【脱炭素実現の鍵】ガソリンより強いパワーをもつ水素エネルギーとは
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
国内で生産できる資源の乏しい日本にとって水素エネルギーとは非常に重要な存在です。2017年、日本は世界に先駆けて「水素基本戦略」を策定しました。
従来は特定の産業部門のみで利用されていた水素エネルギーを発電・産業・運輸など幅広く活用することを目指しています。まだ普段の生活では身近に感じることの少ない水素エネルギーとはどんなものなのか整理してみましょう。
目次
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水素エネルギーとは
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水素エネルギーの課題
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水素エネルギー技術の実証例
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まとめ:日本は水素社会実現に向かい確実に進んでいる
1. 水素エネルギーとは
水素が酸素と化合するときの爆発的なパワーは、世界の環境への意識が高まる以前から注目されていました。水素の威力はガソリンの2.7倍と言われ、実際にロケットにも使われています。
水素は酸素と化合する際に強力なエネルギーを発生させますが、そこから生成される化合物は水のみです。このようにクリーンなエネルギーである水素は、未来の主なエネルギーとして期待されています。
出典:資源エネルギー庁 弘前大学での講義『エネルギーと暮らし・環境そして将来は?』(2019年11月)
水素について
水素(H2)は地球上で最も軽い気体で、H原子が2つ結びつくことで生成されます。地球上でH原子は様々な元素と結合しており、水や化石燃料など化合物の状態で存在しています。
水素は多様な資源から生成が可能です。代表的な例として、水(H2O)に電気を流して水素(H2)と酸素(O2)を生成する水の電気分解が挙げられます。
出典:環境省『脱炭素化に向けた水素サプライチェーン・プラットホーム 水素って?』
水素がエネルギーとして注目される理由
宇宙の質量の70%を占めるともいわれる水素は、水をはじめ石油や石炭・食品廃棄物・下水汚泥・家畜のふん尿・その他のバイオマスなど、多様で身近な物質から得ることができます。水素の原料となりうる物質や、水素を得るための手段は多岐にわたり、日本のエネルギー問題を解決する大きな鍵とされています。
日本は資源に乏しく、2019年のエネルギー自給率は12.1%でした。日本の自給率は世界の主要諸国と比較すると、とても低い値です。2018年には11.8%で世界34位でしたが、省エネや再エネ導入の推進などにより、日本は今後のエネルギー自給率のさらなる向上を目指しています。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021 エネルギー需給の概要』(2021年6月)
出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』(2020年11月)
水素エネルギーの活躍が期待される場所
水素はこれまで、製鉄所などの産業部門において主に利用されていました。近年では自動車やバスなどの燃料や、家庭でも電気と熱を同時に作るエネファームなどに活用され、今後も化石燃料の代替・エネルギー貯蔵手段など、様々な用途への利用が期待されています。
出典:環境省『脱炭素に向けた水素サプライチェーン・プラットホーム』
水素エネルギーの安全性は?
水素は酸素と合わせると爆発的な威力があり、そのパワーはガソリンの2.7倍と言われています。このように強いパワーのある水素ですが、都市ガスなどと同様に、正しく管理すれば安全なエネルギーです。
出典:資源エネルギー庁 弘前大学での講義『エネルギーと暮らし・環境そして将来は?』(2019年11月)
水素の管理には様々な研究が重ねられ、漏らさない・(万が一漏れた場合)検知する・漏れてしまった水素をためない、の3段階の対策が水素を利用するあらゆる設備・施設に組み込まれています。
2. 水素エネルギーの課題
化石燃料などに代替して水素エネルギーの利用を普及させるためには、利用時のみではなく製造時や貯蔵・輸送時なども含めた一貫した取り組みが必要です。現在は家庭用燃料電池(エネファーム)や燃料電池自動車(FCV)の普及、水素ステーションの設置など、水素社会への本格的実装段階として、様々な取り組みが進められています。
出典:資源エネルギー庁『 ようこそ!水素社会へ ~ 水素・燃料電池政策について 国を挙げた取り組み』(2019年3月)
水素サプライチェーンの構築
日本の掲げる「水素基本戦略」では、2030年ごろ、未利用エネルギーから製造した水素を海外から供給する水素サプライチェーンの構築を目指しています。同じく2030年ごろに発電事業用水素発電の本格導入も目指します。
さらに2040年ごろをCO2フリー水素供給システムの確立段階として、安価で安定的かつ環境への影響の低い水素利用の普及を目指します。このためには再生可能エネルギー由来水素や※CCSを組み合わせ、総合的なCO2フリー水素供給システムを確立することが必要です。
※CCS:Carbon dioxide Capture and Storageの略。CO2を回収・貯留する技術。
出典:環境省『脱炭素化に向けた水素サプライチェーン・プラットホーム 脱炭素化にむけた水素サプライチェーンとは?』
水素利用の用途拡大
水素エネルギーは運輸・産業・発電など様々な分野への適用を通して、脱炭素社会への移行に重要な役割を果たすと期待されています。日本は水素ステーションが2020年7月時点で約131箇所と世界1位です。
水素供給のための液体水素運搬船の開発などは確実に進行しています。今後の本格普及に向けて、船・列車・物流トラックなどへ利用の用途を拡大することが必要です。
3. 水素エネルギー技術の実証例
ハマウィングの電力で製造する水素エネルギー
環境省では、地域連携・低炭素水素技術実証事業としてハマウイング(横浜市風力発電所)の電力で水素を製造するクリーン水素活用モデルの構築実証を行っています。ハマウィングの電力で製造された低炭素な水素を貯蔵・配送して、燃料電池フォークリフトで利用するサプライチェーンを実証し、将来の地域展開と地球温暖化対策への貢献を目指しています。
出典:出典:環境省『京浜臨海部での燃料電池フォークリフト導入とクリーン水素活用モデル構築実証』p.1,p.2
ハマウイングでは蓄電池システムを活用することにより、変動する風力発電からの電力供給を安定化しています。これにより、風が弱くハマウィングが発電していない場合でも安定的に水素の製造を可能にしています。
出典:環境省『京浜臨海部での燃料電池フォークリフト導入とクリーン水素活用モデル構築実証』p.3,p.4(2021年1月)
家畜ふん尿由来水素の活用
北海道の鹿追町では、環境省の委託により家畜のふん尿由来の水素を活用した実証事業を行っています。北海道の酪農地域で大量に発生する家畜由来のふん尿を水素エネルギーに変換することで、電気や熱の安定した供給を可能にします。
鹿追町環境保全センターに既にあったメタン発酵施設では、家畜のふん尿から発生させたバイオガスを用いて発電・熱利用を行っていました。ここに「しかおい水素ファーム」を新たに整備し、バイオガスから水素を製造して地域に供給します。
乳牛1頭が1年に出すふん尿は約23tで、これを原料に製造できる水素の量は約80㎏です。乳牛1頭が1年間に出すふん尿から作られる水素で、自家用の燃料電池自動車(FCV)が走れる平均的な1年間の走行距離(10,000㎞)をまかなうことができます。
出典:環境省『家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業』p.2(2019年8月)
4. まとめ:日本は水素社会実現に向かい確実に進んでいる
水素エネルギーは直接的に電力分野への脱炭素化に貢献するだけでなく、余剰電力を水素に変換し、貯蔵・利用できるという利点もあります。また、電化による脱炭素化が難しい分野の産業部門で、化石燃料に代わりエネルギーや熱需要などの脱炭素化にも貢献できます。
石油や石炭を原料にして水素を製造することも可能なので、化石燃料を直接利用するよりも少ないCO2排出量でエネルギーとして利用することも可能です。さらに、水素から製造されるアンモニアや合成燃料も、それぞれの特性に合わせた活用が見込まれています。
日本は2030年ごろに水素発電の本格導入、2040年ごろには安価で安定的な水素の供給と利用の普及を目指しています。家庭・企業で新規に設備などを導入する際には、将来的な日本のエネルギー計画も参考にし、慎重な選択をしましょう。