2050年脱炭素社会|製造業のCO2削減を実現するには

現在、120以上の国と地域が「2050年脱炭素社会」を目標として掲げており、様々な分野で取り組みが行われています。もちろん、製造業においてもCO2の削減は大きな課題です。

そこで今回は、製造業におけるCO2削減を実現するためのポイントを解説するとともに、製造業のCO2削減事例を紹介します。今回の内容を参考に、自社でできる事から取り組みを始めましょう。

出典:環境省『脱炭素ポータル』カーボンニュートラルとは(2017)

目次

  1. なぜ製造業においてCO2削減が必要なのか

  2. 製造業のCO2削減 取り組みのポイントとは

  3. CO2分離回収によってCO2排出量削減と再資源化できる可能性

  4. 製造業のCO2削減事例を紹介

  5. まとめ:自社でできる取り組みを見つけCO2削減を目指そう

1. なぜ製造業においてCO2削減が必要なのか

今でこそ脱炭素やCO2削減という言葉は広く知られるようになりましたが、どの分野で、どれほどのCO2が排出されているのかご存じの方は少ないでしょう。

現在のCO2の主な発生原因は、有機物の燃焼によるものです。必ずしも燃焼が伴うわけではない製造業において、なぜCO2削減が必要なのでしょうか。その理由を解説していきます。

日本のCO2直接排出量において生産業部門は約25%を占めている

2019年度の日本のCO2排出量は11億794トンでした。日本国内の分野別でのCO2排出割合を見てみると、産業部門が約25%、全体の4分の1を占めています。産業部門とは、製造業、農林水産業、鉱業、建設業の合計のことを言いますが、9割以上が製造業から排出されており、製造業が日本のCO2排出量の4分の1を占めていると言っても過言ではありません。日本の脱炭素を進める上で、製造業から出るCO2を削減することは非常に重要なのです。

産業部門における製造業と非製造業のCO2排出の推移

出典:環境省『2018年度温室効果ガス排出量分析』(2018)

製造業で「物を燃やす」ということは少ないかもしれません。しかし、製品を作り出す過程で多くのエネルギーを消費するため、このように多くのCO2を排出する結果となっているのです。

2019年度日本の部門別二酸化炭素排出量の割合

出典:JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター『日本の部門別二酸化炭素排出量 』(2021) 

世界中でCO2削減が求められている

産業革命以降、世界のCO2排出量は大幅に増えており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書によると、このまま対策をとられなければ、2100年までに気温は最大で4.8℃も上がると予想されています。

このまま気温が上がり続ければ、海面上昇、伝染病の流行、動植物の減少、さらなる気候変動といった問題が発生します。

私たち人間を含め、地球上の生き物が住む環境を維持するために、CO2の削減は差し迫った課題なのです。

世界の年代別CO2排出量(燃料、セメント、フレアおよび林業・土地利用期限)出典:JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター『世界の二酸化炭素排出量の推移』(2021)

脱炭素への動きは加速している

日本のみならず、世界各国で脱炭素への働きは加速しています。アメリカは2021年、「パリ協定」に正式復帰しました。CO2排出世界第1位の中国も2060年カーボンニュートラルを目指すと表明しています。持続可能な社会の実現に向けて、脱炭素への取り組みは避けては通れない状況なのです。

出典:環境省『2050年カーボンニュートラルを 巡る国内外の動き』(2020)

2. 製造業のCO2削減 取り組みのポイントとは

製造業におけるCO2排出源は、製品を作るために使用するエネルギーが大部分を占めます。ここでは、CO2削減のポイントをお伝えします。

省エネの実現

製造工程ではボイラーやポンプなど様々な設備を動かすため、多くのエネルギーが消費されています。これらの設備を工夫して運用することで、CO2の削減が可能になります。ここから、その取り組みの手順を説明します。

(1)適切な条件で運転する

まず、設備の適切な運転条件を確認しましょう。例えば、ボイラーは適切な空気比で運転しなければロスが発生します。他にも、設備の熱交換のために必要なスペースが確保されているか、適切な湿度や温度で運転されているか、配管はできるだけ抵抗が少ない状態で施工されているかなどがあります。各設備ができるだけ無駄なエネルギーを消費しない状態にすることが大切です。

『燃料装置の空気比の適正化』の概要

出典:環境省『産業部門(製造業)の 温室効果ガス排出抑制等指針』(2014)

(2)高効率の設備に変更する

設備機器は年々進化しています。古い設備を使用している場合、ボイラーやポンプに使われているモーターなどを高効率の製品に変更することで、エネルギー消費を抑えることができます。

『エネルギー消費効率の高いボイラーの導入』の概要

出典:環境省『産業部門(製造業)の 温室効果ガス排出抑制等指針』(2014)

(3)回転数制御装置の導入

コンプレッサーやファン、ポンプなどを最大負荷のまま運転していると無駄なエネルギーを消費してしまいます。インバータを使用して可変速制御を行い動力を必要最小限に抑制することで、消費エネルギーを削減できます。

『電気応用設備における回転数制限装置の導入』の概要

出典:環境省『産業部門(製造業)の 温室効果ガス排出抑制等指針』(2014)

再生エネルギーの活用

現在の日本は、電力の70%以上を火力発電が占めており、発電時にCO2が排出されています。そのため、製造業で電力を使う場合、必然的にCO2の排出量が増えてしまうのです。CO2削減のためにできることとして、CO2を排出しない太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギーの使用などがあります。電源別発電量の推移のグラフ

出典:電気事業連合会『電源別発受電電力量の推移』(2021)

補助金の活用

CO2排出対策の事業を支援するための補助金が設定されているのをご存じでしょうか。環境省が実施している2021年度の補助金の公募期間は終了していますが、来年度も実施される可能性もありますし、自治体が独自で実施している可能性もあります。このような補助金を活用して、経費負担を抑えて設備改修することも可能です。

出典:環境省『2021年度(令和3年度)二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金に係る補助事業者(執行団体)について』(2021)

3. CO2分離回収によってCO2排出量削減と再資源化できる可能性

根本的にCO2を削減する取り組みだけでなく、排出されてしまうCO2を分離回収し、再資源化する「カーボンリサイクル」も注目を集めています。

排ガスからCO2を分離回収

物が燃焼した後に発生する排ガスには、二酸化炭素が含まれており、これまでは大気中に放出されていました。この中からCO2を選択的に回収するのがCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術です。2012年度から北海道・苫小牧で大規模な実証試験が行われており、2019年11月、目標としていたCO2の回収貯蔵量30万トンを達成しています。

出典:経済産業省資源エネルギー庁『CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)』(2020)

回収したCO2は再資源化も可能

佐賀県佐賀市では、ごみ焼却施設から出る排ガスからCO2分離回収を行い、地元企業にCO2を販売しています。佐賀市では、CO2を有効利用するシステムが動き始めているのです。企業としてもリサイクルされたCO2を利用できるというメリットがあります。

二酸化炭素分離回収フロー図

出典:佐賀市「二酸化炭素分離回収事業について」(2020)

大規模工場だけではない活用事例

佐賀市の事例は大型の設備でしたが、小型のCO2分離会回収装置を製造販売している企業もあります。このような小型の装置を使えば、ボイラーを使用する中小企業であれば、排ガスからCO2を分離回収することができ、CO2の貯蔵や、農作物の成長促進、高分子合成など再資源化し、CO2排出量の削減につなげることも可能です。

出典:株式会社西部技研『CO2分離回収装置“C-SAVE”』

 4. 製造業のCO2削減事例を紹介

製造分野では、既に様々な企業がCO2削減に取り組んでいます。今回は、一部のCO2削減事例を紹介します。

味の素株式会社

生産設備や運輸、配送など自社から排出される温室効果ガスを「視える化」し、環境負荷が⾼いサプライチェーン部分を把握しています。自社の生産工程におけるCO2削減に留まらず、家庭での調理時間削減ができる製品開発を行い、消費者側のCO2削減にも取り組んでいます。

出典:環境省、経済産業省『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 企業の取組事例(味の素株式会社)』(2019)

花王株式会社

事業の各段階において、CO2削減の対応がとられています。原材料調達段階では、製品のコンパクト化や容器の軽量化、詰め替え化を行い材料を節減しています。製造段階では、設備を省エネ化し、使用段階では、負荷を低減する製品を開発・提供しています。廃棄段階では容器の軽量化、つめかえ化による材料削減等、バイオポリエチレンの導入の対応が行われています。

さらに、花王株式会社は、2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ(CO2の排出量よりも吸収するCO2の量が多い状態)を目指すことを表明しました。

出典:環境省、経済産業省『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 企業の取組事例(花王株式会社)』(2019)

出典:花王株式会社『新たな「脱炭素」目標を策定 2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブをめざす』(2021)

5. まとめ:自社でできる取り組みを見つけCO2削減を目指そう

世界的な気候変動が顕著になっている昨今、世界的な脱炭素の動きは加速しています。日本のCO2排出割合の4分の1を占める製造業も、今後さらに脱炭素の対策を求められることでしょう。既に大企業では脱炭素だけではなく、CO2の排出量よりも吸収するCO2の量が多い状態を目指しているところもあります。

現段階では、CO2排出に関する罰則はありませんが、CO2削減が法律で規制されてから対策を行うのでは間に合いません。今の段階から自社でできるCO2削減対策を検討し、実施していく必要があります。

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