非化石証書にある価値とは?私たちの生活への影響は?

非化石証書とは、2018年に制度化されたもので、風力や太陽光など、化石燃料を使わずに発電される電力に対して「クリーンエネルギー」としての価値を認め、その内容を証書化して売買できるようになった仕組みです。非化石証書の価値は、平たく言えば「その価値相当分の温室効果ガス排出を相殺できる」もので、化石燃料に発電を頼っている電力会社が、その価値を必要として非化石証書を購入しています。

本記事では非化石証書の価値や非化石証書を取り巻く現在の電力業界はどのように動いているのか、そのポイントを解説します。

目次

  1. 現在の電力供給の仕組みが「非化石証書」を必要としている

  2. 非化石価値証書は売買される?非化石価値取引市場とは

  3. 非化石証書がもたらす私たちの生活へのメリットとは

  4. まとめ:非化石証書の価値が高くなれば負担が軽減される!

1. 現在の電力供給の仕組みが「非化石証書」を必要としている

非化石証書を電力会社が購入する理由には、クリーンエネルギーを使用していることをアピールする意味があります。さらに、発電のために化石燃料を使用せざるを得ないため、企業に課せられた温室効果ガス削減量を満たすことができず、非化石証書を購入してその分を相殺することも行われています。

日本の電力会社の大半は、化石燃料を用いた発電がまだまだ必要であり、現在の電力供給を安定化させるためにも、非化石証書を購入せざるを得ないのが現状です。

電力供給会社と販売会社の「発送電分離」

発送電分離は2017年より制度化されました。今までの電力会社が担っていた「発電+送電+販売」の事業のうち、販売部分を別企業にすることで、多くの事業者が参入することを狙ったものです。

出典:資源エネルギー庁『2020年、送配電部門の分社化で電気がさらに変わる』(2017年11月)

販売を担うのが「電力小売り会社」ですが、電力小売り会社は、自身のビジネスモデルに適した発電会社と契約して、消費者に電気を販売することになります。

なお、発電や送電の部分は自由化されず、既存の電力会社の独占が認められ、経済産業省の規制の下におかれています。このことで、電力小売り会社による「電力の値下げ競争」が生まれる余地ができたのです。

再生可能エネルギーの買取義務がある

電力会社には、再生可能エネルギーの買取義務があります。これは、再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けるもので、家庭に導入された太陽光発電の余力電力などを買い取るのも、この制度の恩恵です。

ですが、電力を買い取る電力会社の負担は増えるため、電力会社は「再生エネルギー賦課金」として、顧客から余力電力買取の費用を徴収しています。この制度のおかげで、自家発電していない個人や企業などは、負担だけが増えるジレンマに陥ってしまいました。

消費者の環境志向へ対応する必要が生まれた

再生可能エネルギーの導入とともに、消費者が「環境にやさしい電力」を選んで購入することができるようになりました。

実際、電力小売り会社も「クリーンエネルギー100%使用!」などとアピールすることもできるので、これからも同様の動きが高まるものと思われます。

2. 非化石価値証書は売買される?非化石価値取引市場とは?

非化石証書は、2018年からそれを売買する市場が設立されました。

日本卸電力取引所(JEPX)の中にある「非化石価値取引市場」では、非化石証書が「1Kwhあたり○○円」で売買されます。

電力会社は、自分が欲しい電力分の非化石証書を購入し、化石燃料を使用することで生じる温室効果ガスの発生を相殺することになります。

電力の安定供給のためには化石燃料発電は必須

2020年現在の日本国内の電力の構成を見る限り、まだまだ化石燃料に発電の大半を依存している構造が見受けられます。

資源エネルギー庁がまとめた2019年の日本国内の電力構成では、天然ガスが全体の37.1%を占めてトップ、その次に石炭が続いて31.9%、石油が第3位で6.8%となっています。このベスト3だけを足しても70%を超えることから、化石燃料に頼らないと日本国内で必要な電力が供給できない実情が見えてきます。

出典:資源エネルギー庁「主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較」

 

一方で、同じ2019年のクリーンエネルギー(太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオマス発電など)で作られた電力の合計は約18%でした。年々、クリーンエネルギーが占める割合は増加していますが、日本国内の経済活動を支えるまでになるかどうか、そのポテンシャルはまだまだ未知数です。

化石燃料発電で発生する二酸化炭素発生量を購入して相殺

電力会社は、どうしても化石燃料を使って発電をせざるを得ない状況にあることは、前項でも紹介しました。ですが、非化石証書を購入することで、化石燃料を使っている割合を減らすことができるのです。

例えば、化石燃料を100%使用している電力会社が、その50%に相当する非化石証書を購入すれば、この会社が売っている電力のうち50%はクリーンエネルギーとみなされます。

このように、環境への取り組みとしてクリーンエネルギーを購入することも、電力会社の新たな取り組みとなっているのです。

出典:資源エネルギー庁『「非化石証書」を利用して、自社のCO2削減に役立てる先進企業』(2019年1月)

「環境にやさしい会社」をアピールすることが可能

業界は違いますが、食品会社が「国産大豆使用」と自社製品を売りたい場合は、原材料に国産大豆を1%でも使っていれば「国産大豆使用」アピールできます。

この食品会社の例と同様に、非化石証書を購入していれば、その購入割合分を「○○電力の発電量のうち20%はクリーンエネルギー」であるとアピールできるのです

3. 非化石証書がもたらす私たちの生活へのメリットとは

非化石証書は、一般市民が個人的に購入ことはできませんが、非化石証書がもたらす価値は、私たちの生活に大きなメリットを提供してくれます。

(1)電気代が安価になる

電力会社は、生産活動で生じてしまうに温室効果ガスの排出を、非化石証書を買うことで相殺しようとします。つまり、非化石証書が売れれば、その分再生エネルギーへの資金投入が進み、再生エネルギーがますます普及するメカニズムになっています。

もともと再生エネルギーに関する資金は、現在「再生エネルギー賦課金」として、国民の電気代に加算されているため、その負担が問題視されていました。

非化石証書の取引で生まれた売上は、再エネ賦課金の原資に充てられるので、この負担が軽減されることが期待されています。

(2)環境に配慮した暮らしが実現できる

非化石証書の取引がもたらす資金は、国内でのクリーンエネルギー普及に用いられます。つまり、国内で風力発電や太陽光発電などがどんどん普及してくることを意味しているのです。環境への取り組みについて、その考え方には個人差があるのは事実です。

ですが、環境を守るために何か取り組みたいと考えている人は、年々増えています。そういう人たちにとって、100%クリーンエネルギーの電力小売り会社を選ぶことができるようになったことは、大きな進化だと思います。

(3)さまざまな電力販売会社を選ぶことが可能に

電力小売り会社が多数存在するようになった日本ですが、それぞれが多くの顧客を獲得しようと、さまざまな経営努力をしています。電力価格にこだわる企業、クリーンエネルギーにこだわる企業など、その内容は多様化してきましたが、私たち消費者からすれば選択肢が増えたことは大きなメリットです。

例えば、クリーンエネルギーだけを販売する電力小売り会社から電力供給を受けるとします。すると、電力供給を受ける企業は「100%クリーンエネルギーで生産活動をしている企業」と、自身を環境にやさしい企業としてPRできます。

このように、企業として環境への取り組みをしていることをアピールする機会が生まれたともいえます。

4. まとめ:非化石証書の価値が高くなれば負担が軽減される!

電力会社は、温室効果ガスの排出抑制の取り組みをするため、非化石証書を購入します。まだまだ、化石燃料に頼らなければ電力供給が安定しない実情では、今後もこの流れはしばらく続くでしょう。

非化石証書が売れ続ければ、再生エネルギーへの資金投入は継続して行われ、日本国内にクリーンエネルギーが普及し、結果的に再生エネルギー賦課金そのものの減額につながります。

再生エネルギー賦課金分が減額されただけでも、中小企業にとっては大きなコストダウンです。さらに、電力小売り会社同士と価格交渉もできる環境になったので、さらなるコストダウンも十分に見込めます。

また、再生エネルギーに関連して、廃棄物の再利用や資源化にも力を入れることで、新たなビジネスチャンスをゲットすることも可能になる、そんな時代が間もなくやってくると考えてよいでしょう。

 

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