催し、省エネについての知見を現場から集めた

・2020年度山形県環境保全推進賞、東北七県電力活用推進委員会委員長賞受章

中部産商株式会社

1963年創業の中部産商株式会社は、鋳造用耐火物の製造販売を手掛ける会社。全国の鋳物工場に販売しているほか、中国・ベトナム・タイなどにも輸出しています。

<取り組みと実績>

・鋳物の製造工程・乾燥工程に係る光熱費を省エネ対策で年1000万円以上節約

・余剰利益のおかげで赤字覚悟だった多品種少量生産の製品も積極的に生産、拡販

出典:環境省『中小企業事業者のための脱炭素経営ハンドブック』(P8-16)

4. まとめ:カーボンニュートラル社会に向けて、脱炭素経営に取り組みましょう!

年々甚大化する自然災害を止めるには脱炭素に向かうことが絶対条件で、中小企業も例外ではありません。これをマイナスと受け止めず、脱炭素を軸とした経営の見直しや変革の好機と捉えて脱炭素経営に乗り出しましょう。

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