脱炭素社会へ移行する今、地球温暖化対策は企業ができることから

企業の地球温暖化対策と聞くと、「環境への意識が高い企業や大企業のみが取りくむこと」や「自社は現状の経営で手いっぱいで取り組む余裕はない」などと考えていませんか。しかし実際はこの世界的に環境への意識が高まる中、地球温暖化対策は企業にとって競争力向上になります。

今後、資源の原価やエネルギー費用の上昇が予想されるため、これまでの経営のままでは利益が縮小していく恐れがあります。これからの企業にとって必須ともなる地球温暖化対策が企業の競争力向上につながる理由を確認してみましょう。

目次

  1. 地球温暖化対策で企業の持続可能な経営へ

  2. 地球温暖化対策が企業にもたらすメリット

  3. 企業の地球温暖化対策の進め方

  4. まとめ:地球温暖化対策は企業の持続可能性に貢献

1. 地球温暖化対策で企業の持続可能な経営へ

日本のCO2排出量の中の企業が排出するCO2の割合

2019年度の日本全体のCO2排出量は11億600万トンでした。この内訳の上位3位が産業部門(34.9%)、運輸部門(18.7%)、業務その他の部門(17.3%)です。

前年度比では産業部門が3.0%減少、運輸部門が1.8%減少、業務その他の部門が4.7%減少となっています。2013年度から見ても各部門減少傾向が続いており、日本での地球温暖化対策は着実に進んでいることがわかります。

※部門別CO2排出量の推移(電気・熱配分後)

出典:環境省『2019年度における地球温暖化対策計画の進捗状況』p.2(2021年3月)

地球温暖化対策に無関係な企業はありません

日本の産業では、中小企業の割合は2016年時点で全体の99.7%、中小企業の従業者数は全体の約70%、中小企業の付加価値総額は全体の約53%を占めています。日本が2050年カーボンニュートラルを達成するためには、この大きな割合を占める中小企業が地球温暖化対策へ積極的に取り組むことが求められます。

出典:中小企業庁『2021年版 中小企業白書 小規模企業白書 下』p.X(p.10)(2021年7月)

2. 地球温暖化対策が企業にもたらすメリット

日本はこれまでに経済成長と世界最高水準の省エネを同時に達成し続けています。ゆっくりと成長を続ける実質GDP(国内総生産)に対し、実質GDPに対する一次エネルギー供給量は減少傾向にあります。

このような実績の背景には、地球温暖化対策が企業にもたらすメリットの存在があります。取り組みを始めるにはコストがかかるようにも見える地球温暖化対策から得られるメリットは、中長期的に見るととても多く、これからの企業経営において無視できません。

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』p.6(2021年3月)

コストダウン

企業活動においてエネルギーにかかる費用は、経費の中で軽視できない割合を占めていることが一般的です。さらに今後はエネルギーの価格が上昇していく可能性があることを考慮すると、エネルギーの使用量を減らす取り組みが必要となります。

エネルギーにかかる費用が利益を圧迫する前に、地球温暖化対策としてのCO2削減と自社の主要な経費のコストダウンが、エネルギーの使用量を減らすことによって両立できます

出典:関東経済産業局『中⼩企業における省エネルギーへの取組に係る 実態調査アンケート結果』p.6(2019年10月)

取引継続

一定の基準以上の企業へのCO2排出量算定・報告の義務化、サプライチェーン排出量算定の普及、ESG投資の拡大により、取引先に対して環境への配慮やその情報の開示を求める企業が増えています。地球温暖化対策は、もはや余裕のある企業だけが行うものではなく、中小企業にとってもサプライチェーンから外れたり取引先を失ったりしないために必須の取り組みになりました。

また、早期に地球温暖化対策に取り組むことにより、新たなビジネスの機会が生まれる可能性もあります。企業の地球温暖化対策は、サプライチェーンや取引先からの要請に応え、継続的な関係の確保につながります

社会貢献

省エネや再エネの導入で無駄なエネルギーの使用を減らすことにより、CO2排出量の削減になります。地球温暖化の大きな原因と考えられるCO2の排出量を削減することは、社会への貢献となります。

今後さらに拡大が予想されるESG投資からの資金獲得においては、企業の社会への貢献も注目されます。資金調達を継続するためにも、企業の社会貢献は重要です。

組織力の強化

省エネへの取り組みはコストダウンの面が注目されがちですが、実は省エネの実践にはしっかりとした計画の設定・運営・管理などが必要です。地球温暖化対策の取り組みを通じて、組織力の強化や人材育成の効果も期待できます。

組織力や良い人材は企業の競争力に大きな影響を与えます。企業が地球温暖化対策に真剣に取り組むことにより、企業の組織力の向上にも役立ちます

出典:環境省『中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン』p.1,p.2

3. 企業の地球温暖化対策の進め方

地球温暖化対策を実践するにあたって大切なのは、経営・経理・現場の連携です。経営者(運営責任者)は方向性の明示と資金の確保、経理はデータの管理と提供、現場は省エネの理解と実践というように、役割を分担しながら組織力で地球温暖化対策のために設定した目標に取り組んでいきましょう。

現状を把握しできることを洗い出す

企業が地球温暖化対策に取り組むためには、正確に現状を把握することが第一歩です。電気・ガス・石油などのエネルギーについて、いつ・どこで・どれを・どれだけ・何の用途で使っているかのデータを集めます。

正確な現状のエネルギー使用に関するデータが揃ったら、省エネ・再エネの導入ができる対象を洗い出します。コストの大きいエネルギーを対象に実践可能であれば、大きな効果が期待できます。

実践対象の洗い出しには、自社内でのエネルギー使用の月々の変化や使用状況の特徴を分析したり、同業他社のデータと比較したりしながら、自社に合った対象と方法を探します。また、始業前・昼食時・終業後など時間帯によるエネルギー使用の無駄はないかを考え、不要なエネルギー使用を減らしましょう。

出典:環境省『中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン』p.15~p.21 (2013年1月)

地球温暖化対策を実践するコツ

取り組みの計画が立ったら、実践です。省エネ・再エネの導入にはいくつかのコツがあります。環境省の中小企業地球温暖化対策推進ガイドラインに実践のためのコツが挙げられています。

  • 経営者などトップが積極的に関わり方向性を明らかにしましょう

  • 経営者などトップが実践の進歩について関心を示しましょう

  • 地球温暖化対策を特別なことではなく当たり前の日常業務として実践しましょう

  • 目標・実績・効果を全員にわかりやすく共有しましょう

  • 一部の人に任せず全員で取り組みましょう

  • 責任者・担当者がいない場所や設備を作らないようにしましょう

  • 現場の知恵と行動を活かしましょう

  • 計画・ルールに沿った行動ができていなければ声をかけ合いましょう

  • 同業他社の事例・補助金など使えるものは何でも利用しましょう

出典:環境省『中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン』p.24,p.25 (2013年1月)

実行したことを情報開示

地球温暖化対策への取り組みが始まったら、年度の途中で成果を確認します。その結果を踏まえて計画通りに進んでいない場合は改善策を検討しましょう。

自社の地球温暖化対策への取り組み情報をとりまとめ、報告・公開することも大切です。取り組み情報を開示することで社内・社外からの理解を獲得し、取り組みの持続・改善につなげ好循環を作りましょう

出典:環境省『中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン』p.26~p.30 (2013年1月)

地球温暖化対策に取り組む企業の例

横浜市の建設業、奈良建設株式会社の取組事例を見てみましょう。奈良建設株式会社は地球温暖化対策の一環として、再生可能エネルギー100%の電気の利用を開始しました。

省エネ設備の導入や、太陽光発電設備の導入にはコストがかかりますが、設備投資などのコストをほとんどかけずにできる地球温暖化対策に、使用する電気を変えるという方法があります。奈良建設株式会社は、電力料金が高い月や時間帯を予測し、事前に省エネアラートすることにより電気の使用量削減のサポートもするアスエネ電気の利用により、さらなるCO2排出削減を目指しています。

出典:産経新聞『横浜市「Y-SDGs」Superior認証の建設業 奈良建設がアスエネの再エネ100%電力調達開始、「環境方針」を掲げ更なる地域貢献実現へ』(2021年9月)

4. まとめ:地球温暖化対策は企業の持続可能性に貢献

地球温暖化対策と同時に業務のデジタル化を進める

企業が地球温暖化対策に取り組むためには、自社のエネルギー使用情報を正確に管理することが必要です。この管理を紙媒体の手作業で行うのは効率が良いとは言えません。

温室効果ガス管理クラウドサービスなど、便利な手段を積極的に活用して作業のデジタル化・効率化も同時に進めましょう。自社のエネルギー使用の推移や特徴を随時把握でき、経営戦略策定・リスク管理の参考にもなります。

グリーン成長戦略の流れに取り残されない対応が必要

日本政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」として、予算・税・金融・規制改革と標準化・国際連携など、政策を総動員して脱炭素社会への移行を推進しています。産業構造や経済社会の変革のため、地球温暖化対策に取り組む企業にはあらゆる面で政府の後押しが得やすい状況です。

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(2021年9月)

地球温暖化対策のために企業ができることの多くは中長期的にメリットが生まれます。短期的な収益だけではなく、5年・10年・その先の持続的な収益確保のために、地球温暖化対策への取り組みが必須です。

すでに地球温暖化対策に無関心ではビジネスに支障をきたす時代が到来したといっても過言ではありません。これから取り組みを始める企業は、いち早く自社の現状をしっかりと把握し、現実的に可能な取り組みを検討・実践しましょう。

 

アスエネESGサミット2024資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
アスエネESGサミット2024