水素で低炭素発電!水素社会実現でエネルギーコストはどうなるのか?
- 2022年06月15日
- 発電・エネルギー
「水素社会」実現に向けて、日本では世界に先駆けて水素を利用した燃料電池の導入、燃料電池自動車(FCV)などの開発が進んでいます。威力の強い水素エネルギーの威力に耐えうる設備・安全対策や、非常に燃えやすい性質の水素を制御する技術などで、日本は世界の最先端です。
この燃焼時にCO2を排出しない水素は、脱炭素社会の化石燃料の代替として、産業や発電への大規模な利用が期待されています。技術やコストの面で、社会実装はいつごろ可能なのでしょうか?
目次
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なぜ水素を利用するのか
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水素発電の現状
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日本の水素基本方針
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まとめ:水素は2040年ごろ安価に安定供給される予定
1.なぜ水素を利用するのか
※液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」進水式
出典:資源エネルギー庁『2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた「水素社会」の姿』(2020年1月)
日本のエネルギー自給率は2018年時点で11.8%と、世界の主要国の中ではとても低い水準です。国内で生産できる資源が少ない日本では、ガソリンの2.7倍と言われる強いパワーを持ち、さまざまな原料から製造できる水素をエネルギーとして活用する研究は以前より進められてきました。
現在の「水素エネルギー協会」の前身である「水素エネルギー研究会」は1973年7月に創立されており、当時すでに研究者たちは今起こっている地球環境問題やエネルギーの安定供給の問題を予測していました。これらの問題の有力な解決手段として、水素は非常に重要であると考え、研究開発を推進してきたのです。
出典:一般社団法人 水素エネルギー協会『水素エネルギー協会の歴史』
出典:資源エネルギー庁『2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)』(2020年11月)
エネルギーセキュリティへの貢献
エネルギー安全保障(エネルギーセキュリティ)とは、エネルギーが量的にも価格的にも安定して供給される状態を達成・維持しようとする取組です。水素エネルギーが他の再生可能エネルギーとともに社会実装されれば、中東をはじめとした海外からの化石燃料の輸入への依存度を下げることができます。
海外の未利用資源(廃棄物・石油・天然ガスなど)や再生可能エネルギーから水素を製造し、海上輸送して輸入するサプライチェーンを構築することにより、エネルギー安全保障に貢献できると考えられます。また、天候などの影響により余剰に生産された再生可能エネルギーを水素に変え、燃料電池自動車(FCV)などで利用する「Power to Gas」もエネルギーの有効活用につながります。
脱炭素化への貢献
水素エネルギーは利用段階でCO2を排出しないエネルギーなので、CO2排出量の多い電力・産業・運輸の部門において、水素を利用することにより社会の脱炭素化に貢献します。再生可能エネルギーを利用するなど、水素製造時にCO2を排出しない方法を利用することにより、CO2を排出しないエネルギーシステム(ゼロミッション)に大きく貢献できます。
日本の技術力で世界をリード
日本では世界に先駆けて40年以上前から、水素エネルギーや燃料電池の研究開発がなされてきました。エネファーム※や燃料電池自動車(FCV)をいち早く製品化するなど、国際的にも高い水素エネルギー利用の技術があります。
※エネファーム:家庭で発電し、発電時の熱も利用できる家庭用燃料電池
水素エネルギー市場は国内でも今後大きく成長する可能性があると同時に、世界でもカーボンニュートラル実現に向けて水素の利用が増加することによって、将来的に全世界で2.5兆ドルの市場と3,000万人の雇用が創出されると試算されています。日本の高い水素・燃料電池関連の技術が世界的に展開されることにより、日本の経済・産業のさらなる発展が期待できます。
※我が国における水準・燃料電池関連の市場規模予想
2.水素発電の現状
ガソリンの約2.7倍と非常に威力があり、燃焼時にCO2を排出しない水素ですが、水素で発電する場合、その威力に耐える設備や非常に燃えやすい性質を持つ水素をタービンの中で制御する高度な技術が必要です。早くから水素エネルギーに着目し研究開発がなされてきた日本は、この分野において最先端の技術を有しています。
出典:資源エネルギー庁『ようこそ!水素社会へ 水素社会がやってきます』
日本の水素発電導入への現状
日本は2017年12月に「水素基本戦略」を策定しました。水素発電タービンの燃焼技術は日本企業が世界的に先行しています。
この水素発電タービンの実機での実証を完了させ、商用化することが目下の課題です。水素発電による国内の潜在的な水素需要は約500~1,000万tと試算されています。
出典:資源エネルギー庁『水素政策の最近の動向について』p.8(2021年6月)
三菱重工業株式会社は2018年に天然ガスに30%の水素を混合して発電する「予混合式燃焼」式のガスタービンを実用化しています。2025年には100%水素を燃料にして発電する「水素専焼ガスタービン」の実用化を目指しています。
出典:日経XTECH『三菱重工、「水素発電」「CO2回収」の2本柱で炭素中立市場に即応』(2021年5月)
海外の水素発電導入への現状
海外では2020年にEUやドイツ、フランスなどが水素戦略を策定しました。その他多くの国で、脱炭素化が困難な商用車・産業・発電の分野での水素利用に向けた取組が本格化しています。
発電分野ではアメリカのユタ州で大型水素発電プロジェクトが計画されています。この計画では2025年に水素を30%従来の燃料に混合して発電、2045年には水素100%での発電を目指しています。
出典:資源エネルギー庁『水素社会実現に向けた経済産業省の取組』p.5(2021年6月)
※アメリカ政府の発表した水素エネルギーシステムの例
出典:US Department of Energy 『Hydrogen Program Plan』p.31(2020年11月)
3.日本の水素基本方針
※水素社会実現のイメージ
出典:環境省『脱炭素・水素社会の実現に必要な水素サプライチェーン』
2017年に策定された「水素基本戦略」を受け、経済産業省は2019年3月に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定しました。このロードマップには水素社会実現に向けて、取組を進めるための方針が示されています。
「水素社会」の実現を目指す
「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、2020年代半ばには水素発電の本格的導入と大規模な水素供給システムの確立が目標とされています。また、2030年ごろには未利用エネルギーから製造した水素を海外から供給する水素サプライチェーンの確立を目指します。
出典:資源エネルギー庁『ようこそ!水素社会へ 国を挙げた取り組み』
出典:資源エネルギー庁『2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた「水素社会」の姿』(2020年1月)
水素供給コスト
水素の供給コスト(水素発電プラントへの引渡しコスト)は、2030年ごろに30円/Nm3※程度、将来的に20円/Nm3程度まで低減することが目標とされています。LNG(液化天然ガス)の価格を考慮しつつ、従来のエネルギーと遜色のない水準まで水素コストを低減させる方針です。
※Nm3:(ノルマルリューベまたはノーマルリューベ)空気量を表す単位で0℃、1気圧(標準状態=N)でのガス量を表す。1Nm3は0℃、1気圧(標準状態)に換算した1m3のガス量。
出典:資源エネルギー庁『水素・燃料電池戦略ロードマップの 達成に向けた対応状況』( 2020年6月)
福島水素エネルギー研究フィールド
福島県では、福島全体を新しいエネルギー社会のモデルを創造する拠点とすることで、エネルギー分野から福島の復興の後押しを目指す「福島新エネ社会構想」が進められてきました。この構想の一つに「福島水素エネルギー研究フィールド」があります。
出典:資源エネルギー庁『福島生まれの水素をオリンピックで活用!浪江町の「再エネ由来水素プロジェクト」』(2018年8月)
「福島新エネ社会構想」では、国や県、研究機関、地元経済界、電力会社、再エネ業界の団体などが参加して、さまざまな再エネ・新エネに関する取り組みが行われています。福島県浜通り地域にある浪江町では、再エネを使って水素を作り、その水素を貯蔵・運搬し、使うという水素社会実現に向けたモデル構想が進められています。
浪江町は東日本大震災により発生した津波の被害を受け、さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故により、一時は町内全域に避難指示が出されるなど大きな困難に見舞われました。この浪江町に1万kw級となる世界最大級の水素製造設備を建設し、再エネで大規模に水素を製造する実証を行っています。
出典:資源エネルギー庁『福島生まれの水素をオリンピックで活用!浪江町の「再エネ由来水素プロジェクト」』(2018年8月)
「福島水素エネルギー研究フィールド」は2020年3月に完成し、水素の製造量は1日当たり約3万m3です。この1日に製造できる水素の量で、約150世帯を1か月まかなうことができる電力を発電できます。
「福島水素エネルギー研究フィールド」では、水素を製造する際の電力は、東京ドーム5個分に相当する22万m2の敷地の8割を埋め尽くした太陽光発電のパネルで発電される、CO2を排出しない再エネです。水素を製造する原料の水は、浪江町の水道水です。
出典:朝日新聞デジタル『水素製造施設1年 再生可能エネルギーの活用探る』(2021年1月)
4.まとめ:水素は2040年ごろ安価に安定供給される予定
「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、再エネを利用した水素製造や※CCSを組み合わせ、CO2を排出しない方法で製造された水素供給システムの確立段階を2040年ごろとしています。このころまでに安価で安定的かつ環境負荷の低い製造方法で、水素供給システムが構築される予定です。
※CCS:Carbon dioxide Capture and Storageの略。CO2を回収・貯留する技術。
2050年カーボンニュートラルに向けて、水素エネルギーの社会実装も着々と進んでおり、数々の実証事業から水素が化石燃料にとって代わる時代も遠くないと考えられます。事業の電力に再エネを使用し、燃料電池で自家発電・熱利用を行えば、CO2排出量も大幅に削減できます。
家庭用エネファームだけでなく、エネファームより発電出力の大きい業務用・産業用の水素を利用した燃料電池も商品化されています。企業は今後、設備投資などを考える際には、ゆくゆく化石燃料の使用は高コストになることをふまえ、電化・再エネ・新エネの導入の可能性を検討しましょう。
出典:資源エネルギー庁『ようこそ!水素社会へ 国を挙げた取り組み』