カーボンニュートラル実現の「壁」とは?脱炭素電源のデメリットを解説
- 2022年06月15日
- CO2削減
カーボンニュートラルを実現させる手段である再生可能エネルギーやネガティブエミッション技術にはデメリットがあります。
この記事では、日本の電源構成割合の目標や現状を理解してから、カーボンニュートラル実現の鍵を握る脱炭素電源のデメリットについてご紹介します。
目次
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日本はカーボンニュートラル実現に向けどう動く?
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カーボンニュートラルの鍵・再エネのデメリット
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注目を集めるネガティブエミッションのデメリット
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まとめ:脱炭素電源のデメリットを理解したうえで、企業で取り組みを始めよう!
1. 日本はカーボンニュートラル実現に向けどう動く?
日本はカーボンニュートラル宣言をしていますが、実現に向けてどのように動く方針を固めているのでしょうか。日本が掲げる2050年の電源構成割合の目標や現在の状況、カーボンニュートラル実現を目指し実施している事業の例をご紹介します。
日本が掲げる目標と現在の状況
2020年10月に、日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現させることを宣言しています。カーボンニュートラルを実現させるために、日本は電源構成割合の目標を「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中において以下のように定めています。
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再生可能エネルギー 50〜60%
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原子力・CO2回収前提の火力 30〜40%
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水素・アンモニア 10%
一方、2020年速報による日本の電源割合構成は以下の通りです。日本の化石燃料の割合は74.9%と、化石燃料への依存が依然として高い状態にあります。しかしながら2050年のカーボンニュートラル実現に向け、脱炭素電源の導入は着実に進んでいます。
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石炭 27.6%
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LNG 35.4%
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石油 2.0%
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その他火力 9.9%
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原子力 4.3%
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水力 7.9%
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太陽光 8.5%
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風力 0.9%
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地熱 0.3%
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バイオマス 3.2%
出典:isep『2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)』(2021/4/12)
出典:経済産業省『資料2 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(PDF形式(2020/12/25)』(p.3)
目標達成のための政策
日本は目標を達成するために、脱炭素イノベーションや再生可能エネルギーの普及を促進する様々な取り組みを実施しています。国や自治体の取り組み例を1部ご紹介します。
[1]再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業(環境省)
再生可能エネルギー発電・熱設備を導入する民間事業者や地方公共団体などを対象とする補助金制度です。
出典:環境省『再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業(平成30年度)』
[2]ゼロエミ・チャレンジ(経済産業省)
ゼロエミ・チャレンジとは、脱炭素社会実現に向けたイノベーションに取り組んでいる企業を選定し、投資家などが活用できる情報を対外的に公表するというプロジェクトです。2020年10月に開催されたTCFDサミット2020において、約300社の企業がゼロエミ・チャレンジ企業として発表されています。
2. カーボンニュートラルの鍵・再エネのデメリット
発電時にCO2を排出しない脱炭素電源である再生可能エネルギーの割合を2050年までに50〜60%に引き上げる方針を発表していますが、それぞれデメリットがあります。ここでは各再生可能エネルギーのデメリットについてご紹介します。
太陽光・風力発電のデメリット
太陽光発電と風力発電は天候に左右されるため、コントロールが難しいというデメリットがあります。この他に初期導入費用が諸外国と比較すると高いという問題も抱えています。資源エネルギー庁によると、日本の太陽光パネルや風力発電機の価格は約1.5倍、設置する工事費は約1.5~2倍高いと発表されています。
出典:資源エネルギー庁『資源エネルギー庁がお答えします!~再エネについてよくある3つの質問』(2018/3/16)
水力発電のデメリット
水力発電のデメリットは、建設前に長期にわたる調査や地域住民への理解を十分に得る必要があることです。また、未開発地点に建設する場合は、開発済み地点よりもコストが高くなります。
バイオマス発電のデメリット
バイオマス発電のデメリットは、燃料があれば天候に左右されることなく、安定して発電することができます。しかし燃料の価格が上昇傾向にあります。特にペレットの価格が2018年から2019年にかけ高騰しています。
出典:資源エネルギー庁『地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電のコストデータ』(2019年11月)(p.34)
地熱発電のデメリット
日本は地熱発電に関して世界第3位のポテンシャルと高い技術を持っていますが、思うように普及が進んでいないのが現状です。地熱発電所を建設するには莫大な資金がかかり、調査にも時間がかかります。資源エネルギー庁によると、初期調査だけで5年ほどかかり、その後2年ほど噴気調査を実施してから、はじめて事業化できるかの判断がつくとされています。
出典:資源エネルギー庁『【インタビュー】「地熱開発を進めていくためには、地域との共生が何より大切」—小椋 伸幸氏(後編)』(2019/5/9)
3. 注目を集めるネガティブエミッションのデメリット
カーボンニュートラルを実現させるための技術として注目されているのが、ネガティブエミッション技術です。ここではネガティブエミッションの概要や代表的な技術、解決すべきデメリットについてご紹介します。
ネガティブエミッションとは?代表的な技術について
どうしても排出されてしまうCO2を回収して地中に貯留したり、燃料としてCO2を再活用するのがネガティブエミッション技術です。ネガティブエミッション技術の代表的な技術をご紹介します。
[1]CCS
CCSとは、Carbon dioxide Capture and Storageを略した用語で、CO2の回収、貯留という意味があります。事業活動を通して排出されたCO2を分離し回収し、地中に貯留・圧入する技術です。
出典:資源エネルギー庁『知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」』(2017/11/14)
[2]CCUS
CCUSは、Carbon dioxide Capture、Utilization and Storageを略した用語で、CO2の回収、有効活用、貯留という意味があります。分離後に回収したCO2を資源として捉え、鉱物化や人工光合成、メタネーションによる燃料や素材へ再利用されます。
出典:資源エネルギー庁『第3節 CCUS /カーボンリサイクルの促進』
[3]BECCS
BECCSは、Bioenergy with Carbon dioxide Capture and Storageを略した用語です。バイオマス燃料を燃焼した時に排出されたCO2を回収し地中深くに貯留する技術です。
出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021/2/16)
[4]DAC
DACCSは、Direct air Capture with Carbon Storageを略した用語です。大気中にすでに存在しているCO2を直接回収し、その後地中深くに貯留する技術を指します。
出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021/2/16)
ネガティブエミッションの解決すべきデメリット
資源エネルギー庁は、CCUSに関する課題を以下のように示しています。
[1]分離・回収における課題
分離・回収技術のコストが高く、性能が解決すべき課題である。
[2]輸送における課題
排出地と貯留適地を結ぶための長距離輸送技術が未確立であることが課題。
[3]貯留における課題
安全安心かつ経済的な採掘と貯留、モニタリング技術の開発と海上からの海底下の貯留技術の確立が課題。
出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020/12/21)(p.24)
4. 脱炭素電源のデメリットを理解したうえで、企業で取り組みを始めよう!
カーボンニュートラル実現の鍵を握るとされ注目されている再生可能エネルギーとネガティブエミッションのデメリットなどについてご紹介しました。カーボンニュートラルを実現させるために、これらのデメリットを解決することが欠かせません。脱炭素電源のデメリットについての理解を深め、企業でどのような脱炭素の取り組みを行うか検討につなげていただければと思います。